「…絶対、変な人って思われた…。」
CiRCLEのバイトが終わり、現在、潤は自室のベッドの上で枕に顔を埋めて落ち込んでいた。あの後も、潤はテンパり続け、支離滅裂な発言を繰り返していた。
「僕って、好きな人の前でこうなってたっけ?」
潤はそう呟き、秋帆に告白した時の事を思い出していた。潤の告白はそれはそれは酷い物で、終始噛み続け、「付き合って下さい」と言った時は某お見合い番組の如く、頭を深々と下げ、手を前に出したという物だった。
「あぁ…。テンパってた…。思い出すと本当に酷いなぁ。」
潤は苦笑いした。そして、好きな人の前ではテンパる。つまり、りみの事が好きっというのもハッキリしてしまった。
「…やっぱり好き…なんだ。でも、付き合いたいのに、なんで行動に移せないのかなぁ。」
独り言を呟きながら潤は「情けないなぁ」とため息をついた。スマホに手を伸ばし、ロックを解除するとLINEが届いてる事に気づいた。
「りみからだ。」
“お疲れ様。
今日、本当に大丈夫だった?
本当に体調不良とかじゃない?”
文面に潤は苦笑いした。
「まさか、りみの事が好きでテンパってたなんて言えないよね?」
そう呟くと、文章を作成した。
“大丈夫だよ。
気にしないで!
心配してくれてありがとうね。”
“だったら良いけど…。
ところで潤君は明日は暇かな?”
“本当に心配してくれてありがとう。
明日は、昼からなら大丈夫だよ。
どうしたの?”
“ちょっと買い物に付き合って欲しくて…。
ダメかな?”
“全然大丈夫だよ!
楽しみにしてるね!”
“ありがとう!
なら、詳しいことはまた明日ね!
おやすみなさい”
潤は最後に「おやすみ」と書かれたスタンプを送る。その直後に「あっ。」と呟いた。
「いやいや!何、普通に約束してるの!?今日、会っただけでテンパってたんだよ?買い物とか無理がある!って、買い物!?デートじゃねぇか!」
潤はベッドから起き上がりクローゼットに向かった。とりあえず、服装だけでもちゃんとしようと1人ファッションショーを始めていた。
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「りみ?ちゃんと潤君誘えた?」
「うん!バッチリ!明日、楽しみだなぁ。」
りみはニコニコしながらチョココロネにかぶりついた。
「チョココロネおいひぃ~。」
「あんまり食べると太るよ?」
「らいじょ~ぶだよ~。チョココロネは別腹だから~!」
りみが幸せに浸っていると、ゆりがやれやれと呆れながらりみを見ていた。
「ところでりみ?この間、出したミッションクリアした?」
「ふぇ?ミッション?」
「忘れたの?膝枕だよ?」
「あっ!…む、無理だよ~。そ、そんなの…。」
りみが顔を赤くして言う。
「あはは~。想像しただけで赤くなるとか…。りみ、可愛い~!」
「お、お姉ちゃん!?」
りみは焦ったように叫んだ。
「ゴメンね~。ところでりみ、明日は何処に行くの?買い物って何?」
「明日は、何処に行くかは決めてないけど、文房具とか色々だよ。」
「そっか。なら、明日はデートだね!2人で何処かに行ったことなかったよね?」
「へ?」
りみはゆりの言葉に固まった。
「で、で、で、デート!?…い、いや、ふ、2人で出掛けたことはある…よ?」
「何処に行ったの?」
「…やまぶきベーカリー…。」
「ぷっ。あははははは!」
りみの発言を聞き、ゆりは腹を抱えて笑った。
「お、お姉ちゃん!?うぅ…。ぜ、全然気にしてなかったのに…。き、緊張してきたよ~。」
りみは顔を押さえながら赤くした。
「りみ!頑張ってね!」
ゆりはニコニコしながらギターを持ち、練習を始めた。
