北区の店主【完結】   作:畑渚

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3.休日

 それから数日間、ロランドは今までにはない忙しさを経験していた。ノーヴェはその綺麗な容姿で店に人を引き込む。そうしてホイホイ入ってきた連中は、ノーヴェの独特の人懐っこさにあてられて財布の紐を緩めるのだ。

 

 「おはよう、ロランド!」

 

 「おはようノーヴェ」

 

 ロランドはベッド代わりのソファーから起き上がる。顔を覗き込んでくるノーヴェの笑顔で乾いた目を癒しながら、今日やることを頭の中でリストアップしていく。

 

 「今日は休みにするんだよね。何をするの?」

 

 「買い出しと……新しい商品でも考えてみようかな」

 

 ノーヴェによる販売効果が得られている今であれば、多少失敗しても元は取れそうだとロランドは考えていた。

 

 「買い物かぁ。私が行くのは初めてかも」

 

 「えっついてくるの?」

 

 「えっダメなの?」

 

 二人の間を沈黙が通り過ぎる。

 

 「あっえっと、じゃあ一時間後くらいに出るつもりだから」

 

 「了解!」

 

 ノーヴェは寝室から出て下の階へと走りながら降りていった。

 

 「人形とはいえ女性と二人で買い物?これってデート?やばいどうしよう初めてだ」

 

 つくづく女性関係に対して残念なロランドであった。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 「綺麗な街だね」

 

 ノーヴェはキョロキョロとせわしなく目を動かす。

 

 「ずいぶん昔の町並みを再現してるらしいよ。戦争でほとんどが失われてみたいでここは珍しいらしいよ」

 

 「ふーん。昔の町並みか。確かにビルが乱立してるような街からここに来たらタイムスリップしたんじゃないかって思うかも」

 

 ノーヴェは何かを見つけて走り寄っていく。

 

 「見て見て!クレープだってよ!」

 

 「おっ嬢ちゃんお目が高い!買ってくかい?」

 

 「じゃあ一つ……いや二つお願い!」

 

 「あいよ毎度あり!」

 

 ロランドが追いつく前にノーヴェが注文を済ませてしまった。

 

 「あのなぁ」

 

 「いいじゃん!これも新商品開発の一環だよ」

 

 「まあいいけどさ。お代ここに置いておきますね」

 

 「あいよ!……ってロランドの旦那じゃねえか。いつも世話になってるぜ」

 

 「そうなんですか。ありがとうございます」

 

 「うちの娘がおまえさんとこのパンの大ファンでな。しっかし女っ気がないと聞いていたのにいつの間にこんなべっぴんさん捕まえたんだ?」

 

 クレープ屋のおやじはクレープを手渡してきながらそう言った。

 

 「ノーヴェは人形ですよ」

 

 「ほぉ、最近の人形はずいぶん精巧なんだな。俺が子供の頃なんか最先端の技術でも人間の形をした何かしか作れなかったってのに」

 

 「まったく、どうしてここまで人間に似てるんだか。口説く相手を見分けるのに苦労しますよ」

 

 「ロランドの旦那は口説く勇気もないだろ?」

 

 あっはっはと二人は大声で笑う。そんな様子を見てノーヴェは自然に笑顔を浮かべた。

 

 「おっと引き止めちまったな。今度はそっちの店に顔を見せるよ」

 

 「はい、お待ちしていますね」

 

 クレープ屋と別れてからしばらく歩く。目ぼしい店をウィンドウショッピングしながら二人で歩くのは楽しかった。

 

 「おっと、すみません」

 

 少し狭い路地を歩いていると、ロランドがぶつかってしまった。ロランドは違和感を覚えた。当たった感触は金属だが、見た目は人である。

 

 「いえ、こちらこそ……」

 

 黒いフードを深くかぶっている人は声からして少女らしかった。

 少女は一度ノーヴェの方へと顔を向ける。

 

 「9?……あっいえなんでもないわ。本当にごめんなさいね」

 

 そう言って少女は早足で路地から抜けていった。

 

 「ノーヴェ、今のは」

 

 「うん、知ってる人……いや、人形だね」

 

 「そっか人形か。右腕が義手だったんだがそいつで間違いないのか?」

 

 「義手?じゃあ違うのかな?でもあの服装と声はどう考えても……」

 

 「まあいっか。ほら、そろそろ本来の目的の買い物をして帰るぞ。はやく新作に手を出したい」

 

 「……まったくもう。しょうがないなあ」

 

 ノーヴェは震える手を抑え込んで、ロランドに笑顔を見せた。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 「どこへ行く気だ?」

 

 その日の夜、ノーヴェは玄関でロランドに声をかけられた。

 

 「……私はもうここにはいられないから」

 

 ドアノブにかけた手をおろしてノーヴェはロランドの方へ向き直る。

 

 「どういうことだい?」

 

 「私はとあるPMCの所属なの。そして今日会った少女、あの子も同じ。でも私をPMCへ連れ戻そうとはしなかった。つまり考えられるのは――」

 

 「本体の方が何かしらやってPMCから除名されてるとかか。でもそれこそノーヴェには関係ないことだろう?」

 

 「私たちは戦闘の役目から追われると民生用へ改造されるの。そのときに一切合切の記憶は消えるわ。つまりは体のいい中古品になるの。もちろん働き先も選べない」

 

 「それで、ノーヴェがここを出ていく理由は?」

 

 ロランドの声が少し荒くなる。しかし、ノーヴェは気にせずに話し続けた。

 

 「人形回収には部隊が投入されるの。私はこの綺麗な街を汚したくないから」

 

 「それで?」

 

 「それでって言われても。これが全部だよ」

 

 「ノーヴェはそれで満足なのか?記憶を失うってことはつまり今のおまえは死ぬんだろ?おまえは死んでもいいと本気で考えているのか?」

 

 「そりゃ死にたくはないよ!でも……」

 

 ノーヴェはうつむく。ロランドは自分らしくないなと考えながらも言葉を続けた。

 

 「死にたくないなら生きろよ!他のことなんて考えるなよ!」

 

 ロランドの大声にノーヴェは身をすくめるが、すぐに言い返す。

 

 「でもどうやって!?身寄りもなんもない私に居場所なんて!」

 

 「女の子一人くらいかくまってやるさ!それくらい俺にだってできる!」

 

 

 

 

 二人の間を長い沈黙が支配する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「すまない、熱くなりすぎた」

 

 ロランドはそう言って寝室へと戻っていく。

 その背中を見ながら、ノーヴェは自分の体温が少し上がったのを計測した。

 

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