楽しんで頂けたら幸いです。
~有咲篇~
Poppin`Partyのキーボード担当である市ヶ谷有咲は走っていた。普段、インドアでネットサーフィンが趣味の彼女が走っている姿を見るのは実に珍しく、彼女を知っている人がいれば思わず二度見するであろう。しかし、先程も説明したようにインドアな彼女には走るという行為は無縁に近いもので、直ぐに呼吸は荒くなり、口の中は血の味が広がっていた。それでも、彼女は足を止めなかった。
「ハァ、ハァ。り、りみ。待ってろよ。」
そう呟くと、乱れる髪を無視して、少しだけスピードを上げた。
有咲が走る15分前の事。有咲は自分の家の庭でもう1つの趣味である盆栽に精を出していた。有咲にとって心安まる時間であり、思わず鼻歌まで飛び出していた。しかし、その鼻歌を遮るように、スマホが着信を知らせた。
「(誰だ?)」
と思いながら画面を見るとそこには「りみ」と表示してあった。
「もしもし?りみ、どうした?」
「あ、有咲ちゃん!た、助けて!」
「ど、ど、どうした!?」
「あ、あのね。わ、私じゃ手に負えなくて…。」
りみの慌てる声にただ事じゃないと感じた有咲は
「ま、待ってろ!直ぐに行くから!りみの家でいいか?」
と叫んだ。
「え?あっ、うん。で、でも…」
りみが言いかけるも、有咲には届かず、電話を切ってしまった。その瞬間、有咲は走り出したのであった。
「つ、着いた…。」
肩で息をしながら有咲は呟いた。そして休む間もなく、すぐにチャイムを鳴らした。家の中からドタドタと音が聞こえ、扉が開いた。
「あ、有咲ちゃん。こんにちは。って、有咲ちゃん!?ど、どうしたの!?」
りみは有咲の姿をみてびっくりした。髪はボサボサ、額には汗を浮かべ、更には顔を赤く染め、フラフラとしていた。
「ど、どうしたじゃねー!りみ!大丈夫かっ!?何があった!」
りみの肩を掴みながら有咲は叫んだ。
「あっ…。えっと。は、走って来たの?」
「当たり前だろ!?友達のピンチなんだから!で、どうしたんだよ!」
真剣な顔で言う有咲に、りみは申し訳なさそうな表情を浮かべた。そして、普段はあまり口にしない有咲の素直な発言に照れて、頬を赤く染めた。
「えっと、本当にゴメンね?実はね…」
「あれ?市ヶ谷さんだ。こんにちは。」
りみが訳を話そうとすると、その後ろから潤が顔をだした。
「…どういうこと?」
「えっと、話すからとりあえず上がって?」
りみが有咲を招き入れると有咲は大人しく指示に従った。
「あー!生き返る!」
有咲はりみが入れた麦茶をがぶ飲みした。全力で走ればそりゃ喉も渇く。
「…えっとね。本当にそこまで走ってきて貰って申し訳ないんだけど…。電話で要件終わらせるつもりだったんだよね…。」
先程からずっと申し訳なさそうな表情を浮かべるりみ。流石の有咲も、ここまで申し訳なさそうな表情を続けられると、いつもみたいに、激しいツッコミをりみに出来なかった。
「まぁ…。うん。分かったから。で?」
「う、うん。実は、潤くんに勉強を教えてたんだけど…。なかなか教えたい事が伝わらなくて何て言ったら伝わるか聞きたくて、電話したんだよね…。本当にゴメンね?」
りみはそう言うと、ペコッと頭を下げた。
「いや、私がりみの話を最後まで聞かなかったのも悪い…から。こ、ここまで来たから…。その、勉強見てやるよ。」
りみにすっかりペースを崩された有咲は素直に言った。
「よろしくお願いします。」
潤が言うと、有咲は「おう。」と小さく言った。
「今やってるのは…日本史と地理か。」
有咲は潤が開いている問題集を見て言った。
「うん。どうしても、忘れちゃって。テストの時はまだ覚えているけど、テストが終わると全部忘れちゃうんだよね。」
潤は「あはは。」と誤魔化しながら言った。
「私も、色々とアドバイスしてるんだけど…。良い方法が無くて…。」
