「ちょっと遅くなっちゃったなぁ~。」
スマホを見ながらゆりは家路を急いでいた。夏なので、空はまだ明るいが、時刻は19時を過ぎていた。
「りみ、待ってるよね?」
先ほど、送ったLINEは既読も着いていない為、余計にゆりの歩く速度を速めさせていた。
「LINEくらい確認してよ~。心配になるじゃん。」
眉間に皺を寄せ、スマホを睨んでみるが、もちろん既読がつくはずもなく、ゆりは「はぁ~。」とため息をついた。そして、やっとの思いで、家にたどり着くとゆりはますます眉間に皺を寄せた。
「家、真っ暗じゃん。りみ帰ってないの?」
いつもなら帰っているか、遅くなるなら連絡が必ずあるので、ゆりの心配は頂点に達していた。とりあえず、中に入ろうと、鍵を開ける。
「りみ~!ただいま!いないの?」
と中に入りながら叫ぶ。ゆりの言葉に返事はないがゆりはホッとした表情を浮かべた。玄関にはいつもりみが履いているサンダルがあったからだ。
「な、なんだ、りみ、帰ってるじゃん。…居るならLINEくらい見てよ。」
ホッとしたのも束の間、ゆりの感情は段々と怒りに変わってきていた。
「りみー!りみー!どこにいるの!」
廊下の電気を点け、叫びながら歩くも相変わらず返事はない。そして、ゆりとりみの部屋の前まで来た。
「りみ!居るんでしょ!…りみ?」
ドアを開け、りみに呼びかける。自室に確かにりみはいたが、薄暗い部屋の隅で体育座りをしていた。そして、電気を点け、更によく見るとりみは泣いているようだった。
「り、りみ!?ど、どうしたの!?」
「……ひっく。お、お姉ちゃん…。お帰りなさい…。」
「た、ただいま。…じゃなくて!」
泣きながら、出迎えてくれたりみに思わず、ただいまと返してしまったが、それどころではない。泣いて理由を問いただそうとした。いや、何となく泣いてる理由は検討がついた。
「りみ?潤君と何かあったの?」
ゆりがそう聞くとりみはビクッと肩を震わせた。その瞬間、りみの目から大粒の涙が零れた。
「うっ…。お、お姉ちゃん!」
と叫びながらりみはゆりの胸に飛び込んだ。
「よしよし。何があったか、話してごらん。」
ゆりはりみの頭をよしよしと撫でながら優しく言った。
「潤君にね、秋帆ちゃんの事聞いたんだ。まだ好きかって聞いたら分からないって言ったんだけど、表情とか見てるとね、まだ好きみたいだったんだ…。わ、私、どうしたらいいか分からなくなっちゃって…。」
りみが泣きながら言った。
「そっか…。なら、りみ?潤君の事、諦めちゃう?」
「…嫌や…。絶対嫌!」
「うんうん。なら、泣くんじゃなくて、どうしたら良いか、一緒に考えよ?夕飯でも食べながらね?」
「う、うん。でも、本当にどうしたら良いのか…。」
りみは不安そうに言うと同時に「キュ~。」と可愛い音が鳴った。鳴った瞬間、りみはお腹を押さえ、顔が赤くなった。
「ぷっ。あはは!りみ?お腹空いたの?昨日のハンバーグ残ってるから、カレーにハンバーグ乗せて食べよ?お腹空いてたら良い考えも浮かばないよ?」
ゆりはお腹を抱えて笑った。
りみは「うぅ…。」と恥ずかしそうにお腹を擦った。
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朝8時。CiRCLEでバイトがある時は潤が起きる時間だ。しかし、今日はバイトはお休み。休みの時は目覚ましをかけず、朝寝坊をする。それが潤の1番の楽しみであった。しかし、今日は既に着替えを済ませ、朝食を食べていた。
「潤?今日、休みでしょ?どうしたの?」
潤の母親が不思議そうにスクランブルエッグを出しながら聞いた。
「ちょっとね。まぁ、昼過ぎには戻ってくるから。」
スクランブルエッグを受け取り、潤は言った。
「そっか。…秋帆ちゃんに関係ある?」
母親が心配そうに言った。
「やっぱり分かっちゃう?今まで、逃げちゃってたから立ち向かってみようかなって思ってね。大丈夫!心配しないで。」
「そう。あの事故からすぐのあなたは秋帆ちゃんの写真を見るだけで過呼吸になったり、泣きながら暴れたりしたから母親からしたら心配よ?」
