「潤さん、起きて下さい。」
「ふぁ?」
潤が重たい瞼を開けると目の前に紗夜がいた。昨日の雨が嘘のように日差しがカーテンの隙間から漏れていた。
「おはようございます。」
「紗夜姉さん?」
「はい。」
潤は頭が回っておらず、状況を確認するだけだった。
「潤さん、起きて下さい。」
再度、紗夜が同じ事言うと、潤は体を起こした。
「紗夜姉さん?おはようございます。」
潤が目を擦りながら言う。
「目、覚めましたか?朝早くすみません。」
「えっと…。今、何時ですか?」
「7時ですよ?」
「紗夜姉さんが朝に強いのは知ってますが、早すぎませんか?」
「大丈夫です。叔母さんにはLINEで許可を得てますから。」
「…僕の許可は?」
「ところで、今日は話したいことがあって来ました。バイト昼からですよね?」
「無視…しないで下さい。」
潤が悲しそうに言うが、紗夜はお構いなしに話を続けた。
「話したいことがあるので起きて下さい。下で待ってます。」
紗夜が潤の部屋を出ると、潤は頭を抱えた。
「なんで、僕のバイトのシフトまで知ってるの?」
潤は呟いたが、すぐに「(月島さんに聞いたのか…。)」と答えを出した。
「はぁ~。ゆっくり寝たかったなぁ…。」
再び、潤は呟き、準備を始めた。
潤がリビングに向かうと、紗夜が食卓の椅子に座って待っていた。
「紗夜姉さん、改めて、おはようございます。」
「はい。おはようございます。朝早くすみません。」
「大丈夫です。で…話とは?」
潤が、コーヒーを準備しながら聞いた。
「はい。昨日の話ですが、弦巻さんに会いまして、その時、潤さんが心から笑ってないとおっしゃっていました。」
「はい?まぁ、いいや。それで?」
「私は全然気付かなかったので、家に帰ってから考えました。しかし、分かりませんでした。なので、分からないなら本人に聞いてみようと思いまして。」
「ん?ま、待って下さい!紗夜姉さん!」
「何ですか?」
「ぼ、僕に全く心当たりが無いんですが?」
潤は鳩が豆鉄砲を喰らったような表情を浮かべた。
「そうなんですか?」
「はい。紗夜姉さん、弦巻さんの事、凄く信頼してるんですね。」
「はい。彼女の見る目は間違いないので。」
紗夜は表情を変えず、コーヒーを飲みながら言った。
「そうですか…。まぁ、悩み…ならあります。」
「悩みですか?」
「はい…。まぁ、りみの事なんですが…。」
「牛込さんの事ですか?あなたから良い感じだと聞きましたが?」
「え、えぇ…。実は、こ、告白されたんです。」
潤が言うと、リビングは静寂に包まれた。
「はい?潤さん…。それは本当ですか?」
「…本当です。」
「え?い、いつですか?」
「えっと…5日前くらいですかね?」
「そ、そうなんですか…。ちなみに、潤さん返事は?」
「また、怒られそうですが…。保留してます…。」
潤が苦笑いしながら言うが紗夜の表情はだんだん険しくなっていった。
「潤さん?まず、なぜすぐに報告しなかったんですか?私達がどれだけ心配しているか分かってませんか?」
「わ、分かってます!ただ…言うのが恥ずかしくて…。」
「まぁ、良いでしょう。それと、保留と言うのはどうゆう事ですか?」
「そ、そのままの意味です。」
紗夜の剣幕に潤が震えながら言うと、紗夜は「はぁ~。」とため息をついた。
「つまり、潤さんの悩みは牛込さんの返事に迷っている…。と、言うことで合ってますか?」
明らかにイライラしてますという表情の紗夜。潤はますます震えた。
「あ、あ、合ってます…。」
「はぁ~。弦巻さんの心からの笑顔じゃないって言うのが分かりました。潤さんが悩みを持ったままバイトをしてたからそう見えたんですね。」
「あぁ。なるほど…。それで心からの笑顔じゃない…かぁ。」
「潤さん?何で告白の返事を言わないんですか?」
「え、えっと…。りみの事、好きかどうか分からなくて…。凄く良い子だし、可愛いって思っているけど…。自分自身の気持ちが分からなくて…。」
