‐side 千代
兎は喰われた。むしゃむしゃと、それは次第に紙になって、私の一部になった。操っていた子供も同じく。
天使は堕ちた。イカロスを彷彿とさせた。彼女の翼は虚しく紙へと化けられた。当人も然り。
双子は一緒になった。一緒に紙になった。紙になって消えた。
私の目的はまた一つに絞られた。途中で誰かに阻害された気がするけど、私の体は紙だ。切ることは出来ても斬ることは出来ない。
「まだ、いましたか・・・」
目標は片足首が無いのにこちらに歯向かってきた。士道の血が付いた刃をこちらに向けた。
終わったのだ。私の意識、記憶、ありとあらゆるものは全て、この場で、こいつに切断された。
‐side 狂三
私は全てを知っている。いいえ、私だけが・・・と言うべきだろう。
彼女はあまりにも物を壊しすぎた。エレンを殺すという目的が果たされた彼女はその場を去ろうとした。だけれども、それを止めたのは残された精霊と、精霊の保護を目的とするラタトクスだった。ミストルティンを放ち、全身全霊をもって彼女を殺害せんとしていた。あの士道さんでさえ、四糸乃、折紙、八舞を失った結果激昂して我を失っていた。
だが、その戦争は世界の終末という結果で終わった。そう。千代が勝ったのである。
次々と現れるラタトクスの艦隊を、武力を、ASTの戦力を、DEMの無慈悲を全てかき消し、精霊の人知を越す圧倒的な力をも全てをただ紙にしたのだ。しかし、彼女も人の子・・・ということだろうか。敵意を一切向けなかった人間は生かされた。私もそうして生きた。今の私では勝てない、と悟ってしまった。いや、誰が彼女に勝てようか。
現在、世界に戦力はない。DEMもASTもラタトクスも、一瞬でも銃口を向けようものなら、その人間ごと紙クズにされる。
現在、世界に王はいない。彼女は暴れるだけ暴れ、世界に監視カメラを残し、消失した。その際に、各国の首脳は全て潰された。一枚の紙の中に閉じ込められ、それで各国を監視している。
現在、世界に領土はない。当たり前だ。残された人間は百を超えるかどうかというだけ。ユーラシア大陸に皆が移動し、森の奥底でひっそりと暮らしている。私も今はその中に暮らしている。
そして、思った。
”今の”私では勝てない。”今の”アレに勝てる人間は、精霊はいない。武器もならい。ならば、”過去”の私はどうだろうか? 彼女が冷静な狂気を見せる前に倒せば?
だから、私は生き延びた。変な話ではあるが、私が一瞬、運命というものを本気にした。
ならばやってみせよう。幸い、彼女が現界するにはタイムラグがある。
一度元・日本に戻り、<
たった一日前を選択する。直後、私の脳を【
が貫いた。
それは、たったの昨日。だが、私にとっては、もう見ることは無いだろうと諦めた光景だ。
駅前、たったのその光景に私は感動に涙した。人々が行き交い、多きな噴水からは水が惜しみなく溢れていた。
彼女が士道とデートするということは知っていた。何せ、士道の周りには常に私を配備しているのだから。
「・・・アンタ誰?」
彼女が駅にたどり着く前、涙を拭った私は彼女の前に立ちはだかった。
怒りがこみ上げてきた。何を言ってやろうか。頭の中に無数の言葉が浮かんだ。だが、ここは押し殺そう。そうでなければあの惨劇は避けられない。
周りからは変な目で見られる。そりゃぁそうだ。ゴシック調の女が突如泣き崩れたかと思うと、少女の前に出て銃を向けているのだから。
「・・・答える、義理はありませんわ。貴方は何も知らないのがお似合いですの」
彼女が、悪魔が反応するよりも先、私は引き金を引いた。
呆気なかった。彼女は即死した。こちらに恨みの顔を見せる間もなく、ただ銃弾の勢いで後ろに倒れただけだった。その顔は驚きと混乱がぐるぐる回っている。
これで終わりなのだ。このまま、彼女のいない時間軸を、士道さんに嫌われ続ける時間軸を、私は生き抜いていくしかない。けれども、士道さんを失う世界線よりかは幾億もましだ。
案の定、私は士道さんに殺されかけた。けれども、【
これで、私たちの戦争は終わった。
結果的に言えば、私は世界を救ったことになる。けれども、それでもこれほどまでに虚しい救世主はそうそういない。
別の選択肢は無かったか、私は彼女を殺した後にようやっとそんなことに目がいった。けれども、たらればは幾ら語れどもたらればで終わる。
満月の方へ、私は紙飛行機を投げてやった。あんな煌々と照るなよ。今日はそういう気分ではない、と意味を込めたが、それは虚しく地面に落ちた。やはり、彼女の作る紙飛行機ほど上手く飛ばない。
読んでいただき、ありがとうございました。
救われない世界線というのは必ずあるものだ、というのが私の持論でして、死んだら、死ななかった世界線に意識が飛ぶだけだ、という馬鹿馬鹿しいものが私の知的好奇心を操っております。
何が言いたいか、と言いますと、大好きな人が死ぬというのは、そんな悲しみの無い考えを持つ私でさえ許しがたいものです。しかも、それに敵がいたらどうなるでしょうか。まぁ、いるだけまし、なのかもしれませんが。
現在、私は恥ずかしいことに愛する人がおりません。誰が死のうともきっと泣くことはありません。好きな人が殺されたときほど、自分に殺す才能があれば、と悔やむこともありません。
千代は、私の考える人間像の中で、最も人間らしく、純情な少女です。
まだ書きたいシナリオはいくつかありますので、それが世に出ることがあれば、また読んでいただければなと思います。
今回は、「デート・ア・ライブ 千代クレイン」をご愛顧いただき誠にありがとうございました。