ガーリー・エアフォース Sisiter's Vaportrail 作:liris
書き始めて半年以上。……大変お待たせしました。
六月投稿予定と書いときながら結局七月になるという体たらくで申し訳ない……
まさかAC07のFALKEN実装より遅くなるとは我ながら反省しています
……FALKENでアーセナルバードへの対空爆撃をしていたからじゃないですよ?
なお、今回は実験的に視点を何度か変えています
――――――午前零時。
既に深夜と言っていい時間帯。にも関わらずミュベールは基地内を歩き回っていた。
出撃が明朝なので早めに仮眠を取り、出撃時にコンディションのピークが迎えられるよう調整しているからである。
このまま軽く運動して身体の方もきちんと起こそうとした矢先、自分と同じ様に眠っていない彼を見つけた。
「鳴谷君? そろそろ寝ておかないと明朝の出撃に障るわよ?」
「あ、ミュベールさん……」
自分と同じように外に出ていた慧に話しかけたミュベールだったが、話しかけた慧には日中にはなかった陰りがあった。
「随分と浮かない顔ね。何か気になる事があるの?」
「……その、なんていうか緊張して眠れないんですよ」
緊張、ね。本当にそうなのかしら? 私には別の事が気になってるように見えるけど。
「……それは明朝の作戦? それともグリペンのドーターを自分が操縦する事?」
「っ!?」
カマをかけてみたけど当たりみたいね。判りやすいというかなんというか。
「な、なんでわかったんですかっ!?」
「目は口程に物を言うってやつよ。私達が提案した時もかなり渋ってたしね」
これまで鳴谷君はグリペンと一緒に飛んでいたけどそれはあくまでグリペンが主であり、今回のように自分が操縦する事はなかったでしょうし。
「……ミュベールさんはなんでもお見通しなんですね。そうですよ、俺は怖いんですよ。情けないんですけど自分が戦うってなったら怖くて震えが止まらないんです。ミスったらどうしようとか、そもそも俺なんかにできるのかって感じで……」
「――――――誰だってそうよ。だからそう思うのは悪い事じゃないわ」
「えっ?」
……? 私、何か変な事をいったかしら? 鳴谷君が意外そうな
「どうしたの?」
「えっと……てっきり怒られると思ってたので。戦うのが怖いとか覚悟が足りないって言われると思ってたんですよ」
「そんな事言ったりしないわよ。私だって死ぬ事は怖いもの」
「そうなんですか? ミュベールさんは俺なんかよりずっとこういうことに慣れてるんでしょう?」
まぁ慣れてると言えば慣れてるけど鳴谷君は少し勘違いをしてるわね。
「慣れてるからって怖くない、っていうのは間違いよ。戦う事……もっと言えば死ぬ事を怖いって思うのは生き残る為に必要なモノよ。だからそれは大事にしなさい」
「生き残る為に必要……」
「ええ。死を怖いと感じるからこそ危険を感じ、生き残れる。恐れに慣れる事と向き合う事は違うわ」
私にとって恐れに慣れる事は危険に鈍感になる事と同じだ。慣れてしまえば思ってもいないところで油断が出る。だから私は鳴谷君が『怖い』と思ってる事を恥とは思わない。
――――――
「だからソレを引け目に感じる事はないわ。それに私達だって出来る限りのフォローはするわ。一緒に戦場に立つのは貴方達だけじゃないしね」
「……ありがとうございます。おかげで少しは気が楽になりました」
「ならよかったわ。私はこれからあの娘達と機体の様子を見に行くけど……一緒に来る?」
「はいっ!」
うん。完全じゃないだろうけど少しはプレッシャーが解けたみたいね。私程度の言葉でも助けになれたようでなによりだわ。
アラートハンガーを通り過ぎ、ハンガーに来るとそこでは明朝の出撃の備えて機体のメンテナンスが突貫作業で行われていた。私達アクィラとバービーは使っているハンガーが違うから鳴谷君とはそこで別れる。
中では船戸さんと一緒に来た整備班の人達が出撃に向け最後の点検を行っていて、そんな中で私を見つけたゲイザーはドーターから離れて一目散に私の元にやってきた。
「ミュベール。部屋で仮眠を取ってたんじゃなかったの?」
「少し前に起きたところよ。それで様子を見にね。
後方にいたゲイザーは勿論、私のS-32も大きなダメージはない。整備班の人達に任せておけば機体の方は十分間に合う。
だからこれから私達がする事は出撃に備えてコンディションを整えておくぐらいかしら?
