日常の中にチョコより甘い香りを   作:ぴぽ

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12話

ビルが建ち並ぶオフィス街。潤とりみはある1つのビルの前に立っていた。

「…これ?」

「そうだよ。」

潤は上に視線を向けたが、ビルの入り口の前からはビルの上部は見えなかった。

「…何階まであるの?」

「知らないよ。でも、エレベーターのボタンは35まであったよ。私も初めて来た時はびっくりしたよ。」

その時の事を思い出しているのかりみは苦笑いしながら言った。

「とりあえず、中に入ろうか。」

「う、うん。うぅ…。緊張してきたよ…。」

「僕も…だよ。」

潤はそう言うと、震える手で、更に震えているりみの手を掴んだ。

「だ、大丈夫。な、な、なんとかなるよ!」

「潤くん…。説得力がない…よ?」

「へ?」

「…ふふっ。なんか潤くん見てたら緊張解けてきたかな?」

りみは微笑むと、潤の手をしっかりと握った。潤は「なんで?」と言ったが、りみは答えず潤の手を引っ張って、中に入って行った。

「すご…。」

潤がビルの中に入った一言目はこれであった。天井は高く、4階までは吹き抜けになっており、忙しそうに働く男女の姿が見えた。

「ま、まずは…何処に行けば…。」

潤は無駄にだだっ広いロビーをキョロキョロしながら見ていた。流石は芸能事務所、壁の一面は様々なポスターやパネルなどが飾られていた。

「潤くん。アポはとってあるから、受け付けに言えば大丈夫なはずだよ?」

「そ、そ、そっか!な、な、なら、受け付けに行こうか。」

潤はそう言うと、歩き出した。

「じ、潤くん!そっちじゃないよ!?ぎ、逆だよ?」

「へ?」

「じ、潤くん、落ち着いて?」

りみが潤の腕を掴んで言うと、潤はその場で深呼吸をした。

「よ、よ、よよよし!し、し、深呼吸したら落ち、落ち着いたよ!」

潤は目を泳がせながら言った。手はさっきよりもガタガタと震えていた。

「き、緊張しすぎだよ…。ほ、本当に大丈夫?」

「う、うん。…りみは凄いね。…緊張してたよね?」

「わ、私?き、緊張してるよ?で、でも、ちゃんとお話ししなきゃ、私達の事、伝わらないから…。ポピパの皆の為にも、私達の為にもしっかりしなきゃって、思ってるだけだよ。」

りみは潤を真っ直ぐ見ながら言った。潤に初めて会った時のオドオドした姿は今のりみからは想像が出来ないほど、しっかりとした口調であった。

「そ、そうだよね…。よ、よし!」

潤は自分の頬を両手で「パン!」と叩き、気合いを入れた。先程の泳ぎまくっていた目とは違い、気合いが込められた目つきになっていた。しかし、気合いを入れる為に叩いた頬の「パン!」という音が思ったよりもロビーに響き、その場にいた人の注目を浴びてしまった事に気付いた潤は体を小さくした。

「(本当に…大丈夫…だよね?)」

そんな姿の潤を見て、りみは苦笑いを浮かべた。

 

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「すみません。牛込りみです…。神楽坂さんにアポをとっているのですが…。」

「はい。承っております。少々、お待ち下さい。」

受け付けまで、やっと辿り着いた2人。りみがスラッとした美人の受け付けの女性とやりとりをしていた。りみの要件を聞いた受け付けの女性は電話をかけ始めていた。

「(…美人…だなぁ。)」

「潤くん?…鼻の下伸びてるけど。」

「ふぇ!?」

りみがニッコリ笑いながら潤に言うと潤は焦ったように鼻の下を手で隠した。

「お待たせしまし…ふふっ。」

電話、恐らくは内線をかけたのであろう、受け付けの女性は潤とりみを見て微笑んだ。潤とりみは微笑まれた意味が分からず、受け付けの女性を見たまま「うん?」と不思議そうな表情を浮かべた。

「可愛いカップルね!」

「ふぇ?」

まさかの発言であったのか、りみは顔をさっと赤く染めていた。潤は恥ずかしそうに頬をポリポリと指先で掻いていた。

「申し訳ございません。つい、入らぬ事を言ってしまいました。神楽坂は6階で待っているとのことなので、左手にあるエレベーターでお上がり下さい。これは、許可証なので、首からぶら下げて下さい。お帰りの際にはお手数ですが、許可証の方をこの受け付けまでご返却下さい。」