「よし。大体分かった。とりあえず、問題出すから、一宮さん答えて。」
「分かった。」
有咲が潤の問題集をパラパラと開き、問題を探した。
「じゃぁ、行くぞ?享保の改革を行ったのは誰?」
「…徳川さん?」
「…フルネームで頼む。」
「徳川…家康?」
「んな訳ねーだろ!?家康だったら何歳まで生きてるんだよ!?家康は江戸幕府の初代将軍!享保の改革を行ったのは8代目だ!」
「潤くん。この前教えたよ…。」
「…面目ない。」
りみから哀れみの、有咲からは呆れた視線を受けた潤は俯いた。
「正解は徳川吉宗だ。次、行くぞ?安土桃山時代に茶の湯を茶道として大成した人物は?」
再び、問題集をペラペラと捲り、めぼしい問題を有咲は出した。
「小林一茶!」
「名前に茶が入ってるだけじゃねーか!千利休だ!次!現存する日本最古の書物は?」
「広辞苑…かな?」
連発する珍回答の数々に有咲はそっと問題集を閉じ、立ち上がった。
「よし。りみ?一宮さん?私は帰るから勉強頑張って。」
「ま、待って!見捨てんといて!」
りみが目を潤ませながら言った。
「無理!無理!無理!どうやって教えるんだよ!なぁ、一宮さん?私をバカにしようとボケてるんだよな?お願いだからそう言ってくれ!」
「真面目に答えてます…。どうしても覚えれなくて…。」
潤は再び、俯いてしまった。
「はぁ~。分かった。もう一問だけ出すな。地理は正解してくれ。三大洋で、一番広いのは?」
「これは流石に分かる!」
潤は急に元気になり、側にあったルーズリーフに書き出した。
「出来たよ。」
潤は自信満々に有咲とりみに見せたが、りみは苦笑いを、有咲は額に手を当てた。
「りみの彼氏ってこんなにアホなんだな。」
「ごめん。潤くん。否定出来ない…。」
2人の目線の先にはでかでかと「大平洋」と書かれていた。
「点が足りないんだよ!太平洋な?大きいじゃなくて、太いだからな?誰だよ!?「おおひらひろし」って!」
有咲が、叫ぶとりみはとうとう笑ってしまった。
「「おおひらひろし」って!あはは!」
「わ、笑い事じゃねー!!」
有咲が今日一番の声の大きさで叫ぶ。潤は、2人のやり取りを見て、先程のりみと同じくらい申し訳なさそうな顔をした。
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~紗夜&友希那篇~
「どうぞ、コーヒーです。」
「あ、ありがとうございます。」
「紗夜、ありがとう。」
カップから湯気が出ているコーヒーを紗夜はりみと友希那に手渡した。
「潤さん?ここに置いときますね?」
「…ありがとう。」
机に伏せて、魂が抜けそうになっている潤が呟いた。
「潤?情けないわよ?これくらいでバテるなんて。」
友希那はため息をつきながら言った。
「ふぅ~。あんな一気に頭に詰め込んだらショートしますよ…。」
潤とりみはこの間、計画した通り、紗夜の家で勉強を教わっていた。紗夜の勉強は潤の予想通りスパルタで始めてから3時間ぶっ通しであった。
「潤くん大丈夫?チョコ食べる?」
りみは自分が食べていたチョコを潤に差し出した。
「ありがとう。」
パクッと1口食べると、チョコの甘さが潤の身体に染み渡った。
「潤?Roseliaのマネージャーになるんだからこれくらいでへばってたら困るわ?」
「…いや。Roseliaのマネージャーにはならないです。ところで、湊さんはどうしてここにいるんですか?」
潤とりみが紗夜の家で勉強していると、突然友希那が現れたのだ。勉強中だった潤は来た理由を聞くに聞けず、今になってしまった。
「湊さんは…いえ。と言うよりはRoseliaが潤さんに用があって、代表して湊さんが来たんですよ。」
友希那の代わりに紗夜が言った。
「僕にですか?なんでしょう?」
「潤、Roseliaのマネージャーに…。」
「だから!断ってます。」