「あはは…。それを言われたらますます申し訳なく思うよ。でも、紗夜姉さんや日菜姉さん、もちろん母さんのお陰で立ち直れたはずだから、感謝してるよ!」
「特に紗夜ちゃんにはね!」
潤の母親が言うと、潤は「あぁ!」と答え、更に続けて
「CiRCLEのバイトも紗夜姉さんの紹介だしね!バイトを始めてから良い方向に考えてることが出来はじめたしね!」
「潤が前に進みたいなら頑張りなさい!母さんは潤の味方だからね!コーヒーのおかわりいる?」
「ありがとう。貰おうかな?」
コップを母親に手渡した。潤は晴れ渡った空を眺めた。
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「そろそろのはずだけど…。」
潤は腕時計で時間を確認すると集合時間の10時を5分過ぎていた。
「大丈夫かな?急にアポとったもんなぁ。ちょっと無理があったのかなぁ?」
昨日の夕方、急に電話をし、会う約束をしたが自分の思いつきでの行動に少し潤は後悔していた。
「待ち合わせの相手、まだ来られないんですか?」
つぐみが水が入ったポットを持ってやって来た。
「そうなんだ。まぁ、僕が急にアポ取ったから…。お冷やありがとう。」
潤が待ち合わせに指定した場所は羽沢珈琲店だった。
「待ち合わせってりみちゃんですか?」
つぐみが微笑みながら言う。
「違うよ。まぁ、大事な人…になるのかな?」
潤の煮え切らないような発言につぐみは「?」を浮かべた。それから5分後、時刻は10時15分になっていた。流石に、心配になった潤は電話をかける為にスマホを手に持った。すると来店を知らせるベルがカランコロンと店内に響いた。来店した客を確認した潤は
「夏希ちゃん?こっちこっち!」
と言った。夏希ちゃんと呼ばれた人物は「はぁはぁ。」と息を切らせながら席に着いた。
「潤さん。お久しぶりです。元気そうで良かったです。それと、遅れてごめんなさい。」
「全然大丈夫だよ!…本当に久しぶりだね。なんかお姉ちゃんに似てきたね。」
潤が目を細めて言う。
「そうなんです。周りの人からも秋帆に似てきたって言われるんですよ。お姉ちゃんに似てるって言われて本当に嬉しくて!」
夏希が嬉しそうに笑う姿を見て、潤も微笑んだ。
「夏希ちゃんは…えっと。今、中学2年だっけ?」
「はい。そうですよ。絶賛、中弛み中です。ところで、潤さん。急に会いたいなんて、お姉ちゃんの事ですか?」
「うん。そうなんだ。…お姉ちゃんが亡くなった後の僕の事、聞いてるかな?」
潤が苦笑いしながら聞くと夏希は頷いた。
「…はい。父と母から…。学校も行けなくなったって…。」
「うん。そだね。色々酷かったんだよね。でも、高校生になってからはちゃんと学校にも行ってるし、バイトもしてる。けどね…。」
「けど?」
「うん。やっぱり、僕の時間は秋帆が亡くなってから止まってると思う。今、こうして元気に暮らしているように見えるけど、学校も、バイトも秋帆を思い出さないようにしている為の手段に感じててね。このままじゃ、天国の秋帆に笑われてしまうし、僕なりに向き合ってみようと思って連絡したんだよ。…あっ。そうだ。急に連絡してゴメンね。」
「いえ!久々に連絡くれて嬉しかったです!私も色々と話したいことが沢山あるので、先に注文しませんか?」
夏希がメニューを持って言う。
「ご、ゴメンね。気がつかなくて。…なんか焦ってるかも。本当にゴメンね。」
潤が胸の前で手を合わすと、夏希は「いえ。」と答え、メニューを吟味し始めた。あーでもない。こーでもないと言いながらメニューを決め、注文すると、夏希が口を開いた。
「ところで…。」
「うん?あっ。心配しないで!ここの代金は払うから。」
「ありがとうございます!じゃなくて!」
奢りと聞き、夏希は喜んだが、すぐに慌てるように話しを続けた。
「お姉ちゃんの事に向き合いたいって思ったキッカケとかあったんですか?」
「え?あぁ…。うん。」
「…普段なら、言い辛いなら言わなくて良いって言いたいところですが…。ちゃんと聞かせて欲しいです。」
「そうだよね…。えっと、僕は半信半疑なんだけど、僕の事が好きって言ってくれる女の子がいてね。」
