潤と夏希が歩き出して30分が経っていた。
「もうすぐ着きます。潤さん大丈夫ですか?」
秋帆が振り向き潤に声をかけると小さく「あぁ。」と返ってきた。実際のところ、潤は大丈夫では無かった。
「(なんか、体が熱い。頭がフラフラする。息がしにくい。…全く情けないなぁ。僕はまだ全然ダメダメだったんだなぁ。)」
と考えていた。
「潤さん?本当に大丈夫ですか?」
夏希が更に心配そうに声をかけた。
「え?うん。大丈夫だから。」
潤は今にも倒れそうなのを堪えて言った。
「ちょっと質問の仕方が悪かったですね。体調、大丈夫です?秋帆姉ちゃんの事、抜きで。」
「へ?」
夏希の言葉に潤はキョトンとした。確かに、体調は最悪だ。本当に倒れそうだ。しかし、それは秋帆のお墓に近づいているからであって、夏希の言う秋帆の事を抜きでという質問に理解が出来なかった。
「潤さん?絶対、体調悪いですよね?今、体に起こっている症状を教えて下さい。」
とうとう、夏希は立ち止まり、潤の前に立って聞いた。潤は「大丈夫」と伝えたが夏希が折れなかった為、正直に自分の体調を伝えた。
「それって熱中症じゃないですか!早く、木陰に入って!座って!」
「ね、熱中症?違うよ?恥ずかしいけど、僕が弱いだけ…」
「いいから!」
夏希の剣幕に潤はびっくりし、大人しく言うこと聞き、木陰に座った。
「そのまま待ってて下さいね!」
潤が座ったのを確認して夏希は走って行った。
「(はぁ~。情けないなぁ。てか、座ったらちょっと楽になったかも。)」
潤は空を見上げた。夏の日差しは容赦なく地上に降り注いでいたが、潤のいる木陰にはそよそよと穏やかな風が吹いていた。汗をぬぐいながら潤は目を瞑った。
「潤さん?潤さん!」
潤が目を開けると夏希が潤の肩を持ってユサユサと揺らした。
「潤さん大丈夫ですか?ビックリしましたよ。意識を失ったかと思いました。」
「ゴメンね。ちょっと寝てたみたい。」
潤が苦笑いしながら言うと夏希はコンビニの袋からスポーツドリンクを取り出し、潤に手渡した。
「ありがとう。頂くね。」
と潤は言い、一気に飲んだ。
「あぁ~!美味い!スポーツドリンクってこんなに美味しかったっけ?」
「それって、完全に熱中症の人が言う台詞ですよ。あと、これ。凍ってるスポーツドリンクです。首とか冷やして下さい。」
「夏希ちゃん。ありがとう。てか、やけに詳しいね?」
「私、テニス部に入ってて、そこで習ったんですよ。少し休んで良くなったら行きましょうか?」
夏希がニコッと笑って言うと潤はコクッと頷いて再び目を閉じた。
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「あかん!どないしよ…。」
りみは1人、ショッピングセンターの中を歩いていた。紗夜から明日が潤の誕生日と聞き、慌ててプレゼントを選んでいた。しかし、そのプレゼント選びは難航していた。
「(よくよく考えたら私、潤君の事、ほとんど知らないなぁ。出会ってから数日だし、当たり前かもだけど…。こんな事になるなら趣味くらい聞いとけば良かった。)」
りみはそう考えながら雑貨屋に入った。ちなみにだが、潤の趣味は寝る事であり、りみが知っていてもプレゼント選びは難航必須だった。
「(可愛い置物とかあるけど…。潤君のプレゼントには違うし…。)」
辺りをキョロキョロ見回すも、やはりこれといったものは無く、時間だけが過ぎていた。少し歩き疲れたりみはエスカレーターの横に置いてあったソファーに座っていた。
「はぁ~。」
何度目かも分からないため息をつく。
「(はぁ~。どうしよ…。本当に何も思い浮かばないよ…。)」
「あれ~?りみじゃん!こんなところでどうしたの?」
「ひゃ!」
りみがビックリして後ろを振り向くと「やっほ~☆」と手を振ってるリサがいた。
「ごめんね~。ビックリさせるつもりはなかったよ。」
「い、いえ!リサさん。こんにちは。」
「こんにちは。りみはどうしたの?買い物?」
「えっと、実は…。明日、潤君の誕生日らしくて…。」
「え!?そうなの?なるほど~。それでため息をついてたんだね。」
「え?た、ため息、見てたんですか?」
ため息を見られたのが恥ずかしかったのか、りみはわたわたした。
「バッチリ見てたよ~!潤君のプレゼントを悩んでたってところかな?」
リサが笑いながら言うと、りみは頷いた。
「な、何にして良いか本当に悩んじゃって…。決められなくなってしまって…。リサさん…。何かアドバイスありませんか?」
「そっか~。なるほどね~☆」
りみの話を聞き、リサはニヤニヤして言った。
「りみは本当に潤君の事、好きなんだね~☆」
「うぅ…。か、からかわないで下さい…。」
「あはは~☆ゴメンね~。でも、好きだからこそ悩むんだよ。で、プレゼントか…。」
リサは腕を組みう~んと考え始めた。
