りみはスマホを見ながら、ため息をついた。
「私…。何やってるんだろ…。色々な人に…迷惑…かけちゃってる…よね。」
横ですーすーと規則正しい寝息を立てている潤を横目にりみは目に涙を溜めていた。
「と、取りあえず…。返信しよ…。」
りみはスマホをギュッと握ると、ゆっくりと文字を打ち出した。有咲に返信する為である。有咲が送信してから2時間ほど経っていた。
“返信遅れてごめんね。
今から、沙綾ちゃんにLINEするね。”
送信ボタンを押して直ぐに、りみは沙綾にLINEを送る為に文章を打った。
“沙綾ちゃん、ごめんね。
心配してくれて言ってくれたのに、あんな態度しちゃって…。
潤くんに何て言って良いか、分からなくて…。
でも、このまま、黙っていられないから、今日、ちゃんと潤くんに伝えます。”
りみは文が正しいか読み直し、送信ボタンを押した。りみの送信した文には直ぐに既読がつき、沙綾から返信が届いた。
“私の方こそ言い過ぎたよ。
ごめん。
りみ、無理してない?
もし、考えが纏まらないなら、今日じゃなくても良いんじゃない?”
“沙綾ちゃんは悪くないよ。
悪いのは中途半端にしちゃってる私だから。
大丈夫だよ。
ありがとうね。
これからもよろしくね?”
沙綾からのLINEにまた、りみが返信をする。りみは考える為に、スマホの電源をそっと落とした。
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「…はぁ~。」
「大丈夫だったか?」
りみからの返事を受け取った沙綾は深いため息をついた。スマホを置いた沙綾を見て、有咲は声をかけた。
「…うん。…多分。」
「煮え切らない返事だな。」
「りみりん、今日、潤君に言うみたい。」
「…そっか。」
再び、不安な表情を浮かべる沙綾に、有咲は「はぁ。」とため息をついた。
「沙綾、気持ちは分かるけど、おめーがそんなに心配してもしょうがないだろ?」
「そ、そうだけど…。」
「あとは2人次第だよ。しかし…。なかなか難解な問題だな。」
有咲は机に肘をつきながら言った。
「有咲はどうする?」
「…何が?」
「りみりんが潤君を選んだら…。」
「さぁな。」
「有咲?ちゃんと考えてるの!?」
中途半端な有咲の台詞に、沙綾は持っていたクッションを更にギュッと掴みながら言った。
「…何も考えてない訳じゃない。私だって、この5人で、バンドを続けたいと思ってる。でも、こればっかりはりみ次第だろ?」
「…でも!」
「沙綾の気持ちも分かるよ。前のバンドと重ねてるんだろ?でも、仮に、沙綾。沙綾がりみの立場になった時…。沙綾ならどうするんだ?」
有咲は優しく、慈愛に満ちた表情で沙綾に語りかけた。
「……私は…。分からない…。」
「だろ?私も分からない。まぁ、好きな男なんて、出来た事ないけどな。だから、りみの返事を待とう。りみの返事を聞いてから考えても遅くないって。」
「…うん。…だね。ところで有咲?」
有咲の話を聞いて、スッキリしたのか、沙綾はニヤリと笑いながら言った。
「…なんだ?」
「さっきの慈愛に満ちた表情…。ぷっ。あはは!有咲、あんな表情が出来たの?」
お腹を抱えながら笑う沙綾に、有咲は顔を真っ赤にした。
「さ、沙綾!て、てめー!も、もう2度と話聞いてやらねー!」
「可愛かったよ?」
「!!絶対に話聞いてやらねー!」
有咲の絶叫が沙綾の部屋だけでは無く、やまぶきベーカリーに響いた。
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りみが潤を無理矢理、連れて帰った時は日差しが降り注いでいたが、昼が過ぎ、夕方に近づく頃には厚い雲が覆っていた。そんな空をりみは見ながら「(雨…。降るのかな?)」と考えていた。潤にあの事を言う!と決心したりみであったが、なかなか目覚めない潤に、その決心は鈍りそうになっていた。
「はぁ。」
と今日何回目か分からないため息をつく。
「…ちゃんと…言える…かな。」
「…何が?」
「きゃっ!」
りみは小さく呟いたが、潤の眠りがたまたま浅かった為、起きてしまった。その声に驚き、りみは小さく悲鳴をあげた。
「ご、ごめん。びっくりさせちゃった。」
「う、ううん。だ、大丈夫…だよ?」
苦笑いを浮かべながらりみは手をパタパタと振りながら言った。
