ガーリー・エアフォース Sisiter's Vaportrail   作:liris

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おかしい……一体どうしてここまで長くなった……?
予定ではサクッと終わらせるハズだったのに……

あ、ところでエースの皆様は7の追加コンテンツのアリコーンは沈めましたか? トンネルくぐりも出来る素晴らしい艦でした
……作者は初プレイでアフターバーナー全開で哨戒機と激突し文句を言われましたが(笑)


Order12 イヌワシへの贈りもの

 ――――――ベルクトが亡命した翌日。私と八代通室長は彼女の検査結果を見ながら今後の扱いについて頭を悩ませていた。

 ベルクトを受け入れたとはいえそれはこちらの独断に近く、面倒事を避けたがる政府上層部(うえ)としてはロシアと問題が大きくならないよう構えていたらしいんだけど――――――

 

「ロシア側からのアクションがないんですか?」

「ああ、まったくと言っていいほどな。……実は外務省の方でも非公式に問い合わせをしてもらったんだがなんて返ってきたと思う。『そもそもロシア連邦軍にSu-47のドーターは存在しない。存在しないものがどうやって亡命するというのか』だと」

「……それ、本当ですか?」

 

 存在しない、ですって……? 対ザイにおける切り札とも言えるアニマ・ドーターを?

 

「加えてどの基地にも昨晩出撃した部隊はないとまで言ってきた。おかしいだろう? こっちは追ってきた連中の機体を損傷させてるのにそれすらなかったこと扱いだ。妙だと思わんか?」

「それは……確かに」

 

 ただ追い返しただけならともかく、私達は撃墜しかねない方法で追い払った。なのに出撃した部隊すら存在しないとまで言うロシアの主張は亡命というよりSu-47(彼女)の存在の否定の方に重点を置いているように感じる。

 そもそもSu-47という機体自体ロシアは開発をやめ、データのほとんどをE.F社に売却している。そしてE.F社はそのデータを元にSu-47を製造し、社の主力機として使っているので各国の空軍関係者からは『ロシアの開発機だがロシア機ではない』とさえ思われている。そんな中でSu-47のアニマ・ドーターが現れればそれはロシアではなくオーストラリアのアニマ・ドーターだと各国の関係者は考えるだろう。ロシアもそれが判っていない筈はないのだが――――――

 

「……そういえば追撃していたロシア機のパイロットが気になる事を言っていました。小さく、それも早口のロシア語でしたけど『後悔するぞ』、と」

「なんだそれは。ただの捨て台詞じゃないのか?」

「私もそう思いたいんですけどね……。ただ捨て台詞なら小声の早口なんてこっちが聞き取れないような言い方をする必要がないんです。そこが少し引っ掛かるといえば引っ掛かりますが」

 

 言葉通りの意味なら彼女を受け入れた事を、という意味なんでしょうけど……。

 

「加えて、ベルクト自身も記憶がないときた。連中の言った事が何を指すのかこれから調べていくしかないだろう」

 

 そう。彼女には記憶がない。小松に降りた時に彼女自身が言っていたが亡命した理由が判らない、という事だったけど彼女にはそもそも自分の“これまで”の記憶がなかった。――――――より正確に言うならあらゆる記憶領域にプロテクトが掛けられていたみたいで八代通室長とヘンガー主任は夜通し解析に当たっていたけどダメだったそうだ。

 ……これに関しては私じゃどうにもならないから八代通室長やヘンガー主任の腕に賭けるしかないんだけど。

 

「そういえばベルクトは空自の所属になるんですか?」

「それなんだが上の連中は受け入れこそしたが正式に自衛隊の所属にするかはまだ決まっていない。大方ロシアと後になって問題が起きるのを避けたいんだろう」

「それなら彼女をE.F社の所属として私達アクィラ隊への編入とするのはどうでしょう? 本社を通してオーストラリア政府へも話を通しますし、Su-47に必要な装備等もこちらで手配します」

 

