日常の中にチョコより甘い香りを   作:ぴぽ

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20話

蘭から同居する為の部屋を紹介されてから1ヶ月が経ってた。しかし、潤とりみはまだ部屋を決めれないでいた。

「どう…するの?」

大学受験が近いづいてはいたが、りみのルーティンは変わらず、毎朝と毎晩、潤の家へ行き、料理の勉強をしていた。始めの頃は潤の母親である麻里に習っていたが、2年もこのルーティンを続けていれば嫌でも料理の腕をあげていき、今では麻里がりみに全てを任せて自分は単身赴任をしている旦那の所へ行ってしまうと言う事が多々あった。ちなみに、今もそうであり、家には潤とりみの2人だけである。

「…う~ん…。どうしよっか。りみはやっぱり美竹さんから紹介されたアパートが良いんだよね?」

「うん…。ダメ…かな?」

りみは上目遣いで潤を見た。長い付き合いの中で潤がりみの上目遣いに弱い事に気づいたりみはお願い事があるとこうして、お願いをしていた。

「…う、う~ん…。や、やっぱり…家賃がね?」

りみの上目遣いに潤はなんとか耐えていた。ゲームの世界なら「会心の一撃」や「こうかはばつぐんだ。」などとテロップに出ていたに違いない。

「潤くん…。私も働くんだから…そんなにお金の事は気にしなくても良いんじゃないかな?」

「それは…そうなんだけどさ。」

「だったら…!」

「でも、僕の給料だけで暮らしたいなぁと。りみのお金はりみが使うべきかなぁっと思ってて。だから、美竹さんが勧めてくれたアパートは高くて。」

彼氏が彼女を養いたい。おそらくではあるが、男性が1度は思うことではないだろうか。仕事を終え、家に帰ると彼女がエプロン姿で出迎えてくれるシチュエーション…。潤もその例には漏れず、りみのエプロン姿を想像していた。

「でも…。潤くんの給料って、どれくらいなのかな?」

「えっと…25万くらいって聞いてるよ。大学に行きながらだけど、正社員として雇って貰えるから。」

「…潤くんの給料だけで生活をするとして…。家賃に使えるのは10万…いや15万くらいになるかな?」

「そう…だね。」

「あのね…。全部の物件を見たわけじゃないから…分からないんだけど…。」

りみはモジモジとしながら目線を潤から外していた。何が言いたいか分からない潤は首を傾げていた。

「ハッキリ言って大丈夫だよ?どうしたの?」

「あっ…うん。あ、あのね。東京の都心で、2人暮しができるくらい広くて家賃がそれだけ安い所ってなかなか無いかなぁって。」

「…ある…んじゃない?」

「あるかもだけど…。私、家で楽器の練習とかしたいし…。ライブも沢山するだろうから衣装とかも増えるし…。だから…。あっ!も、も、もちろん、潤くんの気持ちも嬉しかったよ?」

りみは潤をフォローし、言葉を選びながら言った。りみの発言を聞いた潤は額に手を当て、「はぁ。」とため息をついた。

「じ、潤くん?…怒ったの?」

「うん?怒ってないよ。りみの言った事を失念していた自分に呆れてただけだよ。」

「そんな…。大丈夫だよ?」

「ううん。僕はまだりみの事を1番に考えきれてないみたいだね。…りみ。美竹さんの紹介してくれた物件にしよ。お金とか助けて貰うようになっちゃうけど…。」

潤は申し訳なさそうな表情をすると、胸の前で手を合わせた。しかし、りみはそんな潤の行動に頬を膨らませていた。

「潤くん。2人で暮らすんだよ?助けて貰うはおかしいよ。お金もそうだけど、家事も何もかも、私は協力して行きたいな。」

「…そうだね。考えを改めるよ。」

「うん。これからもよろしくね。私が間違った事をしていたら、遠慮なく言ってね?」

りみはニコッと笑うと手を潤に差し出した。その手を潤は優しく握ると、2人はしっかりと握手した。

「りみ。もう1つ話があるんだけど良いかな?」

「なぁに?」

「これなんだけど。」

潤はそう言うと、側に置いていたポーチから通帳と印鑑、そしてカードを出した。

「通帳?」

「うん。これからはりみが管理してくれないかな?僕はどうしてもだらしない部分があるからお金の管理はりみに任せたくて…。」

潤はりみを真っ直ぐ見ながら言った。CiRCLEでたまに見る、仕事に真剣に向き合っている時と同じ表情をする潤にりみは緊張しながらも、しっかりとした口調で「うん!」と言った。りみは密かに本当に同棲するんだと実感が湧いてきて嬉しい気持ちが押しおせていたが、通帳を開くとその残高に驚いていた。ちなみに、潤が貯めていた訳ではなく、潤にあまり物欲が無い為、自然に貯まっただけであることをりみは後々、知っていく事となる。

