「潤くん?これ…何?」
「…なんだろうね?」
潤とりみは水槽の前で首を傾げていた。2人は予定通り宮島水族館に来ていた。宮島水族館は宮島にある市営の水族館で、愛称は「みやじマリン」という。魚類から代表的な水生生物が約350種、約13000点が展示されている。シンボルとなっているのは瀬戸内のクジラとよばれているスナメリである。入ってすぐに大きな回遊水槽があり、様々な魚が出迎えてくれる。しかし、潤とりみが今、見ている水槽には紐がぶら下げられていて、その紐にはゴツゴツとした岩らしきものが隙間なく引っ付いており、その紐の間をメバルや黒鯛が泳いでいた。
「本当になんだろ?」
りみはゴツゴツとした岩の正体を見破る為に水槽に顔を近づけてジーと見ていた。
「りみ。あそこに説明書きがあるよ。」
潤はりみの肩をちょんちょんと叩き、説明書きがある方に誘導した。
「潤くんありがとう!…へぇ~。これ牡蠣なんだ!」
「そうだよ。フェリーから見た牡蠣筏の下はこうなってるんだよ。」
「そうなんだ!お魚もいっぱい泳いでるんだね!…あれ?潤くん知ってたの?」
「うん。りみがあまりにも真剣に考えてたから答えを直ぐに言うのはダメかなぁって思ってね。」
さらに「ゴメンね。」と付け足して潤は言った。
「そ、そんなに真剣だった?」
「うん。ほら。」
潤は持っていたスマホをりみに見せた。スマホの画面には目をこらして水槽の中を見ているりみの姿が映っていた。
「ふぇ?い、い、いつの間に!け、消してよ~!」
「あはは!ちゃんと消すよ。…ね?撮られたことも気付かないくらい真剣だったって事じゃない?」
潤はスマホを操作しながら言った。そして写真をきちんと消した事をりみに見せた。
「うぅ…。は、恥ずかしいよぉ~。」
りみが頬に手を当てて言った。そんなりみの姿を見て、潤が「あはは。」と笑うと「ピンポンパンポン」とチャイムが鳴った。
「本日は宮島水族館にご来場頂きありがとうございます!10時よりアシカライブを行います。」
アナウンスに耳を傾けた2人は顔を見合わせた。
「アシカライブだって!潤くん、行こう!」
「行こっか!」
目をキラキラさせたりみに潤は微笑んで手を差し出した。りみはその手を握り、駆け足でアシカのいるプールに向かった。
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アシカプールに着くと、親子やカップルがアシカの登場を待ちわびていた。
「良い席に座れて良かったね。」
「うん!」
2人は駆け足で向かった甲斐もあり、中央の1番前という特等席に座れる事かできた。そして2人が談笑して数分、いよいよアシカライブが始まった。
「みなさーんこんにちは!」
「「こんにちは!」」
「それでは早速、アシカさんに登場して貰いましょう!」
アシカライブの司会であるお姉さんがそう言いながら合図を出すと、プールの中からアシカがジャンプした。
「凄ーい!」
りみは叫びながらスマホでパシャパシャと写真を撮っていた。
「アシカさん可愛いね!」
「そうだね!」
その後、アシカは鼻にボールを乗せたり、ジャンプしたりと素晴らしい曲芸が続いた。潤やりみだけではなく、その場にいた全員が笑顔になっていた。
「では、ここで会場にいるお客様に手伝って頂きます!」
司会のお姉さんが言うと、客席にやって来た。
「では、そこのお兄さん!お願いします!」
「え?」
名指しされた潤は困惑しながら立ちたがった。
「潤くん!頑張って!」
「うん。行ってきます。」
苦笑いしながら潤は客席の前に移動した。
「では、この輪投げをアシカに向けて投げて下さい!アシカが上手く、首に輪を通す事が出来たら成功です!」
司会のお姉さんが、潤に輪投げの輪を渡した。潤は受け取ると、アシカに向かって投げた。輪投げの輪は綺麗な放物線を描き、アシカの頭の上まできた。誰もがアシカの首に入ると思ったその時、アシカは首を起用に横に倒し、輪投げをよけてしまった。
「なっ!」
「あら~!残念!」
驚いて目を丸くする潤に回りの客はクスクスと笑っていた。
「う、嘘でしょ…?」
「残念でした!ありがとうございました!では!他にやりたいお客様!」
元気よく子供が「はーい!」と返事をする中、潤は肩を落としながら席に戻った。りみはそんな潤を苦笑いしながら出迎えた。
