オーディションから1ヶ月。潤はまりなとの相談の元、なんとか出演するバンドを決めた。そして、来月に迫った第3回ガールズバンドパーティーの準備を本格的に始めていた。そんなある日の束の間の休日、いつもの様に潤とりみは一緒に過ごしていた。
「りみさんにお話しがあります。」
「な、何かな?」
他愛ない話をしていた2人だったが、潤が急に畏まり、正座をしてりみに話しかけた。あまりの急な展開に、りみも正座をしながら返事をした。
「実は…。進路のお話しなのですが…。」
「う、うん。CiRCLEに就職するかどうかって話だよね?」
「うん。そうだよ。…この前ね、オーナーと話す機会があってね。今度のガールズバンドパーティーが成功したら、就職の話を受けようかと思ってるって伝えたんだ。」
潤が言い終わると、何故かりみからの返事は無く、静寂に包まれた。
「ん?りみ?」
「ねぇ、潤くん?それっていつから決めてたのかな?」
「へ?5月の最初の方…かな?」
「そう…。うちに相談もなく?」
潤はりみの背後から黒いオーラが出ている事に気付いた。りみは表情こそ、ニコニコしていた。必死に怒りを抑えているように見えた。
「えっと…。」
「なんで相談もなく決めちゃったの?ねぇ、なんで?」
言い訳をしようとした潤だったが、りみが潤の発言の上から被せて遮っていた。
「い、いや、なかなか相談する時間が…。」
「うち、毎朝と毎晩、潤くんの家に来てるよ?話す機会はいっぱいあったよ?」
「り、りみさん!お、落ち着いて頂けると助かるのですが…。」
潤はどうどうと、両手を前に出し、ジェスチャーを加えながら言った。
「……潤くんなんて知らない!勝手にすれば良いよ。」
りみは頬を膨らませ、プイッと明後日の方向に顔を背けた。
「りみ…。ごめんなさい。確かに、1番に相談するべきだったね。悪かったよ。」
「…なんで、CiRCLEに就職する事に決めたの?…あっ…。ライブ次第だったね?」
「うん。就職に決めたのは、卒業してからりみと暮らしたかったからだよ。やっぱりお金って必要じゃん?親に頼りたくもないしね…。あと、ライブが成功したらって言うのは、自分に自信を付けたかったからだよ。あの大きなライブをやりきって、成功したら、これから先の仕事も自信を持って、出来そうだから。」
潤は言い終わると、恐る恐るりみを見た。りみの表情はニコニコが消えており、真剣に潤の話を聞いていた。
「…やっぱり、相談も無しに決められたら…寂しいかな。」
「…ごめんなさい。」
潤は正座のまま話をしていた為、頭を下げると土下座をしているようだった。
「…ちゃんと次からは相談してね?…ふ、2人で暮らすんだから…。」
「本当にごめんなさい。」
「もう大丈夫だよ。ふふっ。じゅーんくん?」
りみはシュンとしている潤の姿を見て、愛らしくなり、ギュッと抱きついた。
「りみ?」
「さっきのお詫びに、今日はいっぱい甘えるから…ね?」
りみは頬を赤く染めながら言った。そして、どんどん顔を薔薇のように赤く染め上げていった。
「り、りみ?ど、どうしたの?」
「へ?え、えーと…。その…。き、今日って、ま、麻里さん帰ってくるの、お、遅いんだよね?」
「うん。父さんのとこに行ってるからね。」
「だ、だよね?…その…。し、しない?」
「何を?」
りみの質問が理解出来ず、潤は首を傾げた。いや、分かれよって話であるが…。
「…ぜ、全部言わせない…でよ。」
シューと頭から蒸気が見えると錯覚するほど、りみの顔は赤くなり、俯いてしまった。
「…えっと…。昼間だけど…良いのかな?」
「だから、そう言ってる…よ?」
りみはギュッと潤を更に強く抱き締めた。握ってい手は微かに震えていた。
「うぅ~。は、恥ずかしいよ…。」
涙目になりながら、りみは言った。その言葉が合図と言わんばかりに、潤はりみの唇を奪っていった。
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「…今、何時?」
目を擦りながら潤は目覚めた。日差しは西に傾いていた。潤は横を見ると、気持ちよさそうにりみが眠っていた。
「えっと…。16時…かぁ。」
スマホを操作しながらりみを起こさないようにそっと呟いた。しかし、りみも睡眠が浅かったらしく、潤の微かな声に、もぞっと動き、瞼を開けた。
「…潤くんだ。」
「うん?どうしたの?」
「ん~…。」
りみは寝ぼけているのか、ギュッと潤の胸に顔を埋めた。「(まだ寝るのかな?)」と潤が思っていると、ガバッとりみが起き上がった。
「じ、潤くん!!い、今何時!?」
