「う~ん。」
布団の中で潤は寝返りを打った。ゆっくりと目を開けるとカーテンの隙間から太陽の光が漏れていた。
「(今、何時だ?)」
とスマホを探す。しかし、いつも置いてある枕元にはない。辺りを探すとベットの下に落ちていたのを発見した。夜の間に落としてしまったらしい。
「(やっと見つけた。さて、時間は……)」
時間を見た瞬間、潤は固まってしまった。現在の時刻10時。CiRCLEのバイト開始時間9時半。そしてまりなからの不在着信5件。
「ほあぁぁぁああぁぁぁぁ!!」
と潤は叫び、慌ててまりなに電話をかける。2コールの後、直ぐにまりなが出た。
「も、も、申し訳ありません!寝坊しました!今から直ぐに準備して迎います!」
潤が慌てて叫ぶように言った。
「あははっ!潤君、落ち着いて。とりあえず事故とかじゃなくて安心したよ~。あのね、今日なんだけど、夏休み、ずっと出勤して貰ってるから休んで大丈夫だよ!」
とまりなは言った。
「い、いえ!それはいけません。直ぐに準備して…」
「先輩命令!休みなさい。」
潤が出勤する旨を言う途中でまりなが被せるように言った。
「…分かりました。本当に申し訳ありません。」
と潤は再び謝罪した。
「それでよろしい!ところで本当にりみちゃんとLINEを夜遅くまでして寝坊したの?まさかLINEが盛り上がり過ぎて電話までしちゃったとか?もう、昨日1日でどんだけ進展したの?」
「違いますっ!LINEはしましたが、寝坊とは一切関係がありません!」
潤は昨日の夕方から紗夜が来て、夜遅くまで勉強をしていた話をした。
「でも、寝坊してしまったのは完全に僕の責任です。本当に申し訳ありません。それと、休みにして下さってありがとうございます。」
潤は再び、謝罪した。
「あはは。潤君は真面目だね~。また明日からよろしくね!バイバイ~。」
とまりなは言って電話を切った。電話を切って、潤はもう一回、ため息をついた。
「さすがにへこむなぁ。」
と呟き、次から2度とないようにしようと早速、アラームを5分おきにセットした。
「さて、起きるか…。お腹空いたな~。」
よいしょと立ち上がりリビングに向かった。
「おはよう。」
「おはようございます。」
リビングの扉を開けると紗夜がコーヒーを飲んでいた。
「紗夜姉さん。まだいたんですね。」
と潤が言うと
「えぇ。昼からRoseliaの練習なので、ゆっくりさせて頂いてます。潤さんもコーヒー飲みますか?」
と言い、立ち上がった。
「ところでバイトじゃなかったんですか?そんなゆっくりしてて大丈夫なんですか?」
コーヒーを煎れながら紗夜は潤に言った。
「バイトだったんですが、寝坊して、電話したら休みになりました。……あっ!」
潤はしまったと思いながら恐る、恐る紗夜の方を見た。
「そうですか。寝坊ですか。」
紗夜は見たこと無いくらいの笑みを浮かべながら言った。しかし、表情とは裏腹に声には覇気が籠もっていた。
「(あっ…。ヤバい…。)」
と潤が顔を引き攣らせていると、
「潤さんちょっとお話があるんですけど、良いですか?いえ、あなたに拒否権はありませんが。」
それから1時間、潤は紗夜にみっちり説教を受けた。
―――――――――――――――――――――
ところ変わってここはCiRCLE。今日も、今日とて、色々なバンドが日々演奏の腕を磨こうと切磋琢磨している。その休憩所でPoppin'Partyが休憩していた。今日も「夏休みだから」と訳の分からない理由でCiRCLEで練習していた。
「う~ん!いい感じに曲出来てるね!」
