大空洞の中で、剣戟の音が鳴り響く。
一度鳴ったかと思えば、その剣は幾重にも軌跡を残しながら男の剣へ刃を立てた。
「ぐっ、むっ! どおぉりゃあああああ!」
男が一度振るえば、その返しに三度の閃光が奔る。
ランスはその攻撃を最低限の動きと最小限の被弾で避けていた。
攻防が始まった初期は、傷つくのは彼の鎧や外套だけであったが……三度目の激突となった今では致命傷を避けるだけで精一杯だった。
否、詰められる手順を遅くしているという表現が正しいのかもしれない。
個々の筋力の差もあるが、明暗を分けたのは技量の差である。
「援護します、セイバーさん!」
距離を放そうと、無理やりに放ったランスアタックだったが……セイバーは距離を放すその寸前までの間に四度の致命の一撃を放つ。
セイバーより放たれた剣閃は真っすぐにランスの霊核へと迫ったが、マシュはランスを横合いから盾で突き飛ばし無理やり回避させる。
「ナイスだマシュちゃん!」
地面を二度程転がったランスは、マシュへ礼を言いながらカオスを構えた。
彼の視線の先には星の聖剣を構えるセイバーが不動の姿勢で立っていた。
「うーむ、一撃一撃がケイブリス並みだなありゃ。 その癖技量は謙信ちゃん並みとかチートなのでは?」
「黙れ駄剣、俺様が負けるか!」
カオスが冷ややかな目線をランスへ向けた。
ランスは膨大な汗を掻きながら、内心でカオスの言う事に同意していた。
一撃の重さ、手数、そして何よりまるで未来を予知しているかのような防御や攻め。
ランス達は二人でセイバーを攻め立てているが、数の優位など物ともしない今まで出会ってきた誰とも違う未知の強さが其処に存在していた。
「マシュ、セイバー……!」
そんな攻防を見ていた立夏は、生きた心地がしなかった。
彼には彼らの戦いの全てが見えていたわけではないが、ランスが一度打ち込む度に使う魔力。
打ち込まれる度に防御の為に消費される魔力が彼らの攻防の凄まじさを体感させた。
一度彼らが触れ合う度に、立夏の寿命が一年分縮むような、そんな戦いだった。
「その程度か、侵略者、盾のサーヴァント」
セイバーが聖剣を地面に突き立て、柄に両の掌を置いた。
「くっ……強い……やっぱり、私では──」
「えぇい折れるんじゃない! 俺様が一緒に戦っていて負けるわけがないのだ!」
セイバーとランス、マシュ達の距離はおよそ10メートル程。
この距離が一足飛びで来られない事をランスは一度目の激突で確認していた。
故に、セイバーが剣を振るい襲い掛かってくるまでにはそれを認識し、備えるのが可能である。
だが……戦闘の、特にサーヴァント戦の経験が少ないマシュは眼前で相対するセイバーに気圧されていた。
「……圧倒的ね、あのセイバー」
オルガマリーが、ぽつりと漏らした。
「流石は星の聖剣使いという所ね」
「感心してる場合じゃないですよ、何とかしないと二人が……!」
「えぇ、負けるでしょうね」
「だったら!」
冷静に戦況を分析するオルガマリーに、立夏は手立てを求める。
「……無理ね、現状の要素ではこの戦況をひっくり返すのは」
「そんな──」
「相手は聖剣使いの中で最も有名なアルトリア・ペンドラゴン、対してこちらは名も知れないサーヴァントと宝具の使えないデミ・サーヴァントの二人」
暴風が、オルガマリーと立夏を襲った。
四度目の激突。
「おまけに令呪も残り一画──逆転の可能性があるとすればあの男の宝具……でも、どんな効果かも分からないものに命運は託せないわ」
魔力のぶつかりの余波で、石が無数に二人を守る結界へ飛来する。
「令呪はあの男の体力回復のために温存して──」
「温存? 生温い考えだな、魔術師」
再び、風が舞った。
同時にサーヴァント二人もまた吹き飛ばされる。
「ぐえっ!」
「きゃっ!」
地面に叩きつけられるマシュとランス。
