「キャ!」
りみが後方に倒れるやいなや、物凄く大きな音が町に響いた。前を見ると、車が突っ込んできた事に気づいた。
「び、ビックリした…。じ、潤君が押してくれなかったら危なかった~。…って、潤君は?…う、嘘…。」
りみは目に涙を溜ながら言った。
「じ、潤…君…。潤君!へ、返事して!」
りみは泣きながら叫ぶも、潤の返事はなく、りみの言葉が響くだけであった。あまりの出来事にりみは動けずにいた。
「牛込さん!大丈夫ですか!?」
「りみ!?平気!?」
いきなり自分の名前を呼ばれ、りみは振り向くと、紗夜とリサが走って近づいていた。
「紗夜さん!リサさん!じ、潤君が…。潤君が…!」
目から大粒の涙を流しながら、りみの側まで来た紗夜とリサに抱きついた。
「今井さん。牛込さんを任しました。私は潤さんと運転手さんの安否を確認します。あと、救急車を呼んで下さい!」
「わ、分かった!」
紗夜は指示を出すと、駆けだして行った。
「潤君…。」
「りみ!大丈夫!今から救急車呼ぶから!」
リサはりみに向かって叫ぶと、スマホを操作し出した。
「大丈夫ですか!?」
紗夜は運転席に向かうと、ドライバーに声をかけた。
「…うぅ…。」
ドライバーは顔を顰めて、紗夜の言葉に辛うじて反応した。
「今、救急車を呼んだので、そのまま待って下さい!すぐに助けが来ますから!」
ドライバーに声をかけ、紗夜は周りをキョロキョロと見た。しかし、潤はどこにもいなかった。
「潤さん…。」
紗夜は唇を噛み締めながら呟いた。最悪の状況を考え、車の下や前を確認するが、潤の姿は見えなかった。
「…本当にどこにいるの?」
紗夜はなかなか潤が見つからず焦っていた。すると、車の反対側が騒がしい事に気づいた。慌てて、反対側に回ると、そこには人集りが出来ており、その真ん中に潤が倒れていた。
「潤さん!」
紗夜が叫び、慌てて駆け寄る。
「潤さん!潤さん!返事して!」
しかし、潤からは返事が無く、目を瞑ったままだった。
「じ、潤君!」
紗夜の声を聞き、りみが急いで来ていた。目からは絶えず涙を流していた。
遠くから救急車のサイレンが鳴り響いていた。
「潤君!返事して!お願いだから…。」
「潤さん!牛込さんに貴方が苦しんだ経験と同じ事をするつもりですか!?それが嫌なら目を覚まして!」
悲痛な叫びも潤には届かず、潤の表情は変わらなかった。紗夜の目にも涙が浮かんでいた。
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潤は河原に座っていた。ポカポカした陽気で昼寝でもしたらよく寝れそうな気候だった。
「あれ?ここは何処だ?確か、車に轢かれて…。」
潤は記憶を思い返していた。
「あぁ。そっか。ここは三途の川…。死んじゃったか…。いつも日菜姉さんに締め上げられた時に来るけどあの時は濁流なのに…。めっちゃ穏やかだなぁ。」
川の流れを見ながら潤は思った。
「りみは無事かなぁ?まぁ、あれだけ突き飛ばしたなら大丈夫かな?」
「何、呑気な事言ってるの?」
独り言をブツブツ言っていた潤。誰もいないと思っていたので、いきなり声をかけられ驚いていた。慌てて後ろを振り向くとよく知っている人物が立っていた。
「…秋帆?」
「久しぶりだね。潤。」
秋帆は微笑みながら言った。
「あぁ、秋帆がいるってことは、僕はやっぱり死んじゃったんだ。」
「…まぁ、それは置いといて、随分と落ち着いてるじゃない?」
「う~ん。実感がわいてないからかな?」
潤は苦笑いしながら言った。
「ふ~ん。まぁ、話があるから横、失礼するね。」
秋帆はそう言うと潤の横に腰掛けた。
「話って?」
秋帆が座るのを確認してから潤は言った。
「うん。えっとね。…まず、ごめんね?」
「…なんで謝るの?」
「潤、凄く…苦しんでたじゃない?」
「え?見てたの?」
「うん。ずっと見てた。本当に苦しんでる貴方を見て、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった…。だから…ごめんね。」
秋帆は俯きながら言った。
「…そっか。ずっと見てたんだ…。恥ずかしいとこ見せちゃったなぁ。」
「怒ってないの?」
「秋帆に怒ってないよ。でも、秋帆を救えなかった自分に怒ってたよ。」
「…そっか。私は潤を救えて満足だったけどね?」
秋帆がそう言うと会話が途切れ、川のせせらぎだけが静かに響いていた。