「…恋愛の話でよく聞く話ですが、とりあえず、付き合ってみて考えるっていうのも1つの手とは…」
「それは出来ません!りみに対して失礼です!」
「ですよね。あなたはそういう方でしたね。では、なぜ返事が出せないか原因を考えましょう。私も考えますから。」
「紗夜姉さん…。お願いします。」
潤がペコリと頭を下げる。その様子を紗夜は微笑みながら見ていた。
「(やっぱり、いざという時には、紗夜姉さん頼りになるなぁ。)」
潤は心の中でそう思っていた。
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潤と紗夜が話していたほぼ同時刻、りみは蔵に来ていた。
「りみ~?お茶入ったぞ?」
「有咲ちゃん。ありがとう。本当に朝早くごめんね。」
りみがベースを抱えながら言った。
「私は大丈夫。りみがベース弾かせてって来た時はビックリしたけどな。」
有咲がお茶をりみの前に置きながら言った。
「本当にごめんね。ベースどうしても弾きたくなっちゃって…。家じゃ迷惑になるし、CiRCLEはまだ開いてないし…。」
「私は全然大丈夫だけど…。」
有咲は言葉を切り、りみをジッと見た。
「あ、有咲ちゃん?」
「りみ。何か悩み事か?その悩み事を忘れたいからベースを弾きに来たって解釈で合ってるか?」
「あ、有咲ちゃん?な、なんで分かるの?」
「なんでって…。それ。」
有咲が指差す先にはチョココロネが沢山入った紙袋があった。
「またそんなに沢山…。りみ、悩み事とか、嫌な事があったらチョココロネに走る癖、直した方が良いんじゃね?」
「うぅ…。」
りみが恥ずかしがっていると有咲が言葉を続けた。
「りみ?悩み事があるなら話聞くよ?まぁ何となく分かるけどな?一宮さん関係だろ?」
「え!?有咲ちゃん、な、なんで分かっちゃうの?」
「今、りみが悩むって言ったらそれしかないだろ?んで、何があった?」
有咲がお茶を飲みながら言った。
「あ、あのね?わ、私、潤君に告白したんだ…。」
「そっか。そうなんだ。……って、えぇぇぇ!?」
有咲の絶叫が蔵の中でこだました。
「ま、ま、ま、マジかっ!え!?い、いいいいつ?」
「あ、有咲ちゃんお、落ち着いて?」
「おおお落ち着って、無理があるぞ!?悩み事が想像の遥か上を越えて行きやがった!で、ででで、い、いいい一宮さんはなんて?」
有咲は身を乗り出してりみに聞いた。
「え、えっとね。告白の返事は…ま、まだなんだ…。」
りみは力なく「あはは。」と笑いながら言った。
「そ、そうなの?はぁ~。ビックリした。それで、返事が無いから悩んでると?」
「そうなの。告白して5日経ってるけど、返事がないから不安になっちゃって…。」
「5日!?え?告白したのそんなに前なの?」
有咲はさらにビックリした。
「そ、そうだけど?」
「な、なんて言うか、りみって意外に積極的…なんだな…。」
「ふぇ?そ、そ、そんなことないよ!わ、私が我慢出来なくなって言っただけだから…。」
りみが、目線を反らしながら言った。
「…話戻すけど、悩んでるのって一宮さんからの返事がないからか?」
「それもあるんだけど…。」
りみが目を伏せながら言った。
「私が、告白してから明らかに潤君が悩んでるみたいで元気なくて…。あんなに悩ませるなら告白なんかしなきゃ良かったのかなって…。」
「はぁ~。」
りみの言葉を聞き、有咲はため息をついた。
「あ、有咲ちゃん?ど、どうしたの?」
「りみは優しすぎるんだよ。もっと、ワガママになっても良いんじゃね?」
「有咲ちゃん?どうゆう事?」
「一宮さんがなんでりみからの告白を悩んでるのか知らないけど、悩むって事はりみの事、本気で考えてるって事じゃん。だから、告白しなきゃ良かったってことはないんじゃ無い?」
「…そ、そうかな?」