 

―――――――――――――――――――――――――――

2人が同棲する場所を決め、無事に契約まで済ませた頃には学校でも大学入試に向け、大詰めになっていた。今まで、潤に毎日会っていたりみも最後の追い込みの為に潤の家には行かず、塾と家と学校を往復していた。そんな中、潤はCiRCLEにてカフェテラスでひとみと話し合いを行っていた。秋もかなり深まり、冬が顔を出し始めてくる頃で、日差しは暖かいが風が吹くと寒いという感じだった為、CiRCLEの中で話し合いを行うつもりだったが、ひとみの「カフェテラスが良い!」と言う一声で少しだけ震えながらの話し合いになっていた。

「はぁ。」

「どうしたの?似合わないため息なんか着いちゃって?」

「似合わないは余計ですよ。」

話し合いが一段落した時に潤はため息をついてしまっていた。ひとみはそんな潤を心配…するはずも無く、潤の反応にケラケラと笑っていた。

「で、本当にどうしたの?大学の面接、良かったんでしょ?」

「まぁ、そこは元々、心配してなかったので。」

大学から「うちで勉強しませんか?」と言われているだけあって、潤の面接は面接と言うより、雑談で済んでいた。ちなみにだが、かなり盛り上がってしまい2時間程、話し込んでいた。

「なら、心配ないじゃない。ため息なんかつく必要ないわよ。」

「いや…あの。笑わないで下さいね?…毎日、会っていたりみに会えないのが寂しくて…。それでため息を着いちゃいました。」

潤がそう言った瞬間、ひとみは腹を抱えて笑いだした。潤はそんなひとみを見て、ため息をまたついた。

「笑わないでって言ったじゃないですか。」

「ごめんね~。あはは!りみちゃんは幸せだねぇ~。電話とかもしてないの?」

「勉強の邪魔かなって思いまして。」

「なるほど。いやぁ。初めて会った時はしっかりした子だなぁって思ったけど、年相応の可愛い所もあるんだね。」

ひとみは笑って出た涙を指先で拭った。潤はそんなに笑わなくてもと思いながら、冷めてしまったコーヒーに口をつけた。

「さて、良い話が聞けた所で、話しを戻すね。…4月のライブは大丈夫なの?」

「はい。もう日付も抑えましたし、準備も始めてますよ。」

「…潤君はよくこんな事を思いつくわね。流石、あのガールズバンドパーティをまとめるだけあるよ。」

「褒めても何も出ませんよ?」

「なら、褒めるんじゃなかったわ。」

なんじゃそりゃと潤は苦笑いしながら呟くと自分が作った企画書に目を向けた。そこには「RoseliaVSPoppin’Party」と書かれていた。要するに対バンを行うというものだった。大ガールズバンド時代の代表格である2組がライブを行うとなれば世間がほっとかないだろうという目論見であった。

「そうだ。言ってなかった事があるんですけど。」

「なに?」

「RoseliaってPoppin’Partyの曲を演奏するって可能ですか?」

「聞いてみないと分からないけど…どうしたの?」

「せっかく2組が集まるんだから、それぞれの曲をカバーするのも面白そうだなぁって。Poppin’Partyは以前、陽だまりロードナイトを演奏してるからできるはずなんで。」

潤はそう言うと、ひとみは「それ、頂き!」と言いながらスマホを取り出し、どこかに連絡をし出した。

「よしっ。」

高校を卒業して、CiRCLEの正社員としては初めての仕事となるはずのライブに潤は密かに気合いを入れていた。しかし、すぐに「りみ、何してるかな…。」と遠くを見つめていたのだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

「はぁ~。」

潤がひとみと打ち合わせをしている頃、りみはどうしても分からない所があった為、有咲の蔵で勉強をしていた。目の前には参考書がならんでおり、ノートにも丁寧な字が並んでいた。

