ロランドがそれに気づいたのは偶然であった。それは遠くの町まで材料を買い出しに行った帰りだった。道端に倒れている人影を見たのだ。
「おいおいまじかよ!」
すぐに車を停めて駆け寄る。近づくにつれて、それが少女であることが分かった。
「大丈夫ですか!もしもし!?」
少女の肩をたたくも返事がない。仕方なくロランドはうつぶせになっている彼女の身体を仰向けにする。
「なんて美しい人だ……っと呼吸確認!」
ロランドは胸の動きを見る。
「う……動いてない……死体?」
顔から血の気が引き、後ずさる。すると、何かを踏んづけてしまい恐る恐る足元を見た。
そこにあったのは銃だった。まともに知識もない彼には、それが拳銃でもなくライフルのようにスコープが付いているわけでもないということしか分からなかった。
「……なんだ、戦術人形か」
ロランドは冷静になる。動かなくなった戦術人形が転がっていることは、よくあることだった。彼は少女へと近づき、全身を見回す。黒いパーカーに緑のスカート。黒いタイツの上からベルトでそのきれいな足をしめつけている。目は閉じてしまっており、髪は茶色でツインテールにしている。
「民生用なら首元にスイッチがあるんだっけか?」
少女へとゆっくり近づき、首のバンダナを外した。そこには細い首があるだけだ。
だめかと思った瞬間、手が首に触れた。すると見えなかった継ぎ目が見え、横にスライドして開いた。
「うおっびっくりした。最新のはこうなってるのか、知らなかった。ここを押せばいいのかな?」
開いた部分から手をいれて、スイッチを押す。どうやらちゃんと起動したようで、スイッチの近くのランプが点灯した。しかし、ランプは黄色で点滅している。どうやら正常な動作をしていないようだと、機械に詳しくないロランドでも理解した。
ピロピロピロピロ
突然、ロランドのポケットの中から音がする。それは電話の着信音だった。
「はいもしもし、はいロランドです。はいご注文お受けいたしました。受け取りは?はいわかりました。ありがとうございます、では失礼します」
ロランドは電話を切ってポケットにしまうと、車へと戻ろうとした。しかし、もう一度少女の方を見た。
ロランドの車に、物言わず動かぬ乗客が加わった。
=*=*=*=*=
「娘さんのお誕生日ケーキでしたね。準備できていますよ」
「ロランドさん、ありがとうね。あなたが居てくれるおかげでこんな日でも困らずに済むわ」
「ありがとうございます。僕としては競争相手がいないというのもつまらないのですが、まあこの時代ぜいたくは言ってられませんからね。はい、どうぞ」
「またくるわ」
「ありがとうございました」
調理場の方へと入って、ロランドは外向けの笑顔を解除する。といっても彼の表情は元から常に笑顔で、本人以外はそこまで変わっていないと思っていたりっもする。
「さて、今日は店を閉めてこの子をどうかしなくちゃかな」
ロランドはとりあえず椅子に座らせた少女を見る。未だ彼女は動かず、首元のランプも点滅したままだ。
「そういえば常連客に詳しい人がいたはずだな。明日来たら聞いてみようかな」
エプロンを脱いで、店先のシャッターを下ろす。ここは彼が一人で切り盛りしているパンとケーキの店だ。この街にはこの店しか存在しないため、意外と人よりも儲けていたりする。
「おやすみ」
少女に一声だけかけてから、ロランドは調理場の電気を消した。
その夜だった。ロランドは視線を感じて目を覚ました。そんなはずはないと再び目をつむるが、その違和感がぬぐい去ることはなかった。
「ああもう!明日も朝早いんだぞ!まったく僕は臆病なやつd――」
ロランドが身体を起こし、寝室の入り口に目を向けたときだ。人型の何かがそこに立っていた。そんなはずはない。ここは彼の店兼住居で、彼以外に住民はおらず、泥棒が避けるような強固なセキュリティで家は守られているはずだった。
「ぎゃあああああ!」
ロランドはとりあえずつかんだ枕を投げつけた。しかし、人影は投げられた枕を見事にキャッチする。
「HAHAHA!ナイスキャッチだね!……ってやっぱ無理、怖い怖い!」
情けないことに、彼はこの歳になっても幽霊を怖がる臆病者であった。危機感があるということは悪いことではない。むしろこの動乱の時代では生き残るためのスキルだ。しかし、彼は少しそれが過剰なようだった。
ロランドは窓を開けて飛び降りようとする。ここは二階であるからそこまでひどいけがはしないだろうという算段である。
「待って!私はあなたに拾われた人形だよ!」
独特なウィスパーボイスがロランドの耳を突き抜ける。聞いているだけで癒やされそうな声は、彼を振り向かせる効果を持っていた。
月明かりで少女の姿が浮かび上がる。飛び降りる彼を見て驚いた表情を浮かべた顔は傷一つなく、ロランドはとても美しいと感じた。