秋は暑くも寒くもない。過ごしやすく、春と並んで好きな人が多いと思う。しかし、潤は毎年、この時期になると、悩んでしまう事があった。
「…どうしよ…。」
ボソッと呟くと、立ったまま苦笑いを浮かべるりみがいた。
「…今年も悩むんだね。ゆっくり考えて?」
「ありがとう…。う~ん…。」
潤は腕を組むと、静かに目を瞑った。しかし、潤の考え事は「ガン!」っと言う音で終わりを告げた。驚きながら目を開けると、机の上にはアイスコーヒーが鎮座しており、側には仁王立ちしている麻里がいた。
「あー!毎年毎年面倒臭い!春と秋にアイスコーヒーを飲むかホットコーヒーを飲むかで悩まないでくれる!?」
麻里のあまりの迫力に潤は金剛力士像を思い浮かべていた。ちなみに「あ!」の方である。
「ま、麻里さん?わ、私は待ってて平気でしたよ?」
「りみちゃんは優しすぎるよ?こんな奴の言う事、適当に流してやったら良いんだから!」
「ねぇ?息子に辛辣過ぎない!?」
潤は叫ぶも、真理に無視をされ、ため息をつきながら出されたアイスコーヒーをゆっくりと飲み始めた。
「りみちゃんはホットとアイスどっちがいい?」
「え?…どうしよ?」
「どっちでも良いわよ?ゆっくり悩んで?」
「え?…う、う~んと…。」
りみは困ったように言った。それを麻里はニコニコと見ていた。潤は自分との対応の違いにため息をついた。
「ところで、潤くん?話ってなぁに?」
それから数分後、何を飲むか決めたのか、マグカップを持ったりみが潤の前に座りながら言った。マグカップから湯気が出ており、ホットコーヒーにしたんだと潤は思った。
「その前にりみ、1口くれない?流石に、アイスコーヒー飲んだら寒くなっちゃった。」
「え?ホットミルクだけど…。良いかな?」
「ホットミルク?…コーヒーのホットとアイスで悩んでたんじゃないの?」
「うん?違うよ?何飲もうか悩んでいたんだよ?ホットミルク飲む?」
「いや…いいや。」
潤は苦笑いしながら言うと、りみは首を傾げた。
「それより、話ってなにかな?」
りみは今まで口にはしなかったが、潤から夕方に話があるとLINEを貰った時から気になってしょうがなかった。
「そうだったね。りみ、一緒の大学にいけるよ?」
潤がニヤッと笑いながらりみを見た。りみがさぞかし喜ぶだろうと思っていた。しかし、りみはポカンと口を開いて固まっているだけであった。
「…りみさん?おりみさん?おーい!」
「ご、ごめん…ね?び、び、びっくりし過ぎて…。な、な、なんで?なんで一緒の大学に行けるの?」
「えっと、ガールバンドパーティーとかに深く関わって、それを見ていた大学関係者がいて、是非、うちで勉強しないかってお誘いを受けてね。だから、CiRCLEで働きながら勉強出来るようになったんだよ。だから、一緒の大学に行けるよ?」
潤は身振り手振りを加えながらりみに分かりやすく説明した。潤もこの話をオーナーから聞いた時に衝撃過ぎて、なかなか理解出来ずにいた。そして、何回もオーナーに確認した事を思い出し、申し訳ない気持ちになっていた。
「…本当…なの?…学部は何処になるの?」
「芸術学部、らしいよ?…ここで勉強して、CiRCLEで色々なバンドを輝いてもらうために頑張るよ!…もちろん、Poppin`Partyのライブもいつか演出出来るように…ってりみ!?」
潤は自分の夢を語っていたが、途中でりみがボロボロ泣いていた事に気づき、慌てていた。
「ごめん…ね?…本当に…嬉しくて…。ありがとう…。私のワガママ…聞いてくれて…。」
「…総取り…。」
「へ?」
「りみが僕と仲直りする時にPoppin`Partyで決めた作戦…。総取り作戦だっけ?それに似てるなって。」
潤はニコッと笑うとゆっくりと立ち上がった。そして、両手を広げた。その姿を見ていたりみはニコッと涙を流しながら微笑むと、潤の胸に飛び込んだ。
「…あなた達?…仲睦まじい事は良いのだけど、他所でやってくれないかしら?」
麻里は洗い物しながら言うと、潤とりみはパッと離れてポリポリと頬を掻いた。
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「…おはようございます。」
「あっ!潤君。おはよ~。」
「はぁ~…。」
潤はCiRCLEの事務所でダラっと机に伏せた。Poppin`Partyのデビュー会見からしばらく経ち、季節は10月になっていた。Poppin`Partyのデビュー会見で、香澄にりみの彼氏とバラされてから潤を取り巻く環境はガラリと変わっていた。
