マッド・トルネコ   作:トラネコ

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後編にしようと思ったけど、予想以上に長かったですね・・・


7.特殊階層・中編

トルネコはガイコツ剣士を倒した後、その部屋に一つしかない通路を通って階段のある部屋へ到達した。しかし、商売人のカンからきた嗅覚によると、このフロアからは金の香ばしい匂いを感じ取っていた。

 特に、高貴な人間(や魔族)のミイラには保存剤として世界樹の葉が使われていることが多い。もし、それが発見できれば合成生物も活躍できるようになり、探索が一気に楽になるだろう。

 ここの階段は無視して先に進むことにしよう。

 通路は入ってきたのを除いて二つあったが、これも商売人のカンで選ぶと、まずはライアンと合流するために元いた部屋(ワープの罠を踏んだ部屋)へと急いだ。

 

 

(なんということだ……!!)

 ライアンはひしめくゾンビの群れに足を踏み入れてしまったようで、すぐさまモンスターハウスの定石戦法――通路に退却して一体ずつ倒す――を取った。

(まさか……このようなタイミングでモンスターハウスに出くわすとは)

 己の不運を嘆くのはこれで何度目だ?(グールの顔面上半分がなくなる)

 その不運の中で自分が招いたのはいくつあっただろう?(グールの死体を乗り越えシャーマンがやってくる)

 冷静に、客観的に見たところによると『いくつもない』(シャーマンが振り下ろそうとした手が杖と一緒に吹き飛ぶ)

 では、自分は不幸になるべくしてなったのだろうか?(シャーマンの心臓に剣が突き立てられる)

 否、違う、断じて違う。(そのまま貫通した剣はミイラ男を串刺しにする)

 自分はできうる限りのことをした、そう、土地は命がけで耕したのだ(2体の死人がピンを刺された虫のように痙攣する)

 しかし、雨が降らなかった(剣を引き抜く)

 ただそれだけのことなのだ。神の気まぐれ、しかしつまるところ(次の敵が勇敢にも乗り込んでくる)

 神なんてものは人格があるわけではなく、むしろ自然現象のようなものなのかもしれない(腐った死体の頭の3分の2くらいまで剣がのめり込む)

 教会の神父の子守唄代わりの説教では、よく天国と地獄についてあるや無しやの諸説が語られるが、要約すれば(剣を引き抜きもう一度顔面へ振り下ろす)

どれも神の恩恵のあるところが天国で、それがない場所が地獄であるいうことだ。(今度は横に払って首を落とす)

 では、天国と地獄の現世における比率はどれくらいだろうか? 今までの経験と観察から思うに(ガイコツ剣士が勇ましく飛び出てきたが、死体に足を取られて、また他のモンスターに押されて地面に転ぶ)

 この世の99%は地獄だ。(顔を上げようとした瞬間を狙って思いっきり踏みつける――バキョッという乾燥した、生命のカケラも感じられない音がする)

 だからトルネコよ、早く来てくれ! 残りの1%を信じられる、今の内に、早く!!

 

 

 トルネコは一刻も早くライアンの元に駆けつけたかったが、今はなぜか床に片膝をついて荷物も脇に置いていた。遠目から見ればそれは壁画に描かれている異形の神々達に祈りを捧げているように見えたことだろうが、信仰心など枯れた井戸ほども無いトルネコにとっては神など教会関係者との話のネタの一つに過ぎない。

 特に、教会でも上層部になるとそれなりの金持ちでもある。信仰心を持っている『フリ』をしておけば商談もまとまりやすい。そして、そうした成果が神の賜物、信仰心のおかげだと本気で信じているヤツが脳タリンの信者に多く――いや、全てといっていいくらい――いるのだ。

 そうやって強化された信仰心によって、人々は何の効果もない免罪符を買いあさったり、平願治癒のために今までの貯えをいとも簡単に寄付できるようになる。

 もちろん、トルネコにはそれは無い。

 だから、いまこうして糖尿病による発作を抑えるためにインシュリン注射をしているのだ。

「ふぅ~、これをちゃんとやっとかないとな…… ミイラ取りがミイラになりかねんからな……w」

 このフロアに掛けたトルネコ会心のジョークを聞くものはいない。震え始めた手を必死に抑えながら注射を打ち込む…… やはり昨日の晩に調子に乗って食べ過ぎたことが原因だろうか? かといって医者の言うとおりの食事量では餓死してしまうだろう(ジョーダン抜きで)。幸い、出発前にライアンが言っていた『万が一の事態』は避けられた訳だが、正直なところこんなに早く症状がでるとは思わなかった。これからは食事もある程度制限した方がいいだろう。インシュリンはまだまだ十分あるが、ダンジョン内では注射を打っている場合でない事態が発生するし、もしそんな時に発作が起こればかなりヤヴァイ。

