旅行当日、潤は頭を抱えていた。隣の部屋からはりみの鼻歌とシャワーの音が流れていた。
「…どうしてこうなった。」
潤は、ここに至るまでの経緯を思い出していた。
2人は学校が終わってすぐ、羽田空港に向かった。そして、時間通りに飛行機に乗り、無事に広島に20時半に到着した。その時間から宮島に向かっても、島に渡るための船が無い為、広島市で1泊することになっていた。
「りみ?何食べたい?」
「う~ん。やっぱりお好み焼きかな?」
りみは旅行雑誌を捲りながら答えた。
「了解!確か、駅の中にお好み焼き屋さんがあったはずだから行ってみよ?」
潤はりみの手を引いて、駅ビルの中の飲食店が集まる場所まで地図を頼りに向かった。そして、探す間もなく見つかり、そこで2人で舌鼓を打った。
「そこまでは良かったんだよ…。そこからが問題で…。」
お腹一杯になった2人は予約していたホテルに向かった。そして、受け付けで名前と住所、そして電話番号を記入した時だった。
「はい!予約されていた一宮様ですね。こちら鍵となっています。」
ニコニコしながら鍵を渡す受付嬢。その手には鍵が1つだけ握られていた。
「え?1部屋?」
「はい。そう予約されてますが…。」
「ま、マジか…。」
潤は母親である麻里を思い浮かべ、ため息をついた。このホテルは麻里が予約したもので、潤はノータッチだった。潤は鍵を預かり、りみの元に向かった。りみはロビーのソファーに座り、無事に着いたことをPoppin`Partyのメンバーや家族に伝えていた。
「はい。りみ。鍵だよ。」
「ありがとう。じゃあ、部屋に行こう?」
「それなんだけど…。」
潤は自分の頭を掻きながら部屋が別々では無いことを説明した。
「だから、僕は別のホテルを探す「嫌!」ね?…え?」
潤の発言を遮り、りみは叫んだ。
「せっかくの旅行なのに嫌や…。」
りみは潤の返事を聞く前に、手を引っ張り、部屋に向かった。
「本当にどうしよ!僕の理性持ってくれ!」
長い回想が終わった潤はベットの上に転がった。ちなみに、部屋はツインではなくダブルであり、今晩は潤とりみは一緒の布団で寝ないといけない。その事も思い出し、潤は再び、頭を抱えた。
「はぁ~。いい湯だなぁ~。」
旅の疲れを癒やすようにりみはう~んと伸びをした。
「(潤くんと一緒に寝るの初めてだなぁ…。…うぅ…。緊張してきちゃったよ~。)」
お風呂の中は静寂そのもので、心臓の音がハッキリと聞こえていた。
「(は、早く出よう!これ以上、考えちゃうとは、恥ずかしくなって出れなくなっちゃう!)」
りみはそう考えると勢いよく湯船から出た。
「じゅ、潤くん?お先でした…。」
それから体を拭き、備え付けの浴衣を着てりみはお風呂から出て、声をかけた。しかし、潤からは返事が無かった。
「潤くん?」
再び声をかけ、潤を見ると、潤はスヤスヤと寝ていた。
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「凄い!風が気持ちいい~!」
翌朝、本来の目的地である宮島に向かう為、フェリーに乗り込んでいた。紅葉の季節の割りには日差しが出ており、ポカポカとしていた為、潤とりみはフェリーのデッキから外を見ていた。
「良い天気で良かったね。コートいらなかったかな?」
潤は脇に抱えた黒のコートを見て言った。
「朝晩は冷えるからあった方が良いよ!…あっ!鳥居だ!本当に海に浮かんでるみたい!」
宮島と言えばこれと言われるくらい有名な朱色の大鳥居を見つけてりみは叫んだ。
「今は満潮…か。干潮になったら歩いて鳥居まで行けるから後から行ってみる?」
「うん!」
そんな話をしているとあっという間に宮島に上陸した。
「宮島って通称で、正式名称は厳島って言うんだよ。」
「そうなんだ。でも、なんで宮島って名前の方が有名なの?」
「観光マップとかには通称の宮島って名前の方がよく使われるからかな?」
フェリーから降り、桟橋を渡りながら潤は、勉強そっちのけで調べた宮島に関するうんちくを披露した。
フェリー乗り場から外に出ると、広い広場がある。団体の観光客はまずここに集まり、説明を聞く事が多い。
「あっ!鹿さんがいる。」
りみが言いながらスマホのシャッターを切った。宮島には野生の鹿がいて、人間の住宅地まで降りて来ている。ちなみにこの鹿、人間にかなり慣れており、簡単に触れてしまう。「可愛い」と食べ物を持って近づくと襲われてしまうので注意が必要だ。
「えっと、じいちゃんは…。」
潤は待ち合わせていた自分の祖父を探した。
「潤くんのおじいさんいた?」
近くにいた鹿を撫でながらりみが言った。
「ううん。電話してみる…。ん?」
「どうしたの?」