「一撃の元に絶命すれば、温存等という事もできまい。 その侵略者は我が宝具で葬り去る、宝具を使う暇も与えん」
立夏達の前に吹き飛ばされた二人のサーヴァント。
その奥に立つセイバーから、膨大な魔力が発せられた。
「不味い……! マシュ、立ちなさい! 盾を構えて!」
「は、はい────!」
よろよろと力無く、マシュはよろめきながら立ち上がると後ろに立つマスターとランスを庇う様に盾を構えた。
「マシュ!」
「先輩は……私が守ります!」
傷ついた体を盾で必死に支えながら、マシュは気丈に振舞った。
それは強がりだったのかもしれない、折れるなというランスの言葉を必死にやっただけなのかもしれない。
だが、彼女は立ってみせた。
「『卑王鉄槌』、極光は反転する。 光を呑め……!」
相対するセイバーの声と共に、聖剣に魔力が奔る。
黒い魔力を纏った聖剣は、その刀身の大きさが平常時を大きく超えた。
「うぐぐ……」
地面に倒れていたランスも、カオスを杖の代わりにゆっくりと立ち上がりセイバーを見た。
「消えるが良い、
聖剣の刀身は更に巨大になり、冷や汗が伝う。
「
聖剣が放たれる。
下から上へ振り上げられた聖剣は、その刀身に纏っていた魔力の全てを直線的にマシュへ向けて振りぬかれる。
「ぐっ…………ウウウゥゥゥゥゥ!!」
強烈な衝撃が起こった。
立夏の視界は明滅し、体は揺らぐ。
だがそれでも彼が生きていたのは単に彼女のお陰だった。
マシュは地面で、体で支える盾で一身に聖剣の魔力放出を受ける。
魔力は決壊したダムから流れる水の様に盾へ降り注ぎ、盾はそれを弾き、弾かれる魔力は周囲を破壊する。
「マシュ!」
「負け──ません! 私は、先輩のサーヴァントです……!」
マシュは吼えた。
だが、彼女の足が魔力に押され地面にめり込み始める。
「やばいぞ心の友! お嬢ちゃんじゃあれは受けきれん! “あれ”を使わんと、お嬢ちゃんも儂等も死ぬぞ!?」
「えぇい、五月蠅い! あんな“奴”に俺様が頼ってたまるか!」
「あれ? セイバー、あれって何!?」
眼前に迫る魔力の放出に、オルガマリーは怯みながらもカオスの言葉を逃さなかった。
「あー、所謂宝具って奴? 切り札的なものなんだけどー……心の友は使いたがらないのよねー」
切り札、という言葉に立夏は即座に反応した。
高純度の魔力を受け、盾は徐々に上へ持ち上がりつつあった。
「宝具……! セイバーお願いだ、マシュを助けて欲しい!」
「いやじゃー!」
生きる為に。
マシュを守るために。
立夏に選択の余地は無かった。
「だったら──最後の令呪を以て命ずる! 全力で宝具を使用してくれ!!」
「藤丸! やめなさい、そいつはさっきまで自分の名前すら偽っていた使い魔なのよ!? その剣が嘘を言ってる可能性だって──」
「それでも、それでも何とかなる可能性があるなら、僕はこの人に賭けます!!」
「藤丸!!」
「だって、だってこの人は──僕の呼びかけに答えてくれた人だから!! だから信じます!!」
彼は即座に三画目の令呪を使った。
右手の甲にあった最後の紋様が消える。
「おっほー! キタキタキター!」
「ちっ、どうなっても俺様は知らんからな!!」
身に迸る魔力に、カオスが叫んだ。
「
ランスの叫びと同時に、突然聖剣の魔力放出が強まった。
盾を支えていたマシュは、盾と共に浮き上がり……。
立夏達は黒い魔力の波に包まれた。
【宝具:鬼畜王(マイ・グロリアス)】
ランク:D
種別:対■(■■)宝具
レンジ:1
最大捕捉:???人
【効果】宝具とは世界において活躍した英雄の逸話や武具が昇華されたものである。
だが今回■■■■■■■■■■たランスにはそのような物は存在しない。
しかし彼にも宝具は存在している。
それこそがこの宝具、この力、これこそが唯一であり絶対。