――まあ、ライアンのことだから、心配しなくても今頃は暇を持て余して壁画でも眺めながら待っているだろ。新しい武器の性能を試しながらボチボチ行けばいい。何も苦戦せるような敵はいまい――

 そう考えながら、薬が効いて発作がおさまるのを待ち、今度は武器をサブマシンガンに持ち替えて立ち上がった。

「へへ、じゃあ、次はコイツの性能試験といきますかwww」

 トルネコは誰に言うともなく、ぼそりと呟いて部屋を出た。

 

 

(まずい……!! もう来たというのか……!!)

 殺戮の手を一瞬止めて後ろを振り返ると、通路の向こうの暗がりで佇むバーサーカー(Lv.9)の姿があった。木のウロのような目には、この遺跡の闇と同じ、大昔から消えることのない虚無と絶望が宿っていた。

 とにかく、早くここを切り抜けるしかない。

 だが、その後は? 敵は完全にライアンを捕捉している。動くスピードは、向こうはこちらの2倍あるのだ。何のアイテムもない以上、今この場を逃げ切ったとしてもすぐに追いつかれるのは火を見るより明らかだ。しかし……それでも逃げずにはいられなかった……

兵士になる前―猟師をしていた頃――猟の最中に矢が刺さった鳥が――もうすでに飛んで逃げることも叶わないのに――それでも近づいて手を伸ばすライアンに必死の抵抗を続けている……そんな光景が一瞬だけ――本人も気付いていたかどうか分からない程一瞬だが――視床下部を駆け抜けた。

 幸いなことに、ハウス内のモンスターの2割ほどは別の部屋に行き、残ったほとんども、もう動かぬ死体と化していた。

 あとは目の前に腐った死体が一体、いるだけだ。

「うおぉぉぉおお!! どけぇぇいッッ!! 邪魔だああぁあ!!」

 思わず怒声をあげてしまう程、今のライアンは切迫した状態だった。だが、言われたとおりに腐った死体が道を開けたとして、どうなるというのだろう? バーサーカー(Lv.9)に殺されるのが、数秒先送りされるというだけではないか?

しかしライアンも、矢の刺さった鳥も、最後の(いや、最期、というべきか)の1%を信じて己の100%を賭けた足掻きを見せるタイプなのだ。

 むしろライアンはそういった状態でこそその者が持つ真価と実力を発揮できると信じていたし、後輩の兵士たちにもそう教えていた。

 ライアンは一撃で斬り伏した腐った死体の死骸(これ以外に何と言えばいい?)をさっきの間抜けな骸骨剣士のようにならないように気を付けながら素早く乗り越えた。後を振り返りたい欲求に駆られたが、そうしなくとも俊足の足音を聞くだけで、どんどん近づいてくるのが十分理解できた。

 今は空っぽとなったモンスターハウスに入るとすぐに全速力で出口の通路へ向かって走る――そのときだった。

「うおおおおぉぉおおおッッ!!」

 何かに足をすくわれてライアンは床に突っ伏した。

 その左足にはトラバサミの骸骨のような歯が食い込んでいた。

 

 

 まるでそのフロア全体が墓場と化したかのようだった。仲間どころか生命の気配すらまるで感じられない中、血の海を飲み込みぬかるんだグラウンドになった部屋の中で――リリパットの族長はただただ、立ち尽くしていた。

