日常の中にチョコより甘い香りを   作:ぴぽ

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13話

夏休みが終わり、新学期を迎え、身体のリズムが元に戻り始めた頃、潤はPoppin`Partyの練習場所である蔵を訪れていた。りみとの仲も順調そのもので、仲良く日々を過ごしていた。しかし、仲直りしてから、りみの「甘えたい」という気持ちが全面に出るようになり、所構わず甘えるようになってしまった。現に今も…。

「じゅーんくん!はい。あーん。」

りみはチョコを一粒摘まむと、横に座る潤の目の前まで持っていっていた。

「ち、ちょっと!りみ?さ、さ、流石に恥ずかしいって!」

潤がチラっと周りを見ると、りみ以外のPoppin`Partyのメンバーがソファーに座って2人を眺めていた

「…食べない…の?」

一向にチョコを食べない潤にりみは眉を下げ、目を潤ませていた。

「一宮さん…。私達の事は空気と思ってくれ。」

「りみりん!嬉しそうだね!」

「私、オッちゃんに会いたくなって来たから帰っても良い?」

「おたえ、ダメだよ。」

Poppin`Partyのメンバーがそれぞれ、思い思いの反応を見せたところで、やっとりみは我にかえっていた。

「ち、ちゃう!え、えっと…。」

りみは言い訳をしようとしたが、上手く言葉が出ず、ワタワタとするだけだった。

「はぁ。りみ。気にしなくて続けてくれ。」

有咲は足を組み、お茶をぐいっと飲むと、ため息をついた。

「有咲~!りみりんが羨ましいの?」

香澄が有咲を見ながらニヤッと笑った。その言葉に有咲は「ち、ちげー!」と叫んだ。

「りみ…。一応、バイト中だから。話しをさせてくれない?」

「…ご、ごめんね?」

潤はそう言うと、顔を真っ赤にして俯いているりみの頭をポンポンと撫でた。

「潤君?話しって何?蔵までわざわざ来て…。気になってるんだけど?」

「山吹さんすみません。では、お話しさせて下さい。…主催ライブをやりませんか?」

「やる!」

潤の問いかけに香澄はすぐに「はい!」と手を挙げて言った。

「やりたいけど…なんで?」

「そうだね。私も気になるかな。いきなりライブしませんかって。何かあったの?」

おたえと沙綾が潤の方を見て言った。しかし、表情から察するに、ライブ自体はやりたいと言った雰囲気を潤は感じ取っていた。

「訳…ですか?実は…。CiRCLEの来月の予約が何処も埋まってなくて…。」

潤は頭をポリポリと掻きながら言った。

「へぇ。そんな事もあるんだな。」

「珍しいみたいですけど…。そうなんです。なので、出演交渉に来ました。えっと…。来月主催ライブ、して頂けますか?もちろん、CiRCLE一同、協力は惜しみなくしますので。」

潤が頭をガバッと下げると、Poppin`Partyの面々は顔を見合わせた。そしてアイコンタクトを取ると、全員満面の笑みを浮かべ、「宜しくお願いします!」と声を揃えて言った。

「…良かった。」

潤はホッとしたように呟いた。

「ねぇ。潤くん?」

りみはそう言いながら潤の袖をクイッと引っ張った。

「なに?」

「このライブって、前に神楽坂さんから貰った企画書と関係あるの?」

「無いよ?」

潤が淡々と答えると、りみはムッとした表情を浮かべ、「そう。」と小さく呟いた。

 

─────────────────────

「一宮さん、悪かったな。」

りみのベース音が蔵に響く中、有咲は潤に声をかけた。

「…ん?なにかありましたっけ?」

潤は少し、考え込むも有咲に何かされた覚えもなく、クエスチョンマークを浮かべるだけだった。

「いや…。デビューの話し。私達の勘違いで迷惑かけたから。」

「あぁ。大丈夫だよ。気にしてないから。」

潤はそう答えると、りみのベース音に再び耳を傾けた。可愛らしいピンクの見た目とは裏腹に、腹に響く重低音は聞いていてとても心地よいものだった。

「一宮さん、CiRCLE戻らなくて平気なの?」

「うん。今日は蔵に来た時点で、定時過ぎてたから直帰だよ。…ごめんね。りみのベースが聞きたいなんてワガママ言っちゃって。」

潤は申し訳なさそうに言うと、有咲は手をパッと挙げ「気にするな。」と言った。ライブの話しが一段落し、りみと有咲以外のメンバーは用事があった為、帰宅していた。潤が直帰すると聞いていたりみは潤と帰ろうと支度をしようとしていたが、潤が「ベースが聞きたい」と言った為、有咲に許可を貰い、こうして特等席でりみのベースを聞いていた。

