「照明お願いします!…ありがとうございます!…手元とかどうですか!?」
潤の声がライブ会場に木霊していた。照明の確認、音源、音声の確認、受け付けへの指示など全てを行っており、大声を出す場面も多い為、潤の声は枯れていた。
「潤くん!大丈夫だよ。」
マイクを通してりみはニコッと笑いながら言うと潤もニコッと微笑み返した。
「では、リハは以上になります。本番もよろしくお願いします。」
潤はそう言うと「ふぅ。」と息をついた。
「いよいよ本番だね!潤君!」
「あっ。月島さん。お疲れさまです。」
まりなは潤に声をかけた。今までの流れで分かると思うが、今日はPoppin`Partyの主催ライブが行われる日である。
「潤君、舞台監督みたいだよ?カッコイイ!」
「月島さん!?からかうのは止めて下さい。」
「ふふっ。カッコイイのは本当だよ?本番まで気を抜かないようにね?…って言わなくても分かってるか!」
「あはは。でも、そう言われるとますます頑張ろうと思えるので、有難いですよ!…では、まだ準備がありますので、行ってきます。」
潤はニコッと笑うと、ペコッとまりなに小さくお辞儀をして駆けて行った。
「私が心配しなくても大丈夫になっちゃったか…。嬉しいような。寂しいような…。」
まりなはそっと呟くと、ステージに目を向けた。ステージにはPoppin`Partyの使用している楽器や機材が置いてあり、その全てが今から始まるライブを楽しみにしているように輝いていた。
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潤が駆け足で向かった先は誰も使用していないスタジオだった。そのスタジオの扉に近づくと、キョロキョロと辺りを見渡し、誰もいない事を確認してから、ノックをし、中に入った。
「神楽坂さん!お待たせしました。」
「全然大丈夫だよ!チラッとリハ、見させて貰ったけど、潤君凄いじゃない!高校生があんなハキハキ、リハを進めるなんてなかなか出来ないよ?」
急いだ為か、潤は少しだけ息を切らしながらスタジオに入ると、ひとみは興奮したように一気に喋った。
「いやいや。僕なんてまだまだですよ。リハがバッチリでも本番は何が起こるか分かりませんから、緊張してますよ?」
「潤君、凄く頼もしいよ!今日はポピパの皆をよろしくね?」
ひとみが右手をスッと差し出しながら言った。その手を潤は「もちろんです。」と言いながらギュッと握った。
「ところで、神楽坂さん、準備の方は?」
「もうバッチリよ!いやぁ~。ポピパの皆がどんな顔するか楽しみよ!」
「それは僕もですよ!…でも、緊張してきました…。」
潤が苦笑いを浮かべると、ひとみはケラケラと笑った。
「大丈夫だよ!潤君なら大丈夫!」
「あはは。ありがとうございます。できる限り、頑張りますね。」
潤はそう言うと、ギュッと手に力を入れ、密かに気合いを入れていた。
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ひとみと最終確認をしたのち、潤は受け付けに向かっていた。いつもは出ていない場所に机が用意されており、その上には今日のライブの案内が書かれたチラシが沢山重ねてあった。
「一宮さん。お疲れさま。」
「あぁ。市ヶ谷さん。お疲れさまです。リハ良かったですよ!ピアノの音、凄くワクワクするような音でした。」
潤がそう言うと、有咲は顔を赤くし、プイッと明後日の方向を向いた。
「べ、別にリハだし。本番でその音を出せなきゃ意味ないし。」
「市ヶ谷さんなら大丈夫ですよ。」
「わ、分かったからっ!…ビラはそれで全部なのか?」
有咲は、恥ずかしくなっているのを隠すように机の上に置いてあるチラシに目をやった。
「そうですよ。」
「このチラシ、かなり作り込まれているけど、業者に頼んだのか?」
有咲はチラシを1枚取って言った。Poppin`Partyの主催ライブとあって、チラシもチラッと見ただけでも目を引くような、華やかで明るい色合いをしていた。そして、中央にはでかでかと「Poppin`Party!」と印刷してあった。
「いえ。業者に頼んでないですよ?僕が作りました。」
「ま、マジで?一宮さん、スゲーな。」
「まぁ、何十枚とこういったチラシやポスターを作ってきたので、クオリティーが上がらなきゃダメでしょ?」
珍しく素直に褒めて有咲に、擽ったさを覚えた潤は苦笑いを浮かべながら言った。
「では。市ヶ谷さん。本番もよろしくお願いします。」
まだチラシを見て「へぇ~。」と関心したように言っている有咲に声をかけ、潤は立ち去ろうとしていた。
「あっ!一宮さん、ま、待って!」
「はい?」
「別に、チラシを見に来た訳じゃねー。一宮さんを探してたんだよ。」
有咲はチラシを置くと、潤に近づきながら言った。
「なんですか?えっと、何か不具合でもありましたか?」
「違う。そうじゃない。…りみと話したか?」
「…何をですか?」