 ……あまりの惨劇と悪臭に、新兵が昼間に食べたチャーハンをリゾットに加工して吐き出す音――ビチャビチャ――だけが唯一の沈黙の伴奏だった。

「族長、報告がありました……」

「生存者か?」

「いえ……残念ながら、報告ではこの部屋と同じ光景が延々と続いていると……もはや生存者は……絶望的だと思われます……」

 その報告を受けても、なお黙ったままの族長は、ふと目についた頭のないゴーレムの残骸の方へ、2,3、歩近づいていった。

 血泥に足跡だけがはっきりと刻まれていく。

 しゃがみこんで、下敷きになった者が伸ばした手を見つめる。

「族長、このフロアの捜査もじきに終わるでしょう」

「………」

「……今のこの状況から見て、生存者はおそらくいないでしょう」

「………」

 族長は今だ口を閉ざしたままだった。肩が震えているのを見ると、もしかしたら泣いているのかもしれない。

「族長……」

 リリパットの部隊長が何か言いかけたときだった。

「「お前達は……別のフロアにいるリリパットなのか?」」

 木霊のようにエコーがかった声が残りの会話を遮った。

「「どうなのだ? 答えてくれ。私にはもう……あまり時間がない」」

「誰だ!? 一体……生存者なら安心して出てきて欲しい。我々に敵意は無い。あなたを助けに来たのだ」

「「私は…ここだ……先の戦いで負傷して動けない。だが、そなた達にはすでに見えている。ここだ…ここだ……」」

 部屋中のリリパットたちがそのエコーのかかった声の方へ歩み寄った。そこには、強い衝撃を受けてかろうじてさまよう鎧の頭部だと分かる程度の鉄塊が転がっていた。

「あなたは…一体……!?」

「「薄々分かっているとは思うが、私はさまよう鎧だ。このフロアで大きな戦いがあった……生存者はもういない。すぐに元いたフロアへ引き上げろ……そしてすぐに逃げろ。戦うことは考えるな。今のそなたらだけでは……到底敵わない」

「ちょっと待ってくれ。その戦いとは『地獄の商人』との戦いのことなのか?」

「「そうだ。ではそなたたちも例のスライム……スラ吉とかいうものに会ったのだな?」」

「あぁ、そうだ。だが、そのときはこのフロアからの使者の援軍要請もあり、またスラ吉の言うことに確たる証拠がなかったために、こうして調べにやってきたのだ」

族長は相変わらず黙ったままで、代わりに側近が今までの状況を説明した。

「「もはやこのフロアに生存者はいない。とにかく――できるだけ早く、持てるものを持って逃げろ。今の『やつら』はこことは別の特殊階層にいる。おそらく、スラ吉が階段に細工したのだろう。だがそれも時間稼ぎにすぎぬ…とにかく早く…逃……げ………」」

もうそれっきり喋ることはなくなった。

「族長、もはや生存者はいないと分かった以上、ここにいる意味はありません。とりあえず、元のフロアへ引き上げましょう」

 ここではじめて族長は口を開いた。仲間だけに反応する隠し扉のように。

「引き上げることに皆も異議はないと思う。だが、引き上げたあとはどうするのだ? コイツの言った通り、戦いもしない内から罪人のようにコソコソと逃げ回るのか?」

「それは族長が決定してください。逃げるのならば次元の果てまで付き従います。戦うのならばこの身が動く限り戦い続けます。」

「……ならば戦争だ!! 同じ種族としてこのような暴虐を見過ごせるわけが無い。いくぞ。帰ったらすぐに戦支度だ!」

 そういうと、族長はこのときはまだ自分のものだった右足を使って、喋ることの無くなったさまよう鎧の頭部を蹴り飛ばした。

 

 

 

「グオオォォ!! 外れろぉぉぉおおお!!」

 いつもは冷静なライアンもこのときは焦った。降りしきる矢の雨の中でもこんな大声を挙げたことはなかったのに……それ程までにバーサーカー(Lv.9)の存在は恐ろしいものだったのだ。今や獲物が部屋の中で動けなくなっているのを見て、慌てることなく悠然と近づいてくる……目だけを不気味に光らせながら。

 

 

 通路を歩くゾンビをマシンガンで撃ち殺した直後、トルネコはライアンと思しき叫び声を聞いた。ただの雄たけびかとも思ったが、あのライアンがそんなことをするとは考えにくかったし、何よりもその声には恐怖のニュアンスが含まれているのが明らかに感じられたのだ。反響するとはいえ、声がするということはこの近くにライアンがいる――それも好ましからぬ状況で――ことを明示している。肉と荷物を揺らしながら、トルネコは通路を走り抜けた。

 

 

 