「それじゃミュベール。みんなの様子を見に行かない? 私もドーターの調整が終わって暇になったんだよねー」
気負いどころか緊張感ZEROのゲイザー。作戦が始まればキッチリ仕事をするからあまり問題ではないんだけど。
(余談だが南洋エリアにいた時は他のパイロット達から『ゲイザーと話してるといい感じで肩の力が抜ける』と割と好評だった)
「それじゃ、お隣さんに行ってみましょうか。さっき鳴谷君と会ったから彼もいると思うわ」
――――――で、私とゲイザーはバービー隊が使っているハンガーに来たわけなんだけど……
「あ、ミュベールさんっ! 助けてくれませんかっ!?」
――――――そこで見たのは鳴谷君がアニマの三人娘に絡まれているところだった。
……うん、さっきの相談料として少しぐらいは遊ばせてもらってもいいわよね。
「あら両手に余る程の花なんだから満更じゃないんじゃないの?」
「そうそう。ウラヤマシイなー。あ、写真に撮って明華ちゃんに送ったらおもしろそうだよね」
「やめてくれっ!?」
……慧からすれば助けを求めた先もトラップだったというまさかの事態。しかも片割れのミュベールとはさっきまで真面目な話をしていただけに尚更だ。
「あはは、安心して? それしたら慧くんが後で大変そうだからやめとくよ。……今のとこは」
小声で慧にとって不吉な事を言うゲイザー。が、肝心の慧は安心したせいか今の一言を聞き逃し、後に明華への説明でたいへんな目に遭うのは余談である。
深夜にも関わらずアクィラの二人が加わった事で騒がしさが増した独飛のメンバーだが、明朝には出撃と言う状況で放っておくほど整備班の人達も飛ぶ側の事を気にしていないわけがなかった。
「お前達! 騒ぐ余裕があるなら休め! 特にパイロット組は身体の調子がそのまま戦闘に直結するんだ。時間も時間なんだから明朝の出撃の事を考えろ!」
ここの人達が呼びに行ったのか、アクィラの整備主任であるヘンガー主任から注意されてゲイザー以外のアニマはハンガーに戻り、鳴谷君も宿舎に寝に戻っていった。
私は一度仮眠を取っているしゲイザーも多分だけどこのまま眠らずに出撃を迎える。だから私達はそのまま基地の滑走路脇のランオフエリアに寝っ転がって夜空を見上げて過ごす事にした。
「うわぁ、オーストラリアの星空とはやっぱり違う」
星空を見上げてそう言うゲイザー。確かに
「見慣れた星座もちゃんとあるわよ? ほら狼や蠍、それにケンタウルスなんかは日本からでも見えるわ」
「ホントだ。……
「アレは北半球じゃあまり見れないわ。
――――――見上げた先にある満天の星空。それはオーストラリアのものとは違えど人を惹きつけるのは変わらない。星の光は世界が揺れようとも遥かな昔から変わらない輝きを今なお放っている。
元々澄み切った蒼天よりも星々の煌く星天に惹かれているミュベールだ。それもあってかオーストラリアだけでなく派遣先の国で見る事の出来る星座を調べ、時間に余裕があればこうして星空を眺める事がミュベールにとっての楽しみだったりする。
「……こうして滑走路脇に寝っ転がって星を見てると明朝に出撃っていうのを忘れそうになるよね。いつものことだけど」
「いつだったか星を見てるって言ってそのまま外で寝てブリーフィングに寝坊しかけたわね」
「あれは反省してます……」
あれはアクィラ隊として動き始めてしばらくしてからだったかしら。
私と同じように星空を見始めたゲイザーは派遣先の基地のランオフエリアで星を見ててそのまま熟睡。朝起きると隣にいなかったから慌てて見に行ったら案の定そこにいたのよね。
ランオフエリアで寝てたから髪はぼさぼさで服は土と草だらけ。ブリーフィングまでの時間もなかったから最低限の支度だけさせたけど気付く人は気付いたし。