「なぁ。聞いて良いか?」

りみが一曲弾き終わったところで有咲がお茶を入れ直しながら口を開いた。

「なに?」

りみがベースを抱えながら聞くと、有咲は「うん。」とお茶を2人に出した。

「さっき、企画書みたいな話しが聞こえたんだけどさ、神楽坂さんから何か貰ったの?」

「あぁ。聞こえちゃいましたか。」

潤は笑みを零しながら答える。

「潤くん。…教えてよ…。気になって、考えちゃうの…。」

「それも聞こえたんだけどさ、りみに内緒なの?」

「りみと言うかPoppin`Partyの皆には内緒です。企画書にそう書いてましたので。」

潤がそう言うと、有咲は「そっか。」と呟き、りみはまた教えてくれないとがっかりした表情を浮かべた。

「気になるのも、がっかりするのも分かるけど…。こればっかりは教えられないから…。」

「うん…。分かってるよ。」

りみのがっかりした表情を見て、潤は困ったように言った。

「話し変わるけどさ。りみ?」

有咲は2人の会話に混ざるようにりみの方を向いた。

「な、なにかな?」

「仲直り出来て、デビューも恋愛もしても良いってなって、浮かれるのは分かるけどさ。イチャイチャする場所を考えてくれ。」

「うぅ…。有咲ちゃん、ごめんね。」

有咲の言葉に力強く潤も頷いた。

「そして、そこで頷いている一宮さん?てめーもな。」

「はい!?な、なんもしてないじゃん!」

「りみを慰めようとしたのかどうかわかんねーけど…。頭…ポンポンしてたじゃん。」

潤は自分の行動を思い出し「すみません…。」と言った。

「まっ。気持ちは分からんでもねぇよ。でも、目のやり場に困るからほどほどにな?」

有咲はニヤッと笑いながら言うと、2人は声を揃えて「ごめん。」と言うしかなかったのだった。

 

─────────────────────

それから数曲、りみのベースを堪能した潤はホクホクした気持ちでりみと帰路についていた。

「りみのベース、何回聞いても良いね!心地よいよ。」

「あ、ありがとう。改めて言われちゃうと…て、照れるよ。」

2人は手を繋いで歩いていた。潤の左手にはりみの右手が、そして左手にはスマホが握られていた。

「潤くん。スマホどうしたの?歩きスマホ危ないよ?」

「ん?あー。ごめんね。ちょっと、ね?」

潤は苦笑いしながらポケットにスマホを戻した。

「調べ物?」

「ううん。違うよ。…いい人いないかなぁって。」

「いい人?」

「うん。市ヶ谷さんに…。なんか、恋をしたがっているように見えてね。」

潤がそう言うと、りみは苦笑いを浮かべた。

「いい人、いた?」

「いなかった。」

潤は肩をすくめながら言った。そもそも有咲の好みが分からないので、探しようもないのだが。

「潤くん。聞きたいことがあるんだけど良いかな?」

「進路の事?」

「…うん。そうだよ。」

りみは自分の考えている事が潤にも伝わっているように感じ、少しだけ嬉しくなった。

「りみはさ、大学に通いながら音楽をするの?」

「多分、そうなるかな?あまりにも忙しかったら音楽に絞るけど。潤くんは?大学、私と一緒の所に行けそうかな?」

「その事なんだけどさ…。やっぱり就職しようと思う。」

「へ?」

りみは潤の発言に驚き、素っ頓狂な声を出し、足を止めた。

「…なんで?」

「りみ?」

「なんで…?なんで?なんで!?わ、私と一緒ってそんなに嫌なの!?」

りみは潤の胸に飛び込みながら言った。目には涙が貯まっており、自分自身で「泣き虫は変わらないな。」と思っていた。

「嫌な訳ないじゃん。」

「じゃぁ!なんで!」

「一緒に暮らすんだよ?やっぱりお金は必要だよ。それに、大学に行って、何がしたいのかなって思っちゃってね。」

潤はりみをゆっくりと抱き締めながら言った。

「潤くん…。」

「本当に一緒に大学は行きたいとは思ってるんだよ。」

「分かってる…。でも、大学でやりたいことを見つけても良いんじゃない?」

「そうなんだけどね…。でも、それ以上にねCiRCLEでやりたい事も見つけたんだ。」

潤はりみの肩を持ち、ゆっくりと離した。しかし、目はしっかり、りみを見ており、その目は真っ直ぐと自信に満ち溢れていた。

「…やりたい事…ってなにかな?」

「CiRCLEにはさ、Poppin`Partyみたいに夢を持って、練習したり、ライブをするバンドが沢山来るんだよ。僕はその手助けをしたい!りみ達みたいなバンドが1つでも多く出るようにしたい!」

