日常の中にチョコより甘い香りを   作:ぴぽ

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8話

「落ち着いたか?」

有咲がりみの背中を撫でながら言った。

「…うん。ご、ごめん…ね?」

グスッと鼻を鳴らしながら言うりみに、沙綾と有咲は顔を見合わせた。

「ねぇ、りみりん?何があったの?」

「…別れちゃった。」

「…マジか…。」

りみが呟くようにして言うと、有咲が額に手を当てながら言った。

「どうして、別れちゃったの?やっぱりあの話?」

「…うん。デビューするなら別れないといけない…。どうしようって相談したの…。そしたらお互い、言い合いになっちゃって…。グスッ。」

落ち着いたと思っていたりみだったが、話している内に、再び涙を流した。そんなりみを見て沙綾と有咲はどんな言葉をかけたら良いか分からなくっていた。

「…あんな事、言うつもり、無かったのに…。別れたくなかったのに…。」

泣きながら言うりみに、沙綾はりみに近づくと「ぎゅっ」と抱き締めた。

「りみりん…。りみりんはどうしたかったの?潤くんと付き合ってデビューを諦めるつもりだったの?」

「ううん。デビューも、もちろんしたかった…よ。でも、潤くんとも別れたくなくて…。私、どうしたら良いか、分からなくなって…。」

りみは視線を下に向けながら言った。

「りみ…。これからどうするつもりだ?」

「あ、有咲ちゃん…。う~ん…。何も考えてない…よ?」

「まぁ、そうだよな。よし。りみ。行くぞ。」

「え?有咲?行くってどこに?まだ雨降ってるよ?」

沙綾は外を見ると、先程のバケツをひっくり返したような雨よりはマシになっていたが、まだシトシトと降り続いていた。

「…走ったらなんとかなるんじゃねぇ?りみ。とにかく、蔵まで行くぞ?良いな?」

「ふぇ?う、うん。蔵で何するの?」

「蔵って言ったら1つしかねぇだろ?思いっきり、気が済むまでベースを弾こう。私も付き合うから。」

有咲はりみの肩を掴むと真っ直ぐ目を見て言った。

「…2人が行くなら私も行くよ。」

「…沙綾ちゃん。…でも…良いの?今からって迷惑じゃない?」

「りみはそんな事、気にするな。大丈夫。今は全て忘れて、演奏しよう。」

有咲はニカッと笑いながら言った。

「そうだ!香澄とおたえも呼ぼうよ!」

沙綾もニコッと笑うと、スマホを取り出し、LINEをタップしていた。

「2人とも…ごめんね。私がこんなんだから。」

「だから、気にするな!ほら行くぞ?蔵まで走らないと行けないんだからな?」

「有咲?その前にりみの家に寄らなきゃ。」

「は?なんでだ?」

キョトンとする有咲に、沙綾は苦笑いをした。

「あ、有咲ちゃん。ありがとうね。べ、ベース、家にあるから…寄っていい…かな?」

涙はまだ溜まっていたが、なんとか笑顔を作りながらりみは言った。有咲はりみに言われるまで、肝心のベースが何処にあるか気付かず、赤面するのであった。

 

─────────────────────

一方、その頃、潤の家では、紗夜が潤に尋問を行っている最中であった。それも、紗夜の提案で、潤の部屋からリビングに移動していた。

「えっと、紗夜姉さん?なんで、部屋じゃダメだったの?」

「あんな辛気臭い部屋じゃ気分が落ち込むだけです。リビングの方が明るいので、少しは気分転換になりますよ。…はい。コーヒーです。」

「あ、ありがとうございます。」

潤は紗夜からコーヒーを受け取ると、1口、口に含ませた。コーヒーの香りが潤の鼻を一気に抜けて行った。

「…はぁ。」

「さて、潤さん。なぜ、牛込さんと別れることになったんですか?」

紗夜は体勢を直すと、背筋をピンと伸ばした。手にはスマホが握られていた。

「…言い合いになったからです。」

「それではざっくり過ぎます。もっと詳しくお願いします。」

「ですよね…。りみが、Poppin`Partyがデビューすることになったみたいなんです。」

「…それは本当ですか?」

潤がため息をつきながら言うと、紗夜は驚きの表情で潤を見た。

「はい。それで…。そのスカウトした方が、Poppin`Partyの皆に、彼氏はいるかと聞いたらしくて、りみはあんな性格なんで、素直に言ったらしく…。そしたら、大丈夫なのか…と言われたらしいです。」

「なるほど…。それで、牛込さんは潤さんを取るかPoppin`Partyを取るか…ってなった訳ですね。それで、結果、Poppin`Partyを選んだ…という解釈で合ってますか?」

紗夜は引き続き、スマホを握り、文章を打ちながら話した。

「あっ。ちょっと違います。確かに、最終的にはPoppin`Partyを選びましたが…。りみ、僕にその話をするまで、凄く悩んでいたらしくて…。僕に話しをするときも…。どうしよう…。みたいな感じだったんです。」

