燃え盛る冬木の街で、爆音が響き渡る。
一度、二度と炎の音と剣戟を防ぐ音が教会前の広場に響き渡る。
「くっ、キャスター……! 何故漂流者の肩を持つのです!?」
「あん? てめぇらよりマシだからに決まってんだろ!」
肩で息をするサーヴァントは、フードを被ったキャスターへと声を絞り出しながら問いかけた。
「じゃあなご同輩!」
そして、その問いかけにはルーンの魔術を以て返答とされた。
左手を眼前に動かすと、サーヴァントの足元から炎が噴出する。
「うぁ、グァァァァァァ!」
サーヴァントは避ける間もなく炎に包まれ、炎が消失した時にはそのサーヴァントの姿もまた消えてなくなっていた。
「いっちょあーがりっとぉ」
一仕事を終えた後の様に伸びをするキャスターに、マシュは近寄ると頭を下げた。
「ありがとうございます、危ない所を助けていただいて」
「おう、お疲れさん。 あんたの援護のおかげだ、気にすんな」
キャスターは頭を下げるマシュへ近寄ると、肩へ手をまわすと軽く手を動かし揉み始める。
「ちょ、ちょっと!」
不思議そうな顔をしているマシュと役得を噛みしめているキャスターの間に立夏が割って入る。
「ハハハ、嬢ちゃん中々良い体してるな! 役得役得」
「あの男が石像じゃなかったらあのサーヴァント、切り殺されてるわね……」
笑うキャスターを見ながら、オルガマリーは遠くで石になっているランスを見た。
少しため息を吐くオルガマリーに、ロマニからの通信が入る。
「とりあえず事情を聞こう。 どうやら彼はまともな英霊の様だ」
「おっ、話の早い奴が居るじゃねえか。 なんだオタク? そいつは魔術による連絡手段か?」
「はじめましてキャスターのサーヴァント。 御身が何処の英霊かは存じませんが我々は尊敬と畏怖をもって──」
「ああ、そういう前口上は結構だ。 聞き飽きた。 てっとり早くお互いの事情について話そうや軟弱男、そういうの得意だろ?」
「うっ……そ、そうですか、では早速」
軟弱、と言われたことにショックを受けながらもカルデア一行とキャスターはお互いの情報を交換し合う事になった。
異常事態によってレイシフトを行った事、現状を回復するための調査を行っていること。
そしてキャスターからは自身がこの街で起こっていた聖杯戦争のサーヴァントであること、また敵が何者で自身を含めて何かを探しているという事を。
「成程、残ったサーヴァントはセイバーと貴方だけ……では貴方がセイバーを倒せば」
「おう、この街の聖杯戦争は終わるだろうよ。 この状況が元に戻るかどうかまではわからねえがな」
「なんだ。 私たちを助けてくれたけど、結局は自分の為だったのね」
オルガマリーは呆れるような顔をすると、キャスターへ辛辣な言葉を放った。
「貴方はセイバーを倒したい。 けれど一人では勝ち目がないから私たちに目を付けた……違って?」
「その通りだ。 だが悪い話じゃあねえだろ? 何しろサーヴァントを二人も連れてるんだしな」
「二人……あっ」
二人、という言葉に立夏は声を上げた。
先ほどから会話に参加していない、自らが呼び出したセイバーの事を思い出したのだ。
「ランスロットの事、忘れてた……」
「そういやあの兄ちゃん、石になってたな。 元に戻すか?」
「で、出来るんですか? それなら是非!」
「私としては気が進まないですが今は貴重な戦力です、キャスター、やってちょうだい」
「あいよ、キャスタークラスでの現界ってんで参ってたがこういう風に役に立つんならそれも良いわな」
キャスターは右手を上げ、ランスの元へ飛ぶと解呪のルーンを使用する。
すると石像と化していたランスが徐々に生身へ戻っていき……。
「…………ぶはっ! くそ、俺様としたことが二回も石化するなんて……って誰だ貴様! 敵か! 死ねーーーーーーっ!」
「おわっ、何だこいつ!? おいマスター、ちょっとこいつ止めてくれ!」
元に戻った瞬間、ランスは暴れ始めた。
その後彼を宥めるのに貴重な令呪を一画失う事になった。
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「全く、血の気が多いのは結構だがキャスタークラスでセイバーの相手はつれぇわ」
「す、すみませんキャスターさん! ランスロットさんはその、少し問題が多い人で……」
「少しかぁ? 男と見るやいきなり切りかかってきたぞ?」
「ほんっとうにすみません!」
マシュがキャスターへ頭を下げるとキャスターはカラカラと愉快そうに笑った。
そんな二人のやりとりをランスは遠くから憤慨しながら見ていた。
「えぇーい! 可愛い女の子が増えるならともかく、男なんざいらん!」
