ガーリー・エアフォース Sisiter's Vaportrail 作:liris
前半は沖縄でファントムとしていた話
後半では原作から次のアニマとして“彼女”が登場します
気になる方は前半飛ばして後半へ急行されても大丈夫です
(それでいいのか作者)
「アニマの前世……ザイだった時の記憶か。」
「正確には衝動……本能みたいなものですけどね。ザイがガイア、もしくはアラヤの尖兵だとは思いたくありませんが」
――――――沖縄から戻って数日後、俺と八代通さんは海水浴に行った時、ミュベールさんがファントムと話していた事を聞いていた。
……正直、ミュベールさんの言うアラヤとガイア?は聞いたことがないからサッパリだ。
「ゲイザーにも訊いてみたんですけどあの娘は覚えてないと言っていましたから、微かながら覚えているファントムがレアケースなんでしょう」
「だろうな。あいつは空自……というより俺の処女作だからな。コアへの干渉は最低限にしてシミュレーションを何度も受けさせての配備だったからな。そういったことを覚えていたとしても不思議じゃない」
「グリペンとイーグルは違うんですか?」
グリペンはわかるけどイーグルもなにかあったんだろうか?
「ああ。グリペンは君も知っての通り色々と問題があったからな。こっちとしてもやれることはやる必要があった。イーグルの方は瞬間的な処理能力を上げるためにキャッシュをクリア……君にわかりやすく言うなら空戦に不要な情報を頻繁にリセットしているからな。ザイだったころの記憶や衝動は残ってないだろう」
空戦にいらない情報をリセットって……もしかしてイーグルがやたら幼児的なのってそのせいなのか?
「……話が逸れたな。中尉、君の言うガイアとアラヤとはなんなんだ?」
「私としてはイーグルの事を詳しく訊きたいんですが……元々それが本題でしたからイーグルの事は後で訊く事にしましょう。……ガイアとアラヤというのは簡単に説明するとガイアは星の意志。アラヤは霊長……ここは判りやすく人類としますがその無意識化で世界の存続を願う意志なのがアラヤです。この二つは世界の危機に対して動くと言われていますが大きな違いがあります」
「……どんな違いだ?」
「簡単に言うと人類を滅ぼしてでも星の存続を優先するのがガイア。逆に星を滅ぼしてでも人類の存続を優先するのがアラヤです。とはいっても今の地球で人間社会が滅ぶという事はそのまま星の死に直結しかねません。なので今の世界において両者は同一視されてますね」
なんか難しそうな話になってきたけど俺がここにいる意味ってあるんだろうか? 正直内容を理解するだけでいっぱいいっぱいだ。
「そしてここからが本題なのですが、ザイが人類を滅ぼそうとするのはコレによるものだと思いません?」
「……中尉。まさかとは思うがザイはそのガイアの具現とも言うべき存在で、ザイが人類を滅ぼそうとしてるのは星の意志とでも言いたいのか?」
ザイが星の意思っ!? ザイが人類を攻撃するのは
「その可能性はあると思います。もしかしたらアラヤによる人類の無意識化での壮大な自傷行為なのかもしれませんが」
冗談めかしていうミュベールさんだけど話の内容が内容だからまったく笑えない。
どちらかが本当なんだとしても怖ろしすぎる。
「けどそれなら俺達はザイに勝てるんですか? ミュベールさんの話が本当ならザイが人類を攻撃するのは星の意思なんですよね。そんなの――――――」
勝てるんですか、と言おうとして言葉が出なかった。――――――一瞬だけど『勝てるはずがない』と思ったからだ。
「勝てるか、じゃなくて勝たないといけない。そもそも鳴谷君は死ねと言われたら死ねるの?」
「それは……」
できるわけがない、と言おうとして俺の言いたいことがわかったのかミュベールさんは満足そうな笑みを浮かべて言葉を続ける。
「それと同じよ。たとえ星が人類を見限るのだとしてもそれを受け入れるかはまた別の話よ。……少なくとも私達は全力で抗う為にここにいる。違う?」
……ミュベールさんの言う通りだ。俺達は諦められないからここにいる。
「そもそも私のコレは確証のない推論よ? あまり本気になられるとこっちが困るわ」
「……聞いていて気になったんだが。中尉はなぜそんな事を知っている? 少なくとも傭兵が知っている知識じゃないだろう」
八代通さんの言う通りミュベールさんはどこでこういうことを知ったんだろう?