 私の案は受け入れ先を日本ではなくオーストラリアにするというもの。日本から離れたオーストラリアならロシアも手を出す事は難しいでしょう。

 ……ロシア製のアニマ・ドーターに興味がある、というのもあるけど。

 

「こっちとしては助かるな。ただでさえ予算が厳しい上に俺としても機能解析だけじゃなく機体の調整までする時間はとれん。加えてバービーのアニマは問題児揃いだから、ベルクトの面倒をそっちで見てくれるならこっちも助かるな」

 

 問題児って……確かに否定出来ないけど室長がそれを言っていいのかしら。三人の生みの親は貴方でしょうに。

 

「……取り敢えず本社の方に手配して彼女の受け入れとSu-47の機体に必要なパーツを一式手配しておきます。今小松基地(ここ)にあるのはS-32のモノなのでSu-47とは合わないモノもありますし」

 

 S-32とSu-47は姉妹機のようなモノだけど同じ機体、というわけじゃないから流用が難しい(もしくは出来ない)部品は運んできてもらう必要がある。

 ある程度改修する事になるからその辺りも後でヘンガー主任にも頼まないと。

 

「それじゃ、その辺りの事は中尉に任せる。何か判ったら呼び出すから取り敢えず下がっていいぞ」

「判りました。……ベルクトは今どこに?」

「空いている士官室だ。処遇が決まってない状態で基地内をうろつかせるわけにはいかんからな」

 

 それでは失礼します、と言って八代通室長の執務室から出る。

 ベルクトのいる部屋に行く前に自室で本社の社長へコール。オーストラリアと日本の時差は二時間前後(日本の方が遅い)なので数コールで繋がる。

 

≪スタークスか。ベルクトの件か?≫

≪ええ。先ほど自衛隊の方との話がついたのでその報告を≫

 

 今回ベルクトが亡命してから私はすぐに今回の事を本社に知らせていた。なので社長もベルクトの亡命の事は知っているし、そもそも私がベルクトをオーストラリアで受け入れるという提案を出せたのも社長がオーストラリア政府に話を通すから引き入れろと言われていたからだ。

 

≪ベルクトの受け入れ先ですが、日本側はオーストラリアが受け入れる事に異を唱える事はなさそうです。むしろロシアとの軋轢を避ける為に扱いに困っていたようですね≫

≪こっちも政府筋に話を通して受け入れ許可を取った。オーストラリアは正式にベルクトを受け入れる。本来はオーストラリアに来てもらうんだが彼女はアクィラ隊に編入させ、お前達とともに日本での作戦行動に入ってもらう≫

≪了解しました。それとSu-47の予備パーツ一式と彼女が自由に動ける身分の手配をお願いしたいのですが≫

≪それなら既に手配している。パーツの方は輸送機を護衛する部隊が編制出来次第送る。身分の方はゲイザー同様、お前付きの事務見習いで作っているところだ≫

 

 流石は社長。申請するよりも先にやっていてくれたとは相変わらず動きが早い。

 ……昨日の今日でここまでの用意をしてくれたという事は関係各所の人達を叩き起こしていたんでしょうけど。

 

≪ありがとうございます。……彼女の新しい名前はなんと?≫

≪ああ。それは――――――≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 社長との電話を終えた私はそのままベルクトを訪ねる。

 ここに来てからベルクトは待遇が決まるまで実質的な軟禁状態だったから私としては早く外に出してあげたいという気持ちがあった。

 

「ベルクト? 入ってもいいかしら?」

 

 聞こえるのははい、と不安が混じったような声。

 ……無理もないわね。亡命を受け入れたとはいえ部屋から出れなかったら不安にもなるわよね。

 

「貴女の亡命だけど……正式に受け入れられたわ」

「本当、ですか?」

「ええ。ただし、受け入れたのは日本じゃなくオーストラリアよ。日本側としてはアニマ・ドーターが増えて戦力の増加を見込めても整備に回せる人員を割くのが難しいそうよ。……私達オーストラリアがロシア機の運用実績があるというのもあるけどね」