「へぇ~!そうなんですね!流石、潤さん!モテますね~!潤さんはその方の事好きなんですか?」
「…それが分からないんだよね。可愛いし、良い子なんだけどね。でも、このまま立ち止まったままだと、その子に対して失礼だと思っててね。だから、えっと。自分の気持ちに整理をつけたいなって…。」
「分かりました。この後、まだ時間ありますよね?」
「うん?大丈夫だよ?」
夏希が微笑むと、丁度注文したものがテーブルに運ばれて来た。
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「牛込さん?」
「あっ。紗夜さん!こんにちは。」
その頃、Poppin`Partyの練習が休みだったりみは気分転換を兼ねてショッピングセンターに来ていた。そこでバッタリ紗夜に会ったのだ。
「買い物…ですか?」
「いえ、そうじゃ無いんですが…。や、やっぱり、目、は、腫れてますか?」
りみの顔を見た瞬間、言葉に詰まった紗夜を見てりみは苦笑いしながら答えた。
「えぇ。泣き腫らしたような目をしていたので…。どうされましたか?差し支え無ければ教えて頂きたいのですが?」
「え、えっと…。紗夜さん、潤君に怒りませんか?」
「やはり、潤さんが関わってましたか…。怒るかどうかは内容次第ですね。」
紗夜の返答にりみは再び、苦笑いをした。
「牛込さん。時間があるのでしたら、どこか座って話しませんか?」
「あっ。は、はい。お、お願いします。」
りみの返答に頷きながら紗夜は「こっちです。」と言い、お目当ての場所に向かって歩いて行った。黙ってりみが着いて行くと、ショッピングセンターの一角にポツリとある喫茶店だった。中に入り、お互い注文をすると紗夜が口を開いた。
「さて、早速ですが、話して頂けますか?」
「は、はい。え、えっと、潤君は何も悪く無いんですが…。秋帆さんの事…。聞きました。そして、潤君がまだ秋帆さんの事を好きなんだって感じて…。大泣きをしてしまったって感じです。」
「え?潤さん。秋帆さんの事を話したんですか?」
「は、はい。私には聞いて貰いたいと言ってましたよ。」
「そうですか…。」
紗夜が腕を組み、う~んと考える。
「さ、紗夜さん?どうしましたか?」
「いえ。すみません。牛込さん。あなたは秋帆さんの話を聞いてもまだ、潤さんの事が好きですか?」
紗夜のストレートな質問にりみは顔を赤くした。
「うぅ…。は、はい。諦めるなんて絶対無理です。昨日の夜、色々と考えましたが、諦めるって選択肢は浮かびませんでした。」
「そうですか。牛込さん、良かったですね。」
「え?」
「潤さんは自分の過去の話を他の人にはしないんです。この話を知ってるのは私たち血縁関係の者と月島さんしか知りません。まぁ、潤さんの中学の時の同級生とかは必然的に知ってるでしょうが…。」
「?なんでまりなさんが知ってるんですか?」
「それはCiRCLEのバイトを薦めたのが私で、その時に話しました。バイトは塞ぎ込んでた潤さんのリハビリと思って始めるように言ったので。」
「そうなんですね。でも、潤君の過去の話を話すのがなんで、良いことなんですか?」
りみは腑に落ちないと言った表情で紗夜に聞いた。
「それは、潤さんが秋帆さんの話を普段、他の人には絶対しないんです。話をする時は自分が心許せる相手にしかしません。」
「そ、そうなんですか?」
「はい。それに、牛込さんの話を聞く限り、かなり深いところまで話されています。私たち親戚でも、かなり時間が経ってから秋帆さんがどのような人だったかって言うのを聞きました。出会って数日の方に潤さんがそこまで話すのはかなり珍しい事なんです。」
紗夜が一気に喋るも、りみはさらに混乱していた。
「えっと、つまり…?」
「はい。つまり、潤さんが牛込さんの事が好き…とまでは分かりませんが、大切な存在っていうのは間違いないと思います。」
紗夜の言葉を聞き、りみは顔がさらに暑くなるのを感じていた。
「牛込さん、大丈夫ですか?」
恥ずかしいやら、嬉しいやらで口をパクパクしていたりみに紗夜が声をかけた。