潤は有咲に言われ、一瞬、考えたが、この数週間、他愛話か、ライブの話しかしていなかったので、有咲が何を言いたいか分かっていなかった。
「はぁ!?りみの奴、まだ話してなかったのか!?」
「えっと…。何をですか?」
「進路の話しだよ!」
「進路ですか?あれは…9月に入ってすぐくらいに話ましたよ?りみも納得して決めましたよ?」
潤は思い出しながら言った。そんな潤も見て、有咲は「はぁ~。」とため息をついた。
「りみが納得してねぇんだよ。」
「…え?」
「りみはまだ、一宮さんと一緒の大学に行きたいって言ってたぞ?私は一宮さんの学力じゃ無理って言ったけどな。」
「…そんなにハッキリ言わなくても…。まぁ、バカなのは自分自身で分かってますが。」
潤はまた苦笑いを浮かべると、有咲は慌てたように「違う!」と否定したが、その後、フォローは出来なかった。
「市ヶ谷さん、大丈夫ですよ。さっきも言いましたが、バカって言うのは分かってますから…。教えてくれて、ありがとうございます。このライブが終わったら、もう1回、りみと話し合ってみます。」
「お、おぅ。本番前で忙しいのにすまん…。後、りみは最悪、一宮さんが受からなかったらしょうがないけど、努力はして欲しいって言ってたから。」
「…分かりました。ありがとうございます。…では、本番よろしくお願いします。」
潤はペコッと頭を下げると、また駆け足で移動を始めた。潤が着けていたインカムには「ステージに来て!」と引っ切り無しに応援要請が聞こえてきていた。
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有咲は潤と話し終わった後、自動販売機で飲み物を買って楽屋に戻っていた。
「有咲?トイレ長かったね?」
「トイレじゃねぇ!いつトイレに行くって言ったんだよ!」
たえが沙綾が持ってきたやまぶきベーカリーのパンに齧り付きながら言うと、有咲は「はぁ。」とため息をつきながらドカッと椅子に座った。
「有咲ちゃん?どうしたの?体調悪い?」
「いや。悪くないよ。」
「本当に?辛くなったら言ってね?」
りみが心配そうに有咲をのぞき込みながら言った。
「…なぁ。りみ?」
「なぁに?」
「…いや、なんでもねぇ…。いや、やっぱ、言うわ。」
いつもと違う有咲の態度にりみは首を傾げながら「うん?」と言った。
「…りみ…さ。一宮さんに言ってないだろ?」
「…う、うん…。い、1度…納得したみたいな態度をとっちゃったから言いにくくて…。」
有咲の質問に、なんで言っていない事を知っているのか驚いたが、すぐに苦笑いを浮かべて言った。
「はぁ。りみは相変わらず優しすぎるな。私ならすぐ言うぞ?」
「えへへ…。ゴメンね?」
「別に怒ってる訳じゃねぇぞ?言いにくい気持ちも分かるからな。でも、言わなくて後悔するなら言った方が良いと思う。」
「う、うん。有咲ちゃん、ありがとう。」
「べ、別に。まぁ、私は同棲するなら同じ大学に行かなくても、良いと思うけどな。」
「だよね…。私ってワガママだし、欲張りだし、頑固だと思う…。」
りみは苦笑いを崩さずに言った。
「まぁ、好きな人を独り占めしたいのは普通じゃねぇのか?」
「う、うん。それにね?私ってかなり嫉妬深いみたいでね?」
「そうなのか?」
「し、し、正直ね、ポピパの皆でも、潤くんと喋っているのを見たら…ダメ…なんだよね?」
「マジか。」
りみの告白に有咲は目を丸くしながら言った。楽屋の扉の向こうでは香澄が「あっ!潤君だ!じゅーんくーん!」と叫んでいるのが聞こえた。有咲が恐る恐るりみの方を向くと、りみはニコニコと笑顔を浮かべていた。さっき、ポピパのメンバーでも嫉妬をしてしまうと話を聞いた後では、りみの笑顔が別の意味を持っている事に気付き、有咲は背筋を凍らせていた。そして心の中で
「さっき、めっちゃ一宮さんと話したわ…。りみ、ごめん。」
と思うのであった。
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「はぁ~。有咲ちゃんに言っちゃった…。」
りみはずっと隠していた気持ちを言ってしまった事を後悔しながら廊下を歩いていた。そして、ステージの脇まで来ていた。既にお客さんが入っているのか、客席の方からザワザワとした声がりみに届いていた。
「りみ?どうしたの?」
「ひゃっ!」
りみがここまで来たならと袖から客席を見ようとした時、潤に声をかけられ、ビクッと身体を震わせた。
「ごめん。驚かせるつもりは無くて…。」
「だ、大丈夫。わ、分かってるよ。」
潤が頭を掻きながら言うと、りみもニコッと笑って言った。
「それで、りみどうしたの?本番前に客席を覗きに来るなんて珍しいじゃん。」
「うん。な、なんとなく…かな?考え事してたら来ちゃった。」
「そっか。りみは凄いね。」
潤は微笑みながらりみに近づくと頭を撫でた。
「んっ…。え、えっと。なんで褒められたのかな?」