 

 実際には日本がロシアとの面倒事を避けたかった面が大きいんだけどこれは彼女に言う必要はない。

……亡命したとはいえ母国が悪いように言われるのは彼女としてもあまり気分のいいものじゃないでしょうし。

 

「それじゃあ……私はこれからオーストラリアに行かなければいけないんですか?」

「本来ならね。ただ貴女のオーストラリアでの所属はE.F社になるし、そこでの配属先は私のアクィラ隊になるからこのまま日本にいてもらう事になるわ。……ま、一度は行く必要があるんだけど」

 

 南洋の防衛ラインの面から考えるとベルクトを日本に留めるメリットははっきり言ってほとんどない。けどオーストラリアで研究はともかくドーターの整備出来るのはヘンガー主任達だけだから今は日本でないと整備が出来ないというのが実情なんだけど。

 

「……貴女の事に関しては以上……ともう一つあったわ。――――――貴女の名前よ」

「名前、ですか?」

 

 私に言葉に不思議そうに首を傾げるベルクト。

 ……うん、どう考えても言葉が足りなかったわね。

 

「あー、説明を飛ばしてたわ。貴女はオーストラリア……もっと言えばE.F社で私付きの事務処理をする見習い扱いなの。E.F社としては貴女を私達と同じように社員として扱うからファミリーネームがないとおかしいでしょう?」

 

 ――――――ゲイザーに対してもだけどE.F社がアニマを私達と同じように人間扱いする事を色々と言ってくる人は確かにいるし、E.F社の中にもそういう人達はいる。

 けど私はせっかく人の身体を持ったのなら人間らしい生き方をして、『人』の感性を持ってほしいと思ってる。

 

「『ベルクト・クローディア』。これが私達が貴女に贈る名前よ」

「ベルクト・クローディア……」

 

 私達の送った名前を噛みしめるように呟くベルクト。

 ……記憶がない彼女がどんな想いで受け取ったのか私には判らない。それでも、贈った側としては彼女にとってプラスであってほしいと思う。

 

「……気に入ってくれたかしら?」

「は、はい。ありがとうございます!」

 

 さっきまでの不安そうな表情(かお)から一転して花のような笑顔を浮かべるベルクト。

 ……うん。昨晩の超然とした雰囲気より今みたいな笑顔の方が似合ってるわね、この娘。

 

「それじゃ、改めて自己紹介をさせてもらうわね。私はE.F社のアクィラ隊隊長のミュベール・スタークス。……TACネーム、アステルの方が貴女にはいいかしら?」

「え、えっと……」

 

 どっちで呼ぶのか本気で悩みだすベルクト。

 ――――――ちなみに。本人たちは気付いていないし、それを指摘するものもいないが傍から見ればミュベールが年下の娘を困らせているようにしか見えないというアレな光景だったりする。

 

「えっと……。それじゃあ、ミュベールさん、と呼んでもいいですか……?」

「ええ、いいわよ。それとさっきも言ったけど貴女は私のアクィラ隊の所属になるわ。隊での貴女は三番機、コールサインはAQUILA03よ。……二番機は私と一緒に貴女をここまでエスコートしたEF-117Gのアニマ、ゲイザーだけど覚えてる?」

 

「あ、はい。あの紅いEF-117G-ANMですよね? まだ会えていないんですけど……」

 

 でしょうね。

 ここに着いてからベルクトはずっとこの部屋にいたし、ゲイザーにはベルクトの扱いが決まるまでは接触しないよう言いつけていたし。

 ……ま、それもここまでなんだけど。

 

「それじゃ、顔合わせを兼ねて三人で少し出かけましょうか。貴女の服とか色々と買わないといけないしね」

「私の、ですか……?」

「ええ。いつまでもパイロットスーツでいさせるわけにはいかないもの。普段着とか色々と必要でしょ?」

「え、でも私お金を――――――」

「その心配はいらないわ。お金なら私――――――というか会社に経費として請求するから気にしなくていいわ」

 

