地球ではない、どこか──。
ここは人の立ち入れぬ聖域。
神の領域。
その入り口の先、長い長い回廊を抜けた先には白い巨大な何かが鎮座していた。
あまりに途方もなく巨大すぎて、一見しただけでは誰もそれが生物とは思わないだろう。
「……………………英霊ランス、消滅を確認しました」
老婆は自らの隣に鎮座する白い生物に対し、臆することなく声を掛ける。
「あぁ…………」
白い生物はその巨大な瞳を老婆へ向けると、子供の様にクスクスと笑い声をあげた。
「くすくす…………くす……今回も面白かったね、あのぷちぷちは…………」
「えぇ、ランスですから」
老婆はくすりと微笑を浮かべると、先ほどまで眼下に映っていた冬木の光景を思い出す。
ランスと老婆が共に冒険していた頃の様に活躍する彼の光景に、老婆は嬉しさが込み上げるのを感じていた。
「若い頃を思い出します」
「くす……」
二人は過去を懐かしむように談笑する。
彼らにとってランスの活躍は心底嬉しい物の様に見えた。
「それでは、座からランスの魂を回収しましょう」
二人は一頻り語らい合うと、老婆が神妙な面持ちでそう言った。
「死後、こちらの世界から奪い去られた彼の魂を回収し再び輪廻の内に戻す」
「…………………」
「よろしいですね?」
老婆は強い眼差しで、赤い瞳を見た。
それは何を考えているのか、老婆の問いかけに長い間答えを返さなかった。
「(もっとも、ランスの魂を回収しても行く先は地獄ですが……)」
「…………くすくす」
長い沈黙の後、再び笑い声が目の前の生物から帰ってきた。
「あのぷちぷちの魂は…………暫くあっち側に貸しておこうよ」
「まだ、彼の活躍が見たいのですね? ──創造神ルドラサウム」
白い生物はとても面白い事が思いついた、というような表情で。
まるで自らの母親に提案する様に、そう言った。
老婆はその提案をにっこりと笑って、頷いた。
「実は、私もまだまだ見ていたいのです。 あの人の活躍を…………」
「くす…………くすくす、決まりだね…………」
「えぇ、ですが見ているだけではなくこちらからも少しこういった遊びをするのはどうでしょう」
「くすくすっ…………はは…………それはいいね…………」
「えぇ、存分に楽しみましょう。 こちらの世界もあちらの世界も……あなたが思う以上に楽しいのですから」
飽きることなく二人は次の遊びを相談し、盛り上がる。
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かくして、英霊ランスが座から抹消される事態は回避された。
しかし彼の宝具使用により、世界は確実にあるべきだった歴史からその軌道を外れていくこととなる。
聖女と聖杯により作られた、男の願いを背負う聖女との闘いの歴史では……。
「魔人エリザベートよ! ロックに決めるわ!」
カルデアスとの衝突により砕け散った魔血魂を拾い食いした英霊が。
また四方を海で囲われた世界では……。
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
「リトル! こちらの世界の英雄を止めるわよ!」
ギリシャの大英雄と、それに匹敵するであろう魔人が。
現代に程近い時代、アメリカ大陸では……。
「うん、それではちょっと殿に行ってくる」
「せ、戦姫さん!? 無茶ですよ!」
「あー……良い良い、暫く子守りばっかりでこういう死が身近に迫るギリギリの負け戦してなかったからな」
「いや、勝つさ。 今は負け戦かもしれないがランス、そして藤丸とならな」
「お、俺様をそんな信頼に満ちた瞳で見るな……」
薙刀を持った女性が。
そして、神代の時代では……。
「ティアマト……魔王ククルククルに変生します!」
「俺はただ強くなりたかったんだ……。 ちっぽけで、臆病で、最弱のリスが……身の程知らずにも思ったんだ」
「おーおー、こりゃぁ……魔王だ! 魔王ククル・ククルだぞ心の友!」
「ククルククルになりたいと……ああっ! ああっ!そうだ! 誰よりも!何よりも強く!ただ強く! おれは誰だ!?魔人筆頭ケイブリス!? 」
「嬉しそうに言うな駄剣! おいケイブリス、お前逃げるんじゃないぞ!」
「違う!!!! 魔物王ケイブリス! この世で最も強く────ククルククルすら越える男の名だぁぁぁぁ!」
魔王と融合し、文字通りの意味での変生を果たしたティアマトと。
その魔王が最初に産み出した原初の魔人。
……こうして、ランスの影響によって確実に全てが変わってゆく。
これから先の世界がどうなるか、それは神も知らない物語。
「ガハハハハ! 世界の結末なぞ知らーん! 俺様は俺様の女を虐める奴を殺すだけじゃー!」
これは、自らの欲望によって戦う男の……世界は救わない物語。
【プロフィール5】
一度地球に現れた際に座によって登録されたランスだが、彼の知識や経験が入った魂を回収することはできなかった。
故にガイアは彼がルドラサウム世界で死ぬのを待ち、死後魂を回収した。
結果としてランスは座に英霊として正式に登録されることとなったが、魂を輪廻に戻すことが出来なくなったクルックーとルドラサウムは切れた。
結果として今回の騒動がランスの面白さを再び異星の神ルドラサウムに示すことに繋がり、彼の魂は暫く座に残ることとなる。
だが宝具によって地球のテクスチャをルドラサウム世界に塗り替えていく彼は、魔神王の怒りを買う事にもなるのだが……。
この大英雄ならば、きっと何とかしてしまうのだろう。