……それでアニマがザイの
「ま、ゲイザーは地上にいる時は少しうっかりしてるぐらいがちょうどいいかもね」
「ヒドくないっ!?」
あっさり言い切るミュベールに噛み付くゲイザーだが、否定しないあたり自覚はあるようである。
「そ、そもそも外でうっかり寝るのはいつもじゃなくてたまにだしっ!」
「弁明になってないわよ、それ」
――――――星の光が照らす下でされる本当の姉妹のようなやり取り。それは人とアニマであっても共に在るという慧とグリペンとはまた違う一つのカタチだった。
空が明るくなり始め、太陽と星が同時に天にある明け方。鋼の鳥達が空へ飛び立つために次々と咆哮をあげ、離陸の準備を整えていく。
飛び立つ用意をしているのは独飛だけでなく那覇基地常駐の空自の部隊、更に嘉手納の米空軍も出撃する事になっている。
今回の作戦は独飛だけでなく沖縄に常駐している日米の航空戦力、そして台湾空軍も動員する大規模作戦。
始めに日米と台湾の航空隊が陽動として先行。海鳥島からザイを引き離し、その間にアクィラ・バービー両隊が海鳥島へ接近。その際に対空型のザイを那覇基地所属のアニマ、バイパーゼロが爆撃で殲滅。その後にゲイザーとファントムが巡航ミサイル群を誘導し海鳥島のFOBを今度こそ叩き潰す。それが今回の作戦の大まかな流れ。当然この二人を狙ってザイも湧いてくるだろうから二人を護るのが私達の仕事になる。
≪それじゃミュベール。先に上がらせてもらうね?≫
≪ええ、すぐに追いつくわ≫
ゲイザーが一足先に離陸し、それに続くカタチでグリペン、イーグル、ファントムと続き私が上がる。
≪全システム、オールグリーン。AQUILA01、クリアード・フォー・テイクオフ!≫
ゲイザーとバービー隊に追いつき、そこでアクィラとバービーでそれぞれ編隊を組んで進路を海鳥島へ向ける。出発前は見えた星も今は完全に見えなくなり、代わりに太陽の光が空を照らす。眼下の海も空を映し、合わせ鏡のようだった。
≪戻ったら海水浴に行ってみるか?≫
≪え?≫
≪せっかく夏の沖縄にいるんだ。それぐらいしても怒られはしないだろ?≫
無線がオンになっているに気付いていないのか鳴谷君とグリペンの会話が入ってくる。
そうなると当然混ざる娘がいるわけで――――――
≪いくいく! イーグルも海水浴行くー!≫
≪えっ⁉≫
会話に飛び込んできたイーグルに驚いてる鳴谷君だけど……オープンで話してたらまぁ、こうなるわよね。
≪あはは、離陸で無線をオープンにしてたんだからきちんと確認しておかないとダメだよー? ……それはそれとして、海水浴は確かにしたいよね。ミュベール、戻ったらわたし達もしない?≫
≪別にいいけど水着はどうするの。持ってきてないわよ、そんなの≫
≪戻ってから買いにいこうよ。沖縄ならそういう店たくさんあるんでしょ?≫
もちろんミュベールの奢りで、なんて気軽に言ってくれるゲイザー。……まぁ、使うより貯まるペースの方が早いから別にいいんだけど
≪わかったわ。他に行く人、いる? ついでだから水着買う子は買ってあげるわ≫
≪はーい! イーグルもいくーっ!≫
≪……私も一緒に行きたい≫
真っ先に返事をするイーグルと少し悩んで訊いてくるグリペン。この二人は何となく予想してたからいいとして。
≪ファントムは? せっかくだから一緒に行く気はない?≫
≪……そうですね。お言葉に甘えさせてもらいます≫
以前のファントムなら間違いなく断っていただろう。即答ではなかったとはいえファントムの内面には確実に変化が起こっていた。
≪こちら
≪……悪い知らせは?≫
≪予想より多くのザイが陽動側へ向かった。……長くは持たないそうだ≫