 仮に経費として落とせなかったら私が払えばいいだけなんだし。

 ベルクトみたいに可愛い娘なら多少大目に使っても惜しくないしね。

 

「それじゃ、行きましょうか。ウチの二番機――――――ゲイザーも呼べばすぐに来るしね」

 

 そうしてゲイザーに「これからベルクトの身の回りのものを買いに行くんだけど一緒に来る?」というと「行くっ!」と即答。それどころか「それじゃ車の用意しとくねー」と言って電話を切ってしまった。

 

「あのミュベールさん? EF-117Gはなんと……?」

「即答で行くときたわ。おまけに車の用意もしておくって。あの娘も貴女の事を気にかけてたから一緒に出れるのが嬉しいんでしょ」

 

 あの娘はイーグルとは別ベクトルで人と触れ合うのが好きで、それはアニマ相手でも変わらない事が小松に来て判ったし。

 

「だからそんな不安に思わなくていいわ。話とかは多分あの娘の方から振ってくるから」

「は、はい」

 

 そうしてベルクトと話しながら基地の入口近くまで来ると私には聞き慣れた、けど自衛隊の車両とは明らかに異なるエンジン音が聞こえてくる。

 

「お待たせー」

 

 そう言ってゲイザーが乗ってきたのは基地にある車両ではなく黒のスポーツタイプの車。どう見ても軍用に見えないソレは言うなればミュベールがオーストラリアから持ち込んだ“私物”である。

 

「ありがと、ゲイザー。ソレの調子はどう?」

「問題なさそうかな。少し上まで回したけどキレイに回ったし」

 

 そう言って運転席から降りるゲイザー。基地の外だとゲイザーは運転出来ない(技術的には大丈夫だが国際免許がない)から必然的に運転するのは私になる。

 

「ベルクト、紹介するわ。この娘が昨日私と一緒に貴女をエスコートしたアクィラ隊(ウチ)の二番機。EF-117Gのアニマ、ゲイザーよ」

「初めまして、ベルクト。地上で会うのは初めてだよね。わたしはEF-117G-ANM、ゲイザー。ミュベールが言った通りアクィラ隊の二番機で電子戦時々砲撃を主に担当してる。よろしくね!」

 

 自分の行っている事を天気予報のように言うゲイザー。

 ……間違ってはいないんだけどその言い方はどうかと思うんだけど。

 

「えっと、アクィラ隊の三番機になりましたベルクトです。EF-117G、よろしくお願いします」

 

 おずおずと自己紹介するベルクトに何か思うところがあったのか、ゲイザーが顔をしかめる。

 

「……ゲイザー」

「え……?」

「EF-117Gじゃなくてゲイザーって呼んでほしいな。私は確かにEF-117Gのアニマだけど、それだとEF-117Gという機種全体を指して言われてるみたいだからここにいる『わたし』を呼ぶならゲイザーって呼んでほしいな」

 

 わたしもゲイザー・ラッセルって名前をもらってるからね。そう言うゲイザーの言葉は横で聞いていたミュベールにとっても意外過ぎるモノだった。

 ゲイザーは自身が兵器だと自覚している一方で『ゲイザー・ラッセル』としての在り方を大事にしてくれてる。矛盾してるとは思うけど私はそれでいいと思う。

 少なくとも私はこの娘達に任務を果たすだけの機械的な存在にはなってほしくないし。

 

「えっと……ではゲイザーさん、でいいですか……?」

「うん、いいよ。それじゃ改めてよろしくね、ベルクト!」

 

 そう言って手を差し出すゲイザー。一瞬頭に?マークを浮かべたベルクトだったけど握手を求められていると気付いてすぐにゲイザーの手を握った。

 

(この分なら心配はいらなさそうね)

 

 二人の微笑ましいやり取りを見てホッとする。どうなるか心配なところもあったけどこの分なら二人とも大丈夫そうね。

 

「それじゃ二人とも乗って。あ、ゲイザーは今日後ろね」

「はいはーい」

 