「そうだよ。だからゆっくり待てば良いんじゃね?私は恋とかしたことないか分かんねぇけど。」
有咲がお茶に再び口をつけた。
「有咲ちゃん。ありがとうね。少し、元気出たよ。」
りみがそう言うとベースを構え、弾き出した。蔵に重低音の旋律が響いた。
「(…相変わらず、上手いな…。)」
りみの演奏を聴きながら有咲はそう感じていた。
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話始めて1時間が経過していた。「あーでもない。」「こーでもない。」と話していた潤と紗夜。ちなみに、秋帆の墓参りに行った事、その時に手紙を貰った事を話すと再び「言うのが遅い。」と雷が落とされた。現在は朝食に舌鼓を打っていた。
「しかし、意外でした。」
お腹が空いていた2人は黙って食べていたがおもむろに紗夜が口を開いた。
「紗夜姉さん、どうしましたか?意外って?」
珍しく、主語がない紗夜の言葉に潤も食べる手を止めた。
「すみません。潤さんの話を頭の中でまとめていたから言葉に出てました。」
「そうなんですね。で、意外って?」
「いえ。私は潤さんが牛込さんに返事を出せない理由は、まだ秋帆さんの事が好きなのかと思っていたので…。そうでは無いのですよね?」
「あぁ。そうですね。秋帆は勿論、大切な人です。それは間違いありません。けど、このまま引きずるのは秋帆は絶対に望まないし、僕の為にもならない気がしまして…。」
潤は秋帆の写真を眺めながら言った。
「そこまで考えが潤さんの中でまとまっているのに、なんで牛込さんに返事出せないのでしょうか?」
紗夜が首を傾げる。
「…分かりません。」
潤は申し訳なさそうな表情で答えた。
「ごめんなさい。責めている訳では…。」
「いえ。大丈夫です。」
「…ついでに、もう1つ気になる事があるのですが…。」
「紗夜姉さん。言いにくそうにせず、僕の事は気にせず言って下さい。新しい発見があるかも知れません。」
「分かりました。…潤さんは「牛込さんの事好きかどうか分からない」と言ってましたが、潤さんの話を聞いていると、「牛込さんの事が好きで付き合いたいけど、何か引っかかるところがあって、返事が出せない。」という風に聞こえるんですが…。」
「え?そ、そんな訳が…。」
即座に否定しようとした潤だったが、言葉の途中で止めた。
「(待てよ…。確かにずっとりみにどうやって返事をしようって考えていたけど、その時に断るって選択肢は1度も考えた事無かった…よね?いつも考えてるのはどうやったら好きになれるかで…。あれ?そう考えるとりみの事が…好きなのか?)」
「潤さん?…潤さん!?」
「ふぁい!」
紗夜に呼ばれ、慌てて返事をした為、変な返事になってしまった。
「大丈夫ですか?急に黙り込んで…。それに、顔、赤いですよ?」
「す、すみません…。さ、紗夜姉さんの…言うとおり…かもです。」
「どうゆう意味ですか?」
「僕、りみの事、好きなのかも知れません。今まで、返事の答えを考えているとき断るって選択肢は考えてもみなかったので…。」
潤が、伏せながら言った。顔がどんどん熱くなるのを感じていた。
「やはりそうでしたか。なんとなくそうでは無いかと思っていました。」
「はぁ~。顔が熱い…。でも、何故、僕はりみに対して返事が出来ないのでしょうか。」
「それはさっき言ったように、何か引っかかるところがあるのではないですか?」
「…う~ん。」
「流石に、そこまでは私は分かりません。でも…。」
「でも?」
「潤さんは本当に優しい人です。たまに心配になるくらいに…。潤さんはそうじゃないって言うと思いますが、心の何処かに、誰かと付き合うことが秋帆さんに対して申し訳ないとか思っているのではないですか?だから牛込さんに対しても返事が出せない…と、私は思います。」
「そう…なんですかね?」
「それは潤さん以外分かりません。あくまでも私の考えなので。焦る必要はありません。そして正解もありません。ただ、潤さんが後悔しないように考えたら良いかと思います。」