と香澄が伸びをしながら言った。
「だね。良いと思うよ。」
と沙綾も言った。
「曲は良いけど、香澄、ギター走りすぎ。」
と水分補給しながら有咲は言った。
「おたえ~!」
香澄がおたえに抱きついた。
「大丈夫!香澄のギター、私好きだよ!」
「おたえー!」
2人のやりとりにはぁ~とため息をつきながら有咲はりみの方を見た。
「りみ、どーした?今日、受付の方ばかり気にしてない?」
有咲がりみに聞くと
「え?そ、そんなことないよ?」
と慌てて言った。
「そんなことあるよ。受付の中の方を見たり、休憩する度にソワソワしてるよ?」
と沙綾も言った。
「うぅ…。あ、あのね。今日い、いないなぁって。」
「いないって誰が?」
と香澄が言う。
「バカッ!一宮さんに決まってるだろ?他に誰がいるんだよ!」
「まりなさん?」
と有咲のツッコミにたえが答えた。
「朝、受付したときにあっただろーが!」
有咲のツッコミに沙綾があははと笑うと
「でも、一宮さんを探してるんだよね?やっぱり、りみりん、好きなんだよね?一宮さんのこと。」
とりみに聞いた。
「え!?そうなの?りみりん!」
と香澄を身を乗り出しながら言った。
「ち、違うって!い、いや。潤君を探してたけど…。えっとね、昨日のLINEで今日、バイトって言ってたから…。いないからどうしたんだろって。」
りみが照れながら答えた。
「LINE…。相思相愛?」
おたえが首を傾げながら言うと
「だからちゃうってー!」
とりみが叫んだ。
「てか、りみ。LINE知ってるなら本人に聞いたらよくね?」
と有咲がりみに言った。
「うん。練習終わったらLINEしようって思ってたんだけど、今して良いかな?」
りみがそう言うと他のメンバーから「いいよー!」と返ってきた為、りみはLINEを開いて文書を作成した。
―――――――――――――――――――――
「では、お邪魔しました。潤さん、これからはないように!」
「…はい。分かっています。」
潤の返事を聞いて満足したように紗夜は帰っていった。
「つ、疲れた~。」
と玄関でぐったり項垂れた。
「昔からだけど、紗夜姉さんの説教は精神的にくる。」
と呟きながら立ち上がり、リビングに向かうと、ドカッとソファーに座った。
「はぁ~。なんか甘い物食べたい。疲れた。」
と天井を見ながらまた呟くとスマホからLINEを受信した着信音が流れた。中を確認するとりみからであった。
“こんにちは。
今日、バイト休まれたんですか?
体調とか崩されたりされてませんか?”
「そういえば昨日帰るときにポピパ予約してたっけ?心配かけちゃったなぁ~。」
潤は苦笑いしながらすぐに本文を作成した。
“こんにちは。
心配かけてごめんね。
実は、寝坊しちゃって。それで疲れてるみたいだからってそのまま休みになっちゃったんだよ。”
と打った。
「なんか、色々な人に寝坊ってバレちゃったなぁ。」
と苦笑いした。その間にもりみから返信が来てしばらくやりとりが続いた。
“そうだったんですね!
安心しました。
今日はお家でゆっくりしてくださいね!”
“本当に心配かけてごめんね。
それなんだけど、甘い物が食べたくなっちゃって、どこか食べに行こうかなって考えてるんだよ。”
“それだったらやまぶきベーカリーに行かれてはどうですか?甘いパンも沢山ありますよ!もちろんチョココロネもありますよ!”
“それ良いね!昨日食べて凄く美味しかったし、他のパンも気になるから行こうかな!チョココロネも、もちろん買うよ!
あっ。でも、場所分からないや。アプリで調べれば分かるかな?”