「学生時代にこういうオカルト的な事には興味があったので趣味の範囲で調べた事があるんですよ。……ガイアとアラヤの概念を知ったのはその時ですね」
……当たり前だけどミュベールさんも学生だった時があるんだよな。少し想像できないけど。
「ちょっと鳴谷君? なにかすごく失礼な事を考えてない?」
「そ、そんなことないですよっ⁉」
考えていたことを当てられて思わず声が上擦った。
……明華もだけど女の人ってどうしてこっちの考えてることがわかるんだ?
「……と、そろそろ時間ですね。哨戒に出てきます」
失礼します、と言ってミュベールさんは定時の哨戒に出ていく。
俺もミュベールさんに呼ばれただけだったから出て行ってもいいんだろうけど――――――
「ガイアとアラヤ、か。興味深い話だったな」
そう言う八代通さんの言葉に止められた。
「興味深いって……八代通さんはそうかもしれないですけど……。俺に理解できたのはザイが人類を攻撃するのは星の意志かもしれないってことぐらいですよ?」
「要点としてそれが分かっていれば十分だ。ま、中尉自身確証を持っていないようだったからな。今はそういった考えがある、ということだけ覚えていればいい」
そう軽く言う八代通だが慧の頭の中ではザイがなぜ現れたのか。それを考えるのが必要に思えてならなかった。
―――――同日・20時47分、小松基地。
奥尻島のレーダーサイトが領空侵犯機を補足し、スクランブル待機をしていた私達アクィラに出撃命令が下った。
機体の最終チェックを実施し、全システムに異常がない事を確認して離陸用意に入る。
≪タワー、AQUILA01、レディー・フォー・ディパーチャー≫
≪AQUILA01、タワー、ランウェイ24、クリアード・フォー・テイクオフ≫
S-32のエンジンが鋼鉄の身体を空に上げるべく夜の小松基地で咆哮をあげる。雲が厚く、不安定な気流が機体を揺らすもそれをものともせずに上がっていく。
高度5千まで上がると天蓋のようだった雲を抜け、月光が照らす夜空が広がっていた。
≪それにしてもどういうことなんだろうね? 北からEPCMの反応なんて。ロシアが抜かれたなんて聞いてないけど≫
次いで離陸したゲイザーが追い付き、そんな当然と言える事を訊いてくる。
……ゲイザーの言う通りロシアが突破された、なんて大事が起きれば本社経由で判る。だからその可能性は正直低い。それに――――――
(侵入してくるにしてもわざわざ北から回り込んでくる、っていうのもおかしいのよね。日本海側の防空圏を抜けるにしても警戒がより厳重なロシア領から回り込むメリットがないし)
そう。領空侵犯機はEPCM反応が出ているので間違いなくザイなんだろうけどその行動が不可解過ぎた。
≪コマツ・コントロールからAQUILA隊へ。先行したスクランブル機はEPCMの影響によりアプローチに失敗。現状はもう貴隊しか間に合わない。任せたぞ≫
≪AQUILA01、ラジャー≫
そう返答はしたものの、内心ではあまりに行動パターンの読めない相手に困惑していた。
≪ゲイザー。仮に相手がEPCM反応を消せるステルス性を持っていたとして、ロシア領内で姿を消していたのに日本に接近して反応を出すメリットがあると思う?≫
≪わたしはないと思う。奇襲をするなら最後まで隠れているし、陽動だとしてもわざわざロシアを回らなくてもいいし≫
ゲイザーの言う通り、陽動なら日本海側から直接仕掛ければいい。撃墜されるリスクを冒してまでロシアを経由してくる必要はない。
……いけない。考えれば考えるほど判らなくなってくるわ。一旦この事は置いて今は任務を果たしましょう。
スクランブルして数分、EPCM反応を目指して北上する最中、その“異変”は現れた。
(――――――EPCM反応が……消えた?)
真っ先に疑ったのは機体のトラブル。けどシステムに異常は見られない。
……どういう事かしら?
