世界を救わない物語   作:west4610

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別れ

 

「ガーッハッハッハッハッハッハ! 俺様のしょーーーーり!」

 

 大空洞の中に、本日何度目かの大笑いが響き渡った。

 ランスアタックを受け、地面ごと粉々になったレフの死体(があったであろう場所)にランスはカオスを掲げながら笑っていた。

 

「うーん、いつもの魔人を切った感覚とは若干違うけどこれはこれで新感覚だった……実はまだ居たりしない?」

 

 掲げられたカオスは、恍惚とした抑揚で周囲の魔人の気配を探る。

 

「コラ」

 

「あいた」

 

「これ以上の厄介ごとを探すんじゃない、そしてそれよりも……グフフ」

 

 カオスを地面に放り投げると、ランスは右手を口元に当てながらいやらしい笑みを浮かべながらオルガマリーを見た。

 オルガマリーは地面にへたり込みながら周囲に当たり散らし、そんな彼女をマシュと立夏が宥めていた。

 

「おっ、何心の友、もしかしてやっちゃう感じ?」

 

「とーぜん、俺様は彼女の命を救った。 つまり彼女は俺様に惚れている、だからヤる!」

 

「惚れてるかどうかはちょっと怪しいかな~……って行っちゃったよ」

 

 ランスはうきうき気分で、スキップをしながら鼻歌交じりにオルガマリーへ近づいていく。

 オルガマリーの気分などつゆ知らず、彼女の前に立つと声をかけた。

 

「さぁオルガマリーちゃん、敵は居なくなったぞ! というわけでセ〇クスだ!」

 

「は?」

 

「………………はい? あの、ランスさん──?」

 

 いきなりの発言に、オルガマリー、マシュ、立夏が固まった。

 

「う…………」

 

「う?」

 

「五月蠅い! この馬鹿、アホ、間抜け、強姦魔、殺人鬼、屑、火付け泥棒!!」

 

 固まっていた三人の中で、一番最初に顔を上げて言葉を発したのはオルガマリーだった。

 彼女はランスに罵声を浴びせながら、大空洞に転がる石を手当たり次第にランスへ投げつける。

 

「おわ、いてっ! な、何をする!」

 

「五月蠅い五月蠅い! 最初に会った時から私の事を襲おうとして、挙句にレフまで殺して私のカルデアスに何かよくわからないのぶつけるし……何なのよあなた!」

 

 オルガマリーの顔は涙で濡れていた。

 両手で交互に石を投げつけながら、只管に嘆き続ける。

 

「お父様が死んでからずっとそうだった、どんなに頑張っても誰も認めてくれない、愛してくれない! 私は──私はまだ誰にも愛されてないのに!」

 

「…………」

 

 気まずそうな表情で、ランスは頬を掻いた。

 

「なのに──私、もう死んでるなんて…………いっそ、あのまま死んで──」

 

 彼女の台詞を遮る様にランスの拳骨が、オルガマリーへ落ちた。

 

「馬鹿者」

 

 ランスはしゃがみ込むと、彼女と目を合わせた。

 

「軽々しく死ねばよかったとかそういうことは言うんじゃない、折角可愛いのに」

 

「でも、私はもう死んで………」

 

「オルガマリーちゃんは此処に居るじゃないか、死んでるなら体にも触れない筈だぞ」

 

「それは、だから今の私は残留思念で……」

 

「でも今は生きてるんだろう? 自分で考えて自分で動けるんなら生きてる以外に何だと言うのだ」

 

 そうして、ランスは右手を彼女の頭に乗せると二度ぽんぽんと軽く叩いた。

 

「ほら、やっぱり触れるし生きてるではないか。 あんな奴の言う事なんて聞かなくてもいいのだ」

 

「聞かなくても……いい?」

 

「うむ、それに誰にも認められてないとか言うが俺様はちゃーんと認めてるぞ、更には愛してもいるぞ!」

 

「本当……?」

 

「ガハハハハ、本当だ本当。 英雄の俺様が嘘を吐く筈無いだろう」

 

 オルガマリーの両目から、再び大粒の涙が零れ落ちた。

 彼女はランスの胸に倒れ込み、泣いた。

 衆目も気にせず、今までの地位やプライドも気にせず。

 積もり積もった何かを溶かすように、大声で。

 彼女が泣くのを、誰も邪魔しなかった。

 

「と、とりあえず!」

 

 三十分後、オルガマリーは急にランスの胸から離れると立ち上がり声を上げた。

 

「ん? おぉ、もう泣かなくていいのかオルガマリーちゃん」

 

「ふん、調子に乗らないで。 ちょっと弱い所を見せたからってあなたの事は信頼も信用も一切してませんから」

 

「ガハハハハ、さっきまで俺様の胸でえんえん泣いてた癖に何を言ってるのか」

 

「オルガマリー所長……その、大丈夫ですか?」

 

 立夏とマシュは、急に立ち上がり健気に振舞うオルガマリーへ心配そうに声をかける。

 

「問題無いわ、とりあえず貴方達はさっき指示した通りあの水晶体を回収してきなさい」

 

「は、はい!」

 

「行きましょう先輩、所長の事はランスさんにお任せした方が良い気がします」

 

「うむ、お邪魔虫はさっさと行け行け、俺様達はこれから仲良くするのだからな……グフフフ」

 

 ランスは立夏を追い払うように手を動かすと、再び口元に手を持っていき笑みを浮かべた。

 

「…………あなた」

 