「りみちゃん…だっけ?」
「うん?」
「好きなの?」
「…うん。」
「…そっか。」
「うん。」
「…なんで告白に返事しないの?」
「…そこも見てたんだ。」
潤が苦笑いする。
「バッチリ見てたよ。潤の煮え切らない態度にイライラしてた。」
「…ここで説教は止めてよ?返事をしない理由だけど、しないんじゃ無くて出来ないの方が正しいかな?結局、返事は出来なくなっちゃったけど…。りみには申し訳ないことしちゃったなぁ…。そういえば、結局、なんで返事が出来ないか分からなかったなぁ~。」
「本当に分からないの?」
「え?秋帆分かるの?」
潤はビックリしながら秋帆見ると、秋帆は呆れた表情で潤を見ていた。
「はぁ~。バカなところは本当に変わらないんだから…。あのね。ずっと見てたから分かるけど、潤は、私みたいに誰かを失う事に恐れているの!そして、紗夜姉さんが言ってた通り、誰かと付き合う事に対して私に申し訳ないって思っているの!じゃなきゃ、私の写真を自分の部屋やリビングに飾らないよ!それに、自分でも中途半端な気持ちじゃぁ、りみちゃんと付き合えないって言ったよね?その中途半端は私に対しての気持ちでしょ?分かってるのに、分からないようにしてるだけじゃん!」
秋帆が叫び、潤に詰め寄る。潤の表情は引き攣っていた。
「あ、秋帆、お、落ち着いて。」
「は?落ち着けると思う?ずっと煮え切らない態度で私をイライラさせて!てか、そんなずっと死んだ私の事を引きずって私が喜ぶとでも思ってたの?…バカじゃない?」
秋帆はずっと叫びながら怒っていた為、息を切らしていた。
「…別に、引きずっていたつもりは無かったよ。でも、秋帆が言うとおり、まだ秋帆の事を引きずっていたのかもね。中途半端な気持ちとか言ってる時点で気付かなきゃいけないのにね…。って言うよりは気付かないように知らず知らずのうちにしていただけなのかな?」
潤は遠くを見ながら言った。
「ふぅ~。やっと分かりましたか。本当に手がかかるんだから。でも、潤が私の事、大切に思ってくれてるのは嬉しかったよ。」
「もちろん、今でも大切だよ。それはいくら年月が経とうと、いくら好きな人が出来ても変わらないよ。秋帆の手紙に、人を好きになることの大切さを教えて貰ったって書いてあったけど、それは僕も同じだから。大切な事、秋帆から沢山、教えて貰ったから。」
「…そっか。ありがとう。…りみちゃんも私と同じように大切にしてね?潤君は絶対にりみちゃんを幸せに出来るから。私が保証する。てか、りみちゃん以上に潤の事を思ってくれる人は絶対にいないよ。」
秋帆はさっきの怒りは何処へやら、満面の笑みで言った。
「秋帆?今更言われても。僕は死んじゃったんだから幸せになんて…。」
「あぁ…。その事なんだけど…。」
「何?」
「潤、死んでないよ?」
「は?」
「だから、死んでないよ?」
秋帆が苦笑いしながら言う。
「え?じゃあ、ここは何処なの?」
「私が聞きたいよ。いきなり見たことない風景の場所に来たと思ったら、潤がいたんだもん。…でも、会えて嬉しかった。本当に…さ、最後…かも…ね。」
「…秋帆。」
涙を流しながら言う秋帆を潤は優しく抱きしめた。
「これからも見守ってね?」
「もちろん。変な事したら呪ってやるんだから!」
「怖っ!…でも、本当にありがとう。秋帆を好きになって良かったよ。」
「私もだよ…。じゃあね。潤。大好きだったよ!」
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秋帆の最後の言葉を聞いた直後に潤は目を覚ました。見慣れない天井に一瞬、混乱したが直ぐに病院だと気づいた。どうやら窓際の病室らしく、窓から光りが刺していて、潤は顔を顰めた。
「…どれくらい気を失ってたんだろ…。」
潤は呟くと体を起こした。そしてすぐに疑問に思った。
「あれ?車に轢かれたんだよね?体、何処も痛くない?なんで?」
潤が首を傾げていると、病室を区切っているカーテンが開いた。
「…潤君!」
手に花を持っていたりみが起きている潤を見つけて叫んだ。目は泣き腫らしていたが、再び、涙が溢れ出ていた。
「りみ。おはよ。」
潤が呑気に挨拶をすると、りみが抱きついてきた。それを潤が受け止めた。
「良かったよ~。目が覚めて良かったよ~。」
「りみ…。ごめん。」
「本当だよ!心配したんだから!」
りみが泣き叫びながら言うと、紗夜と日菜、そして、潤の母親である麻里が入ってきた。