 そうして私達は出発し、目的だったベルクトの身の回り品を買い揃えられたけどそれはもう色々とあった。

 ……主にゲイザーがベルクトの服を買う時にこれでもか、という程の服を持ってきて着せ替え人形にしたり(私も少しそれに乗ったけど)、昼食にした時も調子に乗ってベルクトに食べさせてようとしてベルクトが真っ赤になったりだ。

 そして今は休憩を兼ねてカフェで一休みといったところ。始めは遠慮していたベルクトだけど少しずつ彼女のほうからも話しかけるようになってくれた。とはいっても記憶のない彼女が話せる事は決して多くない。

 彼女にはロシアのどの基地から出発したのか、という記憶すらなかった。気付いた時には空の上で二機のSu-35に追われていたらしい。

 

「それじゃあ貴女にとってはそこが始まりなのね?」

「はい。ただ……」

「ただ?」

「……一つだけ、覚えている命令があるんです」

「「命令?」」

 

 記憶のないベルクトが唯一覚えているであろう命令。その言葉に私とゲイザーの言葉が思わずハモる。

 

「逃げろって。全てを捨ててどこまでも飛び続けろと」

 

 逃げろ、ね……。彼女の記憶がロックされているのはその命令となにか関係があるのかしら?

 

「それでベルクトは日本に来たんだ。ヨーロッパ方面を避けたのはロシア軍の増援が上がるのを防ぐため?」

「そこは……わかりません。ただ命令した人はそれをわかっていたんだと思います」

 

 でしょうね。私も同じ立場ならそうするでしょうし。

 

「それじゃゲイザーのEF-117はともかく私のS-32を見た時は焦ったんじゃない? アレも一応ロシア機になるから」

 

 とはいえ話が重くなりそう……というより基地の外であまりこういった話をするのはよろしくないから話題転換を兼ねて昨晩初めて接触(コンタクト)した時の話を振る。

 

「そうですね。最初は先回りされたのかと思いました」

「まぁ確かに正面からロシア系の機体が来たらそう思うよねー。でもミュベールのS-32って派手だからすぐ違うってわかったんじゃない? あんなカラーリングの機体はアグレッサーぐらいにしかいないし」

「ちょっと。あんなのとはなによ、あんなのとは」

 

 ……確かに少し派手かもしれないけどアニマ・ドーターの機体に比べればだいぶ大人しいと思う。

 ――――――いや、そもそも、

 

「ベルクトならともかく私の機体より目立つ色のゲイザーには言われたくないわね」

「む、仕方ないじゃん。わたし達のはカラーリングじゃなくて肌の色みたいなものなんだし」

 

 お互いの機体カラーについて好き放題言い合う私とゲイザー。勿論お互い本気で言ってるわけじゃないただの軽口だ。

 なんだけど――――――

 

「あ、あの! 喧嘩はよくないと思います!」

 

 ――――――ベルクトにはそう見えなかったようで真剣になって止めようとしてきた。

 

「……っく」

「っ……」

 

 ……マズい。何がマズいってベルクトが真剣だから笑っちゃいけないんだけど、それが空回りだって事が判るから笑いがこみあげてくる……!

 

「っ……ダ、ダメ。わたし、これ以上無理……あは、あはははは!」

「ちょ……、ダメよ、ゲイザー。笑っちゃベルクトに悪いわ……っふふ」

 

 私達の反応にきょとんとするベルクトだけど笑った理由に気付くと顔を真っ赤にして抗議してきた。

 

「お二人ともひどいです! 私、お二人が喧嘩するかと思ったんですよ!?」

「ゴ、ゴメンね、ベルクト。笑うつもりはなかったんだけど私達からしたらいつもの軽口みたいなものだったから……ふふ」

 

 弁解するミュベールだが見るからに『不機嫌です!』というオーラを出すベルクト。……なのだがそんなベルクトを見て二人揃って「可愛い……」などと思っているあたり反省してなさそうである。

 

「あれ? ミュベールさんとゲイザーじゃないですか」

 