……確かに、これはいい知らせと悪い知らせね。海鳥島の守りが薄くなるのは歓迎だけどその代わりに陽動隊の方は間違いなく壊走、もしかすると全滅もあり得るかもしれない。ベイルアウト出来ずに機体もろとも沈む人達も少なからずいるだろう。
一瞬だけ目を瞑り、陽動を行っている彼らの武運を祈る。
≪AQUILA01から各機へ。聞いていたわね? 陽動隊の人達は文字通り命を賭して道を拓いてくれたわ。……彼らの戦いを無駄にしないためにも連中が戻らないうちにケリをつけるわよ≫
≪そしてこっちにも連中が現れたぞ。ボギー7、真正面からだ≫
スキッパー・ヘッドの言う通り、こちらのレーダーにもザイが映る。
≪AQUILA01からBARBIE01、02へ。私達三機で片付けるわよ。私は中央の三機をやるからBARBIE01は右翼側の二機を。02は左翼をお願い≫
≪BARBIE01、了解≫
≪りょうかーい!≫
編隊を崩して私とグリペン、そしてイーグルでトライアングルを組んで前に出る。
私の機体は大柄な分ミサイルの搭載量も多い。グリペンが六発、イーグルが八発に対してS-32は十四発積める。加えて今回は短AAMも全て高機動型を積んできたから打ち損じも抑えられる。
≪AQUILA01、エンゲージ≫
宣言と共に機体を加速させ正面のザイとの距離を詰める。両翼のザイを討つために左右に散開したグリペンとイーグルを狙いザイの方もこちらと同じような動きを見せる。
(数は違うけど向こうもこっちと同じ狙いか……好都合ね)
戦力比は1:3だがその程度で怖気づくミュベールではない。
シーカーが起動し中央のザイをロック。ミサイルを撃つと同時にシーカーを切り替え右翼側にいるザイにもミサイルを放つ。
≪FOX2!≫
通常より高い機動性を誇る
そして残る一機だが――――――
≪FOX3!≫
ザイの機銃弾を機体をバンクさせて射線をズラし、機体が交錯した直後に機体をクルビットで反転。そのまま至近からの機銃掃射で残った一機を撃墜する。
――――――一発目のミサイルを撃ってから三十秒もかけずにザイを三機撃墜。QAAMを使用したとはいえ鮮やかな手並みだった。
≪やりますね。相変わらずのサーカス機動ですが≫
≪前も言ってたけど褒めてるのか貶してるのか判りにくいんだけど≫
今のファントムは前者の意味で言ってくれてると思いたいけど。
≪戻ったよー!≫
≪こっちの方も終わった≫
グリペンとイーグルも相対したザイを片付け終わりレーダーが一時的にクリアになる。けどそれは本当に一時的なもの。海鳥島に近づけばザイも手厚い歓迎をしてくる。
――――――島の上空で心置きなく空戦をするにはあの対空型が邪魔になる。だからあれらを潰すために一仕事する必要があった。
≪AQUILA01から全機へ。これから島上空の強攻偵察をしてあの対空型を引きずり出してくるわ。ゲイザー、少しの間ファントムの護衛お願いね≫
≪≪≪≪えっ⁉≫≫≫≫
機体を加速させ海鳥島へ単騎で向かうミュベール。
≪ちょ、ちょっとミュベール! 引きずり出すって本気!?≫
≪ええ、アレを潰すにはまず引きずり出す必要があるわ。作戦の要になるゲイザーとファントムにさせるわけにはいかないし、イーグルとグリペン達じゃ不慮の事態に対応しきれるか怪しいでしょ?≫
消去法ではあるが確かにこの中ではミュベールが行うのが適任となる。……理屈はともかくゲイザー達が納得するかは別問題だが。
≪でも……≫
≪いいからそっちは準備を始めてなさい。もうすぐ仕事をしてもらうんだから≫
そう言いながら高速で島へ接近していくミュベール。迎撃にザイがミュベールのS-32を撃ち落とさんと迫るが、ミュベールは先程のアクロバティックな機動とは異なり風に舞う木の葉のようにザイの猛攻を躱し、進んでいく。