「潤君、疲れてるね~。私はCiRCLEはデビュー会見以来、話題になって、お客さんが増えて私の給料も増えたからニヤニヤが抑えられないけど。」
まりなは伏せている潤の肩をポンポンと叩いた。
「…良いですね。僕は、学校で毎日大変なのに…。」
潤は今まで、自分に彼女が居ることを学校の友人などに隠していた。いや、隠していたと言うより、聞かれなかったから言わなかっただけなのだが、デビュー会見のニュースでバレてしまったのだった。それからは女子からは質問攻めをされ、男子からは白い目で見られるか、「蘭ちゃんを紹介しろ!」や「楽屋に通せ!」など、無茶苦茶な要求を毎日され、疲れていた。
「あはは!潤君も大変だね!でも、そろそろ就業時間だから、頑張って働いてね?」
まりなは潤に向け、ウインクをした。就業時間と聞いて、身体を起こした潤は丁度、まりなのウインクを見てしまい、苦笑いを浮かべた。
「こんにちは。」
潤が普段の仕事着に着替え、受付で事務処理を行っていると、赤いメッシュの入った髪を視界に捉えていた。
「美竹さん。こんにちは。いらっしゃいませ。」
潤が立ち上がり、腰を90°に折り、深々と礼をした。
「…潤は相変わらずだね。」
「何がですか?」
「分からないならいい。空いてる?」
「はい。えっと、2時間だけなら空いてます。」
慣れた手つきでパソコンを操作しながら、接客を行っていた。
「では、この部屋を…美竹さん、どうしました?」
潤はスタジオの鍵を渡そうとしたが、蘭の視線がじっと自分を見ている事に気づいて、固まった。
「…別に。」
「別にって…。何か用があるような表情をしてますが?」
「…別に。」
「…はぁ。まぁ…。何も無いなら良いですけど…。ん?そう言えば、今日、1人なんですか?」
「…うん。」
言葉が少ない蘭に、潤はただただ困惑するしかなかった。たまにギターを蘭から習う事がある潤。その時はもっと喋ってくれるのにと思っていた。
「…えっと。ごゆっくり…どうぞ?」
潤はこれ以上、話してもと思い、スタジオの鍵を手渡そうとした。しかし、蘭は鍵の方を見ずに、じっと潤の方を未だに見ていた。いつもとは違う蘭の様子に、潤は誰か美竹さんの保護者はいないかと周りをキョロキョロと見た。
「あ、あ、あの!」
「な、なんでしょうか?」
「いや…でも…。」
「美竹さん?」
「…れ……つ…て。」
蘭は俯くと、小さな声でボソボソと言った。接客中で目の前にいるのにも関わらず、潤も聞き取れない程だった。
「あの…。すみません。聞き取れなかったんですが?」
「練習…付き合ってよ。」
「へ?」
潤が口をポカンと開けて、目を丸くしていると、蘭はだんだんと顔を真っ赤に染めていた。
「嫌なら…いい。」
「えっと、嫌じゃないですけど…。いきなりどうしましたか?」
「…っ。今日は…1人…だから。」
「つまりは…寂しいんですか?」
「…もういい!」
潤はからかうつもりもなく、純粋に聞いたのだったが、蘭にはそう伝わらず、ムスッとした表情を浮かべると、鍵を強引に受け取り、受付から立ち去ろうとした。
「蘭ちゃん!ストップ!」
しかし、立ち去る蘭の腕をまりなが掴んだ。
「なんですか?」
「蘭ちゃん、潤君があんな性格なのは知ってるでしょ?悪気があった訳じゃないんだから。」
まりなの言葉に蘭は目を逸らしていた。
「そんな訳だから、潤君!行って来なさい!」
「え?でも、まだ仕事中…。」
「良いから!行ってきなさい!」
まりなの剣幕に潤は「はい!」と返事をすると慌てて、受付からスタジオに向かうのだった。
「ちょっと!潤!鍵、私が持ってるんだけど!…って…行っちゃった…。」
「あはは!やっぱり潤君は面白いなぁ!」
まりなはケラケラと笑うと、蘭は「はぁ。」とため息をついた。
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りみは自動販売機の前で固まっていた。財布を両手で持ち、キョロキョロと目線を動かしていた。太陽は西に傾いており、空をオレンジ色に染めていた。
「何しているの?」
「きゃ!」
後ろから声をかけられて、りみはビクッと肩を震わせた。
「すみません。驚かせるつもりはなかったわ。」
「さ、紗夜さん?はぁ~。びっくりした…。あ、あの。喉が乾いてしまって、何飲もうか悩んでて…。」
りみが苦笑いを浮かべると紗夜も自動販売機の方を見た。
「なるほど。りみさんが1人でいるのが珍しかったので、声をかけましたが、そのような理由で良かったです。」