≪AQUILA02から01へ。EPCM反応が消えたんだけど……そっちは?≫
≪こっちもよ。二機揃ってという事は機体側のトラブルじゃなさそうね。取り敢えずレーダーにはまだ反応があるから直接確認に行きましょう。接近すればハッキリするでしょうし≫
≪わかった≫
唐突に消えたEPCM反応。不可解過ぎるアンノウンの行動を探る為、私達はレーダーに映っている輝点を目指して北上する。
≪AQUILA02から01へ。目標を見つけた。方位036≫
ゲイザーの言う方角を見ると確かに月の下に星のような光が見える。
(気のせいかしら? 月明かりが反射してるにしても明度がおかしい気がするんだけど)
他にも気になる点がある。レーダーに映る輝点は三つなのに視認出来る光は一つだけという事。これが通常の航空機だった場合ザイと同じ方角から攻撃を受けずに来た事になる。
≪ミュベール、どうする?≫
≪まずは警告よ。民間機じゃないのは明らかだけど、それでもいきなり撃つわけにはいかないわ。ひとまず通常の領空侵犯対応でいきましょう≫
アンノウンとの距離を詰めていくと徐々に視認出来る光が大きくなり、月光に照らされるカタチで後続の機影も見え始める。
こちらを向こうも捉えたのか、先頭の機体が速度を上げてこちらへ向かって来る。
(……ニアミスする気?)
先頭機はまっすぐ私の方へ向かって来る。そして機体のシルエットがはっきり見えるところまで近づかれ、ようやく私はその“光”の正体にようやく気付いた。
――――――すれ違いざまに見えたその機体は雪のように淡く発光し、翼の先端にはハニカム模様が浮かんでいる。
≪うそっ!? ドーター!?≫
驚きに満ちたゲイザーの声だけど私はそのドーターの機種にも驚いていた。
≪Su……47?≫
――――――そのドーターが私のS-32と縁のあるSu-47だったからだ。
Su-47は元々ロシアの第5世代機として開発されたけど、第5世代機はステルス性が必須なのと予算不足が原因でロシアは開発を放棄した。が、第4世代機として見て装備可能な兵装の多彩さと量に目を付けたE.F社が開発を引き継いで完成させた機体。
Su-47に関するデータは全部本社に移っているハズだからロシアがこの機体を持ってるのはおかしいんだけど……
(そういえばロシアには実験用の機体が残ってたわね。
実際のところS-32もロシアは手放す気はなかったのだが、データ収集ならSu-47が手元にあれば十分と判断され売却されたのが実情だったりする。
(後ろにいるのはSu-35が二機みたいだけど……様子がおかしい?)
Su-47が先導しているというより後ろのSu-35から逃れようとしているような機動。通常の編隊飛行じゃないのは明らかだった。
≪…命…ま……≫
ノイズが混じった音声が通信に入ってくる。が、ノイズが酷く上手く聞き取れない。
≪……を…望し…す≫
(……日本語?)
おかしい。航空関係の共通用語は英語。ロシア語ならともかくわざわざ日本語で言葉を発してくるなんて――――――
≪……亡命を……希望します≫
亡命っ⁉ アニマがっ⁉
一瞬、これが何らかの罠の可能性が浮かぶけどそれならこの三機の動きの可笑しさに説明がつく。
繰り返される言葉と機動の必死さから私自身は嘘ではないと感じてる。
≪ミュベール、どうするの⁉≫
≪受け入れるのかは私達の独断で判断出来るレベルじゃないわ。急いで基地に連絡を――――――≫
≪AQUILA隊へ聞こえてるな? あのドーターからの通信はこっちでも確認した。亡命を受け入れるから小松までエスコートしろ≫
こっちから連絡するよりも早く、小松の八代通室長から亡命を受け入れる旨の通信が入る。
亡命希望のドーターは余程の出力で発信していたのか、私達だけでなく小松にまで通信を届かせていたらしい。
≪……やけに早いですね。まさか独断ですか?≫
≪状況が状況だ。上に報告して判断を待っていたら時間がかかり過ぎる≫
現場の私達からすれば助かるけどこうも独断で動く現場だと上層部はいい気分じゃないんでしょうね。
≪了解しました。追手はどうしますか?≫
≪門前払いだ。お帰り願え≫
暗に撃墜はするなというお達しだけど手段についてはこっちの判断でやらせてもらいましょうか。
≪ゲイザー、おそらく彼らは威嚇射撃程度じゃ帰ってくれないわ。無駄だと思うけど一応警告してそれでも帰らないようなら少し痛い目にあってもらいましょう≫
≪……いいの?≫
