日常の中にチョコより甘い香りを   作:ぴぽ

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第7話

「ハンバーグおいひぃ~!」

潤の帰宅後、すぐに牛込家では夕食となっていた。両親はいないので、ゆりとりみだけの夕飯だ。

「そう?良かった。昼間に作った甲斐があったよ。」

りみがバンド練習をしているときにゆりがハンバーグの種を作っていたのだった。

「ホントに美味しいよ!お姉ちゃんありがとうね。潤君も食べて帰れば良かったのに。」

ゆりとりみは潤を夕飯に誘ったのだが、潤は遠慮して帰ってしまった。

「まぁ、しょうがないよ。遠慮して帰る辺りが潤君らしいよ。ところで、りみ?潤君とどんな話をしてたの?りみ、泣いてなかった?」

ゆりが聞くとりみは「あぁ~。」と罰の悪い顔をした。

「(話ても大丈夫…だよね?お姉ちゃんだし…。)」

「りみ?大丈夫?」

「あぁ!うん。大丈夫。えっとね…」

りみは静かに潤の話を始めた。

 

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「ただいま。」

潤が自分の家に着き、玄関に入った瞬間、リビングが騒がしい事に気づいた。

「(…ん?やけにリビングが?)」

と思い、靴を見ると見覚えのあるサンダルが二足いつもより多く並んでいた。

「(あっ…。これは…。りみの家で夕飯、ご馳走になった方が良かったかも…。)」

潤が来訪者が誰か気づき、そっと玄関から外に出ようとする。

「(気づきませんように…。気づきませんように…。神様~!)」

「あっ!潤君だぁ!」

「(神様!裏切り早いよ!)」

潤が心の中で叫ぶと同時、潤のもう一人の親戚の姉である日菜に後ろから抱きしめられた。いや、締め上げられたの方が正しい。

「今、逃げようとしてたでしょ?そうは行かないからね!」

「ひ、日菜姉さん?も、もう、に、逃げませんから手を離して…。」

潤が日菜の手をタップするも、

「ダーメ!そう言って逃げるんだから!潤君には聞きたいこと沢山あるんだからね!」

「あら。潤さん帰って来ましたか。」

騒ぎを聞いて、紗夜も玄関の方に出てきた。

「あっ、お姉ちゃん!潤君、酷いんだよ!逃げようとしてたんだよ!」

「あなたが会う度にそうやって過度なスキンシップを取るからでしょ?」

「違うよ!お姉ちゃんが潤に厳しくしてるからでしょ?」

「…まぁ、どちらでもいいわ。ところで日菜?」

「なぁに?お姉ちゃん?」

「…早く手を離さないと、本当に潤さんがどこかに行ってしまうわよ?」

「へ?」

日菜が潤を見ると日菜の腕の中でグッタリしていた。潤の首にはきっちり、日菜の腕が入っていた。

「わぁぁぁ!潤君!しっかり!」

と日菜は潤の肩を持ってブンブンと振った。

「(あぁ。三途の川ってこんなに濁流なんだ。さっきから右に左に流される…。)」

遠くなる意識の中、潤はそんな事を考えていた。

 

─────────────────────

ところ変わって、牛込家ではりみがゆりに潤の話を終えたところだった。

「…そう。そんな事が。」

ゆりは深刻な顔で呟いた。そして続けて

「好きな人が急にいなくなるって事、私達には経験ないから分からないね…。りみは話聞いてなんて答えたの?」

「私?泣いちゃってて、何も言えなかったよ。」

「…そっか。ところでりみ?その話を聞いて焦らないの?余裕そうだけど。」

「え?な、なんで?焦るって何に?」

「潤君、もう、平気なのかな?もし、まだそ秋帆ちゃんのことで引きずっていたらどうする?」

「あ…。」

ゆりの言葉にりみの顔はだんだんと曇っていった。

「お、お、お姉ちゃん!ど、ど、どうしよ…。」

「りみ、落ち着いて?まだちゃんと、潤君の気持ちを聞いてないでしょ?まずは確かめないと。それとも、簡単に諦められる恋だったの?」

「ち、ちゃう!諦められる訳がない!」

りみがそう叫ぶ。ゆりは食べ終わった食器を片付けながら

「頑張ってね。お姉ちゃんはりみの味方だからまた相談してね。」

と微笑みながら言った。

 