「ガハハハハ! さぁそれではお楽しみタイムだー!」

 

「残念だけど、それは無理みたいね」

 

「何ぃ? この期に及んで俺様からの誘いを断る──」

 

 オルガマリーは首を横に振って、ランスの足元を指差した。

 

「ん? 何? 足元?」

 

 ランスの足元から、金色の光が立ち上っていた。

 

「ぎゃーーー!! お、俺様の体がーー!」

 

 続いて、大きな振動が大空洞を襲った。

 

「なんだぁ!?」

 

 オルガマリーとランスはあまりの揺れに体勢を維持できず、地面に膝を突く。

 

「大変だ! その洞窟、というより特異点に揺らぎが発生してる! もしかしたら特異点が消えるのかもしれない!」

 

 大空洞の中に、ロマニの声が響き渡った。

 

「なにーーーー!?」

 

 ランス達から離れた場所で、共に身を寄せ合うマシュと立夏が居た。

 立夏は身を縮こませ、マシュが天井から降り注ぐ瓦礫から立夏を守っていた。

 

「不味いわね……ロマニ、直ぐに緊急レイシフト!」

 

「って言われても……ど、どっちからです!? 距離が離れすぎていて全員同時は──」

 

「決まってるでしょう!」

 

 オルガマリーは自らの横に浮かぶウィンドウ上のロマニへ向かって叫んだ。

 

「あのマスター候補、藤丸立夏とマシュからよ!」

 

「で、でも所長はどうするんです!?」

 

「まだ特異点が崩壊すると決まって訳じゃないわ、するとしても時間的猶予がある筈です。 ……余裕が出来たら、探しに来なさい」

 

 そう言うオルガマリーは、穏やかな笑みを浮かべていた。

 先ほどまでの諦めではなく、未来への希望を感じさせる笑顔だった。

 

「お、俺様はどうするんじゃー!」

 

「安心しなさい、恐らく元居た場所に帰るだけよ」

 

「なにぃー!? まだオルガマリーちゃんもマシュちゃんも抱いてないんだぞ! 俺様は絶対かえらーん!」

 

 そういうランスの体は、既に膝まで消えていた。

 ランスは消えゆく体に焦りつつも、鎧を脱ぎ始める。

 

「あなた、本当に性欲に正直ね」

 

「ガハハハ、可愛い女の子が居たらエッチしたくなるのは当然だろう」

 

「軽蔑するわ、心底」

 

 こんな状況でも、己の欲望を優先するランスにオルガマリーは呆れた表情を見せる。

 

「所長、レイシフトの準備完了しました。 これより──」

 

「形式的な説明はいいわ、さっさと藤丸とマシュをカルデアに戻しなさい」

 

「…………分かりました。 所長、月並みですが──幸運を」

 

 ロマニが映ったウィンドウが消え、遠方に見える立夏とマシュが青い光に包まれ消えた。

 

「幸運を、ね」

 

 二人が消えるのを見届けたオルガマリーは、自嘲気味にそう呟いた。

 彼女もまた理解していた。

 恐らく先ほどレフが自らに言った言葉は真実なのだろうと。

 そしてそれはロマニも理解しているのだろう、だからこそそんな気休めを言ったのだ。

 

「だーーー、俺様のハイパー兵器まで消えてるー! えぇい、こうなれば胸の一揉みかキス位は絶対に──」

 

 そんなオルガマリーの気持ちは全く関係ないと言わんばかりに、ランスは焦った表情で下半身が消えたままオルガマリーへ腕を伸ばしながら近づいていく。

 

「ガンド」

 

「ぎゃーーーーー!」

 

 蚊取り線香に当たった蚊が地面に落ちるように、ランスはオルガマリーの魔術で地面にぽとりと落ちた。

 

「最後までブレないわねあなた、英雄ってそういう要素が必要なわけ?」

 

「うぐぐぐ……お、おっぱい……」

 

 後もう少し腕を伸ばせばオルガマリーに触れるという距離で、ランスは地面で蠢いていた。

 

「…………性格は見下げ果てたけど、今回は色々助かったわ。 英霊なんて使い魔と同じだと思っていたけれど──」

 

 しゃがみ込み、オルガマリーはランスの手を取った。

 

「ありがとう、助かっ──!?」

 

 そう言って、オルガマリーは頭を下げようとした所をランスに無理やり力づくで引き寄せられる。

 ランスはそのまま顔をオルガマリーの顔と同じ高さに持っていくと、ほぼ顔面同士の激突の様な口づけを行った。

 

「ガハハハハハハ! オルガマリーちゃんの唇ゲットーーーー!」

 

「────────ッッ! ガンドーーー!!」

 

「ぎゃあああああああ!」

 

 大空洞の中に、ランスの悲鳴が木霊した。

 この悲鳴は、この特異点が消滅するまで響き続けた。

 ランスの悲鳴に掻き消される、オルガマリーの笑い声と共に。

 

 

 




【プロフィール4】
このサーヴァントは元来地球の歴史に存在しない人物である。
元々は別の世界から現れた際に、英霊の座が世界を救いうる特効薬的存在として登録した物である。
だが宝具の性質上、最早特効薬ではなく劇薬の様なものであり死蔵されている様な状態となっていた。
このサーヴァントが召喚に応じるには召喚者が女性、あるいは女性に関する願いをしている事が必須条件である。
男性が召喚者の場合は生前のランスとの縁が無ければ絶対に呼び出しに応じることは無い。
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