「いや。LINEが来てた。」
潤はスマホを開いてLINEを確認した。
“宮島グランドホテルに来て。”
潤の祖父からのLINEには一言だけ書いてあった。
「グランドホテル?」
りみも潤のスマホをのぞき込んだ。
「…マジか。」
「潤くん?」
「高級ホテルだよ。」
何故、高級ホテルに呼ばれたのか…。潤とりみは首を捻った。
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フェリー乗り場から歩いて10分。目的地であるホテルに2人は到着した。
「着いたよ。」
「え?ここ!?めっちゃ大きい!」
りみは上を見上げた。
「宮島だったら1番大きいんじゃないかな?結婚式とかも出来るみたいだから。」
「け、結婚!」
うぅ…。と呟きながらりみは顔に手を当てた。
「り、りみさん?ちょっと気が早いよ?まぁ、中に入ろうか。」
恥ずかしがってるりみに苦笑いしながら潤はりみの手をとった。
「いらっしゃいませ!」
中に入ると、立派な着物を着た女性が2人を出迎えた。
「あの…。ここで、待ち合わせしているんですが…。」
「あぁ!ひょっとして潤君?まぁ、大きくなって!」
「えっと…?」
「ごめんなさいね。私ったらつい。グランドホテルによう起こし頂きました。おじいさんよね?」
「はい。」
潤が頷くと、2人はラウンジに通された。そして、そこに1人で座る男性がいた。
「おぉ~!潤!よう来たな。」
「じいちゃん。久しぶり。話てたけど、こちらが僕の彼女だよ。」
「う、牛込りみと言います。こ、こんにちは。」
「潤にはもったないくらいのべっぴんさんや。長旅、えらかったやろ?ゆっくり楽しんで。」
「え、偉い?」
「あぁ、広島の方は疲れたって事をえらいとかえらかったとか言うんだよ。…ところでじいちゃん。ホテルに呼びだしてどうしたの?」
「おう。お2人さん、ここに泊まりんさい。」
潤の祖父は部屋の鍵を持ち、潤の方に向けて言った。突然の事に2人は固まった。
「はい?じいちゃん。とうとう呆けた?」
「わしはまだボケちょらん!始めはわしの家に泊まってもらうつもりじゃったんだが、布団が古くて、とてもじゃないが使える状態じゃあ無かったんよ。じゃから、ここに泊まりんさい。」
「いやいや。こんな高級ホテル高校生の僕達じゃあ無理だよ。」
「金なら心配すんな。潤もりみちゃんも2人きりの方が楽しいじゃろ?」
ニコッと笑いながら言う潤の祖父に2人は顔を見合わせた。
「潤くん?どうするの?」
「う~ん。お言葉に甘えよっか?じいちゃん。ありがとう。」
「あ、ありがとうございます。」
2人が頭を下げると、潤の祖父は再びニコッと笑い鍵を潤に手渡した。
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2人は泊まる部屋に、荷物を置いて、早速外に出ていた。ちなみに、部屋に入った時、あまりの広さに2人は唖然とした。
「また後で、潤くんのおじいさんにお礼言わなきゃだね。」
「そうだね。手土産買って来てるし、後で持って行こうね。」
2人は話ながら商店街を歩いていた。宮島の商店街は名物である牡蠣や穴子を使った飲食店や紅葉饅頭のお店やお土産物屋さんなどで賑わっていた。
「ちょっと早いけど、ご飯にしよっか?早めにお店に入らないと混んじゃうし。」
「うん。私は大丈夫だよ。」
「りみは何が食べたい?」
「う~ん。悩んじゃうけど、やっぱり牡蠣かな?」
りみが旅行雑誌を開きながら言った。
「ん。了解。丁度目の前にあるから行こうか。」
潤が指をさすと、店頭で牡蠣を焼いているお店があった。
「うん!行こっ!」
2人は手を繋いで、お店に入った。
「めっちゃおいしぃ~!」
それから数十分、りみの前には焼き牡蠣の殻が沢山広がっていた。さらには牡蠣丼も食べている状況だった。
「前から思ってたんだけど、りみってよく食べるよね?しかも美味しそうに。」
幸せそうに食べるりみを見ながら潤は言った。
「だって美味しいんだもん。」
また新たに運ばれてきた牡蠣を開けながらりみは言った。
「それだけ喜んでくれたら連れて来た甲斐があるよ。」
「麻里さんと潤くんのおじいさんのお陰だよ~。そうだ。潤くん?この後は何処に行くの?」
「うん。とりあえず、厳島神社に行こうか。」
「鳥居のとこだよね?」
「そうだね。その後はいよいよ紅葉かな?水族館はまた明日行こう?」
「うん!めっちゃ楽しみやぁ~。」
ニコッと笑うりみを見ながら潤は別の事を考えていた。
「(今日も夜、2人きり?頑張れ、僕の理性…。)」
まだ太陽も高い時間帯だが、潤はドキドキしながら牡蠣丼を食べていた。