終始、ニコニコしながら説明を受けた潤とりみは腑に落ちないままお礼を言うと、エレベーターに向かった。

「か、可愛いカップルって言われちゃったけど…なんでだろ?」

りみは首を傾げながら言った。

「多分…だけど、付き合いたてのカップルに見えたんじゃないかな?」

「へ?な、なんで?」

「さぁ?」

潤は肩を竦めながら言った。気付けばエレベーターの前に立っており、潤は先程よりは収まってはいたが、震える指で三角が上を向いているボタンを押した。

「りみは…と言うよりはPoppin`Partyって凄いね。」

「き、急にどうしたの?」

「いや、こんな大きな事務所からスカウトをされるなんて、凄いなぁって改めて思っただけだよ。僕は凄い人達のライブに色々参加出来ていたんだなぁ…。誇りに思うよ。」

「や、止めてよ!うぅ…。恥ずかしいよぉ…。」

りみが恥ずかしさから俯くと、「1階です。」と温かみが感じられない無機質な声と共に、エレベーターの扉が開いた。潤とりみは無言のままそのエレベーターに乗り込んだ。2人の緊張も高まった瞬間でもあった。

 

─────────────────────

「6階です。」

再び、無機質なアナウンスが響くと、扉が開いた。中は潤とりみしか乗っておらず、何処にも止まらなかった為、6階まではだいたい18秒くらいで着いてしまっていた。その短い時間で心の準備が出来るはずもなく、2人はエレベーターの扉が開いた瞬間に「ふぅ。」と息をついた。2人とも緊張を押さえようとしていた。

「りみちゃん!こんにちは!今日も可愛いね!」

「きゃっ!」

しかし、エレベーターから一歩出た瞬間に声をかけられ、りみはビクッと体を震わせていた。

「ゴメンね~?そんなに驚くとは思わなかったよ。」

りみに声をかけた女性は「あはは!」と笑いながら言った。

「か、神楽坂さん…。ひ、びっくりした~…。あっ!こ、こんにちは!」

「へ?女性だったの!?」

りみに挨拶をした女性こそ、Poppin`Partyをスカウトした人物だった。

「一宮君だったよね?初めまして!Poppin`Partyをスカウトした神楽坂ひとみと言います。よろしくね?あっ!これ名刺ね?りみちゃんから女の人とか聞いてなかった?」

名刺を渡された潤は両手で受け取ると「(よく喋る人だなぁ。)」と思っていた。

「す、すみません。りみと交際をさせて頂いております。一宮潤です。何も聞いていなかったもので…すみません。」

潤は頭を下げると、こちらもと名刺を出した。CiRCLEで受け付けや、営業みたいな事もする潤はオーナーより「一応」と名刺を作って貰っていた。まさかこんな場面で渡すことになるとは思ってはいなかったが…。

「ご丁寧にありがとう!話しがあって来たんだよね?会議室をとってあるから行こうか?」

ひとみがニコッと笑うと、2人は頷き、ひとみの後を着いていった。

「凄いビルですね。」

「そうでしょ?建物だけは大きいのよ。」

潤は、普段から仕事で知らない人と世間話をしなくてはいけない場面があるので、その要領でひとみに話しかけていた。それを見たりみは「(さっきまで、あんなに緊張していたのに…。)」

と潤を丸い目で見つめていたのだった。

 

─────────────────────

「はい!どうぞ!」

「あ、ありがとうございます。」

会議室に入り、ひとみからコーヒーを受け取ると、2人はお礼を言いながら姿勢を正した。先程までの緊張はひとみの明るい雰囲気で緩和され、適度なちょうど良い緊張感に変わっていた。