「16時だよ?り、りみどうしたの?」
「…良かったぁ…。まだそんな時間なんだね…。てっきり、寝過ぎちゃったと思ったよ…。」
りみはホッと胸を撫で下ろした。そして、今、自分が生まれたままの姿であることを思いだし、慌てて、掛け布団を被るのであった。
「ところで、りみ?Roseliaのカバーする楽曲は決まったの?」
改めて、裸を見られた事に恥ずかしさを覚えるりみの事など、気にしないかのように、潤は言った。
「へ?か、カバー?え、えっとね。陽だまりロードナイト…だよ。」
「へぇ。よく湊さんが許可をくれたね。」
陽だまりロードナイトは友希那がリサの事を綴った曲、つまり大切な曲の1つである為、許可を出していた事に驚いていた。
「う、うん。二つ返事で良いよって言ってくれたよ?私達が陽だまりロードナイトを選ぶって思ってたみたいだよ。でもね…。やっぱり難しいしの。」
りみは苦笑いしながら言った。
「確か、ベースソロあったよね?」
「…うん。き、緊張して来ちゃったよ…。」
「あはは!りみ、早いよ。あと1ヶ月くらいあるよ?」
潤が笑いながら言うと、りみも微笑み、「確かにね。」と言った。
「りみ、本番まで頑張ろうね。」
「うん!もちろん!」
2人は微笑み合うと、お互いの手を布団の中でギュッと握るのであった。
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それから時は進み、本番まで1週間と迫っていた。潤達、高校生組は期末テストを無事(?)乗り越え、ラストスパートと言わんばかりに熱の籠もった日々を過ごしていた。潤が中心となって行うガールズバンドパーティーはその大規模なステージだけあり、世間から注目されつつあった。そしてCiRCLEでは、最終のミーティングが開かれていた。
「皆さん、お集まり頂いて、ありがとうございます。今日は、最終の確認をしたいと思います。」
潤が、紙を持ち、ホワイトボードの前で喋っていた。未だに、緊張するのは変わらず、クーラーが効いて、快適な空間にも関わらず、額には汗が浮かんでいた。
「まず、私達、CiRCLEのスタッフで18日に、機材の搬入と、ステージの確認を夕方から行います。そして、19日の9時から、リハーサルを行います。リハーサルの順番は当日、お知らせしますね。ここまでは良いですか?」
潤は顔を上げて、周りを見渡した。全員、頷いていた。
「次に、本番です。皆さんは20日の10時に集合して下さい。簡易的ですが、控室となるバスを用意しています。バスを用意して下さった弦巻さん、ありがとうございます。」
潤が頭を下げて言うと、こころは「別に構わないわ!」と笑顔で言った。このバスがとんでもなく豪華であることを潤は後に知り、驚くのであった。
「そして、13時からトップバッターのAfterglowさんからスタートします!当日はかなり気温が高くなると思いますので、水分補給だけはしっかりとお願いします!順番は決まってますが、当日、不具合など起こったら前後するかも知れません。よろしくお願いします。」
潤は再び、頭を下げて言った。参加するバンドメンバー達は、潤の説明を受けて、修学旅行の前の日のような空気が流れていた。潤も含め、ここにいる全員がライブが楽しみで仕方が無かったのだった。
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7月20日、とうとう、第3回ガールズバンドパーティーの日を迎えていた。各、バンドの準備も滞ることなく終わり、今は始まるのを待つばかりだった。観客も沢山入り、普段、サッカー場である芝の上は人で埋まり、緑の部分があまり見えない状態だった。そして、時間は12時45
分となっていた。どこからともなく「円陣を組もう!」と言う声が上がり、1つの大きな円が出来上がっていた。
「潤。気合い入れ。よろしく。」
「み、湊さん?ぼ、僕ですか?」
友希那が潤に向けて言うと、円陣の外にいた潤は戸惑いながら言った。
「潤君しかいないよー!」
香澄も続けて叫ぶと、潤はまりなから背中を押され、円陣の中央にいた。
「…えっと。まずは、このライブが開催出来たのは、皆さんのお陰です。CiRCLEのスタッフを代表して言います。ありがとうございます。そして、CiRCLEのスタッフの皆さん、僕だけではこんなライブをすることは出来ませんでした。こんなちっぽけなバイトに力を貸して下さって、ありがとうございます!皆さんが楽しく演奏すれば、盛り上がるのは間違いないです!全力で楽しんで、そして怪我なく、元気にライブをしましょう。…いくぞっ!」