「でもランスロット様、今は少しでも人手が必要で……」
「俺様が居れば十分だ」
「その割にはさっきのサーヴァントには負けてたじゃない」
「うぐっ……さ、さっきは油断しただけだ! 俺様は最強無敵の大英雄だぞ!」
オルガマリーに痛い所を突かれ、ランスは少し狼狽する。
「でも実は心の友、石になるの二回目なんじゃよねー」
「え、そうなの?」
「そうそう、前はメディウサって奴に油断してたらやられたの」
「人の過去を掘り返すな駄剣!」
ランスはカオスを乱暴に地面に叩きつける。
「あいたーーーーーーっ!」
「まぁまぁ……ランスロット様落ち着いて」
すっかりランスの名前に様を付けるのに馴染んだ立夏がランスを宥める中、オルガマリーは顎に手を当て何事か思索し始めた。
「(……ランスロットの逸話に、石にされるようなものがあったかしら? それにメディウサ……メデューサの事? あれと相対した英雄……?)」
「ふん、気に入らんがまぁいい。 おいガキンチョ、それで当面の目標は決まったのか?」
「あ、うん。 とりあえずあのキャスターにセイバーを倒して貰えればそれで何とかなる、と思う」
「ふーん……まぁ俺様は可愛い子が居ればそれでいいが……ってそうだ、そういえばさっき俺様を石にした子はどうした!?」
ランスは突然、先ほど相対していた英霊について思い出すと辺りを見回し始める。
そんなランスに立夏は申し訳なさそうに口を開いた。
「それが、その──」
「なぁにぃーーーーーーーっ!? あんな美人の子が消えてなくなっただとぉーーーー!?」
説明を聞いたランスは、拳骨を立夏の頭の上に落とす。
「いた、痛いですランスロット様!」
「この役立たずが! 女の子の代わりに不要な男を増やしやがって!」
そして舌打ちをすると立夏から離れ、マシュと話していたキャスターの方へと大股で歩いていく。
「おい、貴様!」
「あん? 何だぁセイバー、そんな血相変えて」
「俺様は今イライラしているのだ、よって貴様をボコる」
「はぁ!?」
「ガハハ、勿論殺しはしない程度で許してやる。 さっきみたいに体を縛られるのはごめんだからな」
ランスはそう言うと、カオスの刀身を肩に乗せ笑った。
大声でキャスターをボコる宣言をしたランスに、立夏が追いつくと二人の間へ直ぐに割って入った。
「ら、ランスロット様! だからキャスターは味方で……」
「いや、いいぜ。 但しお嬢ちゃんとのコンビでやらせてもらうがな」
「え!?」
「今お嬢ちゃんと話しててな、宝具の使い方ってのを一つレクチャーしてやろうかと思ってたところだ」
そうして、キャスターも杖を幾度か回転させると槍の様に構えた。
その姿は堂に入っており、ランサーとしての彼の姿を見る者に想起させた。
「さぁ構えな兄ちゃん、あんたの実力ってのも見てみたかったからな」
「止めた方が──」
「いえ、その必要は無いわ藤丸。 やらせてあげなさい」
狼狽する立夏へ、オルガマリーは戦闘の許可を与えるよう助言した。
その瞳は値踏みするようにランスへと注がれている。
「マシュがこの戦いを経て少しでも成長するなら、私たちにとって益があることだわ。 もちろんマスターである貴方にもね」
「所長……」
「(それに、キャスターが宝具を使うつもりならあの男も宝具を展開するはず……それであの使い魔が本当にランスロットなのかどうかも判明するわ)」
オルガマリーはじっとランスを見つめる。
そんな視線を受け、何か勘違いをしたランスはいやらしい笑みを浮かべたままカオスを構えた。
「さて兄ちゃん、俺も本気で殺しに行くぜ」
「ふん、貴様の本気なんぞ俺様がかる~く蹴散らしてくれるわ!」
「そうかい。 さぁお嬢ちゃん、しっかり見ておけよ! 宝具ってのは要するに心の持ちよう、在り方だ! 気合を入れて大声出す様な気持ちでいけ!」
「わーかーりーまーしーたーーーー!」
マシュもまた、自らの武装である大盾を構えキャスターの前に立った。
オルガマリーと立夏が三人から距離を取ったのを確認すると、キャスターは跳んだ。
「さぁ行くぜ!」
「マシュ・キリエライト、吶喊します!」
「ガハハハハ! 事故に見せかけて殺してくれるわキャスター!」
こうして、この冬木の街で三度の剣戟が鳴り響いた。
【スキル1:才能限界∞】
世界のバグであることの証左。
このスキルを持つサーヴァントは戦闘を繰り返すことにより己のステータスの値に+補正を与えていくことが可能。
またその限界は存在せず、理論上全てのステータスをA++相当まで持っていくことが出来る。
但しそれには相当数の戦闘を積まねばならず、通常の聖杯戦争ではこのスキルが十全に機能することはまず無いだろう。