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「はぁ…。」
「潤くん。元気出して?」
水族館を出て、潤とりみは海がよく見えるカフェで休憩していた。宮島はこうしたカフェが沢山あり、15時頃には満席になってしまう。
「まさか、アシカにまでからかわれるとは…。」
潤が再び項垂れるとりみは苦笑いをした。
「ところで、潤くん?」
「ん?」
「朝の旅館の女性、思い出した?」
潤を励ます為に、りみは無理矢理話題を振った。
「あ~。いや、全く…。てか、水族館にいる間、忘れてたよ。」
潤が苦笑いしながら言った。
「何か、手がかりないのかな?」
「う~ん。実は、秋帆が亡くなってからずっと来てなかったんだよね。だから宮島に来るのは久々なんだよね。」
「え?そうなの?」
「うん。だから、あの人と会ってたとしても多分、ずっと昔なんだよね。だから思い出せっていうのは厳しい気がするんだよね。」
「そっか…。あっ!潤くん、ごめん。電話、出て良いかな?」
会話の最中だったが、りみのスマホが着信を知らせた。画面には「香澄ちゃん」と表示してあった。
「良いよ。早く出てあげて!」
「ごめんね。…もしもし?」
りみが電話に出ると、「りみりーん!」と香澄の声が響いた。
「香澄ちゃん?どうしたの?」
「りみりん!楽しんでる?」
「うん!めっちゃ楽しいよ!香澄ちゃんは何してるの?」
「私は皆で勉強中だよ!休憩がてら電話したの!写真も送ってくれてありがとう!めっちゃ綺麗だね!」
「うん!今度はポピパの皆で来ようね?」
「うん!絶対だよ!っておたえ!まだ私が…。」
「もしもしりみ?」
香澄が喋っている最中、急にたえに声が変わった。たえの後ろでは香澄が「ちょっと!おたえ!?」という声が響いていた。
「お土産買った?」
そんな香澄を無視するようにたえは淡々と喋り出した。
「まだだよ?今から買う予定だけど…。どうしたの?」
「ううん。楽しみにしてるね。紅葉饅頭、オッちゃんと食べるから。」
「う、ウサギは紅葉饅頭、食べられないんじゃ…。」
「大丈夫。じゃあ、香澄に変わるから。」
「え?う、うん。」
相変わらず、マイペースなたえにりみは困惑していた。
「もー!おたえったら…。りみりん!潤君と仲良くしてる?」
「勿論だよ!」
「じゃあ、2人の邪魔したら悪いからそろそろ切るね!みんなー!電話切るよ?」
香澄が叫ぶと、電話の向こうから「楽しんでね!」や「勉強も忘れるなよー!」と聞こえた。
「勉強?あっ!テスト!わ、忘れてたよ。でも、今は楽しむからね!皆ありがとう!」
りみはそう言うと電話を切った。
「ポピパの皆から?」
「うん。楽しんでねって!後、勉強も忘れないでねって。」
りみが苦笑いしながら言うと、潤も表情を曇らせた。
「…流石に、今晩ちょっと勉強…する?」
「…うん。ちょっと不安になってきちゃった。」
2人はそう言うと、そっと注文したコーヒーに口をつけた。
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「じいちゃん。本当に色々ありがとうね。」
「あ、ありがとうございました。」
ペコリと頭を潤とりみは下げた。2人はカフェの後、商店街でお土産を買い、潤のおじいさんの家に来ていた。
「いや~。こっちこそ東京土産ありがとう。…宮島は楽しんでるかね?」
「うん。楽しいよ。」
「私も、本当に楽しいです!」
2人がそう言うと潤のおじいさんは満足そうに頷いた。
「ところで、潤よ。仲居さんの事は思い出したか?」
「え?何でじいちゃんがその事知ってるの?」
「その仲居さんから聞いたんよ。」
「え?知り合いなの?…それがさっぱり思い出せなくて…。」
潤が苦笑いしながら言った。
「まぁ、潤が小さい頃の話じゃけん、忘れてても無理は無い。じゃが、向こうは思い出して欲しそうじゃったからヒントをやろう。名前は明日菜って言うんじゃ。」
「明日菜…。え!?明日菜姉ちゃん!?」
潤はビックリして叫んだ。その瞬間、潤とりみの後ろの襖が突然「バン!」と開いた。
「やっと思い出した?」
「きゃ!」
「うわぁ!」
突然出てきた明日菜に潤もりみも驚いた。
「あはは~。ゴメンね。」
「明日菜姉ちゃん…。本当にびっくりしたんだからね?…お久しぶりです。」
潤がそう言うと、潤の袖をりみが引っ張った。
「えっと、説明して欲しいかな?」
話について行けないりみがボソッと潤に言った。