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牡蠣を堪能した2人は商店街のお店を見ながら厳島神社に向かっていた。巨大なしゃもじ(宮島は木のしゃもじの生産が日本一。)を見て、ビックリしたり、お土産屋さんに飾ってあった「ぶち好きじゃけぇ!広島!」と書かれたTシャツを見て笑ったりと仲良く歩いていた。
「そういえば、厳島神社ってそんなに古い神社なの?」
りみは首を傾げながら言った。
「だね。いつくらいに建てられたかまでは知らないけど、古いはずだよ?平安時代とか?」
「ちょっと調べてみるね。」
りみはポケットからスマホを取り出し、いじり始めた。すると、軽快に動いていた指が止まり、プルプルと震え出していた。
「り、りみ?どうしたの?」
「じゅ、潤くん…。これ…。」
りみがスマホを潤に向けるとそこには「宮島はカップルで行くと別れる?」と書いてあった。
「あぁ~。知っちゃったかぁ…。」
「潤くん!知ってたの!?ま、まさか、私と別れたくて宮島に来たの?」
目をウルウルとさせ、りみは潤に問い詰めた。
「ち、違うよ!う~ん。りみは迷信とか信じちゃう?」
「な、内容によるけど…。」
「まっ、あくまで迷信だよ。厳島神社は女性の神様だから嫉妬して別れさせちゃうって話だけど、矛盾してるんだよね。」
「む、矛盾?」
「うん。ホテルの前でも言ったよね?結婚式ができるって。あの結婚式って、厳島神社でするんだよ。しかも、キャンセル待ちになるくらい大人気。」
「そ、そうなの?」
「うん。ね?矛盾してない?」
「た、確かに…。」
りみは納得しながら言った。
「それに…。そんな事で僕とりみが別れると思う?」
「ううん。ご、ごめんね。取り乱しちゃって…。」
「大丈夫だよ。もうちょっとで着くから行こう?」
潤がそう言って、目線を前にすると、赤い鳥居が2人を出迎えていた。りみも赤い鳥居の姿を確認すると、サイトからカメラに切り替えて、写真を撮っていた。2人は鳥居と海を右手に緩やかに曲がった道を進むと、目的地である厳島神社に到着した。
「写真で見るよりも大きいね!本当に海の上に建ってるんだね。」
りみは興奮したように言った。
「そうだよ。何回か台風で流されたこともあったみたいだよ。」
潤が言うとりみは「へぇ~。」と関心した様子で言った。
「(予習しといて良かった~。)」
と潤は思っていた。
「あれ?なんか人が集まってる?」
「行ってみようか?」
2人は人が集まっている所に向かうと、さっきまて話していた結婚式がまさに執り行われていた。
「こ、こんな見えるところで結婚式するの!?」
りみは驚きながら言った。
「みたいだね。僕も初めて見たよ。」
「わ、私なら、恥ずかしくて無理やぁ~。でも、めっちゃ綺麗だね。」
「りみは結婚式は和服が良いの?」
「どっちもかな?両方着たい!」
りみが笑顔で言うと、潤はウェディングドレスを着たりみを想像していた。
「(絶対、綺麗だろうな…。)」
「潤くん?」
「う、ううん。なんでもないよ。じゃあ行こっか?」
2人はお参りをしながら厳島神社を歩いた。厳かな雰囲気の中で、潮の香りを感じながら潤は
「(宮島の神様。りみといつまでも仲良く過ごさせて下さい。)」
と思っていた。大事な人を1度失い、また新たに出来た守りたい存在になったりみを見ながら2人は厳島神社を出た。考え事をしていた為、潤は無言だったが、りみも厳島神社を出るまで無言だったので、気になり、
「りみ?大丈夫?無言だったけど、疲れた?」
と言った。
「なんか雰囲気のせいかな?喋ったらいけないような気がしちゃった。大丈夫だよ。次は、いよいよ紅葉かな?」
「うん。凄く綺麗だから期待しててね?山道だけど、本当に平気?」
「大丈夫だよ!楽しみだったから早く行こう?」
2人は次の目的地である紅葉谷公園に向かった。途中でりみが紅葉饅頭を買って食べながら歩いていた。
「(本当によく食べるなぁ。)」
と潤は心の中で思っていた。潤は紅葉饅頭は買わなかった。美味しそうに食べるりみを見ているだけでお腹いっぱいになるのであった。
遅くなって申し訳ありません。
紅葉の話なのに、もう年越しちゃう(;´д⊂)
補足
宮島の結婚式
紅葉の季節は11月。11月は七五三がある為、厳島神社で結婚式を行うことは休日は無理です…。今回はどうしても載せたくて書きました。
申し訳ありません。
宮島にカップルで行くと別れる?
本当に迷信です。江戸時代に、宮島には遊郭があった為、そう言われるようになったみたいです。ちなみに、今は遊郭はありません。現在はあまり別れるとかは言われないみたいで、逆にオシャレなカフェが出来たりしているので、カップルで行く方は多いです。