「前まで緊張するって言って本番まで楽屋から出てこなかったじゃん。なのに、お客さんの様子を見ようって思ったのは、それだけ余裕が出来たって事だよね?だから凄いなぁって思ってね。」
「ふぇ?そ、そうだっけ?」
りみは潤に言われて、自分の行動を思い出していた。しかし、いつもその場では緊張していた為か、自分の今までしていた行動を上手く思い出せずにいた。
「そうだよ。Poppin`Partyのライブを何回も見てきた僕が言うんだから間違いないよ。それで、お客さんの様子を見た感想は?」
潤はニヤッとイタズラをした後の子供のような表情を浮かべて言った。
「う、うん。じ、実は、見る前に潤くんに声をかけられたから…見てないの。」
「…ごめんなさい。」
潤はニヤリとした表情が固まり、すぐに申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「だ、大丈夫だよ!気にしないで!」
「…一緒に見る?」
「う、う~ん…。辞めとこう…かな?」
りみが眉を八の字に下げて言うと、潤は再び「ごめんなさい。」と呟くように言った。
「だ、だから大丈夫だよ?…ねぇ、潤くん。本番まで後、どれくらいあるかな?」
「後、30分くらいだよ。」
話題を変えたりみに潤は不思議そうな表情を浮かべた。
「この舞台袖って、誰か来るかな?」
「ん?今は大丈夫だよ。僕も、たまたま忘れ物を取りに来ただけだし。どうしたの?」
潤はりみの質問に答えるも、質問の意図が分からず、首を傾げていた。当の質問をしたりみは辺りをキョロキョロと見渡すと、潤を見上げ、背伸びをした。
「ね、ねぇ…。き、き、き、キス…して欲しい…な?」
限界まで背伸びをした甲斐もあり、潤の耳元で囁くようにりみは言う事が出来た。そんな甘い言葉をしどろもどろだったが、言われた潤は驚き、りみの顔を見た。りみの表情は目を潤ませており、頬を赤く染めていたが、潤の方を真っ直ぐ見ていた。
「…ちょっとだけ…なら。」
「本当?」
普段なら「仕事中だから」と断る潤であったが、大好きな彼女から、しかも、色っぽく言われ、すっかり失念してしまっていた。潤の言葉を聞いたりみは再び、背伸びをした。そして、すぐに、小さくて、可愛いリップ音が潤とりみの耳に届いた。会場のお客さんは舞台袖でそんな事が行われている事など知る由もなく、Poppin`Partyの登場を今か今かと待ち望んでいた。
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「ポピパ!ピポパ!ポピパパピポパ!」
円陣を組み、舞台袖でいつもの気合い入れを行った5人。客席にもその声が聞こえたのか、ザワザワしていたお客さんの声が「キャー」と言う黄色い声援に変わっていた。
「Poppin`Partyさん!お願いします!」
「よしっ!皆行くよっ!」
潤の声を聞き、香澄が改めて、メンバーの方を振り向きながら言うと、颯爽とステージに向かった。
「りみ。頑張ってね。側で見てるから。」
「うん。ありがとう。行ってくるね!」
潤とりみはハイタッチを交わすと、潤はすぐに移動を始めた。潤がPoppin`Partyのライブを見る時は、始めはメンバーが待機している上手、客席から見て右側に待機しているが、Poppin`Partyがステージに向かうと、急いで移動し、りみが近い下手側に移動するのが恒例となっていた。CiRCLEのスタッフもこの事に気付いていた為、この時だけは潤に指示を仰がないのだが、今日はPoppin`Partyの主催ライブだった為、そうはいかず、潤の耳にはインカムからどんどん声が聞こえて来ていた。その一つ一つに指示を出していると香澄のMCが終わり、1曲目のキズナミュージックがスタートしていた。
「さてと…。」
りみの演奏を聴きつつ、潤は呟くと、客席の後方に目をやった。
「カメラは回ってるね。1、2、3…。うん。6台ちゃんと回ってる…かな?」
潤は目を細めながら数え、舞台袖にそっと隠れた。
「こちら一宮です。映像は大丈夫ですか?月島さん。」
「うん!バッチリだよ!ステージも大丈夫?」
「…今のところ大丈夫です。」
「了解!また何かあったら言ってね!」
まりなとの会話が終わると、潤は改めてステージに目を向けた。Poppin`Partyの聞いていると不思議と楽しくなる音がライブ会場の端から端まで響いており、お客さんをどんどん、キラキラドキドキしている雰囲気にしていた。
「Poppin`Partyは凄いなぁ。なーんか、遠い存在に感じちゃうな。」
潤はそっと呟くと、演奏に耳を傾けるのであった。
更新期間がめっちゃ空いてしまい申し訳ありませんでした。
私事ですが、仕事もプライベートの方も急に忙しくなってしまい、このような事態となってしまいました。
本当に申し訳ありませんでした。
更新頻度はまだまだ上がらないと思いますが、少しずつ書いて行きたいと思います。
感想&評価もお待ちしております。