「それで、早速なんだけど、お話しって何かな?」

ひとみは2人を交互に見ながら言った。その言葉に潤とりみはどちらが言うか迷い、見合ってしまった。しかし、りみが意を決したように頷くと口を開いた。

「あ、あ、あの!か、神楽坂さん!わ、私、潤くんの事が大好きなんです!」

「おぉ…。って、驚いちゃった。それで?」

「え、えっと、Poppin`Party皆にも、事務所にも絶対に迷惑をかけないので、交際を認めて下さいっ!お、お願いします!」

りみが目をギュッと瞑り、机に打ちそうになるくらい頭を下げた。それを見た潤も慌てて「お願いします。」と言い、頭を下げた。

「ち、ち、ちょっと待って!な、何の事?りみちゃんは何を言っているの?」

「ふぇ?」

ひとみが焦ったように手を前でパタパタと振りながら言うと、潤とりみも顔を上げて目を丸くした。

「あ、あの。りみさんからスカウトをされた時に彼氏の有無を聞かれて、りみさんがいますと答えたら、あまり良い表情をされなかったと聞いているのですが…。」

話しが全く通じない為、潤が説明をすると、今度はひとみが目を丸くした。

「そんな顔…。してた?」

「わ、私達にはそう…見えました。」

ひとみの発言にりみは恐る恐る言うと、ひとみは額に手を当て「あちゃー。」と困ったように言った。

「いや、そんなつもりは無かったよ。ただ心配しただけで…。いや、本当に申し訳ない。」

ひとみは謝罪を口にすると、潤とりみは再び見つめ合った。

「あ、あの。どういう…。」

「本当にゴメンね。いや、よくある話しでね。プロになってしまったら、デビューの前とかやっぱり忙しいからさ、なかなか会えなくなるんだよね。だから別れるカップルとかが多くて、心配してたのよ。りみちゃん大丈夫かなって。りみちゃんに心配事を増やしたくなくて、わざわざ言う事でも無いって思ってたんだけど…。詳しく言えば良かったね…。本当にゴメン!」

ひとみは胸の前で手を合わせながら言った。

「えっと…。でしたらなぜ、りみさん…いや、皆にか、彼氏の有無を聞いたのですか?」

「それはやっぱり把握しとかなきゃ。一応ね。」

ひとみの話しを聞き、りみは口をあんぐりと明けて、固まってしまっていた。

「え?私の勘違い…?」

「りみちゃん本当にゴメン!」

「私…潤くんの恋人でいられる…の?」

「当たり前だよ!アイドルじゃないんだから、そんな規定はないよ。」

ひとみはそう言うと、また「ごめん!」と謝った。

「良かった…。良かったよぉ~。」

りみは余程、安心したのか正していた姿勢を崩し、背もたれに身を預けると、ポロポロと涙を流した。

「本当に…良かった…。」

潤も空を仰ぐように上を見ると「ふぅ~。」と安堵していた。

「もう、何回も謝るけど、本当にゴメンね?…この事で喧嘩はして…ないよね?」

恐る恐るひとみが潤とりみに聞くと、2人は黙ったまま苦笑いを浮かべた。

「ほんっとうに、ごめんなさい!」

「だ、大丈夫です!か、神楽坂さん!わ、私達、ポピパの皆も勘違いしていたので…。」

「そ、そうですよ!りみさんと別れなくて大丈夫って分かっただけで、満足ですよ!」

自分より年上の大人が土下座をするような勢いで謝った為、2人は焦っていた。しかし、別れなくても大丈夫と分かり、安堵の表情も見え隠れしていた。変な勘違いをしていたせいで1度は別れてしまった2人だが、この勘違いのお陰で、2人の絆はより深いものになったのは間違いない。潤は密かにこの勘違いに感謝をするのであった。こうして、目標だった「恋愛もデビューも諦めない」は無事に達成されたのであった。

 

─────────────────────

「あっ。そうだ。神楽坂さん。」

お互いの勘違いのせいで混沌とした雰囲気になってしまった話し合いは落ち着きを取り戻しており、3人はコーヒーを飲みながら世間話をしていた。

「なぁに?」

「僕に、何か用があったのでは無いですか?確か、りみさんがアポをとった際に、僕と伺いたいと伝えたら、丁度良かったっと仰られたと聞いたのですが…。」

潤がそう言うと、ひとみは「そーだった!」と叫び、持っていたクリアファイルなら一枚、紙を出した。

「さっき、彼氏の有無を何故聞いたのかって質問したよね?その時、一応って答えたんだけど…。実はあれ、付き合っている人を調べる為…なんだよね。」

「し、調べる?な、なんの為にですか?じ、潤くんも…その、調べたのですか?」

「うん…。付き合っている方が、もし、反社会的勢力みたいな人だったら流石にマズいからさ…。だから一応、調べてるのよ。」

「なるほど…。へ?そ、それで潤くんに会いたかったって…。潤くん!ま、ま、まさかっ!」

りみがガタッと立ち上がり、潤を見ると潤は深いため息をついた。

「りみ…。僕と何年付き合ってるの?そんな訳ないじゃん。」

「そ、そ、そうだよね。」

呆れながら言う潤に、りみは苦笑いをして誤魔化した。

「話を戻して良いかな?それでね、一宮君の事を調べていったら、なんと、あの野外で行ったガールズバンドパーティーの発案者って知ったのよ。」

そこまて、ひとみは言うと、潤に先程、取り出した紙を渡した。潤は紙を受け取り、読み始めると目を見開いた。りみも横からチラッと覗いたが「企画書」という文字以外、潤の腕が邪魔で読むことは叶わなかった。

 

 

 

 

 




まさかの結末…と思って頂けますように。

あれだけ騒いだ潤とりみが別れた原因がこんなつまらないものでした。

でも、問題が起こった時に振り返ってみると、原因って下らなかったりしませんか?

僕はそういう事が多いです笑

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