――――――そしてとうとう海鳥島まで数キロというところで迫ると例の対空型が姿を現し、単騎で飛び込んできたミュベールを包囲しているザイ諸共撃墜せんとその
≪≪ミュベール(さん)ッ!?≫≫
クラスター弾がミュベールに向けて発射されようとし――――――それより早く島から火柱が立ち昇る。火柱はミュベールに狙いをつけていたザイだけでなく、構築されていた基地施設をも飲み込んでいった。
≪
通信メッセージでBARBIE04……バイパーゼロからアクィラ・バービーの各機にメッセージが送られる。先の火柱はバイパーゼロの爆撃によるもので対空型だけでなくザイのFOBにも大きなダメージを与える事になった。
――――――那覇から海鳥島まで超低空で飛来しての爆撃。那覇からここまで超低空飛行をしてきた技量もだが、最も驚くべきはミュベールの強攻偵察がアドリブだったにも合わせ切ったその対応力だろう。
≪AQUILA01からBARBIE04へ。見事な仕事だったわ≫
≪
役目を果たしてくれたバイパーゼロに礼を言うと通信メッセージが送られると同時に翼を振って帰還していった。陽動隊が当初より多くのザイを引き付けたとはいえ島にはまだ多くのザイがいる。あれだけの爆装をしていたからここから更に空戦をするのはいくらアニマでも厳しいだろう。
≪AQUILA02から01へ。ヒヤヒヤさせないでよ。……心臓が止まるかと思ったんだから≫
≪いや、貴女心臓はないでしょ≫
勿論ゲイザーの言葉はものの例えでミュベールもそれは判っている。お互い、軽口のようなものである。
≪さて……仕事の時間よ、ゲイザー。始めなさい≫
≪オーケー、任せて! ……こちらAQUILA02、『槍』を放ってください≫
そう言ってゲイザーが高度を上げて編隊から離れると同時に、レーダー上に多くの輝点が後方から現れた。
――――――時を数分ほど遡りバイパーゼロが海鳥島の地対空型のザイを潰した頃、海鳥島で交戦している独飛から後方100㎞地点。那覇基地から出撃した部隊と九州の各基地から出撃し空中給油をした隊が接近していた。
≪こちらRAVEN01。全機用意はいいか?≫
≪こちらPIGEON02。用意はできてますが本当にあんな芸当ができるんですかね?≫
彼らは説明をされているとはいえその内容について未だ半信半疑だ。それだけこれから行われる事はこれまでの空戦の常識を覆しかねないからだ。
≪こちらAQUILA02、『槍』を放ってください≫
≪……合図だ。全機攻撃開始。腕前を拝見だ≫
F-15Jから
「慧。後ろにいた部隊が攻撃を開始した。当たらないとは思うけど一応高度を上げて」
「一応って……なんでだ? コースにいない限り当たるなんてないだろ?」
「発射されたミサイルは全部ロックオンされてない。航続距離ギリギリの位置で発射されてる」
「……それってまず当たらないよな?」
慧の言葉に頷くグリペン。
この動きには慧とグリペンだけでなくファントムも疑問を感じていた。
――――――例外は、真意を知るアクィラ隊だけである。
交戦している独飛とザイを通過し、ミサイルは更に飛翔する。ミサイルの向かう先は後詰めとなるザイの後衛。しかし高度が合っておらずミサイルは全てザイの下方を通過するコース。
――――――しかし、次の瞬間独飛のメンバーは驚きの光景を目にする。
すれ違うだけだったはずのミサイルは、ザイを通過する一秒前に急激にコースを変え、付近にいたザイに全て命中した。
≪≪≪≪なっ(えっ)!?≫≫≫≫
一体なにが起きたんだっ!? ミサイルがいきなり軌道を変えたっ!?
