りみは運動があまり得意ではない。バンドをしているので、それなりに体力はあるのだが、それイコール運動が得意とは限らない。
「…はぁ…はぁ…。」
りみは走っていた。しかし、呼吸はかなり荒くなっており、走ってはいるが、フォームはバラバラで、かなりバテている事が分かった。今すぐにでも止まりたかったのだが、そう思う度に先程、掛かってきた電話を思い出していた。電話の相手はひまりであり、りみが出て、第一声が「言おうか言わないか、悩んやんだけど、一応、伝えておくね?」と前置きがあった。そして、内容を聞いたりみは「えぇ!」っと叫んでしまった。
「潤くんのバカー!」
走りながら周りに誰もいない事を確認し、りみは叫んだ。そして、やっとの思いで、りみはCiRCLEに到着した。入口の前で膝に手をつき、呼吸を整えてみたが、額からは汗が滲み、心臓は激しく波打っていた。
「りみ!?」
「ふぇ?」
声をかけられ、りみは顔を上げると、ピンクの髪を揺らしながらひまりが駆け足でりみの傍にやってきた。2つの大きな胸が暴れている様子にりみは「良いなぁ。」と密かに思っていた。
「だ、大丈夫!?走ってきたの?」
「う、うん…。居ても経ってもいられなくて…。」
「ほっんとうにごめんね!」
ひまりは眉間にしわを寄せながらりみに頭を下げた。
「ううん…。でも…本当なの?」
りみは呼吸はまだ乱れたままで、途切れ途切れになりながら言った。その様子を見たひまりはりみの脇を支えると、カフェテラスに連れていき、椅子に座らせた。
「あ、ありがとう…。」
「ううん。大丈夫だよ。…ほら、水飲んで!」
ひまりは持っていたカバンからペットボトルの水を取り出すと、りみに渡した。
「…これ、ひまりちゃんの水だよね?」
「良いから!貰ってよ。…うちの蘭が本当にごめんね…。」
「ううん…。潤くんと蘭ちゃんが浮気しているって…本当?」
「う、うん。…仲良さそうにスタジオに入っていくのが見ちゃって…。私…ぐずっ…。蘭がそんな事…しているのが…嫌で…。」
ひまりは喋っている最中に、涙を浮かべていた。
「…う~ん。」
「りみ?どうしたの?」
「ひまりちゃんから話を聞いた時は驚いちゃって走って来ちゃったけど…。冷静になって考えてみたら、蘭ちゃんも潤くんもそんな事するかなぁって…。」
りみは苦笑いを浮かべながら言った。
「…りみは信じたくないだけだよ!とにかく、乗り込もう!」
「へ?の、乗り込むの!?」
りみは驚いたように言った。そんなりみを無視するように、ひまりはりみの腕をつかみ、CiRCLEに向かって行った。
―――――――――――――――――――――――――――
「それで、なんの用ですか?」
スタジオに入ってすぐ、潤は腕を組み、壁にもたれながら口を開いた。
「…別に。練習に付き合って欲しいだけ…。」
蘭はギターをアンプに繋げながら言った。潤の方は一切、見ていなかった。
「…嘘…ですよね?」
「…嘘じゃない。」
「はぁ…。では、僕もギターを準備しますね?」
潤はそう言うと、自分のギターを取りに行こうとした。
「取りに行かなくていい。聞いてて。それに、潤、私達の曲、弾けないでしょ?」
蘭はそう言うと、マイクの前に立った。そう言われた潤はまた小さくため息をつくと、パイプ椅子に座った。
「ふぅ…。どうだった?」
「いつも通りカッコよかったですよ。」
1曲弾き終え、感想を求めた蘭はすぐにギターをスタンドに立て掛けた。
「…話…聞いてくれる?」
「やっぱり、話があるんだ。」
潤は苦笑いを浮かべると、蘭は恥ずかしそうに顔を背けた。
「…聞いてくれるの?くれないの?」
「聞きますよ。」
「…そう。…あ、あ、あのさ…。恋って…楽しい?」
「…はぁ?」
蘭の話が潤の想像を遥かに越していってしまった為、潤は情けない声を出した。
「だ、だから!りみと付き合ってて、楽しい?」
蘭は恥ずかしい様子で言った。しかし、余程気になっているのか、視線は潤の目をしっかりと見ていた。
「…もちろん、楽しいですけど…。どうしたんですか?好きな人でもできたのですか?」
「違う!けど…。」
「けど?」
「りみと潤を見ていると…悪くないって言うか…。」
「…なるほど。市ヶ谷さんと同じで恋がしたいんですね。」