「よく寝たよ。…りみ、ありがとうね。心配かけてごめん。これからは無理しないように勉強頑張るから。」
「…潤くん…。その事…なんだけど…。」
「ん?」
歯切れが悪いりみに潤は身体を起こしながら首を傾げた。りみの表情は今にも泣きそうな表情だった。
「あ、あ、あのね?…じ、実はね…。で、デビューしないかって言われたの…。」
「ん?どういう事?」
「あのね…。や、野外でしたガールズバンドパーティーを見たスカウトの方から、う、うちでデビューしないかって…。い、言われたの…。」
「…マジ?え?プロになるって事?」
驚きの表情を浮かべた潤…。いや、本当に驚いているのだが、だんだんと、嬉しさから笑顔になっていた。
「凄いじゃん!おめでとう!え?いつデビューするの!?」
りみの手を握り、ブンブン振りながら潤は言った。本当に嬉しいのか、りみが今まで見た中で1番と言っても良いくらい嬉しそうであった。しかし、りみの表情は潤とは正反対で、暗いままであった。
「…あれ?りみ?嬉しく…ないの?」
「う、ううん!そ、そんな事ないよ!」
焦るように引き攣った笑顔をりみはした。そんな笑顔をしたら「何かあるよ。」と言っているような物だった。
「隠し事はなし…。だったよね。まぁ、僕が言えた口じゃないけど…。」
「…そうだ…ね。じ、じ、実はね。デビューの話が来た時にね…。向こうの方と色々、お話ししてね…。その中で…。彼氏がいるか聞かれたの…。」
「へ?う、うん。そ、それで?」
「う、うん。わ、私、正直にいますって言ったら…。大丈夫ですか?って…。言われて…。」
りみは言葉を詰まらせながら言った。外はいつの間にか、大粒の雨が窓に打ち付けていた。
「…何が大丈夫なの?」
「た、多分…。彼氏がいたら…マズいみたいで…。わ、別れて欲しそう…だった…。」
「…そっか…。それで…。言いにくそうにしてたんだね。」
りみは下を向いたまま「うん。」と頷く。涙を我慢しているりみに、潤は「(さて…。どうしたものか…。)」と考えていた。右足は細かく震えていた。つまりは貧乏ゆすりを無意識のうちにしていた。冷静に考えているつもりの潤だが、行動からみるに焦っている様子だった。
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「帰れなくなっちゃったね。」
「だな。沙綾ごめん。暫く、雨が止むまで待たせて。通り雨みたいだから。」
沙綾はニコッと笑い、「もちろん。」と言うとレースカーテンを開け、外を見た。ニュースで言うゲリラ豪雨とはこの事か、強烈な雨が降っており、遠くからは「ゴロゴロ」と小さく雷の音も聞こえていた。先程から降っては止み、また降っては止みを繰り返していたが、急に雨雲がやる気を出したのか、比べものにならない雨が降っていた。「(凄いなぁ…。)」と沙綾が眺めていると、この雨の中、傘も差さずに歩いている人物を見つけた。
「あれ?傘も差さずに歩いている人がいる。」
「朝は晴れてたもんな。傘、忘れた人多いだろ。現に私も持ってねぇし。」
「だね。でも、歩いているんだよね…。大丈夫かな?」
「びしょ濡れになったから諦めて歩いてるんだろ?雨宿りしても、意味がないくらい濡れたら私も早く帰る方を選ぶぞ?」
「いや…。そうじゃなくて…。あれって…!」
沙綾は段々と、語尾を強くしながら叫ぶと、慌てて、自室から出て行った。
「さ、沙綾?どうした!?」
有咲が叫ぶも、すでに沙綾の姿は無く、慌てて追いかけて行った。
「りみりん!?」
外に出た沙綾は雨で声が掻き消されないように精一杯叫んだ。呼ばれたりみは立ち止まると、ゆっくり沙綾の方を見た。
「…あっ。沙綾ちゃん。さっきはごめんね。どうしたの?」
「ど、どうしたのはこっちの台詞だよ!りみりん!早く入って!」
「…大丈夫だよ。ちょっと濡れただけだから。」
りみは力無く、ニコッと笑うと、再び歩こうと前を向いた。しかし、沙綾がそんな事を許すはずも無く、無理矢理、りみの腕を掴むと、やまぶきベーカリーの中にりみを押し込んだ。
「りみ!?どうした!?びしょ濡れじゃん!」
沙綾に追いついた有咲はりみを見て、驚いていた。髪や服からは水滴が落ち、服も可愛らしい花柄のワンピースがピッタリとりみにくっついていた。
「あ!有咲ちゃん。LINEありがとうね。」
「お、おう。…じゃなくて!りみ?どうしたんだ!」