≪警告した上でなお仕掛けてくる問題ナシよ。≫
空自で使われているF-15やF-2ならともかく、S-32とE/F-117Gと交戦して正規軍と思わなかった、なんて言い訳は通用しない。
私達は空自への所属となってはいるけどあくまで所属しているだけ。雇われ先で他国の空軍と接触した場合、基本的にそこの“
≪接近中のロシア軍機へ。これより先は日本の領空です。我々は“彼女”を受け入れます。直ちに追撃をやめ、引き返しなさい。聞き入れない場合撃墜します≫
警告を英語とロシア語で発し、私とゲイザーは機体を白いSu-47と二機のSu-35の間に割り込ませる。
私達の警告に対してロシア軍機の採った行動は――――――バレルロールでの強引な突破だった。
≪はぁ……。ゲイザー、私が右翼側の機をやる。もう一機の方をお願い≫
≪まかせて!≫
こっちの警告を無視した以上、遠慮してやる必要はない。――――――
向こうもロックされている事に気付いてるハズだけどSu-47の撃墜を優先してるのか、それともこちらが空自の所属だから撃ってこないとタカを括っているのか。緩慢な動きばかりで本気で回避しようとする気はないように見える。
(舐められたものね。向こうもこっちの
≪FOX3≫
月夜を切り裂くようにS-32から機銃弾が放たれ、Su-35の右翼側の垂直尾翼と水平尾翼を切り刻む。
尾翼を失ったSu-35は機体のバランスが崩れ挙動が不安定になる。ゲイザーが相手取った方も同じように尾翼を刻まれ、同じような状態に陥っている。
――――――E.F社のパイロットではミュベールレベルのエース、そしてオーストラリア国防空軍でも
機動性の高いSu-35といえど緩慢な動きしかしないのならミュベールとゲイザーにとっては造作もない事だった。
≪……最後通告よ。直ちに引き返しなさい。なおも続けるというなら今度は機体本体を撃ち抜きます≫
威嚇射撃じゃなく当てにいったから向こうもこれが脅しじゃないと判ったでしょう。
これでもなお戦うやるとなるとこっちとしても容赦をする気はない。
≪
悪態をついてSu-35は二機とも機体をバンクさせ、反転して飛び去って行く。
流石に尾翼を失った状態で
≪Вы пожалеете об этом≫
(……え?)
去り際にSu-35のパイロットが小さく、そして早口のロシア語で一言だけ呟く。今の言葉、私の聞き間違いじゃなければ確か――――――
≪AQUILA02から01へ。ロシア軍機の離脱を確認。……終わったんだよね?≫
ゲイザーからの通信に意識を目前のSu-47へと戻す。
……今は、本来の仕事をしないと。
≪Su-47へ。こちらは航空自衛隊所属、TACネームアステル。受け入れ許可の降りた基地へエスコートします。先導するのでついてきてください。了解したら機体をバンクさせてもらえますか?≫
こっちの指示に従ってバンクしたのを確認し、機体を加速させてSu-47の前に出る。
≪ゲイザー、私が先導するから後ろについて。おかしな真似をしたら容赦なく処断して。……ま、心配はないと思うけど一応ね≫
≪わかった≫
私とゲイザーでSu-47を挟むカタチで小松基地へエスコートする。
エスコートする最中、私はSu-35のパイロットが残した言葉が気になっていた。
(『後悔するぞ』って意味だったわね)
まるで忠告のように言われたその言葉が何を意味するのか。この時の私達は判らず、ずっと後になって知る事になる――――――。
小松まで戻ってくるとそこは出撃前とは違う意味で騒然としていた。
離着陸を中断させられた民間機があちこちいるし、管制塔からの無線は緊急事態を告げるアナウンスと怒声が飛び交っている。
≪VVS、クリアー・トゥー・ランド。ランウェイ24レフト≫
エスコートしてきた白いSu-47を先に着陸させるため、念のためロシア語で先に降りるよう伝えると減速して高度も徐々に落としていく。
≪VVS、コンテニュー・アプローチ≫
問題なく着陸した事を確認すると私とゲイザーも着陸する。
急いで機体を降りて手近にいたE.F社のスタッフに状況を訊くとどうにもおかしな状況になっていた。
「話が噛み合わない?」
「ああ。亡命してきた理由とか日本に向けて飛んできた理由が自分でもわからないって言ってるらしいんだ」
「……は?」
予想してなかった言葉に思わず間抜けな声が出るけどそれは許してほしい。
危険な目にあってまで亡命したのにその理由が自分じゃ判らないってどういう事?