潤は最後に思いっきり叫んだ。それと同時に「おー!」という声も夏の空に響くのであった。
「では、Afterglowさん!お願いします!」
潤が、叫ぶと、「いつも通り行こう。」と蘭の声が静に響くのであった。
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「…終わったー!」
ライブが終わり、潤は片付けの為にCiRCLEに戻ってきていた。始まってみたら楽しい時間はあっという間に終わってしまった。
「潤くん。お疲れ様。」
「ありがとう、りみ。ポピパも凄く良かったよ。」
「うん!めっっっちゃ楽しかったよ!陽だまりロードナイトも上手くいってホッとしたよ~。」
りみが満面の笑みで言った。
「カバーの企画も盛り上がったね。まさか友希那さんがDJをして、白金さんが歌うとは思わなかったよ。」
潤はRoseliaのライブを思い出すと「ふふっ。」と笑った。以前、Roseliaが話し合っていたDJ問題は、友希那があみだくじでハロー、ハッピーワールド!を当てた責任をDJをやるという事になり、代わりに、ハロー、ハッピーワールド!にはいないキーワードの燐子が嫌々歌うという形に収まり、「キミがいなくちゃ!」を演奏したのであった。ちなみに、他のバンドはAfterglowはPoppin`Partyの「ティアドロップス」をPastel*PalettesはAfterglowの「Jamboree!Journey!」を、そして、ハロー、ハッピーワールド!はPastel*Palettesの「はなまる◎アンダンテ」を披露したのであった。
「ところで、潤くん?」
笑顔で談笑していた2人だったが、りみが真剣な表情で言った。
「何かな?」
「今回のライブ…。成功だったのかな?」
「勿論だよ。お客さんはどう思ったかはまた後日、分かるはずだけど、僕の中ではやりきったよ!後悔は1つも無い!だから、大成功だよ!」
潤は手をぐっと握りしめながら言った。
「だったら、その、CiRCLEに就職するの…かな?」
りみは眉を八の字にして、呟くように言った。
「そうだけど…。りみ、どうしたの?」
「…グスっ。」
「り、りみ!?」
突然、泣き出したりみに潤は困惑した。今の今まで楽しく、ライブの感想を話していたはずである。
「大丈夫?落ち着いた?」
「ご、ごめんね。ひ、1つだけ、ワガママ言っていいかな?」
りみは泣き止むと、申し訳なさそうな表情で言った。
「潤くん…。や、やっぱりね。一緒の大学に行きたい…。今更何言ってるのって思うよね。ゴメンね。前に、潤くんに相談をしてって怒ったけど、わ、私の方が、相談、出来てなかったね…。」
「ううん。大丈夫。…ずっと、そう思っていたの?」
「…うん。でも、潤くんがね、CiRCLEで働くのは私と暮らす為って聞いて、言い辛くなっちゃってね…。でも、私との生活の為に働くって聞いて嬉しかったのは本当なんだよ?」
りみは言い終わると、また涙を一筋、流した。
「…こっちこそゴメン。」
そんな、りみの涙を見た潤は、不甲斐なさから、苦虫を噛み潰したような表情で言った。
「潤くんは悪くないよ。私が言わなかったのがいけなかったから。」
「ううん。そんな事ないよ。今回、進路を決めるときに、りみの気持ちをちゃんと聞いてなかったよ。本当にゴメン。りみが本気で一緒の大学に行きたいなんて、微塵も思ってなかったよ。勉強が出来ないから、りみと同じ学校に行くのは無理って思い込んでたよ。なんの努力もせずに…。」
潤はそう言うと、立ち上がり、りみに向かって頭を下げた。
「じ、潤くん!頭を上げて!?潤くんが働くって決めたのも私の為なのにワガママ言ってゴメンね。私の勝手なワガママだから…。」
「ううん。もう1度、しっかり考えてみるよ。大学に行くのも、行って損は無いわけだし。」
潤はりみを落ち着かせる為に、ニコッと笑って言った。しかし、潤の心の中は、激しく揺れるのであった。
「(りみと同じ大学…。行くとしたら死ぬ気で勉強しないと…。でも、今回のライブで、CiRCLEで働きたいって気持ちも強くなっちゃったし…。)」
潤はりみにバレないように「はぁ。」とため息をつくのであった。
さて、やっとライブパートが、終わりました。
今まで、楽しかったなぁ…笑
ここからは本格的に「進路」のお話しになります。
2人はどのように決断するのでしょうか。
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