“すぐ分かりますよ!商店街の中なので。そやまなかたはらな”
突然乱れたりみからの返信に潤は世界七不思議がいっぺんにやって来たような顔をした。「どうしたの?」とLINEの返信を打っているといきなり画面が着信画面に変わった。
「え?牛込さんから電話?なんだろう?」
と思いながら出た。
「はい。一宮です。」
「こんにちは。私、山吹沙綾です。昨日はどうも。」
りみからの着信で沙綾が喋っている状況に若干困惑しながらも沙綾の声の後ろから「ちょっと沙綾ちゃん!」とりみの声が聞こえた為、勝手に沙綾が電話をかけていると理解する事が出来た。更に「香澄ちゃんもおたえちゃんも離して。」とりみの声が聞こえた為、捕まっているなぁと想像も出来た。
「山吹さん。こんにちは。どうかした?」
と潤が言うと
「一宮さん、うちのパン屋くるんだよね?」
「うん。そのつもりだけど?」
「りみりんから聞いたんだけど、場所分からないんだよね?」
「え?いや、アプリで調べれば分かるって。」
「そっかー!分からないかぁ。」
「ん?いや、だから分かるって…」
「分からないならしょうがない。りみりんが道案内してくれるみたいだから、商店街の入り口に1時に来てね。」
「え?」
「じゃぁ、それでよろしく!1時に商店街の入り口ね!」
「え?もしもし!もしもーし!…切れちゃった。」
電話の向こうは無情にも「ツー、ツー」と終了を告げる電子音が流れていた。
「これは、さすがに行った方がいいよね?多分、強制的に牛込さんは道案内にされたんだよね?でも、なんで?」
と思いながら潤は支度為に立ち上がった。着替えようと自室に行く途中で急に
「あんた邪悪な匂いしてるよ。」
と母親の言葉を思い出した。
「……シャワー、浴びるか…。」
潤は浴室に向かった。
―――――――――――――――――――――
「もう!勝手に電話するなんて…。」
「あはは!ごめん、ごめん。」
りみが少しはぶてながら言うと、あまり悪びれた様子もなく沙綾が答えた。
「でも、沙綾らしくなかったかも?」
「だね。無理矢理約束を取り付けるって確かに沙綾らしくないよね。」
とおたえと香澄が言った。ちなみに、りみを取り押さえた2人だが、沙綾の指示で動いていた。
「だよね。でも、ちゃんと理由もあるよ!」
と沙綾は言い、昨日のりみが潤にLINEを聞いた経緯を話した。
「だから、私なりにりみの性格が少しでも治るように協力してみたんだよ。」
と沙綾が、言うと香澄とおたえは「おぉ~!」と納得した。しかし、有咲は
「いや、荒療治過ぎるだろ。第一、理由はそれだけじゃないだろ。」
と、ジト目で言った。
「バレたかぁ。」
と苦笑いしながら沙綾が言う。
「他の理由って?」
とおたえが聞くと
「だって、りみりんは絶対に一宮さんのこと好きなんだよ。でも、本人は気付いてないみたいだからね!」
と言った。
「バカッ!りみの前で言ったら…。」
と有咲がりみの方を見ると
「ど、どうしよ?何話そう…。こんなことならもうちょっとオシャレして来たら良かった…。」
と俯き、顔を赤くしながら呟いていた。
「りみりんの前で言ったら?何?」
と沙綾が得意気な顔で有咲に聞くと
「いや、何でもねぇ。」
と言い、
「(りみ。頑張れ。)」
と心の中で呟いた。
―――――――――――――――――――――
「失敗したなぁ。」
と潤は呟いた。現在時刻は12時45分。女性を待たすのは悪いと考えた潤は12時40分には集合場所に来ていた。普通なら良い行動だが、真夏と言うことを忘れていた。
「(暑すぎる…。汗がヤバい…。シャワーを浴びた意味が無くなってる。でも、集合時間ギリギリに来て待たすのも悪いし…。)」
と考えていると
「お、遅れてごめんなさい!」
とりみがやって来た。潤が時間を見ると12時50分だった。
「全然遅れてないよ。僕が早かっただけだから。」
と潤が言うと、
「でも、暑い中待ってたんですよね?集合場所を涼しい所にすれば良かったですね。」
とりみは呼吸を整えながら言った。
「本当に気にしないで。てか、牛込さんこそ、そんなに急がずにゆっくり来て良かったのに。ベース、持ってないから1回家に寄ってたんでしょ?しかも、案内を頼んだのはこっちだから。」