「…何も無いよ?傘、忘れただけだよ?」
「そんな訳あるかっ!」
有咲が叫ぶと、りみの頭にふわりとタオルが乗った。沙綾が持ってきた物だった。
「りみりん。とりあえず、拭いて?お風呂、準備するから入って!風邪ひいちゃうよ?」
「大丈夫だよ。ありがとう沙綾ちゃん。拭いたら帰るから…。」
「ダメ!良いから入って!」
沙綾の剣幕に押されたりみはコクッと頷き、沙綾の後ろに着いていった。
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「…やっぱり…。一宮さんと何かあったんだよな…。それしか無いよな…。」
「うん…。デビューの事、言ったんだよね。…別れちゃったの…かな?」
りみの入浴中、再び、沙綾の自室に戻った沙綾と有咲はまるで葬式に参列したような雰囲気で話していた。びしょ濡れになりながらも明るく話すりみに2人はかなり違和感を持っていた。それから数十分後、髪を今度はお湯で濡らしたりみが沙綾の部屋にチョココロネを大量に持って入ってきた。
「沙綾ちゃん。お風呂ありがとうね。着替えもありがとう。」
「う、うん。そのチョココロネ、どうしたの?」
「ふぇ?食べたかったから買ったんだよ?」
当たり前のようにりみが言うと、早速紙袋からチョココロネを出し、「ハムッ」と食べ始めた。
「チョココロネおいひぃ~。」
幸せそうな表情を浮かべながらさらに1口、チョココロネを咀嚼した。
「…おいひぃ。…ぐすっ。おい…しいよ…。ぐすっ…。」
幸せそうな表情で食べていたはずが突然、泣き出したりみに沙綾と有咲は驚いていた。
「りみりん!?」
「り、りみ!?ど、どうした!?」
「ぐすっ…。沙綾ちゃん…。有咲ちゃん…!」
りみは立ち上がると2人に向かって抱きつき、子供のようにわんわん泣いていた。
「りみ?何があったんだ?一宮さんに話したんだろ?」
りみの背中を有咲が擦りながら優しく言った。しかし、りみはわんわん泣いていた為、返事が出来なかった。
「有咲?」
「うん…。泣き止むまで待つか…。」
2人は心配そうにりみを見ながら言うであった。
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紗夜は潤の部屋を訪れていた。紗夜が潤の部屋に来たのは偶然で、たまたま近くまで来たから勉強の調子を聞く為に来たのであった。
「…来たのは良いですが…。」
潤の部屋で立ちすくむ紗夜。部屋の主である潤は布団にくるまっていた。
「潤さん?寝ているのですか?」
「…寝てないです。」
布団の上から声をかけた紗夜に潤は返事をしたが、布団から出る事は無かった。
「…勉強はどうしましたか?」
「紗夜姉さん…。申し訳ありませんが…。もう、勉強は大丈夫です。…する必要が無くなりました。」
「何を言っているのですか?」
紗夜は布団を掴むと、バサッと布団を剥ぎ取った。しかし、紗夜は潤の姿を見るとギョッとした。あまり表情に出ない紗夜が驚いた表情を見せる。
「…紗夜姉さん。布団を返して下さい。」
「潤さん…。その顔…。」
紗夜は潤の顔を見て驚いたのであった。潤の顔は泣き腫らしており、目が開いているのか閉じているのか分からないほどだった。
「…紗夜姉さん。毎朝、付き合ってくれてありがとうございました。でも、もう本当に大丈夫なので…。」
「そ、それは構いませんが…。何があったのですか?長い付き合いですが、そんな顔は初めて見ましたよ?」
紗夜は心配そうな表情を浮かべたまま、ベットに腰掛けた。
「…なんでもありません。」
「説得力がありませんが…。今の潤さんの姿を見ていると数年前の秋帆さんが亡くなった時に重なりますよ。そんな姿なのに、はいそうですか。と言えませんよ。話して下さい。」
「…りみと…別れました。」
潤がボソッと呟くように言った。目からは一筋の涙が流れていた。潤の呟きを聞き、紗夜は絶句し、口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。
遅くなってすみませんでした。
R18に力を入れすぎました。
不定期更新なので、次がいつなるか分かりませんが、よろしくお願いします。
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