 声をかけられた方を向くとそこには小松で唯一民間人の知り合いの明華ちゃんがいた

 

「今日はお休みなんですか?」

「ええ。彼女の案内を兼ねてね。……ちょうどいいわ。明華ちゃん、この娘はベルクト・クローディア。ゲイザーと同じくE.F社の事務見習いで私の下で研修する事になったの。で、ベルクト。彼女は明華ちゃん。鳴谷君の……彼女?」

「ち、違いますっ!? わ、私と慧はそんなんじゃ……!」

 

 一瞬で顔を真っ赤にし否定する明華だが残念ながらここにいるのはミュベールだけじゃないのである。

 

「ふーん? 明華ちゃん、その割には顔が真っ赤だよ~?」

「うう……」

 

 慌てる明華へ楽しそうに追撃をかけるゲイザー。ゲイザーから顔を逸らすと、明華は心配そうに自分を見るベルクトに気付く。

 そしてなにか感じるものがあったのか二人は無言で手を取り合い自己紹介をする。

 

「えっと、あたしは宋 明華。明華でいいよ」

「ベルクト・クローディアです。よろしくお願いします」

 

 ついさっきミュベールとゲイザーに振り回された者同士のせいか、取り合った手を通じてシンパシーを感じているようだった。

 

「あら、二人とも仲良くやれそうね」

 

 嬉しそうに言うミュベールだが、二人からしてみればきっかけがきっかけなので素直に喜べなさそうだが。

 

「ところで明華ちゃんは買い物かなにか?」

「あ、はい。夕飯の支度をするのに買い物をしようと思って」

「なら、一緒に行かない? 私達は車で来てるから荷物があっても困らないし、からかったお詫びじゃないけど家まで送ってあげる」

「いいんですか?」

「ええ。二人も大丈夫よね?」

 

 私の提案にゲイザーとベルクトも賛成し、4人で買い物をする。

 明華ちゃんのものだけでなく、私やゲイザーの嗜好品とベルクトにもお詫びを兼ねて興味を持ったらしい小説を買ったりと本当に楽しい時間になった。とはいえ私達はともかく明華ちゃんは夕食の支度があるから夕方になる前に帰らないといけなかったから私達もそれに合わせる事にした。

 その帰りの車中、明華ちゃんは複雑そうな顔で切り出してきた。

 

「今日はありがとうございました。……でも本当によかったんですか? 私の買い物の代金まで持ってもらって」

「いいのよ。こういう仕事をしてると減るスピードより貯まる方が早いのよ。だから気にしないで。これぐらいは減った内に入らないから」

「でも……」

 

 うーん。私としては本当にこれぐらいは大したことないんだけど……あ、そうだ。

 

「それなら私とデート一回、ってのはどう?」

「ええええっ!?」

 

 ミュベールのデート発言に思わず声を上げるゲイザー。なおベルクトと当の本人である明華はあまりの内容にフリーズしている。

 

「ちょ、ちょっとミュベール。それ本気?」

「本気よ。そもそも気に入ってない人をデートに誘う訳ないでしょうが」

 

 ゲイザーの言葉に当然でしょ?と言外に言うミュベール。そこでフリーズしていた明華が再起動した。

 

「あ……ごめんなさい。その……こんな面と向かってデートに誘われた事ってなかったので」

 

 ましてや同性から見ても美人と言えるミュベールである。明華の反応はそんなおかしなものではないだろう。

 

「ま、すぐに答えを出さなくてもいいわよ。私も無理強いする気はないし」

(とはいっても明華ちゃんは鳴谷君が好きみたいだからたぶん断るだろうでしょうね。それで時間が経てばうやむやに出来るでしょう。……少し惜しい気もするけど)

 

 惜しいとか思いながらも相手に考える時間を与えてうやむやにしようとするミュベール。

 と、そこでようやくミュベールの言葉から立ち直ったベルクトがミュベールの趣味を知らなければ当然といえる疑問をぶつける。

 