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CiRCLEのスタジオでは様々なバンドが練習している。しかし、これ程まで真剣に練習をしているグループがあるだろうか。集中力はピークに達しており、誰も声を掛けれない雰囲気を醸し出していた。そして、名残惜しいように最後のフレーズを弾き終わる。
「お疲れ様。皆、最後は良かったわ。これを忘れないようにしましょう。」
Roseliaのボーカルであり、リーダーである友希那が言うと、ピンと張り詰めた空気は安堵に変わった。
「りんり~ん。疲れたよ~。」
バンドの中で特に体力を使うドラムの宇田川あこは前に伏せながらいった。
「あこちゃん。…お疲れ様。」
とキーボードの電源を落としながら白金燐子は言った。
「あこ~☆お疲れ様~。」
「宇田川さん。もっと体力をつけて頂かないと困ります。だいたい、貴女は…」
紗夜の説教が始まるはずだったが、紗夜は止めてしまった。
「氷川さん?…どう…しましたか?」
「あっ。ごめんなさい。電話がかかってきてまして…。ちょっと失礼します。」
紗夜がスマホを操作する。ディスプレイには「一宮潤」と表示してあった。あこは「助かったー!」とホッとした表情をした。
「もしもし。どうしましたか?潤さん?」
「紗夜姉さんのせいで…。紗夜姉さんのせいで!」
「潤さん、落ち着いて下さい。何がありましたか?」
紗夜が電話に出ると随分と、取り乱した潤がいた。
「落ち着いてますよ!…紗夜姉さんのせいだ…。紗夜姉さんが僕がりみの事好きとか言うから…。」
「それは貴方だって認めたじゃないですか。それに話が見えません。確かに、牛込さんの事好きなのではないかと言いましたが、その事が何故、私のせいになるのですか?」
「うぅ…。だ、だって…。紗夜姉さんに気付かされて、りみと会うとめちゃくちゃ意識しちゃって…。会話にもならなくなっちゃったんだもん…。」
潤の言葉に紗夜は「はぁ~。」とため息をついた。
「それって、私はとんだとばっちりじゃないですか。」
「うぅ…。わ、分かってますよ!でも…。」
「…でも?」
「あ、明日、で、で、デートの約束しちゃったんです…。つい、今までのノリで…。着ていく服も決まらなくて!」
と潤は叫んだ。あまりの声の大きさに紗夜は思わず、スマホを耳から離した。
「そんなこと…言われても…。」
紗夜が呆れたように言うと、背中をチョンチョンと突かれた。紗夜がびっくりしながら後ろを向くとリサが笑顔で手を出していた。
「変わって!聞こえたから☆」
紗夜は素直にスマホを渡した。自分の力だけではどうしようも無いと思ったからだ。
「もしも~し!リサだよ~!紗夜のスマホから声が漏れて聞こえちゃったんだけど、服で悩んでるみたいだね~?」
「い、今井さん?こ、こんばんは!え?は、はい。何着ていいか分からなくなっちゃって…。」
「なるほど~。お姉さんにまっかせなさい!てことで、今から家に行くからね!」
「え?ちょっと?今井さ…」
潤が何か言おうとしたがリサは電話を切ってしまった。
「てなわけで、紗夜!案内よろしく~!」
リサが笑顔で言うと紗夜は「はぁ~。」とため息をつき、
「分かりました。」
と静かに言った。
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まだまだ夏、真っ盛りの午後2時。集合場所である、やまぶきベーカリー近くの入り口、以前にりみと集合した場所に潤は立っていた。あの時みたく、少し早く来た潤は額に汗を滲ませていた。
「き、緊張するなぁ…。服装、変じゃないかな?」
昨晩、突然来たリサと紗夜に着せ替え人形の如く服を取っかえ引っかえされ、現在の格好に落ち着いた。上は赤チェックのシャツ。下は黒のハーフパンツに白のサンダル。そして被らないまま眠っていた、黒の麦わら帽子といった具合だ。