「うおおおおおおお!!」

 もはやトラバサミから抜け出すことをあきらめ、両手に剣を握り締め威嚇のときの声を無意識に放っていた。バーサーカーは楽々と先制を取ると斧を振り下ろした。

並みの冒険者ならこの一撃だけで死んでいただろうが、流石に手練れのライアンは何とか剣で受け止めることができた。だが……

 足がトラバサミで固定されているためにそれを受け流すことができない。結果として力押しの鍔迫り合いとなった。

「ぐっ……なんという力だ。それも片手でだと……!?」

 バーサーカーは久々に出会った手ごたえのある獲物を楽しんでいるように見えた。両手を使えば軽くライアンの剣を押し戻し、斧を肩から心臓まで食い込ませることができるはずなのだ。それをしないで敢えて片手だけで勝負を挑む。(ホラ、もっと力出せねぇのか? オレはまだまだ本気じゃねぇぞ)

 ライアンにはバーサーカーがそう言っているように見えたし、表情もかすかに喜びに歪んでいるように見えた。

「ぐうぅぅっっ……!!」

 もはや限界だった。最初の数秒はなんとか耐えていたが、今やジリジリと刃を押し返されている…もうダメか…諦めかけたと同時に斧が肩の鎧に食い込もうとした瞬間だった―周りの風景がもうスピードで流れ去り、消えたかと思うと―いつの間にか別の部屋にいた。

 

 

声のする方に駆けていくと、案の定、通路の向こうにはライアンの姿があった。遠目から見ても目立ちすぎるピンク色だから、それだけは誰が見ても間違うことはない。

 やっと合流できる…… そう思い歩を緩めて近づいていったが――何かおかしい。いつものライアンらしからぬ雰囲気が漂っている……トルネコが眼力を絞って見直してみると、バーサーカーが斧を振り下ろすのが、ライアンの背中越しでも分かった。しかもよく見てみると、トラバサミに足を取られているではないか……トルネコはこの世における多くない友人を助けようと、すぐにサブマシンガンを手にしたが、この通路から撃つことはできなかった。射線上にライアンがいるからだ。といっても、もはや斧がライアンに接触するくらいに近づいている今、走っても間に合うかどうか微妙なところであった。ライアンも手練れであったが、トルネコもある意味手練れ――というより脳練れといった方がいいか?――の冒険者だったので、すぐに杖を取り出し、ライアンに向かって振り下ろした。

 

 

「なるほど……バシルーラの杖か」

(だが……あの新兵器の威力をもってしてもヤツを倒せるのか……?)

 もしそれでも敵わなかったら……一瞬、鳥肌がたったがすぐにその地縛霊のような考えを振り払うと元のモンスターハウスだった部屋へと急いだ。数少ない友人の一人が生きていることを願いながら。

 

 

 

 それにしても、こうして一対一で向かい合うとバーサーカーの異様さは周りの空気をも侵食しているかのように見えた。あのライアンですら文字通り刃が立たなかったのだから、接近されればほぼ一巻の終わりと見ていいだろう。必然的に取るべき戦法はヒット&アウェイ、それもこういった通路のような狭い場所で行うのが理想的だ。

 トルネコは持っていたままだったバシルーラの杖を地面に放り投げると(どうせ今は使わない、そしてそれを合図にバーサーカーが疾駆する)サブマシンガンに持ち替えた。銃器類は一通りの説明書を読んでいたから使い方は分かっていた。だが、それはテニスのルールや技術を知っているというのと同じで、実際の射撃の腕は動きの鈍い腐った死体やミイラ男を相手にした程度でしかなかった。そして初心者が陥りやすい考えである『数撃ちゃ当たる』戦法を選んでしまった。

 そこには商人の好きな『リスクは分散する』という発想もあったのだろう。このような考えはライアンなら絶対にしなかった。

 『数を撃つ』のが最も効果的に発揮されるのは集団戦の場合においてのみであって、個人戦では数を撃つための『労力』『時間』、および『持ち弾』の無駄でしかないからだ。 剣もただ振り回していればいいというわけでないのと同じだ。

 そしてここで繰り広げられた光景も大方の予想の範疇を超えないものだった。狭い通路に猛ダッシュで駆け込んだバーサーカーは、盾で上半身の主要部をガードすることで左足に一発弾丸を食らっただけですんだ。そしてそのまま、盾ごとトルネコに猛タックルをかまして吹き飛ばした。