「やっと目が覚めましたか。ちなみにですが、今は事故があった翌日の朝です。」
紗夜が静かに言った。何故か目線が冷たい。
「本当に潤君は人騒がせなんだから!潤君が事故にあったって聞いた時は気が気でなかったのに!」
日菜も何故か言葉に棘があった。
「紗夜姉さんに、日菜姉さん?なんでそんなに怒ってるの?」
潤は状況を掴めず、困惑していた。
「潤?痛いところとか、体に変わったところはある?」
麻里が柔やかに言う。
「え?そういえば、起きた時に思ったけど、何処も痛くも痒くもないんだよね。車に轢かれたんだよね?」
潤が首を傾げて言うと、紗夜と日菜はため息を、麻里はあははと笑い、りみはまだ目に涙を溜めて苦笑いしていた。
「あれ?何かおかしな事言ったかな?」
「潤さん。貴方は車に轢かれてないのです。」
「車に轢かれたって思い込んで、気を失ってただけだよ。るんってしないなぁ。」
「X線も、CTも、MRIも、おまけに採血の結果も全く問題なし!潤は超健康体だよ。」
「…マジ?」
潤は自分の置かれている状況を聞き、恥ずかしくなり、顔を赤くした。
「でも、本当に目覚めて良かった…。私、心配で…。」
りみがなおも抱きつきながら言う。
「本当に…ごめんなさい。」
潤がボソッと言うと、病室は改めて安心した空気が流れた。
「と、ところでりみ?は、は、恥ずかしいから離れて欲しい…。み、みんないるから…。」
「嫌…。」
ずっと抱きついているりみを説得するも、さらに強く抱きしめられた。
「紗夜ちゃん、日菜ちゃん?お2人の邪魔をしたら悪いから、帰ろっか?」
麻里が言うと紗夜と日菜は頷いた。
「潤君!お幸せに!」
「潤さん、目が覚めしだい退院なので、牛込さんと帰って下さいね。では。」
それぞれ言い、本当に帰ってしまった。
「ま、マジか…。」
潤はポツリと呟くと、いまだに抱きついてるりみの頭を撫でた。
「りみ、本当にごめんね。」
「…一晩中凄く恐かった。検査結果を聞いて何もないって分かってたけど、目が覚めるまで本当に心配だったんだからね…。」
「…ごめん。」
「こうゆう時はごめんより言って欲しい言葉があるかな?」
りみが顔を上げると、ニヤリと笑って言った。
「…あはは。一本取られたね…。ありがとう。」
「いえいえ。潤君、もうちょっと頭撫でて…ほ、欲しいなぁ。」
話している最中に、撫でるのを止めた潤にりみは言った。ここぞとばかりに甘えてくるりみに潤は微笑みながら頭を撫でた。
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その後、看護師からの説明を受け、無事に退院となった。ちなみに、病室に看護師が入って来た時はりみも流石にサッと潤から離れた。そして今は受け付けで、退院の手続きをしている最中である。
「そういえば、潤君?今日、バイトは?」
「流石に休んだよ?それにね…。」
潤はスマホを操作し、LINEを開くとりみに見せた。LINEの相手はまりなだった。
“紗夜ちゃんから聞いたよ!言わなくても分かるだろうけど、バイト3日間、休みとします。拒否したら私が潤君を車で轢くから。”
と書いてあった。文面を見てりみは苦笑いをした。
「3日間、休みなんだね。」
「だね。まぁ、ゆっくりするよ。」
潤がそう言うとりみは
「あ、当たり前だよ~!」
と言った。
「一宮さん。一宮潤さん!」
潤とりみが談笑していると、名前が呼ばれ、無事に退院となった。そして、病院の外に出た瞬間、りみが潤の手をとった。
「あれ?ドキドキ…してないの?」
「え?」
「昨日、会った時、手を繋いだら潤君の心臓の音、凄かったから…。」
「聞こえてたんだ。あの時は余裕がなかったから…。」
潤が苦笑いしていると、りみは首を傾げた。
「余裕?」
「うん。まぁ、後で話すよ…。ところで、僕が寝ている時、どんな表情をしてた?」
「表情?うん。いっぱい変わってた。苦しそうになったり、穏やかになったり、困ったようになったり…。変な夢でも見てたの?」
「夢か…。やっぱり夢…だったのかな?」
潤が苦笑いしながら言った。
「へ?」
「ううん。こっちの事だよ。…ところでりみ?今から1件だけ寄り道して良いかな?」
「良いよ?何処に行くの?」
「えっとね。秋帆のお墓…だよ。」
少し、短めです…。申し訳ありません。
りみの☆4来い!
お願いだから!
神様~!