潤がそう言うと、確信を付かれた蘭は目線を伏せた。
「で、でも私…。こんな性格だから…。彼氏なんて…。てか、なんで有咲の名前が出たの?」
「あっ。市ヶ谷さんの話は置いといて…。美竹さん、美人ですから、きっと素敵な男性が現れますよ。」
「なっ!」
潤はいつも通り、淡々と思っていることを言ったつもりであったが、蘭にとっては男性から歯の浮くような発言を言われたのは初めてだった為、目を見開いて驚いていた。
「どうしましたか?」
「…潤のバカ!」
「へ?な、なんで!?」
「うるさい!」
潤にとっては蘭が突然機嫌が悪くなったように見え、何したっかけ?と首を傾げた。
「あの…?美竹さ…うわっ!」
潤が蘭の様子を伺おうとした時、突然スタジオのドアがバーンと開き、潤と蘭はビクッと肩を震わせた。
「蘭!」
「…ひまり…?本当に驚いたんだけど。」
「ご、ごめんね?」
「りみ!?どうしたの?」
突然のひまりとりみの登場に、潤とりみは静かに顔を見合わせ、首を傾げた。
―――――――――――――――――――――――――――
「本当に信じられないんだけど。」
「だから、謝ってるじゃん!ごめんって!」
「無理。ひまりは私が彼女がいる人に手を出す人に見えてたんだ…?」
「そ、そうじゃなくて!」
土下座する勢いで謝るひまりに蘭は冷たい態度をとり続けていた。浮気を疑ったひまりだったが、潤と蘭、更にはまりなの証言もあり、身の潔白が証明された後は、こうして謝り続けていた。
「りみは上原さんに呼ばれて来た感じかな?」
「う、うん。」
「浮気してると思った?」
「聞いた時はびっくりして、急いで来ちゃったけど、後から冷静になって、蘭ちゃんと潤くんが浮気するなんて、信じられなかったよ?」
「あはは。最初は信じたんだ。」
「ご、ごめんね。」
りみは申し訳なさそうな表情を浮かべたが、潤は「良いよ。」とだけ言い、りみの頭を撫でた。
「潤君もりみも本当にごめん!」
「上原さん。大丈夫ですよ。気にしてませんから。」
「わ、私も大丈夫…だよ?」
「潤もりみも、もっと怒っていいんだよ?」
蘭は本人にその気はなかったが、潤の歯の浮いたセリフを聞いてから機嫌が悪く、更にひまりの失態のせいで最悪と言えるくらい機嫌が悪かった。その証拠に未だにひまりを睨んでいた。
「美竹さん。落ち着いてくださいよ。」
「潤はなんで怒らないの?りみが信じたら別れる事になってたかもしれないんだよ?」
「そうですかね?」
潤はニコッと笑うと、横でこの険悪な雰囲気をどうにかしたいとワタワタしているりみを見た。
「僕はりみの事、信頼してますので。」
「はぁ?」
「りみは僕の言うことを信じてくれると信頼しているので、ちゃんと説明をしたら大丈夫かなって思っているので大丈夫です。」
潤の悪い所でもあり、良い所でもあるのだが、自分の思っていることを正直に話す部分がある。故に、嘘など全くつけない性格をしている。この時も、蘭を納得させるには充分過ぎる対応だったが、横で聞いてたりみは蘭とひまりの前で、2人っきりの時に言って欲しいようなセリフを言われ、顔を真っ赤にした。
「…りみは幸せ者だね。」
「ら、蘭ちゃん!?」
「悪くないね。…ひまり?二度は無いから。」
「皆、本当にごめん!」
蘭の機嫌が直り、CiRCLEのスタジオの中にやっと、穏やかな雰囲気に包まれようとしていた。
「そうだ。りみも来てくれて丁度良かった。」
「なぁに?蘭ちゃん?」
「2人って、同棲するって本当?」
「なんで知ってるの!?」
りみが驚きながら言うと蘭は「香澄から聞いた。」と淡々と答えた。
「え!?同棲するの!?」
自分の失敗から落ち込んでいたひまりだったが、「同棲」と言うワードを聞いて、目をキラキラさせながら潤とりみに詰め寄っていた。
「本当です。高校を卒業したら同棲します。」
「凄い!凄いよ!りみ!やっぱり潤君と結婚しそうだね!」
ひまりはりみの肩を掴むとキャーと叫びながらりみをブンブンと振り回していた。
「う、上原さん!ストップ!」
潤が慌てながら叫ぶと、ひまりは我に返り、手を止めた。しかし、時既に遅く、りみは目を回し、床にペタンと座った。
「うわぁ~!りみ!だ、大丈夫?」
「目が回るよ~…。」