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「本当に、三途の川を見たよ…。」

「ご、ごめんね。意識まで失いかけるとは思わなくて。」

首を擦りながら潤が呟くと、手を前に合わせて日菜が謝った。無事に潤も生還し、夕食となっていた。

「それで、牛込さんと勉強は如何でしたか?進みましたか?」

「紗夜姉さん?ご飯の時も勉強の話ですか?まぁいいや。数学は終わりそうですよ。りみが色々教えてくれたので。」

「そうでしたか。やっぱり真面目な牛込さんと一緒ならあなたも集中して勉学に励めるんですね。ところで、牛込さんの事、名前で呼ぶようにしたんですか?」

「あっ…!」

潤はしまったと思ったが時すでに遅し…。

「え!?潤君、今まで何て呼んでたの!?てか、お姉ちゃんから話をいっぱい聞いてて、ずっと気になってたんだから!今日は全部答えて貰うまで寝かさないからね!」

「ち、ち、ち、ちょっと待ってよ!日菜姉さん!落ち着いて!近いって!」

グングン迫ってくる日菜に潤は焦りながら言った。そして「はぁ~。」とため息をつき、

「名前で呼ぶようになったのはりみにお願いされたからです。」

と言った。

「へぇ~!りみちゃん、ガールズバンドパーティーで会った時は、大人しくて、引っ込み思案な子かと思ってたけど、意外と積極的なんだね!」

「そうですね。牛込さんは頑張ってるのに…。潤さんはどうしてこうなんでしょう。」

「さ、紗夜姉さん?一言余計です!てか、みーんな、りみが僕の事が好きみたいに言うけど、それって本当なの?」

「本当ですよ?気付きませんか?」

「私、話をおねーちゃんから聞いた限りだとりみちゃんは潤君の事、好きだと思うよ?」

紗夜と日菜の自信満々な様子に潤は

「(どの辺りで好きって判断しているんだろう?)」

と考えながらゆっくりと箸を動かした。

「でさ!潤君はどうなの?りみちゃんの事好きなの?」

「う~ん。分かんない。」

「……。まだ引きずってる?」

「ちょっと!日菜!?」

日菜のストレートな質問に紗夜は焦った。

「紗夜姉さん、大丈夫ですよ。引きずってはいないつもりですよ。前に進まないと秋帆に笑われますから。でも、人の事を好きになるってわからなくなっちゃって。」

と苦笑いしながら潤が言う。

「そっかぁ!そう思ってるなら大丈夫だね!いやぁ~。あの当時の潤君には手を焼いたからねぇ~。」

と日菜が笑顔で言うと、横で紗夜もうんうんと頷いた。

「…その節はご迷惑をお掛けしました。」

と潤が謝ると、

「謝らなくて良いですよ。潤さんは家族なんですから、助けるのは当たり前です。」

「紗夜姉さん。ありがとうございます。」

「おねーちゃんの言うとおりだよ!だから困った事があったら何でも言ってね!」

「日菜姉さんもありがとうございます。」

「だから…。」

「だから…。」

「だから?」

「「会っても逃げないようにね!」」

姉妹が声を揃えて言う。潤は苦笑しながら

「善処します。」

と小さく答えた。

 

─────────────────────

「えっと、やまぶきベーカリーはと…。」

翌朝、スマホの地図を頼りに、日菜はやまぶきベーカリーへと向かっていた。潤との話でやまぶきベーカリーの事を聞き、無性に食べたくなったのだ。

「あったあった!やまぶきベーカリー!」

お目当ての店を見つけて、中に入る。

「いらっしゃいませ~!って日菜先輩?」

「おっ、沙綾ちゃん!おはよ~!」

「日菜先輩が来るって珍しいですね。」

「うん!珍しく、朝早くに目が覚めて、潤君からこのお店を聞いて、気になって来ちゃった!」

「ありがとうございます!ゆっくり見て下さいね!…えっと、潤君って、CiRCLEでバイトしてる方ですか?」

「そうそう!沙綾ちゃんも知ってるんだ!潤君は私と親戚なんだよ~!」

「え!?そうなんですか?」

「うん!だから、潤君と仲良くしてあげてね!