「今井さんが自信満々に大丈夫って言ったから、大丈夫…だよね?」
そっと、呟くと、時計を確認した。時刻は2時5分。集合時間は2時15分。潤が改めて頭の中で確認すると、遠くから歩いてくるりみを発見した。潤が軽く手を挙げると、りみはひょこひょこと走って近づいた。
「潤君こんにちは!待たせてゴメンね。今日はよろしくね!」
「こんにちは。前も言ったけど、勝手に早く来てるだけだから、気にしないで。ところで今日は何処に行くの?」
潤は笑顔で言った。「(よし!普通に喋れてる)」と心の中でガッツポーズをしたが、心臓はあり得ないくらい早いテンポで動いていた。
「とりあえず、ショッピングモールに行きませんか?暑いですし、あそこなら欲しいもの…あっ。文房具とかですけど、ありますし、それに…。い、一緒に洋服とか、み、みたいなぁって。」
りみは手をモジモジさせながら言った。
「そんなことなら全然大丈夫だよ!なら、行こっか?」
「うん!」
りみは笑顔で言うと、潤の手を握った。
「(わ、忘れてた…。手を繋ぐんだった…。心臓の音、聞こえないよね。)」
潤がチラッとりみを見る。りみは満足そうな表情をしていた為、バレてないとホッとした。
「その麦わら帽子、可愛いね。」
潤が心臓の音を隠すために、りみに言った。
「えへへ~。お気に入りなんだ~。そういえば潤君も今日は帽子なんだね!」
「う、うん。かなり前に買って、あまり被ってなかったから…。似合うかな?」
「うん!似合ってるよ。そ、それに…。お、お揃い…だね。」
「う、うん?そ、そ、そうだね!」
お互い照れて顔が真っ赤になった。そんな2人を物陰から見ている人物がいた。
「良いねぇ~☆初々しくて!」
「今井さん。尾行なんて真似止めましょうよ!」
「紗夜~?これは尾行じゃなくて見守ってるだけだよ~?紗夜だって気になってるくせに~?」
「わ、私はただ、ふ、風紀委員として、風紀が乱れてないか、確認する為に…。」
「ハイハイ。分かったから!あっ!角曲がった!紗夜早く~!」
潤とりみはそんな事になっているとはつゆ知らず、ゆっくりと歩いていた。
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ショッピングモールに到着した潤とりみは現在、りみが好きだと言う、ブティックに来ていた。
「あっ!これ可愛い!これも良いなぁ~…。」
「(全部似合うなぁ~。)」
りみは早速、女の子パワーを発揮し、次々と服を取っては姿鏡の前で合わせていた。潤はその様子を見ていた。可愛いなぁと思いつつ、「(りみって、なんかリスみたい?)」と場違いな事を考えていた。
「うぅ…。見るだけのつもりだったのに…。欲しくなっちゃっうよ~。あっ!潤君、ゴメンね。私だけ見ちゃって…。」
「大丈夫だよ?いっぱい見ちゃって、悩む気持ちよく分かるから。」
潤がそう言うと、りみは「じゃぁ…。」と言い、再び、服を漁りだした。潤もりみの後を着いて行き、服を眺めていた。そして、1着の服に目が止まった。潤がその服を手に取るとりみが声をかけた。
「潤君、どうしたの?」
「え?いや。赤チェックだなぁって思って。」
「潤君って赤色のチェック柄、好きなの?」
「うん。元々、赤が好きでね。チェックは合わせやすいから好きなんだよ。だから、りみがくれた誕生日プレゼントのマグカップを見て驚いたよ。僕の好きな柄だったから。」
潤が微笑みながら言うと、りみは手をバタバタと前で降った。
「そ、そんなのたまたまだよ~!ぐ、偶然だよ~!」
「偶然でも、嬉しかったよ!」
「そ、そっか。な、なら良かった。…潤君、その服貸して?」