「あの……ミュベールさん、明華さんは同じ女性ですよね……?」

「相手を好きになるのに性別なんて些細な事よ。確かに法の上では認められてない事が多いけど本当に大事なのは相手といて幸せかどうかでしょ」

 

 ベルクトの疑問に堂々と言い切るミュベール。

 ……言っている事は立派なのにそこはかとなく残念な気配をゲイザーだけ感じているが。

 

「……ミュベールさんはすごいですね。あたしもそんな風にはっきり言えたらって思うんですけど」

「明華ちゃん……」

 

 羨むような言葉を漏らす明華。

 ミュベールとゲイザーだけでなく明華が慧をどう思っているのか気が付いて(ベルクトは確信まではしてないが)いる。

 だからこそ、明華の今の言葉にどれほどの想いが込められているのかも感じ取っていた。

 

「……その、もしミュベールさんがよければ相談に乗ってもらってもいいですか? もちろんちゃんとお礼はしますし」

 

 ……お互い相手に言い出せない理由は違えど、二人揃って私に相談とかこういうところは似てるわね。

 

「ええ。私でよければいつでも」

 

 そして私の答えも以前鳴谷君にしたのと変わらない。……流石に明華ちゃん相手に『その時まで生きていたら』なんて冗談はいわないけど。

 

「それじゃ明華ちゃん。私の連絡先教えとくわね」

「あ、それじゃあたしのも」

 

 そうして連絡先を交換し合う私達を羨ましそうに見てくるゲイザーとベルクト。こういう時にベルクトはともかくゲイザーは黙っていないわけで――――――

 

「ズールーいー。明華ちゃん、わたしとも交換しよ!」

「いいよ。ベルクトのも教えてもらっていい?」

 

 ゲイザーの提案に即答し、同じ提案を明華ちゃんはベルクトにもしてくれた。

 

「え……いいんですか? 私、すぐオーストラリアに行くかもしれないんですけど……」

 

 ……まぁ確かに一度は彼女自身がオーストラリアに行く必要がある。だからベルクトの言う事は間違ってはいないんだけどそれを理由に遠慮しているのは見え見えだった。

 

「すぐ行くかもしれないからってもう会えないわけじゃないでしょ? せっかく友達になれたんだからあたしは仲良くなりたいけど」

「明華さん……」

 

 明華ちゃんの言葉に私はちょっと感動した。ベルクトの事情を知らないとはいえ素直に『友達になりたい』と言ってくれた明華ちゃんに感謝する。

 ……私は隊長という立場だから『仲間』にはなれても『友達』になるのは難しい。――――――だから、明華ちゃんの言葉は私にとっても嬉しいものだった。

 ――――――だから、私に出来るのはベルクトの背中を押してあげる事だろう。

 

「ベルクト。――――――貴女の思うままにしていいわよ」

「――――――はい! その、明華さん。私の方こそよろしくお願いします」

 

 操作を教わりながら連絡先を交換するベルクトを見て、私は今日連れ出して本当によかったと思う。

 明華ちゃんは私に今日のお礼を、と考えているみたいだけど私には目の前の光景で十分過ぎる、むしろ私の方からお礼をしたいぐらいだ。

 いつの間に加わったのか、ゲイザーもちゃっかりと二人の間に入って楽しそうに話している。

 その光景を見て私はこっそりカメラを起動して、三人の写真を撮る。

 

(盗み撮りみたいになったから後で三人に送る時に話しておきましょう)

 

 ――――――ミュベールの撮った写真。そこに写っていたのはベルクトを中心に笑い合う目の前の三人。

 人とアニマ。そんなものを感じさせない笑顔溢れる写真だった。

 




ベルクトに関しては思いっきりオリ設定になりました

ちなみにミュベールの私物である車は機体の予備パーツと一緒に運ばれました。
車種は89年式のトランザム(ナイトライダー トランザムで検索されればすぐ出てきます)という作者の趣味選定です

次回は皆様お楽しみの食堂でのアレコレを中心に予定しております
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