「どう? これがわたし本来のやり方。発射されたミサイルの操舵・推進系を掌握して完全な手動管制で命中させる。わたしはミュベールみたいにザイを直接戦闘で墜とすんじゃなくて、通常の航空戦力をザイとの戦闘で通用させるのがわたし本来のやり方なんだ」
驚愕する慧達だがソレをした張本人が誇るように言う。
――――――その戦術はグリペンやイーグル、そしてファントムとも異なる戦い方だった。
ゲイザーの戦い方とはアニマ・ドーターやAZCCではない通常の航空戦力がザイと渡り合えるようにする為のもの。
――――――つまり、ゲイザーはザイ相手に『数で押す』事を可能にするアニマ――――――!
「敵の増援の主力はこちらで対処します。皆さんはこちらの撃ち漏らしをっ!」
「AQUILA01から全機へ。聞いたわね? 私達は目の前の相手を殲滅するわよっ!」
ザイの増援を気にせずに動けるようになった独飛のメンバーは前回同様グリペンとイーグルはやりやすいように動き、ミュベールがファントムの直掩という動きに出る。
海鳥島からの対空攻撃が沈黙し、増援の航空戦力もゲイザーが管制するミサイル群が抑えているので各個撃破が可能となったからである。
そうなると不安要素が大きいのが慧とグリペンだが、ファントムが指示を出している上に本当に危ういところではゲイザーが支援を行う事でカバーしていた。
少しずつ、しかし確実に戦況は有利になり、その分慧とグリペンには周囲を見る程度の余裕が出来ていた。
「……やっぱりイーグルもだけどミュベールさんはもっとすごいよな」
慧の視線の先にあるのはまるで踊るようにザイを相手取る
「……俺もあんな風に飛べるようになるのか? 全然追いつける気がしないんだけど」
「あれはミュベールの飛び方。慧は慧の飛び方をこれから探していけばいい」
そもそも飛び始めて一か月程度の慧と、傭兵として飛び続けてきたミュベールでは経験の量も質も違う。ましてやミュベールは12.6Gにも耐え、規格外に片足を踏み込んでいるパイロット。言い方は悪いが慧とは“モノ”が違うと言ってもいい。
――――――今はまだ。
「……そうだよな。これから教わったりして進んでいけばいいんだよな」
「そもそもミュベールの飛び方は人間離れしてる。だから変態」
「だから言い方ってもんがあるだろう。それで前ミュベールさんに怒られたのもう忘れたのかよ」
「うっ」
――――――正直、この時俺達は油断していた。ゲイザーが相手の本隊の数を片っ端から減らし、その撃ち漏らしをミュベールさん達が次々と墜としていたからもう大丈夫だと思っていた。
……だからだろう。海鳥島からの反応に気付くのが遅れたのは。
「っ! 慧っ!! あの対空型のザイがもう一体いるっ!」
海鳥島から敵性反応。――――――バイパーゼロが潰したはずの対空型のザイである。
「嘘だろっ!?」
「ファントムとミュベールを狙ってるっ!」
ミュベールさんとファントムを狙っているが、ミュベールさんはザイと噛み合っていて動けない。俺たちより前にいるイーグルも同様だ。
「こっちでやれないのかっ!?」
「ダメっ! 距離が遠くて間に合わないっ!」
くそっ! あと少しってところなのにっ!
≪大丈夫。ソレはわたしが仕留めるから≫
――――――瞬間、
天空から落ちたナニカはミュベールとファントムを狙っていたザイを文字通り、粉砕した。
「グリペンっ! 今のなんなんだっ!?」
「わからない。私も今のは捕捉できなかった」
アニマでも捕捉できない攻撃っ!? 一体なんなんだ!?