「だ、大丈夫れふ…。はぁ~。ふぅ~。と、と、ところで紗夜さん。潤君自身が、秋帆さんが亡くなった直後は凄く迷惑かけたって言ってましたが、そんなに大変だったんですか?」
りみが落ち着く為に、深呼吸をして聞くと紗夜は深呼吸ではなく、「はぁ~。」とため息をつき、額に手を当てた。
「さ、紗夜さん?」
「失礼しました。…えぇ。それは大変でした。引きこもって、学校には行かない。多分、中学2年の2学期からは学校には殆ど行ってません。それに、ご飯は一切食べない。秋帆さんの写真を見ただけで過呼吸を起こす。記憶がフラッシュバックして泣いて暴れる。まだありますが聞きますか?」
「い、いえ!だ、大丈夫です!でも、今は学校とか行ってますよね?」
「えぇ。高校からは行ってます。…苦労しました。」
「紗夜さん達の支えがあったから潤君もここまで元気になったんでしょうね。」
りみが微笑みながら言うと、紗夜は苦笑いをし、
「でも、ちょっと厳しくし過ぎたかも知れません。お陰で避けられてますから。」
と言った。りみは「そんなことないです。」と言ったが、頭の中では大量に付箋が貼られた数学の問題集が浮かんでいた。
「私達、日菜もそうですが、大事な親戚なので一生懸命、潤さんを支えたつもりです。でも、今、1番潤さんを支えれるのは牛込さん、あなたです。前にも言いましたが、改めて言わせて下さい。潤さんを支えてあげてください。」
紗夜が頭を下げるとりみは慌てた。
「あ、頭を上げてください!や、役者不足かも知れませんが、分かりました。こちらこそ、よろしくお願いします。」
「牛込さんなら大丈夫だと思います。あと、ずっと言わなければと思っていたのですが…。」
「なんですか?」
「日菜が本当にご迷惑をかけました。あの子も悪気があった訳ではないので…。」
「そ、それなら大丈夫です。そのお陰で潤君のお家に行けましたし。…ちょっとビックリはしましたが…。」
「本当に申し訳ありません。それに、買い物にいらしてたんですよね?時間をとらせてしまってごめんなさい。」
「だ、大丈夫です。話をいっぱい聞けて安心しましたし。それに、買い物とかじゃなくて、気分転換に来ただけなので…。」
何度も謝る紗夜にわたわたしながらりみが言うと紗夜は不思議そうな顔をした。
「そうなんですか?私はてっきり、潤さんの誕生日プレゼントを買いに来てたのかと思ってました。」
「え!?潤君の誕生日っていつ何ですか?」
「明日ですよ?」
紗夜が平然と答えると、りみは泣き腫らした目を見開き、「えぇぇえぇえぇぇ!」と叫んだ。喫茶店にいる人間がりみの方に向いたのは言うまででもない。
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羽沢コーヒー店で舌鼓を打った潤と夏希。今は夏希の案内で歩いていた。
「夏希ちゃん?何処に向かっているの?」
「潤さんが今まで1度も来たことがない…。って言うよりは来れなかった場所です。」
「僕が行けなかった?」
「はい。お姉ちゃんのお墓です。」
夏希が言うと、潤の足が止まった。潤はショックが大きすぎて、秋帆の葬式の記憶が殆どない。行ったと言うことしか覚えてなく、後から聞いた話だと、廃人のようになっており、声をかけても「あぁ。」しか言わなかったらしい。そんな状態だったので墓参りなど、当然行けずにいた。行こうとしても足がすくんでしまうのだ。今もこうして足を止めてしまっている。
「…潤さん。やっぱり難しいですか?」
「ううん。ここで行かないと、もう一生行けなくなる気がするから行くよ。ゴメンね。夏希ちゃん。案内、よろしくね?」
潤がそう言うと、夏希は心配そうな表情になり、
「分かりました。でも、無理はしないで下さい。どうしてもダメなら言ってくださいね。」
と言った。
「ありがとう。」
と潤が言うと、ゆっくりだが一歩、また一歩と足を進めた。
二桁、10話まで来ました!
当初の予定では10話で終わる予定にしてましたが…。
まだ終わりそうにないです…。
いっぱいイメージが膨らんで良いのか、まとめる文才が無いだけなのか…。
楽しみに読んで貰っている方、今、初めて読んだ方もよろしくお願いします。
感想もお待ちしています!