潤は「はぁ。」と再び、ため息をついた。表情には後悔を読み取る事が出来た。

「そうですか…。なんとなくですが、想像は出来ます。…確かに、別れるには充分な理由ですね。」

「紗夜姉さん?」

「いえ。くだらない理由で別れたなら潤さんを引っぱたくつもりでした。」

ニコッと笑いながら言う紗夜に潤は苦笑いをした。

「勘弁して下さいよ…。ところで、さっきから何しているんですか?ずっとスマホを弄ってますが…。」

「メモをしてます。」

「なんの?」

「この会話です。後から振り返る事もあるかと思いましたので…。」

紗夜は当たり前のように言った。そんな紗夜に潤は頭を抱え「(真面目過ぎる…。)」と思うのであった。

 

─────────────────────

夏真っ盛りであるが、白夜でもない限り21時にもなれば辺りは真っ暗になる。住宅街ではそれは顕著になり、外灯と家から漏れる明かりが無ければ、歩くのも恐いくらい真っ暗になるであろう。

「(潤くんの…馬鹿ー!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!)」

りみはそう思いながらベースをかき鳴らしていた。いつもは縁の下の力持ちを表すかのように、他のメンバーのリズムをドラムと共に支えているのであるが、この日は違い、りみのベースに全員が引っ張られていた。かと言って、別にりみのベースが走っている訳では無い。正確に力強いベースの音色は「私に付いてきて!妥協したら許さない!」と言っているかのようで、他のメンバーはタジタジになりながら付いていっていた。普段ならあり得ない事である。

「り、りみりん!ち、ちょっと休もうよ?」

香澄は膝に手をつくと、はぁはぁと肩で息をした。ボーカルを務める、彼女の声は少しだけ掠れていた。

「だね。もう、3時間ぶっ通しでやってるし…。私も手の感覚が無くなってきたよ。」

沙綾も手をブラブラと揺らしながら言った。

「み、みんなごめんね?わ、私の為に…。」

「りみりん!大丈夫だよ!練習出来て私、楽しいよ?…ねぇ、りみりん。なんで別れちゃったの?」

香澄がりみを抱き締めながら言うと、りみは立ち止まった。

「ば、馬鹿!香澄!」

「え?」

香澄の発言の後、慌てて、有咲が叫ぶも時既に遅く、りみの目からは大粒の涙が零れていた。

「り、りみりん!?」

「はぁ~。せっかく少し元気出たかと思ったのに…。香澄!」

「あ、有咲!ご、ごめん!りみりんもごめんね…。」

「ううん。うちは…大丈夫。…こっちこそ…ごめんね。」

りみはなんとか言葉にしたが、限界だったのかその場にペタリと座ってしまった。

「…りみは潤くんと別れたかったの?」

おたえはギターを置くと、首を傾げながら言った。

「おたえ…ちゃん?」

「どうなの?」

「ちょ、ちょっと待っておたえ!今はそんな話いいじゃん!」

「ねえ、りみ?どうなの?」

沙綾がおたえを止めようとしたが、そんな沙綾を無視し、元々、大きな瞳を更に大きくし、りみをのぞき込むようにおたえは言った。

「…別れたくなかったよ。別れたくない!大好きに決まってるよ!でも…。もう…。」

おたえの発言にりみはキッと睨みながら言ったが、最後は声を窄めた。

「そんなに好きなのに諦めちゃうの?」

表情が変わらないままおたえは立ち上がりながら言った。

「…だって…。もう…。別れちゃったし…。」

「潤くんも諦めてるのかな?」

「へ?」

「私ならオッちゃんに嫌われても、私は諦めずにモフモフするよ?また好きになって貰えるまで諦めないよ?」

「いや。ウサギと一緒にすんなし。」

有咲が「はぁ。」とため息をつきながら言った。

「一緒だよ。好きって事には変わらないよ。」

おたえは有咲にそう言うと、再び、りみの方を向き、長い黒髪を掻き上げながらしゃがむと「ねぇ?りみ?諦める?」とりみの耳元で呟いた。

「…諦めたくない…。でも、潤くんと付き合ってたらデビューも…。」

「デビューもする!」

りみの発言を遮り、香澄が大声で叫んだ。他のメンバーがキョトンとする中、香澄は更に言葉を続けた。

「デビューする!また皆とキラキラドキドキしたい!でも、りみりんがちゃんとスッキリした気持ちで、ベースを弾かないとキラキラドキドキなんて出来ないよ!だから、デビューもするし、りみりんの交際も許して貰う!」