こっちが驚いている間に赤褐色のEF-117G-ANMが寄り添うようにS-32の隣につく。
≪まったく。わたしがいるからって油断し過ぎだよ、ミュベール?≫
≪油断はしてないわ。こういうのを警戒してたから貴女にEMLを装備してきてもらったんじゃない≫
聞こえてくる二人の会話からはお互いに対する信頼があった。
グリペンとミュベールさん達の話を聞くに今のはゲイザーがやったらしい。
≪ゲイザー、今の……お前がやったのか?≫
≪そうだよ? ミュベールがさっきの奴を確実に潰すためにEMLを持ってきなさいって≫
≪EML……?≫
≪んー、レールガンって知ってる? それなんだけど≫
≪レールガン……?≫
正直言われてもどんなものなのかわからない。『ガン』っていうからにはミサイルとは違うのはわかるが。
≪レールガンは電磁投射砲っていって、電流を通す電気伝導体を弾体として電磁加速で撃ち出すんだけど……詳しく話すと長くなるから簡単に言うと
さらっととんでもないことを言うゲイザー。ちなみに撃ちだした弾体も外殻を貫通し、内部で炸裂する
≪ではそろそろ始めます。ゲイザー、あなたも対空ミサイルの誘導を切り上げてこちらに加わってください≫
≪大丈夫。最終誘導程度なら並行していけるから≫
そうしてRF-4EJとEF-117Gの二機が管制ポッドを展開し、作戦の総仕上げにかかる。
≪背中は任せますよ?≫
≪ええ、無粋な客は追い払ってあげるから見応えのある“人形劇”を見せてちょうだい?≫
≪ふふ、“人形劇”ですか。言い得て妙ですね≫
ファントムとゲイザーの機体に吊られた管制ポッドからアンテナが伸び、戦端に光が灯る。それと同時に緑色と赤褐色の機体が発行する。
≪BARBIE03よりドールハウス、レディ・フォー・コントロール。作戦開始を要請する≫
≪ドールハウス、了解。作戦を開始する≫
≪さぁていよいよ大詰めよ。へばってなんかないでしょうね、三人とも≫
≪もっちろん! 全然疲れてなんかないし!≫
ミュベールさんの軽口混じりの言葉に即答するイーグル。
いけるよな? と後ろの相棒に訊くと「問題ない」という心強い答え。
≪こっちもいけます。大丈夫です≫
≪それじゃ、私達も最後の一仕事を終わらせるわよ≫
飛行が単調になったファントムとゲイザーを三機で護衛する。当然ながらザイも変わらず襲い掛かってくるが、巡航ミサイルが群れを成して接近すると急旋回してそちらに向かう。ドッグファイトで見せた鋭角的な機動はせず、一直線に飛ぶ相手は狙いやすい的だった。
≪FOX2!≫
リリースされたミサイルは一直線にザイへ向かい、ザイも気付いたのか避けようとするが間に合わずあっけなく撃墜。
そして島の方を見ると轟音とともに紅蓮の嵐が島を覆い、焼き尽くしていく。バイパーゼロの爆撃とは比べ物にならない破壊という蹂躙だった。
「EPCM低下。残存ザイも撤退」
≪AQUILA01から全機へ。作戦終了……私達の勝利よ!!≫
グリペンの状況報告とミュベールさんの宣言を聞いて一気に身体から力が抜ける。
作戦の成功もだが自分の操縦で生き残れたことが嬉しかった。その喜びを噛みしめているとミュベールさんから通信が入ってきた。
≪お疲れ様、鳴谷君。どう? 自分の操縦で生き残った感想は≫
≪うまく言えないんですけど……嬉しいです。それと……≫
≪それと?≫
≪――――――自分の操縦で飛ぶ空ってこんなに広かったんだな、って≫
作戦中は無我夢中だったけどこうしていると母親につれられて初めて空を飛んだ時のことを思い出した。あの時感じた高揚感と、どこまでも続く空と地平を見た時の感動。
――――――それは今でも自分の中にあったのだと。
という事でゲイザーの能力はミサイルをロックオンせずにターゲットに当てるというものでした
……正直勘のいいエースの方々は気付かれていたかもしれませんがEMLの装備は裏をかけたかと思います(ォィ)
……エスコンでジャミング+ステルスで補足が難しい+エース機の支援&EMLによる砲撃って初見殺し確定になりそう……
(当然ムービーでもZEROのウィザードみたく画には映らない)