「えっと、友希那先輩?じ、潤くんがRoseliaのマネージャーになったら…わ、私と会う機会が減っちゃうので…。わ、私も嫌…です。」
りみが目線を反らせながら意見を言った。
「…そう。牛込さんにそう言われたら諦めるしかないわね。」
湊は砂糖をたっぷり入れたコーヒーを飲みながら言った。
「用はそれですか?」
「違うわ。Roseliaの主催ライブをCiRCLEでしたいと思っているのよ。」
友希那は潤の目を真っ直ぐ見ながら言った。
「…えっと。それは有難い話なんですが、バイトの僕ではなくて、月島さんとかに言った方が…。」
潤が言うと、紗夜が口を開いた。
「実はCiRCLEの許可はもう取ってあるんです。私達がお願いしたいのは潤さんに主催ライブで準備や本番で指示をして欲しいと言うことです。つまり、ライブでのCiRCLEの責任者は潤さんって事になります。」
「はい?僕で良いんですか?」
紗夜の言葉に潤は驚いた。
「あなたが良いのよ。ガールズバンドパーティーでの貴方の行動や発言、統率力を見ての判断よ。僕で良いいのかって言ってたけど、Roseliaは潤が良いのよ。」
「…分かりました。どれだけ力になれるか分かりませんが、精一杯やらして頂きます。」
潤は友希那と紗夜に頭を下げた。
「潤くん、凄い!頑張ってね。応援してるからね。」
りみが笑顔で潤に言った。
「牛込さん、少しの間、潤さんを借りるようになりますが…すみません。」
「い、いえ。潤くんもお仕事なので…。」
「じゃぁ、紗夜。話がまとまったから、私は帰るわ。潤?詳しい事は紗夜から連絡…」
「湊さん。待って下さい。」
立ち上がった友希那を紗夜が引き留めた。
「何かしら?」
「羽丘もテストありますよね?勉強して行きましょう。」
「嫌よ。…忙しいのよ。」
友希那が眉間に皺を寄せた。
「今井さんからお願いされてますので、勉強しましょう。」
「リサから?何て?」
「湊さんが次のテストが危ないから勉強をして欲しいと…。なので、湊さんをここで返す訳にはいきません。」
紗夜は友希那の肩を掴むと、強引に座らせた。友希那は「はぁ~。」とため息をついて、渋々ペンを握った。
潤とりみも再び、紗夜のスパルタの勉強を始めた。
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~ひまり篇~
ここは潤とりみ達が住む街の最寄りの駅前。駅前なので、電車に乗る為に人が出入りしているが、ここは集合場所としてもよく使われている。現に何組か時計と睨めっこしたり、スマホを見ている人が何人かいる。その中の1人、りみは眼鏡をかけ、文庫本を読みながらある人物を待っていた。
「りみ!ごめん!遅れちゃった!」
ハアハアと息を切らしながらAfterglowのベース、上原ひまりが言った。今日は、潤とではなく、ひまりと遊ぶ約束をりみはしていた。以前より共通点が多いと言うことで仲良くしていた。
「全然大丈夫だよ?気にしないで?」
りみは眼鏡を外しながら言った。
「本当にゴメンね。服がなかなか決まらなくて…。」
「本当に大丈夫だよ。服、可愛いね。」
「ありがとう!りみって眼鏡かけてたんだね
!似合ってたのに外しちゃうの?」
「へ?あ、ありがとう。眼鏡は本を読む時にかけるだけだから。普段かけてると邪魔だから。そ、それより、早く行こ?」
りみは照れながら言った。りみとひまりが集まった理由はひまりが良い感じのカフェを見つけ、LINEでりみを誘ったからだった。
「うん!それに、りみにいっぱい聞きたいことがあるんだ!」
「私に?」
「うん!カフェに着いたら言うね!」
ひまりは明るく言うと、目的地に向かって歩き出した。
「本当に雰囲気が良いカフェだね。」
「でしょ!この前たまたま見つけたんだ!見つけた瞬間、りみと行きたいって思ったから、今日はとても嬉しいよ!ありがとうね!」