 通路の曲がり角の壁に思いっきりぶつかったトルネコだったが、起き上がるとすぐにサブマシンガンを構えた。

「痛ってぇぇェェ!! これでも喰らいやがれ!!!」

 通常なら気絶するか軽い脳震盪を起こしていてもおかしくないが、リリパットの矢すら防ぐ皮下脂肪のおかげで大したダメージを受けずにすんだ。トルネコがこの時ほどメタボリックに感謝したことはないだろう。

 だが、何度も言うように、銃というのはただ撃てばいいという代物ではない。すでに銃の威力と射程距離を十分理解したバーサーカーは斧が届かないと見るや、すかさず後方の暗がりの中へ後退していった。

「ウオオオオォォ!!!」

 立ち上がるとすでに暗闇に紛れて見失った敵へ向かって銃を撃ち続けた。そして弾が切れると、通路を全速力で逃げながら弾を込め、また足音だけが聞こえる背後の暗がりへ威嚇射撃を行った。

 

 

 

「トルネコ殿……生きておったのか!!」

 あの冷静なライアンにもその口調の中に驚きと喜びを隠せないでいた。

「ああ。なんとか、ギリだったがな……だが、ヤツも生きてる、すまねぇ」

「いや、謝る必要はない。むしろヤツ相手でよく生き延びた。感謝したいくらいだ」

 久々に走って息を切らすトルネコに肩を貸しながら言う。

「さ、今のうちに階段へ急ごうではないか。早くこの忌々しいフロアから出よう」

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」あまりの息切れに喋ることもできない。

 まあ、なまけものがドーヴァー海峡をバタフライで横断したところを想像すればトルネコの息の荒さも分かるだろう。直前にインシュリンを注射しておいて正解だった。

「いいや。まだだ……」

「すまない、余りにここから去りたいあまり、少し急かし過ぎたな。」

「そうじゃない」

「……?」

 一瞬、ライアンはトルネコが何を言おうとしているのか理解出来かねたが、すぐに察しがついた。ここにまだ残っていると思しき最後のアイテムを回収しに行くというのだ。

なんという商魂!

 他人の命より金が大事という人間はいくらでもいるが、自分の命と比べてすらまだ金の方に価値があるというのだから、ある種の尊敬の念さえ感じてしまう。あるいは、このダンジョンの最奥部にある財宝はどんな生物でも持っている生存本能を狂わせてしまう程のものなのか……おそらく、こういった人種は金の力があれば星の運行を狂わせ太陽を西から昇らせることが可能、とでも思っているのだろう。

 しかし、そんなものに付き合わされてはたまったものではない。ライアンは必死に反論しようとした。

「だが、さっきは辛うじて難を逃れえたが……ヤツに致命傷を与えたのか?」

「銃は剣と違って手ごたえが無いから何とも言えねぇ。だが、オレの予想からするにヤツは軽傷だろう……戦闘能力は依然健在と見ていい」

「なら、ますますここは退くべきだろう。昨日の儲け話が何かは知らぬが、このフロアには無いのだろう?」

「ああ、そうだ。ここじゃない、もっと深い場所だ」

「ではなぜそんなにこだわる!?」

 ライアンの語気が荒くなった。が、それも無理のない話だ。

 トルネコは息を整えるとカバンの中にある合成の壺を指した。

「こいつのためさ。ゾーマのミイラともなれば、多分フンダンに世界樹の葉が使われているハズだ。そうすれば、この合成生物も使えるようになるだろうしな」

「合成生物がいかに便利なものかは全く知らない。だが、今、この状況でより優先すべきことがあるだろう! それにゾーマ? ゾーマだと!? バーサーカーに追われている中、わざわざ挟み撃ちされに行くというのか?!」

 最もな、あまりに最もな意見だったが、ここでトルネコがおとなしく引き下がる訳はなかった。

「大丈夫だ、そんなに心配する必要はないって。今回は追跡を免れる策もあるし、ゾーマにはヤツに良く効く、もっと強力な武器がある」

 そして自ら確認するかのように

「大丈夫だ」と言った。

「その言葉、信用していいのだろうな?」

「あぁ、大丈夫だ」

「二言はないな?」

「当たり前だ。商人は信用が第一なんだからな」

 

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