世界を救わない物語   作:west4610

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これは、世界を救わない男の物語

2015年、カルデアスと呼ばれる疑似地球観測装置はおよそ一切の未来を映さず……2016年から先の人類の未来は消失した。

同時に、本来は存在しない筈の特異点と呼ばれる事象が過去の人類史に発生。

この緊急事態に人理継続保障機関フィニス・カルデアはレイシフトと呼ばれる方法にて未来の修正を行うことを決定した。

だが━━工作員の手により47名居たマスター候補は全員が瀕死の重症を負い、カルデア所長であるオルガマリーも死亡するという最悪の事態を迎えることとなる。

 

そんな状況の中、一人の青年が居た。

藤丸立香。

マスター候補の予備の予備としてこのカルデアに招かれた彼は自らの善性によるものか…はたまた一人の人間として当然のことなのか。

眼前で傷ついていた少女を救い、今カルデアに居るスタッフの要請を受け本来の職務を果たそうとしていた。

 

これは、そんな彼と彼女と……人理を救い、別の世界に名を刻んだ男による━━━━━━世界を救わない物語。

 

「先輩、召喚サークルの設営完了しました!」 

 

 大型の盾を持った少女が、小走りで青年へと駆け寄った。

 

「お疲れ様、ありがとうマシュ」

 

「いえ、今は緊急時ですし必要なことをやっただけで…」

 

「その通り、今は緊急事態なんだから無駄話なんてしてないでさっさと戦力になるサーヴァントを召喚するわよ」

 

 マシュと呼ばれた少女と青年の会話に、二人よりも少し大人びた女性が辛辣な口調でそう諭した。

 

「召喚……本当にさっき言った方法で英雄が呼べるんですか?」

 

「そう、人理を守る英雄……英霊。本当は触媒が必要なんだけど」

 

「人類の未来が消失するような緊急事態、そして特異点という特殊な揺らぎを触媒の代わりに利用するんですね? オルガマリー所長」

 

「えぇ、マシュ一人と新米マスターのあなただけではこの先を生き残れない。 今は少しでも戦力が必要なの、さぁやりなさい藤丸立香」

 

 青年は頷くと、右手を眼前に伸ばす。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公 祖には我が大師シュバインオーグ 降り立つ風には壁を 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 燃え盛る街の中、瓦礫に覆われた場所で青年は紡ぐ。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、

  抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

「(頼む、お願いだ……! どんな人物でも構わない、彼女たちを守る力になってほしい…!)」

 

 魔力が魔方陣へと集まって行く。

 魔方陣の周囲を無数の円が周り、中央へと集い、点は線に、線は束ねられ、人の形へと変わって行く。

 

「これは……セイバー!?」

 

 オルガマリーが驚きの声をあげた。

 

 意識を集中している藤丸には分からなかったが、傍目からは形作られ行く者が剣を握っていることが見てとれた。

 

「上出来だわ……セイバーは最優のクラス、どんな人物でも戦力にはなる……!」

 

 光は更に集い、ついにそのサーヴァントは姿を表した。

 茶色の髪に、銀色の鎧と緑色の外套を纏う長身の男

 藤丸はゆっくりと右手を下げると、少しの間呆然としていた。

 自らが行った行為で、本当に英雄を呼び出したことに驚いていたのだ。

 燃え盛る街は、少しの間静寂に包まれた。

 

「おい」

 

「は、はい!?」

 

「何処だ、ここ?」

 

「あ、えっと……」

 

 藤丸は困惑した表情でオルガマリーへ視線を向けた。

 

「藤丸、あなたが召喚したのよ。 その男はあなたの使い魔になる、毅然となさい」

 

 使い魔という言葉に藤丸は抵抗を覚えた。

 だがオルガマリーが言うように彼は自分が呼び出したのだ、ならば彼の質問に答えるのは自分しかいないだろう。

 彼はそう考え、男の前に一歩足を踏み出した。

 

「此処は日本の冬木市と言う都市です、あなたが生きていた時とは大きくかけ離れた時代です」

 

「ふーん……」

 

 男は興味があるのか無いのか、周囲をキョロキョロと見回している。

 

「僕たちは今、人類の未来を守るためにここに居ます。 でも、僕だけの力では足りないんです。 だからあなたの━━」

 

「やだ」

 

 藤丸が言い切る前に、男は否定の言葉を口にした。

 

「ガーハッハッハッハ! お前が困っているなんて俺様はしらーん!」

 

 男は豪快に笑うと、藤丸の後ろに居る二人の女性へ視線を向けた。

 

「だがその後ろの子はどちらもグッドだ! グフフフフ……」

 

 男は涎を垂らしながら笑みを浮かべる

 

「ひっ……ヒィッ!」

 

「先輩、オルガマリー所長! 下がってください!」

 

 男のニヤニヤ笑いにオルガマリーは嫌悪を、マシュは危機感を覚え盾を構える。

 

「未来の女の子いただきー!」

 

 だが、そんな二人の反応はまるで気にしていないのか男は剣を構えると藤丸を突き飛ばしマシュへと突撃した。

 マシュは身の丈を超える盾を構え、男が振るうであろう剣の一撃に身構えた。

 しかし彼女が想定した一撃は振るわれることは無かった。

 

「ガハハハ! 甘いあまーい!」

 

「えっ……!?」

 

 衝撃が盾に奔った。

 体が浮き上がる感覚が衝撃に続いた。

 ゆっくりと体が浮き上がっていく中、マシュは視界に男が持っていた剣が浮かんでいるのを見た。

 その奥には、何かを投擲したであろう姿の男。

 

「そんな、セイバーが剣を投げるなんて……!」

 

「俺様はそんな剣なぞ無くても世界一強いのだ! とぉーう!!」

 

 男は剣を投げ放った姿勢から両足に力を籠めると、オルガマリーへ向けて飛び込んだ。

 

「ヒッ……嫌!」

 

「グフ、グフフ……オルガマリーちゃんとか言ってたな? 中々良い顔をしている、グッドだ!」

 

「さ、サーヴァントの癖に……! 使い魔風情がこの私に──」

 

「知らん知らーん! 俺様は俺様のやりたいようにやるのだ! さぁそれでは早速……」

 

 男は無事、オルガマリーを押し倒すと彼女の顔をゆっくりと確認する。

 そして、下半身に自らの手を動かしたところで……。

 

「令呪を以て命ずる!! セイバー、動きを止めてオルガマリー所長から離れるんだ!」

 

 男の動きが止まった。

 

「ん? あれ? お、おかしい……いきなり体が動かなくなって……ど、どうして体が離れていく!?」

 

 所長へ乱暴を働こうとする男を、藤丸は令呪を以て諫めた。

 本来であればセイバークラスの様に、対魔力を持つサーヴァントには有効とは言えない手だったが何故かこの男には通用した。

 かくして……最優クラスのサーヴァントとの初邂逅は、とんでもない形で幕を開けるのだった。

 

 

 

 

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