北区の店主【完結】   作:畑渚

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2.店員

 結局あのあと、ロランドは少女を寝室に閉じ込めて自分は店のベンチで寝転がっていた。人形とは言え、紳士の血の流れるロランドには美少女を無視して自分一人でベッドに寝ることはできなかった。ついでに言えば、彼に美少女と一緒にベッドで寝るほどの度胸もなかった。

 

 

 寝心地の悪さを嘆いていれば、時計の短針が4のところへ着いてしまった。彼の起床時間がきたのである。

 ロランドは起き上がると、シャワーを浴びた。お風呂が好きだと豪語する彼は、夜には湯船に浸かり、朝にはシャワーを浴びるという日に二回も風呂場にお世話になるような人物であった。

 

 シャワーを浴びたあと、彼はタオルを腰に巻いたまま牛乳を一気に飲み干す。風呂上がりの冷たい飲み物は、彼のほてった頭を冷やした。

 

 「さてと、仕事にとりかかろうか」

 

 そういってロランドは調理場の扉を開いた。

 

 「あっおはよう!」

 

 ロランドはそっと調理場の扉を閉め、鍵をかけた。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 「ロランドさん!ちょっとひどいんじゃない!?」

 

 少女はふくれっ面をしながらロランドへと抗議する。そんな顔も美しいなんて頭の中で口説きながらも、ロランドの表情は硬いままだ。

 

 「いやっあのっちょっ近いっ」

 

 ロランドは残念なことに、女性への対応力は低かった。もし祖先がこの場にいれば、本当に同じ血が流れているのか裁判行われそうである。

 

 「それで、僕は君のことをなんと呼べばいいのかな?」

 

 「えっと個体名はump9なんだけど、本物ではないし……」

 

 「本物じゃない?どういうことだい?」

 

 9の言葉にロランドは首をかしげた。彼はただの一般人であり、ダミーリンクシステムなどという軍事機密を知る由もなかった。

 

 「簡単に言うと、私には命令する素体がいるはずなの。でもなぜだか通信が切れてて認識できなくて」

 

 「じゃあ道端で倒れていたのもそれが原因?」

 

 9はうなずいた。ロランドは腕を組んでしばらく考えた後、顔を上げた。

 

 「じゃあノーヴェでどうかな?僕はロランドでいいよ」

 

 「ありがとう!これからよろしくねロランド」

 

 ノーヴェが右手をロランドの方へ伸ばす。それが握手だと気づくのに少し遅れたロランドは頰を赤らめながら右手を差し出した。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 「ねえロランド、私もお店を手伝わせて?」

 

 「いいよそんな。くつろいでていいよ」

 

 ロランドは決してノーヴェの申し出が嫌だったのではない。むしろうれしいくらいだった。しかし、ノーヴェはその意図をくんでくれなかった。

 

 「私に退屈で死ねっていうの?」

 

 見事にふくれっ面である。そんな顔もすてきだぜ、と心の中で唱えながらロランドは謝る。

 

 「ごめんよ。じゃあお願い」

 

 ノーヴェはその言葉に満足そうにうなづいて、服の袖をまくった。

 

 「じゃあ何からすればいい?」

 

 「じゃあ……とりあえず店の掃除を」

 

 「了解!任せて!」

 

 しかし、ノーヴェが動き始める様子はない。

 

 「ど、どうしたんだい?」

 

 「掃除用具ってどこにあるの?」

 

 ロランドは肩に入っていた力が抜けるのを感じた。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 「いらっしゃいませ~」

 

 「あら?ロランドさんったらいつの間にこんなべっぴんさんを捕まえてきたのかしら?」

 

 「べっぴんさんだなんて~そんな~」

 

 ロランドは店の奥から表の方をのぞき込んでいた。始めは人形なんてと思っていたが、ノーヴェの評判は良かった。彼女の容姿は常連の口から賛美の言葉を引き出し、道行く人を引き止めた。

 

 「ねえロランド!チーズケーキがもうないよ!」

 

 「えっ!今日はけっこう多めに焼いたんだけどな……」

 

 冷蔵庫を開けてみるが、作り直すための材料はない。

 

 「しょうがない。今日はもうチーズケーキはおしまいだ」

 

 「声が小さくて聞こえな~い!それとタルトもなくなったよ!」

 

 ロランドは動きが固まる。

 

 「ロランド~!?もう商品ないよ~!」

 

 手に持っていたボールを床に落とした。大きな音が店中に響いた。

 

 「ちょっと何!敵襲!?」

 

 ノーヴェが調理場に飛び込むと、そこには茫然自失となったロランドがいた。

 

 「ロランド!ロランド~!」

 

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