香澄も涙をポロポロと流しながら叫んだ。

「どうやってするんだよ。」

有咲が呆れた目で香澄を見ながら言った。

「それは今から考える!」

そんな有咲を無視するように、香澄はまた叫んだ。

「良いね!香澄!それすっごく良い!」

目をキラキラさせながらおたえが言うと、香澄は「おたえー!」と言いながら抱きついていた。

「…だね。それが1番だね!私も協力する!」

「はぁ!?沙綾まで?マジか…。あぁ!もう!私も協力する!どうなっても知らねー!」

沙綾がニコッと笑いながら言うと、有咲も髪をぐしゃぐしゃと掻きむしりながら言った。そして有咲は未だに、ペタンと座り込むりみの方を向き、叫んだ。

「りみ!私達の考えはこうだ!りみはどうするんだ!?」

「有咲ちゃん…。沙綾ちゃん…。おたえちゃん。香澄ちゃん!」

りみが涙をまた溜めながら、他のメンバーの

名前を叫ぶと立ち上がり、飛ぶようにメンバーの輪に入った。

「りみりん!頑張ろうね?」

香澄がそう言うと、りみは涙を沢山流しながら「うん!」と笑顔を作って言った。

「りみ。泣きながら笑ってる。変な顔だ。」

「ち、ちょっと…!「パシャ」お、おたえちゃん!?」

おたえの発言にりみは抗議するが、その前に変な顔と言われた表情をスマホのカメラで撮っていた。

「お、おたえちゃん!?け、け、消して…ね?」

りみは慌てながら言うが、おたえは分かっているか分かっていないのか、りみには理解出来なかった。

 

─────────────────────

「母さん?」

「…。」

潤の家では夕飯になっていた。しかし、潤の問いかけに母親である麻里に無視されていた。ちなみにだが、りみと別れた事を報告してからだった。

「母さんって。」

「…。」

「母さん!」

「…良いから食べなさい。」

麻里は黙々と食べていたが、潤を睨みながら言った。ちなみに、今日の夕飯は肉じゃがである。

「…全く。…あまり食欲無いけど…。」

潤は箸を掴むと、よく煮込まれたジャガイモも撮み、口に放り込んだ。

「あ、甘っ!!」

潤は立ち上がると、お茶を一気に飲んだ。

「って!これ。お茶じゃない!はぁ?めんつゆ?って、母さん!?」

「うるさい。私のりみちゃんと勝手に別れて。」

騒ぐ潤に麻里は冷ややかに言った。潤はこんなに怒った母親を初めて見ていた。

「わ、私のりみちゃんって!一応、ショック受けているのは俺だよっ!」

机をバンと叩きながら潤は言った。

「だから…。うるさいって言ってるでしょ!?黙って食べなさい馬鹿息子!!」

「食べれる訳ないじゃん!これ、めっちゃ甘いんだよ?砂糖食べてると思ったよ!」

潤が麻里に掴みかからんくらいの勢いで叫ぶとずっと側で聞いていた紗夜はため息をついた。

「2人とも落ち着いて下さい。潤さんもイライラするのは分かります。でも落ち着いて下さい。麻里さん。大人気ないですよ?」

紗夜の発言を聞き、潤はゆっくりと椅子に座り、麻里は再び食べ始めた。しばらくは食器が箸に当たる音しか聞こえていなかったが、唐突に麻里が口を開いた。

「馬鹿息子?」

「…もう突っ込まないよ?…なに?」

「りみちゃんの事はもう良いの?」

「…良くない。けど、デビューする為には僕は邪魔だから。」

潤はかなり甘い味付けの肉じゃがを顔を顰めながら食べていた。

「はぁ。だから馬鹿息子なのよね。」

麻里は呆れながらため息をついた。

「…どういう事?」

「紗夜ちゃんから話を聞いたけど。…りみちゃんって、スカウトの人にハッキリと付き合ったらダメって言われたの?」

「…うん?いや。言われてない…かな?でも、付き合っている人がいるって言ったらかなり嫌そうな顔をしたって。」

潤はりみの発言を思い出していた。確かに、麻里の言う通り、「交際禁止」とは言ってはいなかった。

「ここまで言われて気付かない?」

「潤さん。私も分かりましたよ。」

「えっと。つまり、交際禁止とは言われてないから…。付き合ってても大丈夫じゃないかって事?」

潤がそう言うと、麻里は「そう言う事。」と箸の先を潤に向けながら言った。

「本当にそうかな?」

と潤がそう言うと、潤のスマホがLINEの着信を知らせた。

「牛込さんですか?」

「いえ。花園さんからです…。あっははは!」

潤は普段、滅多にLINEが届かないおたえからのLINEに警戒しながら開くと、急に笑い出した。麻里と紗夜が怪訝そうな表情で潤を見た。潤はスマホの画面を2人に向けた。それを見た2人も「ふふっ。」と笑った。画面には笑っているのか泣いているのか分からない変な表情になったりみが映っているのだった。

 




お待たせしました。
Twitterや感想で続きが気になるとおしゃって頂けて嬉しかったです!
さて、これからはどうなるのでしょうか。
楽しみにしてて下さいね?

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