ひまりが見つけたカフェは日差しが柔らかく差し込み、穏やかな時間が流れる空間だった。置いてある物も、和だったり、洋だったり、一見ゴチャゴチャしそうな感じだが、上手くまとめられており、店主のセンスの高さが垣間見える。
「それで、話って?」
りみが注文したチョコケーキとコーヒーを堪能しながら言った。余談だが、りみは潤と付き合うようになってからコーヒーが大好きになり、よく飲むようになっていた。
「うん!まずはAfterglowみんなからの伝言!お土産ありがとうね!」
以前、潤とりみが行った宮島旅行のお土産をAfterglowにも渡していた。ちなみに、紅葉饅頭である。
「ううん!喜んで貰えたなら良かったよ。」
「美味しかったよ!また食べたくなってきちゃった。」
ひまりが思い出しながら言った。
「めっちゃ分かるよ!また潤くんと行ったら買って帰るね。」
「うん!丁度、名前が出たから聞いちゃうけど、潤君とはどう?」
こっちが本題と言わんばかりに、ひまりはウキウキしていた。潤とりみが付き合っているというのを知ったガールズバンドパーティーの打ち上げでもひまりは好奇心の塊でりみに聞いていた。
「じ、潤くんと?ふ、ふふ普通…かな?」
付き合って随分時間が経つがりみはなかなか、この手の話題には慣れず、照れてしまう。
「良いなぁ~。私も彼氏欲しい!」
「ひまりちゃんは可愛いから直ぐに出来るよ。皆もそう言わない?」
「…うぅ。りみ、優しい…。モカなんか「ひ~ちゃんは胸が大きいから直ぐに彼氏出来るよ~。」って言うんだよ!酷くない!?」
ひまりが目を潤ませながら言う。「あはは…。」とりみは苦笑いをした。
「ねぇねぇ!潤君とりみは普段はどんな事してるの?なかなか会えないよね?」
「え?毎日会ってるよ?」
ひまりの質問にりみは素直に答えた。
「嘘っ!?だって、学校も違うし、りみはバンド、潤君はバイトがあるよね?いつ会ってるの?」
ひまりは驚きながら言った。
「えっとね、朝と夜に潤くんの家にお邪魔してるんだよね。料理の勉強を兼ねて…。潤くんのお母さん、とっても料理が上手なんだよ?」
「そうだったんだ…。りみ、今すぐ潤君と結婚出来そうだね?」
「け、けけけけ結婚!?」
かなり飛躍したひまりの発言にりみは赤面した。ちなみに、潤との結婚生活を夜な夜な想像し、ニヤニヤしてしまっているのはここだけの秘密である。
「良いなぁ~。…潤君とりみって、なんだかお互いが尊敬しあってて、お互いがお互いの為になりたいって思ってるように見えるんだよね。そういう関係のカップルってなかなかいないと思うから本当に羨ましいよ…。」
「うぅ…。そ、そんなに褒められると…。て、照れちゃう。で、でも、潤くんの優しいところとか、他人の事を一番に考えれるところとか尊敬してるよ。それに、治したかった人見知りも潤くんと付き合ってから良くなってる気がするし…。感謝しても感謝しきれないよ。」
りみが照れながらも、笑顔で言った。
「そ、それにね。」
「それに?」
「じ、潤くんには、人を好きになるって事の素晴らしさ…みたいなものを教えてくれたから…。」
「りみ~?惚気ちゃって!本当に幸せそうだね?」
ひまりがニヤニヤしながら言った。りみは頬を染めながらも
「うん!めっちゃ幸せだよ!」
と満面の笑みで言った。2人のガールズトークは太陽が西に傾き、オレンジ色に染まるまで続くのであった。その頃、潤はバイト先で何回も大きなクシャミをするのであった。
今更かもですが、潤と付き合った事でりみの人見知りは改善傾向に向かってます。
他のキャラもアイデアが浮かんだら書く予定です。
皆様のリクエストとかもあれば書くかもです。作者の文章力があまり無いので約束は出来ませんが…。
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