紗夜の言葉を聞き、潤は再び写真の方を見た。写真の中の秋帆はただただ笑っているだけだった。
「さっき、潤さんは優しすぎると言いました。貴方は自分より、まず他人が良いようにと考えてしまいます。それは勿論、素晴らしい事だと思いますが、今回の事は自分中心で考えても良いんじゃありませんか?」
潤が写真から紗夜に目線を戻すと、紗夜は微笑んでいた。
「(後悔がないように…か。)」
潤はそう思うと、腕を組み考え出した。紗夜はその様子を見て、コーヒーに口を付けた。
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紗夜との話を終えて、潤はCiRCLEに出勤していた。
「(紗夜姉さんには本当に感謝しかないなぁ…。今度、何かお礼しないと。)」
と考えながら受付に立っていた。
「(それにしても、後悔がないようにか…。確かにそうだよな。りみに失礼がないようにって考えてるだけじゃダメなんだ。自分中心に考える…か。難しそうだけど考えてみるか…。)」
「…君?」
「(自分中心…。自分中心…。りみと付き合ったらどうなるかな?どんな所に遊びに行くのかな?まぁ、今まで、会ってきたけど、いつも楽しかったから、きっと楽しいんだろうなぁ。)」
「潤君…?」
「(あっ。そうだ。紗夜姉さん、僕が心の何処かでまだ秋帆の事を考えてるって言ってたよね。そんなことないはずだけど…。誰かと付き合うのが申し訳ないって僕が思ってるって秋帆はなんて言うかな?)」
「潤君!!」
「ほぁぁぁああぁあ!」
潤が思考している最中にお客さんが来ていたらしく、目の前で声を掛けられ、驚いていた。慌てて、思考を中断して、来店したお客さんを見た。
「も、申し訳ありま…って、り、り、りりりり、りみ!?」
「潤君?も、もぉ~。何回も呼んでるのに…。ど、どうしたの?まさか、体調でも悪かったりするのかな?」
まさか来店したお客さんがりみだと思わなかった為、潤は再び、驚いていた。
「い、い、いい、いらっしゃいませ!ど、ど、ど、どうしたの?りみ?」
「えっと、今日、ポピパの練習だったんだけど、ベース弾き足りなかったから来たのだけど、…ほ、本当に大丈夫?本当に体調悪い?」
「だ、大丈夫!ご、ごめんね。え、え、えっと。れ、練習時間はどう…しますか?」
「え?うん。90分で…。」
りみが心配そうに言う。潤は1日の予定表を確認する。
「(て、手が震えてよ、よ、読みにくい…。)」
CiRCLEの受付に、紙がバサバサという音が響いた。
「えっと。2号室をお、お使い下さい…。」
「あ、ありがとう…。ま、また後でLINEするね?」
りみは苦笑いしながらスタジオに向かった。
「(はぁ~。な、何これ?りみの姿を見た瞬間から心臓、バクバクなんですけど!え?何?好きって意識したから?)」
潤が顔を真っ赤にして、裏に引っ込んだ。
「(少し落ち着こう…。い、今まで通りで良いんだから…。)」
潤は深呼吸した。
「(よし!落ち着いた!もう大丈夫。)」
しばらくして、潤が再び、受付に戻る。
「あっ!潤君?ちょっと良いかな?」
受付に戻るとりみが笑顔で立っていた。
「(あ…。もうダメかも…。誰か助けて~!)」
潤の心の声がCiRCLEに響いていた。
更新、遅れて申し訳ありませんでした。
実は、利き手の親指、人差し指、中指を負傷していまい、文章が打てませんでした。負傷した原因は完全に僕が悪く、タンスに指を挟んでしまいました。
情けない(;´д⊂)
この間、感想で「逆めぞん一刻」と言った方がおられました。意識はしてなかったですが、「確かにそうだな」って思い、笑ってしまいました。
今後も自分のペースで投稿していきますので、よろしくお願い致します。
気が向いたらで構いませんので、評価&感想もお待ちしています。