「…。その様子だと、潤君の好きな事とか、趣味とかあまり知らない感じだよね?」
「は、はい。そ、そうなんです…。潤君、あまり自分の事、話してくれなくて…。で、でも、私が悪いんです!き、きっとちゃんと聞いたら潤君は教えてくれるのに、聞かなかったから…。」
りみが、俯きながら言う。
「まぁまぁ。初めて会って、まだ日が浅いんでしょ?しょうが無いよ。え~と。私からのアドバイスは、ぶっちゃけ、何でも良いと思うよ?」
リサがニコニコしながら言うと、りみは「え?」と言ってキョトンとした。
「りみが考えて、考えて、これって決めた物なら潤君は喜ぶと思うよ?りみは本当に知らない?潤君の好きな物とか。」
「ご、ごめんなさい…。わ、私、ほ、本当に知らなく…て…あっ!」
俯いたまま、静かに言ったりみだが、言葉の途中で顔を上げ、リサを見た。
「おっ?何か思いついた?」
「はい!リサさんのお陰です!ありがとうございます!」
「私は何もしてないよ☆」
リサが笑顔で言った。
「いえ!そんな事ないです!ありがとうございます!…そう言えばリサさんも買い物ですか?」
「私?う~ん。まぁそんなとこかな?ほらほら!プレゼント、思いついたなら早く買ってきちゃいなよ☆」
「え?そ、そうですよね!ありがとうございます!」
りみがペコリとお辞儀をして立ち去って行った。疲れていた足も軽くなり、軽快に足が動いていた。
「…ふぅ~。紗夜?これで良いの?」
「今井さん、ありがとうございます。」
リサが後ろを振り向いて言うと、物陰から紗夜が出てきた。
「いきなり紗夜からショッピングセンターに来て下さいってLINEが来た時はびっくりしたんだからね?まぁ、力になれたなら良かったよ☆」
「ありがとうございます。こうゆう時は今井さんが適任だと思ったので。この礼は必ず…。」
「良いって~☆でも、紗夜がここまでするって珍しいよね?」
「そうですか?潤さんは大事な親戚ですし、牛込さんも一所懸命だったので力を貸したくなっただけですよ。」
紗夜はりみが立ち去った方を見ながら言った。
「なるほどね~。ところで紗夜?今から時間ある?」
「えぇ。ありますが…。どうしましたか?」
「いやいや。たいしたことじゃないんだけどね。さっき、お礼してくれるって言ったじゃん?このまま買い物に付き合ってよ!」
「…お礼ってそれで良いんですか?そんな事、お礼じゃなくても付き合いますよ。」
紗夜が不思議そうな表情を浮かべると、リサはニヤッとした。
「そう?ならレッツゴー!紗夜をコーディネートするよ~!」
「え"!?」
リサの発言に紗夜は額に手を当てた。そんな事、お構いなしにリサは紗夜の腕を引っ張っていた。
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「ごちそうさまでした。ふぅ~。お腹いっぱい!」
「だね。美味しかったね。」
潤と夏希はファミレスに入っていた。少しだけ目を瞑り、休んだ潤はだいぶ体調の方も良くなっていた。しかし、時間的に昼前だった為、近くにあったファミレスに入り、昼食をとっていた。
「体調は大丈夫ですか?」
「うん!大丈夫!夏希ちゃんのお陰ですっかり良くなったよ!」
潤が笑顔を見せると夏希はホッとしたように胸を撫で下ろした。
「まさか、本当に熱中症だったとは…。僕はてっきり、秋帆のお墓が近くなって来たからだと思ってたよ。」
「…それなんですけど、今までにお墓参りに行こうとしたことあるんですか?」
「うん。あるよ。近くなると足が竦んじゃって…。行けなかったけど…。」
「そうなんですね…。実は、潤さんに渡したい物があるんです。」
夏希がそう言うと鞄の中を探り始めた。そして取り出したのは封筒だった。宛先のところには「潤へ」とあり、裏を見ると「秋帆より」と書かれていた。
「こ、これは?」
潤がビックリして夏希に聞くと
「実は、お姉ちゃんの部屋に鍵がかかった引き出しが1つだけあって…。そこの引き出しの鍵がたまたま見つかって開けてみたらそれが入ってたんです。」
「…読んで良いかな?」
「…はい。」
潤が夏希に了解をとると静かに、丁寧に封を開けた。内容はどうやら潤の誕生日に渡すつもりだったらしい文章が並んでいた。
“潤へ
お誕生日おめでとう!
こうやって手紙を書くなんて初めてだね。
いつも思っていることをこの手紙で伝えるね。
なかなか言葉にして言うのは照れくさいしね(^^;)
1年前に潤から告白されて本当にビックリしました。
だって、全然喋ったことない男子から告白されたんだもん。
潤は当たって砕けろって思いで告白したって言ってたけど、実はね、その告白の前から潤の事知ってたんだよ。
喋ったことは無かったけど、入学式の日に、潤、体調が悪そうな生徒を見つけて、保健室まで連れて行ってたでしょ?