「はぁ。」
話したい事があり、潤をスタジオに呼んだ蘭であったが、なかなか話すことが出来ず、ため息をつくのであった。
―――――――――――――――――――――――――――
「カコン」と鹿おどしが鳴り響く庭がよく見える縁側に潤とりみは座っていた。横には見るからに高そうな和菓子とお茶が置いてあり、潤は手をつけて良いか分からなかったが、りみはすぐに食べ始め、幸せそうな表情を浮かべていた。
「呼び出してごめん。」
蘭はそう言いながら、庭で盆栽の手入れをしていた。以前、有咲との関わりで盆栽に興味を持ち、始めていたのだった。
「ううん。話って何かな?」
あっという間に和菓子を食べ終えたりみは首を傾げながら言った。そして、潤が和菓子に手を付けていない事に気づくと「貰っていいかな?」と潤に聞いていた。
「この前、話せなかったから。」
「この前?」
「CiRCLEのスタジオですよね。りみが目を回した日だよ。」
潤はりみに和菓子を差し出しながら言うと、りみは顔を「あぁ。」と恥ずかしそうに言いながらも、和菓子はきっちり受け取っていた。
「うん。あの日、りみが目を回して、大丈夫になった時にはスタジオの使用時間が終わったから。…あの時はひまりが本当にごめん。あの後、Afterglowの皆で怒ったから。」
蘭は申し訳なさそうに言うも、潤とりみは大丈夫と頷いた。
「それで…お話とは何ですか?」
「うん。2人って、同棲するのに家ってどうするの?」
蘭は盆栽鋏を置くと、2人の顔を見ながら言った。
「家…?潤くん、考えてた?」
「ううん。忙しかったから…。」
「決まってないみたいだね。」
2人の反応を見た蘭はポケットから4つ折りになっている紙を取り出すと、潤に渡した。蘭の言っている事が理解できない潤は首を傾げながら紙を広げた。
「これって…。」
「間取り…?」
紙には不動産屋で見るような間取りが書かれていた。ちなみに間取りは2LDKであり、リビングは12畳ほどで2つの部屋は6畳と8畳であった。ウォークインクローゼットも付いており、出来てから3年と新しい物件である事も分かった。
「こんな部屋はどう?」
「美竹さん。これって…。」
「華道の生徒さんに不動産の人がいて、頼んで聞いてみたらここはどうかって。」
「凄い…。凄いよ蘭ちゃん!」
りみは潤から紙を受け取ると目を輝かせながら凝視していた。ちなみに、和菓子はすでに無くなっていた。
「えっと…。凄く嬉しいのですが…何故ここまで…。」
「りみとは仲良くして貰ってるし、潤にはライブとかで沢山、助けてもらったから…そのお礼…。」
蘭は自分がしている親切に恥ずかしくなったのか、プイッと顔を背け、再び盆栽に向かった。
「蘭ちゃん!ありがとう!」
「本当にありがとうございます。」
りみはテンション高く、潤は丁寧に頭を下げると蘭は「いや…。」と小さく言った。顔は耳まで真っ赤になっていた。
「潤くん!私、ここが良い!」
「確かにいい感じの家だね。ちなみに、美竹さん。この家って、見れたりしますか?」
「うん。多分、大丈夫だと思う。空いてるって言ってたから。聞いてみようか?」
「お願いします。」
潤はそう言うと、再び間取りを見た。部屋の広さも築年数も、申し分なく、先程は見落としていたが、オートロック付きと防犯面もバッチリであった。
「潤くん!寝室はどっちにする?」
「どっちがいいかな?見ないと分からないよ。」
「キッチンも広そうだね!」
「そうだね。」
潤もりみもこれから先の未来がこうして形に現れると、より一層、ワクワクするのであった。そんな2人を蘭は微笑ましく眺めていた。
「そう言えば、美竹さん。ここの家賃って聞いてますか?」
「うん。聞いてるよ。25万だよ?」
「へ?」
「だから、25万。」
それくらいするでしょと言いたげな目線を送る蘭に潤は頭を抱えた。
「家賃だけで給料が飛んでしまう…。」
潤はここは無理だと判断し、りみに言おうとしたが、隣で楽しそうに「ここにソファーを置いて…。」と言うりみに言い出せなくなってしまっていた。
りみりん誕生日おめでとうございます!
内容は誕生日に触れてないけど、なんとなく誕生日に更新をしてみました。
これからも、りみりん一筋で推します!