「……それで問題の彼女は?」
「まだ機体から降りてないぞ。……まぁあの様子じゃ下手に出れんというのが正しいだろうが」
彼が向けた指先を見ると着陸したSu-47は武装した自衛隊員に取り囲まれている。
……確かにアレじゃ下手に動けないわね。
「機体の方をお願いしていい? 話をつけてくるわ」
「大丈夫なのか?」
「見ず知らずの人間より通信越しとはいえコンタクトした人間の方がマシでしょ」
機体の降機チェックを任せ、取り囲んだ隊員たちをかき分けてSu-47へ近づいていく。
「銃口を下げてもう少し距離を置いてください! これじゃパイロットも出てきません」
隊員の壁を抜けて包囲を緩めるよう命令する。越権行為も甚だしいけどこうでもしないと下がってくれそうにないので仕方ないと割り切る。
「彼女の言う通りだ。その物騒な得物を下ろして機体からもう少し下がれ」
私同様取り囲んでいる隊員を押しのけながら八代通室長がやってきて、包囲している隊員達もそれでようやく銃を下げて機体から距離を置いてくれた。
「中尉、ご苦労だったな。後の事は俺がやるから下がっていいぞ」
「それなんですけどね。私が行かせてもらいます」
「なに?」
「ここまでエスコートしたのは私達ですから向こうの警戒心を和らげる意味でもその方がいいでしょう?」
私の言葉に八代通室長は数秒思案し、「いいだろう」と言って私に任せてくれた。
「一応聞いておきますけど相手の身の安全なんかは保証してくれるんですよね?」
「当たり前だ。でなけりゃそもそも受け入れたりするわけないだろう」
「それを聞いて安心しました」
コクピットの近くまで近づき、ノック代わりに装甲キャノピーの下を軽く叩いて呼びかける。
「聞こえてるかしら? 私は貴女をここまでエスコートしたアステル。貴女の身の安全等は保障してくれるそうよ。機体を取り囲んでいた人達は下がらせたからコクピットから出てきてもらえないかしら?」
私の呼びかけに固唾を飲んで待つ一同。重い沈黙が流れ、視線がコクピットへ集中する。
実際には数秒なんだろうけど体感としてはもっと長く感じる静寂の中、装甲キャノピーから蒸気の漏れ出す音とともにコクピットが開いていく。
「ふぅ……」
無事出てきてくれて思わず息をつく。
けどそれもそこまで。搭乗していたパイロットが立ちあがると思わず呼吸をする事を忘れてしまった。
「――――――」
彼女の第一印象は一言で言うなら『白』だった。
腰まで届くほどの長く白い髪が風で舞い、ダークグリーンのパイロットスーツを着ているにもかかわらずその色を全く感じさせないほどだ。
……否、白いのはその長い髪だけではない。その肌や爪といった身体のあらゆるところが白一色で染まっている。
彫りの深く
――――――神々しさと禍々しさが共にあり、満月を背にどこか儚さを感じるその姿は雪の妖精をイメージさせた。
満月を背にしたまま、ゆっくりと彼女の唯一色がつく事を許されたような赫い瞳が私を捉える。
「私は」
風の音だけが聞こえる静寂の中、満月の夜に彼女の透き通った声が響く。
「ベルクト」
感情が読めない表情のまま、神秘的な空気を纏った純白のアニマは己の名前を静かに告げた――――――
次の登場アニマがライノだと思ったエース諸君、残念だが作者の言い方に引っかかったようだ
というわけで一足先にベルクト登場。ライノもベルクト編の後にちゃんと出るのでご安心を
……ベルクトを先に出した理由? プロットの関係と作者が好きな娘なので早く出したかった(むしろ理由としてはこっちがメイン)
基本原作沿いのタグがついてる? あくまで『基本』です。例外だってあります
なお前半のミュベールの言うガイアとアラヤについてはある作品群の説明をかなり省略して使っています