「…捗らない…。」

りみはぼそっと呟くと、参考書達と一緒に並んでいるチョコレートを1つ口に放り込んでいた。

「…どうした?」

「あっ…ごめんね。集中力が切れちゃったかも…。」

口をモソモソと動かしながらりみは言うと、目の前に座っていた有咲は開いていた雑誌を閉じていた。

「答え合わせするから休憩にしたらどうだ?」

有咲はそう言うと、右手を差し出した。その言葉にりみは頷くと、ノートを渡し「う~ん!」と伸びをした。

「…はぁ。」

りみはまた1つため息をつく。その様子を横目で見た有咲もりみに釣られる様にため息をついた。

「りみ。何かあった?ため息何回めだよ。」

「え!?…そんなにため息ついてたかな?」

「自覚なしかよ!何回もついてるぞ?」

「う、うん…。ごめんね。じ、実は潤くんに会えないのが寂しくて。」

りみはそう言うと、足を床に投げ出し、だらしなく机に伏せた。

「…相変わらず、仲の良い事で…。てか、一緒の大学に行けるみたいで良かったな。」

「うん!初めて聞いた時は本当に驚いたよ!家も決まったし、あとは大学入試を頑張って、卒業する…だけ…。」

「りみ?」

「ご、ゴメンね!卒業なんだって思ったら寂しくなっちゃって…。」

「…確かに…。寂しい…かもな…。」

珍しく、素直に自分の気持ちを言う有咲にりみは少しだけ驚いたが、有咲も同じ気持ちだと知り、嬉しさが後から込み上げてきた。

「高校…花女で過ごせて、本当に良かったよ。」

「私もだ。…香澄に感謝だな。香澄が…いや。ポピパがなかったら引きこもりのままだった可能性が高いからな。」

「有咲ちゃん…。」

「あぁ!こんなの私らしくねぇ!りみ!間違いはなさそうだ。今のままなら大丈夫なはずだ。」

頭を右手でわしゃわしゃと掻きながら、りみにノートを手渡した。顔はほんのりと赤く染まっていた。そんな有咲を見て、りみは「ふふっ。」と笑いながらお礼を言いつつ、ノートを受け取っていた。

「ふぅ。続き頑張ろ…。」

りみはそう言うと、シャーペンを握った。しかし、言葉ではやる気があるように見えたが、表情は悲しそうなままであった。

「…大晦日。」

「…へ?」

「大晦日くらいなら会ってもいいんじゃね?初詣くらい一宮さんと行ってきたら?」

「…でも…。」

「今のままだと、りみは逆に勉強出来そうにないからな。試験前に改めて会った方が良いと思う。…まぁ、大晦日まで1ヶ月半くらいあるけどな。」

有咲はりみに優しく微笑みながら言った。そして有咲の提案に対して、りみは少しだけ考えたが、すぐに「そうするね。」と言うと、潤に知らせる為にスマホに手を伸ばしていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

12月31日。1年で最後のこの日、潤とりみが住んでいる街では寒波もやって来ており、雪がチラチラと降っていた。

「お、お邪魔します。」

2ヶ月ぶりに潤に会うりみは緊張した面持ちで潤の家のリビングに入った。

「りみ!久しぶり!」

「…潤くん?…何してるの?」

「何って料理だよ?」

潤はエプロンを腰に巻き、台所に立っていた。付き合って2年半、初めて自分の彼氏が台所に立って料理をしている姿を見たりみは緊張など吹き飛び、驚いていた。

「潤くんが…料理?」

「あはは!びっくりした?意外に…できるんだよ?」

潤はそう言うと腕を後ろに組んだ。手には沢山の絆創膏が貼ってあった。

「そ、そうなんだ…。」

「りみ?」

「う、ううん。何でもないよ?」

料理をしてりみを驚かし、喜んで貰おうと思っていた潤だったが、りみがあまり喜んでくれない事に少しだけがっかりしていた。

「…まぁ、もうちょっとで昼ご飯、できる…ってりみ?」

「私にも手伝わして!」

「ゆっくりしてていいんだよ?」

「手伝いたいの!」

こうなると、意見をなかなか曲げる事のないりみ。潤は肩をすくめると、よろしくと言い、横に立つ彼女を見た。

「何したら良いかな?」

「うん。そのまま立ってて。」

潤はりみの後ろに回り込むと、そのままギュッと抱きしめた。

「…潤くん?」

「ちょっと、このままで…。会いたかった…。」

「私もだよ。」

りみは潤の腕を解くと、潤の方を振り向きギュッと抱きつき、潤の胸に顔を埋めた。久々に感じる潤の体温や匂いに涙が出そうになっていた。

「…はぁ…。落ち着く…。」

「ねぇ…。顔を上げて?」

「なぁに?」

りみは顔をゆっくりと上げた。りみの顔が潤の方を向くと、潤はすぐに唇をりみに落とした。

「…んっ。」

急なキスに甘い吐息が漏れる。しばらく唇を付けたままであったが、名残惜しそうに2人は離れた。

「ふふっ。幸せ…。」

「だね。…てか、いきなりキスしてごめんね。」

「ううん。嬉しかったよ。」

「なら良かったよ。…続き、作るね。お腹空いたでしょ?」

「うん。あっ。夜は私が作るからね!」

りみはそう言うと、潤の手を掴んだ。そして絆創膏が貼ってある指を優しく撫でると、潤は苦笑いをした。ちなみに、りみが潤の手料理にあまり喜ばなかった理由は潤に喜んでもらう為に色々とメニューを考えていたからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書きながら2ヶ月会えないだけで寂しくなるかな?と思ってました。
結構、ドライなぴぽです笑

次回、最終回です。
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