潤は高らかに言う。目はキラキラと輝いていて本当にやりたいことなんだとりみに伝わっていた。

「…そっか。潤くん、本気…なんだね…。」

「本気だよ。りみ達と関わって、本気に強くそう思えるようになったよ。だから、ありがとうね?」

「わ、私達は何もしてないよ。」

「そんな事ないよ。戸山さんの言葉を借りるならいつでもキラキラドキドキしてたよ。」

潤はりみの手を掴むとギュッと握った。太陽はいつの間にか沈んでいて、潤が告白した時と同じように半月がポツンと顔を出していた。

「…月が綺麗…ですね?」

「はい…。本当に綺麗…ですね。」

潤が月を見ながら言うと、りみは頬を赤く染めていた。

 

─────────────────────

9月に入っても残暑は厳しく、アスファルトを溶かしそうな勢いで日差しが降り注いでいた。潤はバイトの為、CiRCLEでパソコンに向かっていた。CiRCLEの中は冷房が効いている為、快適に仕事を片付ける事ができていた。現在、潤はCiRCLEで行われるライブの計画書を作成していた。ライブの予約が全然入っておらず、Poppin`Partyにお願いをしたが、なんの因果か、その後に、ドドッとライブの予約が入ってしまったのだった。しかし、Poppin`Partyとの約束を無かったことになど出来るはずもないので、潤は密かに気合いを入れ、頑張っていた。

「潤君。」

「あっ。月島さん、お疲れ様です。」

潤の仕事が一段落し「ふぅ。」と息をついたタイミングでまりなが声をかけた。

「お疲れ様。順調…かな?」

「はい!もう少しで出来るので、完成したら確認をお願いします。」

「分かったよ~。それはそうとお客さんだよ?」

まりながCiRCLEの受け付けの方を見ながら言うと、潤は立ち上がり「ありがとうございます」と言い、向かった。

「あっ!潤君!」

「こんにちは。あれ?戸山さんだけですか?」

潤に用があり訪れていたのは香澄だった。潤が姿を現した瞬間にその特徴的な髪の尖っている部分がピクピクと動いたような錯覚を受けていた。

「(本当にネコみたいだなぁ。)」

「潤君?」

「あぁ。ごめんなさい。考え事をしてました。用っていうのは何ですか?」

潤は受け付けに立つと、柔やかに対応をした。潤の接客は年月を重ねるのと比例して良くなっており、CiRCLEを利用するバンドの間でも評判になるほどに成長をしていた。

「主催ライブのセットリストを持ってきたよ?」

香澄がカバンから一枚の紙を出すと、潤に手渡した。

「ありがとうございます!早いですね。助かります。あっ。戸山さん、丁度良かったです。後から伝えようと思っていたのですが、ライブ、来月の第2土曜日はどうですか?」

「分かった!皆に聞いてみるね!ライブ楽しみだなぁ。」

香澄はう~んと背伸びをしながらニコニコと頬を緩ませていた。そんな香澄を見ながら潤はセットリストに目を落とすと、少しだけ驚いたような表情に変わった。

「一曲目、キズナミュージックって珍しいですよね?」

潤は少しだけ考えたが、キズナミュージックは最後の方に歌っているイメージがあった。過去のライブを思い返しても最初というのは珍しかった。

「うん!ちょっと違う事がしたくてね!」

香澄は「ふふーん!」とドヤ顔で言った。

「確かに…2曲目がDreamers Goで…って、本当だ。最後にやる事が多い曲が最初に固まってますね。」

「潤君!これ、りみりんの案なんだよ!」

香澄がまた何故かドヤ顔で言うと、その顔を無視して「りみ…が?」と呟いた。

「そうなんだよ!りみりん、潤君が頑張ってるから私も頑張って考えてみたって言ってたよ!ねぇ!何があったの?」 

カウンターから身体を前に出し、飛び越えてしまいそうな勢いで香澄は言った。

「戸山さん、落ち着いて!…りみも頑張ってるなら僕も頑張らないと。」

潤は自分に言い聞かすように呟きながら言った。

「ねぇ!なんで!」

香澄はしつこく潤に聞いたが、潤はカウンターの下でグッと握りこぶしに力を入れると、カウンター横のパソコンに向かった。なかなか答えない潤を香澄は微笑みながら見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




最近、遅い夏バテか、身体がダルいです。
でも、頑張る!

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