潤は手に持っていた、赤チェックのロングシャツをりみに渡した。りみは受け取るとタグを見たり、値札を見たり、再び姿鏡に合わせてみたりしていた。
「うん。いいかも。潤君、これ買って来るね。」
「へ?」
潤が惚けた返事をする間に、りみはレジに行き、あれよあれよという間に会計を終えてしまった。りみがニコニコしながら戻ってくると「買っちゃった~。」と言った。
「よ、良かったの?」
「うん!気に入っちゃったし、それに…。潤が好きな物…着たいなぁって…。」
「…て、照れるじゃん…。」
潤は顔を赤くして言った。
「潤君、照れてる~!」
「そ、そりゃ、て、照れる…よ?も、もう!つ、次行くよ?」
潤はりみの手を取り、歩き出した。手を引っ張られているりみはとてもご機嫌だった。一方、影から尾行もとい、見守ってる2人は
「りみやるなぁ~!私もりみにコーディネートしたかったなぁ~☆」
「貴女、前に私をコーディネートしたばかりじゃないですか!」
と話していた。
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「今日は、本当にありがとう。」
「いえいえ。こちらこそ。楽しかったよ。」
りみが服を買ってから、2人はりみの本来の目的だった文房具を買ったり、潤の服を見たり、喫茶店でお茶をしたりと、のんびりと過ごした。ちなみに、喫茶店では「今日こそ、私に払わせて!」とりみが伝票を確保していた為、潤は大人しくご馳走になっていた。
「う~ん。遊んだ~!」
とりみが背筋を伸ばしながら言った。
「そういえばりみ?ポピパはどう?ライブは大丈夫そう?」
潤は日にちが迫ってきているガールズバンドパーティーについて聞いた。
「うん!皆、張り切ってるよ。練習も良い感じだよ~!」
「本番、聞けたら良いなぁ~。」
「え?潤君、聞いてくれないの?」
「ゴメンね。僕は受付だからね。防音がしっかりしてるから受付に居たら聞こえないんだよね。」
潤がそう言うと、りみはがっかりした様子で
「そっか。お仕事だからしょうがないよね。」
と言った。
「本当にゴメン。」
「だ、大丈夫だよ!これからもライブすると思うし…。いつか絶対聞いてね!」
「もちろん。楽しみにしてるよ。」
「と、ところで潤君…。こ、こ、こ、告白の返事はまだ考え中かな?」
「…ご、ゴメンね。まだ答え出せなくて…。ずっと考えているのだけど…。」
「う、ううん。急かすような事してゴメンね…。潤君が真剣に考えてくれているのは分かってるし…。嬉しい…から…。」
「嬉しい?」
「う、うん。悩んでるって伝わってくるよ?悩ますような事言って、申し訳ないって思うくらいに…。だ、だから、そこまで真剣に考えてくれて、例え、わ、私がフラれちゃっても、しょうがないかなぁって…。私なんかの事を一生懸命、考えてくれて…ありがとう…。」
「りみ…。な、なるべく早く返事言うから。本当にゴメン。」
潤は、本当なら今すぐにでも「好き」と返したかったが、何かが邪魔をし、言葉を引っ込めさせた。好きという二文字を誰かが押さえつけ、出させないようにしている感覚に襲われ、潤は心の中で「(クソっ…。)」と思い、下を向いた。
「大丈夫だから!そ、そんな悲しそうな顔、しないで欲しいな?」
りみが潤の前に立ち、両手を握って言った。潤はりみを見ると視界に遭ってはならないものがあった。潤はそれを確認するとりみを思いっきり押した。繋いでいた手は離れ「キャ!」と言いながらりみは後方に倒れた。潤はりみの倒れた位置を確認して、安心して目を瞑った。その瞬間、車が物凄い音を立てながら、猛スピードで突っ込んできた。
次のバンドリのイベント。楽しみ過ぎる。仕事、サボって15時からプレイしたい…。