しかも、その連れて行った人の事も全然知らなかったのに。
その姿を見た時に、優しい人だなぁ。私には出来ないなぁ。って思ってたんだよ。
だから、告白された時に、この人の事をもっと知りたいって思って告白を受けたの。
いつも、潤に対して素直になれなくて、怒ったりしてゴメンね。
潤の優しいところ、すぐ行動に移せるところ、フニャフニャした笑った顔、大好きだよ。
私のことを好きになってくれてありがとう。
この先、何が起こるか分からないし、もしかしたら別れる事もあるかもしれない。
でも、私はどんな状況になっても、潤の事を好きになって良かったって思える自信があるの!
潤からは、人の気持ちに寄り添う大事さ、人を好きになることの素晴らしさ、楽しさ、沢山の事を教えて貰いました。
本当に感謝してもしきれないよ。
こんな私と付き合ってくれてありがとうね!そしてこれからもよろしくね!もう1回言うけど、お誕生日おめでと!また来年も祝おうね!
P.S 絶対に一緒の高校行こうね!
秋帆より”
手紙を何度も潤は読んだ。どのくらい時間がたったであろう。潤は読みながら、久々に見た女の子らしい丸文字に懐かしさを感じていた。
「潤さん?大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫だよ。手紙渡してくれてありがとうね。」
「いえ。もし、良ければですが、私も読んでも大丈夫ですか?」
「もちろん!」
潤はそう言うと手紙を夏希に手渡した。しばらく手紙に集中していた夏希は読み終わると「フフッ」と笑った。
「なんか、お姉ちゃんらしい文章ですね。元々優しい、自慢の姉でしたが、お姉ちゃん、潤さんと付き合い始めてからますます優しくなったんです。…優しさにも色々ありますよね?お姉ちゃん、私の事を思って注意してくれる事もあったんです。当時はウザいなぁ…なんて思っちゃいましたがら、優しさからの注意だったんだって、今なら思えます。…それが、潤さんと付き合い始めてからだったんで…。潤さんの影響だったんですね!」
夏希がニコニコしながら言う。
「そうなのかなぁ?でも、僕も秋帆によく注意されてたよ?勉強面では特に。」
「それだけ、一緒の高校に行きたかったんですよ。」
2人は「あはは。」と、笑った。
「じゃぁ、そろそろお墓に行こうか?案内、よろしくね?」
「はい。もちろんです。」
2人は席を立ち、再び炎天下の中、歩いていった。
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2人が歩きだして5分後、秋帆が眠る霊園に到着した。
「本当にあと少しだったんだね?」
「はい。そうですよ。お姉ちゃんのお墓はこっちです。」
墓石たくさん並んでおりその間を縫うように歩く。潤の手には水が入ったバケツが握られており、歩く度に中の水が左右に揺れた。
「ここです。」
夏希が短く言うと、立ち止まった。夏希の視線に会わせ、潤も墓石を見る。両サイドには立派な向日葵が供えられていた。
「綺麗な向日葵だね。」
「お姉ちゃん、向日葵が好きだったので…。」
夏希がそう言うと、向日葵を抜き、水を入れ替え始めた。その姿を見て、潤も慌てて、掃除を始めた。一通り、終わると潤と夏希はその場にしゃがみ、手を合わせた。
「お姉ちゃん!やっと潤さんが来てくれたね。」
夏希が呟く。その瞬間、秋帆が答えるように微かに風が吹いた。
「秋帆、遅くなってゴメンね。やっと来れるようになったみたい。」
潤も秋帆に語りかけた。その言葉を聞いて夏希は合わしていた手を離した。
「潤さん、本当に平気そうですね。誘って良かったです。お姉ちゃんが亡くなった時の潤さんを見てたので、正直、お墓まで来れるかどうか半信半疑でした。」
「ゴメンね。葬式とかの記憶、曖昧なんだけど、そんなに酷かったんだね。」
潤が苦笑いする。
「夏希ちゃん。本当にありがとうね。お墓の案内も手紙も…。」
「いえいえ。…前に進めそうですか?」
「うん。お陰様でね。手紙の文に“例え、別れる事になっても、潤と付き合って良かった。”ってあったじゃん?」
「はい。」
「ほら、会った時に僕の事が好きらしい子がいるって言ったじゃん?その子がこの先、付き合うようになったとしても、そうじゃ無くても、僕の事を好きになって良かったって思えるようにしてあげてね。ってバイトの先輩から言われてて、正直ね、よく分かってなかったんだけど、秋帆からの手紙で、それがいかに大切か良く分かったから…。とりあえず、頑張れそう!」
「潤さん、今日、会った時と表情が大違いですね。今の表情、素敵ですよ。」
夏希が笑顔で言うと「そうかな。」と潤は言った。
「(秋帆…。遅くなったけど、僕は大丈夫。頑張るから。僕も秋帆と付き合えて良かったよ!)」
墓石に向かい、潤は心の中で語りかけた。
11話でした。
少し、シリアスでしたかね?
シリアスなストーリーを書くのは苦手ですが、楽しんで頂けたら幸いです。