「私って、誰かといるイメージですか?」
「えぇ。放課後は特にそうですね。Poppin`Partyの皆さんと一緒にいるイメージですね。」
「今日は皆、忙しいみたいで…。」
「りみさんはこんな放課後まで、どうして残ってたのですか?」
「えっと…。なんとなく…です。もうすぐ卒業で、学校の中を歩いて、思い出に浸ってました…。」
「そうですか。元風紀委員からしたら意味もなく放課後に残るなんて、あまり褒められた事ではありませんが…。」
紗夜はそう言うと、自動販売機に小銭を入れ、コーヒーのボタンを押した。お金さえ入れれば、自動販売機は直ぐに反応してくれる。その証拠に「ガタン」という音が響いて、コーヒーが落ちて来た。
「あ、あの紗夜さんはどうして、花女に?」
「りみさんを迎えに来ました。」
「わ、私を!?」
「冗談です。」
真顔で淡々と言う紗夜にりみはポカンとしてしまった。
「ごめんなさい。りみさんの反応が面白くてつい…。本当は花女に呼ばれただけですよ。卒業生にインタビューをしたいらしく。」
紗夜は微笑みながら言うと、再び、小銭を自動販売機の中に入れた。
「りみさん、どうぞ。選んでください。」
「へ?わ、悪いですよ!」
「いえ。柄にも無くからかってしまったので、そのお詫びです。」
紗夜はそう言うと、りみから視線を逸らした。
「…紗夜さん…。まさか、飲み物を私に買う理由が欲しくて、私をからかったんですか?」
「…どうでしょうか?私はそんな計算できるような人間じゃないですよ?」
紗夜はそう言うと、頬を赤く染めた。りみは心の中で「私の考え正解したんだなぁ。」と思っていた。そして、紗夜のお言葉に甘えたりみはアップルジュースのボタンを押していた。
「紗夜さん。ありがとうございます。」
「いえ。りみさん。貴方は変わりましたね。」
「そうでしょうか…。あまり、自分では分かりませんが…。でも、私が変わる事ができたのは、潤くんのお陰だと思ってます。潤くんのお陰で、色々な世界に連れて行って貰ったので…。」
りみは満面の笑みを浮かべながら言うと、紗夜もそれに釣られるようにニコッと笑った。
「…変わったのはりみさんだけではありません。」
「へ?」
「潤さんも…です。本当にりみさんと潤さんが付き合う事になって良かった…。改めて、お礼を言わせてください。ありがとうございます。」
紗夜はりみに向かって、頭を深々と下げた。
「さ、紗夜さん!頭を上げてください!わ、私は何もしてませんよ…。」
「いえ。2年前に私とした約束を貴方はずっと、守って下さってます。」
「…約束?」
「えぇ。潤さんを支えて下さい…と。」
「…あっ。」
「思い出しましたか?」
紗夜はまたニコッと笑うと、りみの頭に手を起き、ゆっくりと撫でた。突然の紗夜の行動にりみは顔を真っ赤にした。
「え、えっと…。さ、さ、紗夜さん?」
「りみさん。これからも潤さんを支えてくださいね?」
「…紗夜さん。それは違います。」
「違う…?」
「はい。私も潤くんに沢山支えて貰ってます。何かあったら1番、私を理解してくれているのは潤くんです。そして、私も、潤くんのことを一番理解しているつもりです。だから、お互いに支えているんです。」
りみは真っ直ぐ紗夜を見て言った。紗夜は一瞬、驚いた表情を浮かべたが、直ぐに目を瞑った。
「…本当に…ありがとうございます。」
「さ、紗夜さん?」
「良い家族が増えそうで、嬉しいです。」
紗夜の言葉にりみは首を傾げたが、意味に気付くと、わたわたとしだした。
「さ、紗夜さん!?わ、わ、わ、私はまだ高校です!そ、そ、そんなのは…。」
「あっという間ですよ。楽しみにしてますね。」
紗夜はそう言うと、再び、りみの頭を撫でた。りみは心の中で「紗夜さんってやっぱりお姉さんだなぁ。」と思っていた。
「ところでりみさん。スマホが鳴ってますよ?」
「あっ。すみません。」
りみはそう言うと、スマホを取り出し、耳にスマホを当てていた。その様子を見た紗夜は缶コーヒーのプルダブを起こし、口を付けた。その瞬間、りみの「えぇ!?」という絶叫が、綺麗なオレンジ色の空に響いていた。
終わりが近づくと寂しくなりますね。
終わりが近づいていると言いましたが、潤とりみの話は第3部に続きます。
しかし、その前に、外伝を書くつもりでいます。
新しいオリ主と新しいヒロインをこの小説にぶち込むつもりです。
ヒロインが誰だって?
秘密です!笑
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