会話をしながらも日菜は次々とトレイにパンを入れていった。

「じゃぁ、沙綾ちゃんこれでお願い!」

レジにパンを置くと沙綾が慣れた手つきでパンを袋に入れていった。その間、店内をキョロキョロと日菜が眺めていると入り口に見知った人がいる事に気付いた。

「(これはるんってきたよ~♪)」

日菜にニコっと笑い、入り口の方に向かう。丁度入り口から死角になっている所に隠れる。

「日菜先輩?何してるんですか?」

「いいからいいから。」 

沙綾が首を傾げていると入り口の扉が開いた。

「いらっしゃいませ~!」

「沙綾ちゃん。おは「りみちゃん!」きゃぁぁぁ!」

やまぶきベーカリーの店内にりみの悲鳴が響いた。りみが状況を確認するため、辺りをキョロキョロすると自分に誰かが抱きついているのが分かった。

「りみちゃん!おはよ!」

と日菜が満面の笑みで言うと

「ひ、日菜先輩?お、おはようございます。はぅ~。びっくりしたよ~。」

と言い、りみは胸をなで下ろした。

「ごめんね~。りみちゃんの姿が見えてつい。」

日菜は謝ったが、顔はイタズラが成功してとても嬉しそうだった。

「あはは…。日菜先輩。店内ではお静かに。」

と沙綾が苦笑いした。

「あはは~。ごめんね~。それでいくら?」

「あっ、680円です。」

「えっとね、潤君につけといて?」

「へ?」

「だから、潤君につけといて?」

「わ、分かりました。ちなみに、潤君に許可は?」

「とってないよ?大丈夫だよ~!ちゃんと連絡しとくから!」

と日菜は満面の笑みで言った。沙綾は苦笑いしながら

「(潤君も大変だなぁ。)」

と思っていた。

そんなやりとりをしているとりみがチョココロネをトレイに載せてレジにやってきた。

「沙綾ちゃん、お会計、お願いね。」

「うん、いつもありがとうね!380円だよ。」

沙綾の言葉を聞き、りみがお財布をだそうとしたが、右手を日菜に捕まって、それは叶わなかった。

「ひ、日菜先輩?どうしましたか?」

「りみちゃん!ここの会計は潤君に任せたら良いよ!」

「へ?潤君来てるんですか?」

「いや、いないよ?」

「へ?どうやって払うんですか?」

「だから、後できっと潤君はここに来るからその時にまとめて払ってもらったら良いよ!」

日菜の言葉にりみはすぐに理解出来ず、数秒固まった。そして、理解すると、

「ダメですよ!わ、私この前もパン奢ってもらってるんで!ホントは何かお礼しなきゃいけないのに…。」

りみがそう言うと、日菜は

「いやぁ~!りみちゃんは良い子だね~!」

と言った。

「(いや、りみが普通だと思います。)」

沙綾が心の中でツッコんだ。

「りみりん?お会計どうする?」

「も、もちろん払うよ!」

財布を改めて出して、会計を済ませた。

「そういえば、さっき、りみちゃん、潤君にお礼したいって言ったよね?」

「え?あっはい。言いましたよ。」

「ふふ~ん。るんって来ちゃった。」 

「る、るん?ですか?」

りみが不思議そうに言うと、日菜にまた手を握られた。

「へ?ひ、日菜先輩?」

「ちょっと、着いて来てね。沙綾ちゃん!パンありがとう!」

と言い、りみの手を引いて立ち去っていった。

「ち、ちょっと、日菜先輩?何処に行くんですか?ひ、日菜先輩?きゃあ!」

「着いたら分かるよ~!」

勢い良く歩く日菜を見て苦笑しながら

「りみ、頑張れ。」

と沙綾が呟いた。

 

─────────────────────

「ピピピ…」とスマホからアラームが響いた。

「ん?もう朝?」

潤はスマホを操作し、アラームを止めた。時刻は昨日と同じく7時50分を指していた。

「(8時になったら、りみからTELがあるはずだから、それまでは布団にいよう。)」

と考えていた。

「(まだ眠いなぁ。でも、バイトだから起きないと…。)」

と布団の中で「う~ん。」と伸びた。

「あっ…。お、おはようございます…。」

ベットの横から声が聞こえた。

「ん?あぁ。おはよ。(なんだ、りみか。いきなり挨拶されたから誰かと思ったけど…りみか。)」

そう思いながら潤は寝返りをうった。暫し間があってびっくりし、

「って、りみー!な、な、な、なんでここにいるの!」

と叫んだ。

「あ、あの。や、やっぱり迷惑でしたよね?ご、ご、ごめんなさい!」

「え!?あ、い、いや。迷惑とかじゃないけど、びっくりしたよ。どうしたの?」

「やまぶきベーカリーで日菜さんに会って、ここに連れて来られて…。」

「日菜姉さんが?うん…。やりかねない…。」

潤がはぁ~とため息をついた。

「ご、ごめんなさい。日菜先輩、仕事があるからってすぐに出て行ったんだけど、やっぱり私も帰るべきでしたね。潤君の寝顔見てたらつい…み、見入っちゃって…。」 

「本当に大丈夫だから、りみは気にしないで。悪いのは日菜姉さんだから。」

と言い、潤はスマホを手に取り文書を作成した。

「ひ、日菜先輩にラインするの?」

とりみが聞くと、潤は首を振った。

「ううん。紗夜姉さんにだよ。日菜姉さんに言うよりも、紗夜姉さんにチクった方が効果的だから。てか、本当にごめんね。日菜姉さんに振り回されて…。」

「わ、私は大丈夫だよ。潤君の寝顔もみ、見れたから。」

「…寝顔変じゃなかった?」

「ううん。可愛かったよ?」

「か、かわっ…。」

りみの言葉に潤は顔を赤くした。それを誤魔化すように

「か、可愛いは置いといて、折角来たんだし、朝ご飯食べて行ってよ。」

と言った。

「え?良いの?こんな朝早くから。」

「うちは大丈夫!とりあえず、着替えるから廊下で待って貰ってもいいかな?」 

と潤が言うとりみは慌てて立ち上がり「分かったよ。」と言い、廊下に出た。

「はぁ。ホントにびっくりした。」

と潤が呟くとスマホが点滅していた。中を確認すると、紗夜からの返信で「日菜が帰ってきたら言っておきます。」とあった。「お願いします。」と返信をし、う~んともう一度伸びた。

「(さて、早く着替えますか。今日も1日頑張ろう!)」

と気合いを入れ、顔をパンっと叩いた。

 

 

 

 

 

 

 




7話でした。
楽しんで頂けたなら幸いです。 

※秋帆の「帆」が「穂」になっていたので訂正しました。ご指摘、ありがとうございます。
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