と潤が答えるとりみが
「でも…。」
とまた言いそうになったので潤は笑いながら
「なんかきりが無くなりそうだね。それよりお腹空いたからやまぶきベーカリー、行こう?」
と言った。
「あっ。そ、それなんですけど…。」
潤の発言にりみが答えにくそうに言う。潤が「?」を浮かべるとりみが指を指した。その指の先に目を向けると堂々と「やまぶきベーカリー」という文字が入った建物が鎮座していた。中では沙綾が手を振っていた。
「…マジか。」
と潤が言うと
「い、行きましょうか。」
と、りみが言った。
―――――――――――――――――――――
「いらっしゃい。チョココロネ焼きたてです。」
カランコロンと来客を告げるベルが鳴った途端、沙綾は笑顔で言った。結局、潤とりみが移動した距離は30メートルだった。
「山吹さん、こんにちは。いつからあそこに僕がいることに気付いてましたか?」
「え?最初からだよ?」
潤はやまぶきベーカリーの場所を気付けなかった事に恥ずかしくなっていた。そんな事は気にもせずりみは
「チョココロネ焼きたて!?」
と目を輝かせていた。そして、潤が回りを見渡すとメロンパンに、あんパンは勿論、焼きそばパンやカレーパンなどの惣菜パンまで色々な種類のパンが並んでいた。
「美味しそう…。」
と潤が呟くと
「いっぱい買って下さいね!」
とニコニコしながら沙綾が言った。
潤はりみにオススメのパンを聞きながら選んでいった。しかし、
「潤君!これも美味しいよ。」
と次々勧められた為、潤のトレイには沢山のパンが乗っていた。
「うん!これくらいにしようかな?」
と潤がトレイをレジに持って行くと視線を感じた。辺りをキョロキョロすると物陰から小学生くらいの男の子が見ていた。
「こら!お客様をそんなジロジロ見ないの!」
と沙綾が言うと、
「だって、ずっと「じゅん」って呼ばれるんだもん!」
と、答えた。
「あ~。」
と沙綾が言うと、横にいたりみが
「あのね、沙綾ちゃんの弟で「純」君って言うんだよ。」
と教えてくれた。潤はなるほどと思い、目線を合わせてから
「同じ名前なんだね!一宮潤だよ!宜しくね。」
と言うと
「う、うっせー!うんこー!」
と叫びいなくなってしまった。
「こ、こらー!純!」
と沙綾が叫ぶも、純には届かなかった。
「ごめんね。後から叱っとくから。」
とため息交じりで言う。
「大丈夫だよ。気にしてないから。それに元気が、あって良いじゃない。」
と潤が笑って言った。
「ありがとう。…お会計で良いですか?」
沙綾が業務に戻る。
「はい。あっ、こっちのトレイも一緒にお願いします。」
と、チョココロネが沢山乗ったトレイを指して言った。
「そ、そんな!わ、悪いですよ!」
とりみが、慌てて言ったが
「案内して貰ったお礼だよ。それに、こういう場面では男が支払うもんだよ!まぁ、奢るって言った手前、僕の顔を立ててよ。」
と、笑顔で言った。
「うぅ…。本当にごめんなさい。」
と、りみが言った。
「牛込さん、こうゆう時はごめんなさいじゃなくて、もっと言って欲しい言葉があるかな?」
と、潤が意地悪な笑顔で言うと
「あっ!ありがとうございます!」
とりみは言った。
こんなやり取りをしている間に袋にパンを詰めた沙綾。
「お会計、一緒で良いんだよね?1,650円になります。」
と言った。商品を潤が受け取ると
「ありがとうございます!デート楽しんでね!」
と言った。
最後の言葉が無ければ完璧な接客なのにと潤が思いながらりみを見ると
「で、で、で、デート!?」
と見たことないくらい照れていた。その様子を見て、潤はビックリして沙綾はあははと笑っていた。
「だ、大丈夫?」
と潤が声をかけた。
「だ、だ、だ、だ、大丈夫れふ!」
とりみは噛みながら答えた。これは大丈夫じゃないな~と苦笑いしていた潤だが外を見てハッとした。
「(このパン、どこで食べよう…。)」
と気付いた。外はまだまだ肌を刺すような日差しが降り注いでいた。
第3話いかがでしたか?
更新は忙しさによって変わります。
ご了承ください。
小説は夏の話ですが、世間は寒くなってきたので、風邪など気をつけましょう!