「そうだね。えっと、明日菜姉ちゃんは僕がまだ幼稚園くらいの時かな?じいちゃんの家に来た時によく遊んで貰ってたんだ。」
潤が説明するとりみは「なるほど。」と呟き、納得した。
「そう言うこと!私が就職でここを離れるまでだから12年振りかな?今は戻ってきてるんだけどね!あんなにちんちくりんだったのに、大きくなって!しかも、彼女まで連れてくるなんて!そうそう!彼女さんお名前は?」
「あっ!う、牛込りみです。」
「りみちゃんね!よろしくね。いやぁ~。潤君をりみちゃんに取られちゃったかぁ~。」
明日菜は終始、ニコニコしながら言った。
「ん?りみに取られた?どう言う事?」
潤が首を傾げながら聞く。
「りみちゃん!潤君ね。小さい頃、「大きくなったら私と結婚する」って言ってたんだよ?」
「へ?」
「はい!?お、おお、覚えてないし!い、い、言ってないし!」
潤は顔を真っ赤にしながら叫ぶ。しかし、話を聞きながらお茶を飲んでいた潤のおじいさんが「言ってたぞ?」と言うと、潤は恥ずかしさのあまり机に伏せた。
「小さい頃の潤くん、可愛い!」
りみは小さい潤を想像しながら言った。
「りみちゃん!潤君の小さい頃の話いっぱいあるけど聞きたい?鹿にアイスをとられて大泣きした話とか。」
「え!?聞きたいです!」
りみがアシカライブ以上に目を輝かせた。そんなりみを見て、潤は「勘弁して…。」と呟いた。
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夜も更け、日中は観光客で賑やかな宮島も静かになっていた。カフェで話していた通り、ちゃんと勉強もして2人は現在、布団に入っていた。
「潤くん?起きてる?」
「うん。起きてるよ。」
潤は仰向けで寝ていた身体をりみの布団の方に向けた。
「本当にありがとうね。めっちゃ楽しかったよ。」
月明かりだけが刺す部屋にりみの声が響く。
「僕も楽しかったよ。」
「でも、楽しい分、あっという間に終わっちゃったなぁ。ちょっと寂しいな。」
りみがそう言うと潤は「だね。」と呟いた。
「あ、あ、あのね…。」
「うん?」
「じ、じ、潤くんは…。その…。し、しなくて平気なの?」
「ん?何を?」
モジモジしながら言うりみに潤はクエスチョンマークを浮かべた。
「ぜ、全部言わせないでよ…。」
「え?あぁ。なるほど。」
りみの言いたい事が分かり、潤は身体を起こした。
「えっと、りみ?無理してるでしょ?」
「し、してないもん!」
「本当に?」
「…してる…。」
更に、モジモジしながらりみは言った。
「あはは。まだ僕達は高校生なんだし、無理しなくて良いんじゃないかな?僕は平気だから。」
「…う、うん。ゴメンね。やっぱり、は、恥ずかし過ぎるから…。」
「まぁ、僕もまだ恥ずかしい…かな?」
潤は自分の顔が熱くなるのを感じた。りみも恥ずかしかったのか頭まで布団をスッポリ被った。
「そう言えば、りみ?」
「な、何かな?」
少しだけ静寂に再び包まれたが、潤がりみに声をかけた。それに応えるように、りみは布団から顔を出した。
「お尻は平気?」
「あっ。うん。大丈夫だよ?朝は痛かったけど、もう痛くないよ。うぅ…。恥ずかしい…。」
実は、昨日、一緒に露天風呂に入った潤とりみだが、あまりの恥ずかしさに入って数分でりみがのぼせてしまい、湯船からあがる際にふらついて転けてしまったのである。その時にお尻を床に打ち付けたのであった。
「(一緒に、お風呂にはいるだけで、あれだけ照れるんだからその先なんて今は絶対無理だよね。まぁ、気長に行きますか。さっきも言ったように、僕たちはまだ高校生なんだし。)」
改めて潤は心に誓い、眠りにつく為に、横になった。
「潤くん。」
「どうしたの?」
「そっちの布団にいって良いかな?」
暗闇に目が慣れたのか、りみの表情がはっきり見えた潤。りみは上目遣いで、目を潤ませていた。その表情が1番弱い潤はもちろん断ることなど出来ず「どうぞ。」と言い、布団を捲った。すぐに潤の布団に入ったりみは潤の腕枕で安心した表情でスヤスヤと眠るのであった。
「また来ようね。」
そんなりみの頭を撫でながら潤はそっと呟いた。
次で旅行編ラストです。旅行に行った後日談になります。
暦の上では立春、つまり春です。
まさか紅葉を見に行く話がこんなに長くなるなんて…。
こんなはずでは…。
ちなみに、潤とりみはもの凄く清い関係です笑