ガーリー・エアフォース Sisiter's Vaportrail   作:liris

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GAFファンの集いーANMの合同誌に参加された作者の方々素晴らしい作品ありがとうございました。
そして当作品をお気に入り登録されているセルユニゾン様、鞍月しめじ様。改めて素晴らしい短編ありがとうございました!


数日前にエスコン04の攻略本を見つけて買ってみたらミニコラムに湾岸戦争でF-117の電子戦機としてEF-117がいたという衝撃の事実があった……のだが調べても全然実機のEF-117の情報が見つからない。
一体情報源はどこだったんだろうか?


Order13 Order Maid

≪こちらAQUILA01。間もなく目標空域(エリア)に到着。戦況は?≫

≪こちらウルフィ。制空型が四機、スクランブルしたアクター、ピジョン両隊と交戦中。残念ながらこちらが劣勢だ。貴機は両隊の支援に入れ≫

≪ラジャー≫

 

 到着した空はミサイルと機体の排気煙、そして火線とチャフ・フレアが彩る乱戦模様になっていた。ウルフィ(AWACS)はアクター、ピジョンは合わせて八機と言っていたけどレーダーに映る友軍機の輝点は六。

 ……間に合わなかった事に歯噛みするけど今私に出来るのは悔いる事じゃなくて戦う事。撃墜されたパイロットには無事ベイルアウト出来た事を祈るしかない。

 

≪ACTOR、ならびにPIGEON隊へ。こちらAQUILA01。加勢に入ります。私が二機やるので残りをそちらでお願いします。……やれますか?≫

≪こちらACTOR01、了解した。三対一ならこっちでもなんとかしてみせる≫

 

 空自側のF-15Jの内、二機が三対一のドッグファイトに持ち込む。

 ……このやり方は私達E.F社が対ザイの戦術として使っている方法で、機数が同等だと使えないけど今回みたいに戦力比が2:1以上なら有効になる。

 本来機動力で勝る相手に格闘戦は悪手。けど数で勝るならやりようはある。同時に仕掛けるんじゃなく一機目がくいつき、ついていけなくなったら次がそこからくらいつく。パイロットの技量に左右される戦法だけどこの()り方の方がザイの撃墜率も、そして交戦した部隊の生還率も高い。ゲイザーのようにミサイルの推進系を直接操作するならともかく、通常のミサイルじゃEPCMに妨害されて命中率は著しく落ちる。ならいっそミサイルに頼らず技量がモノを言う格闘戦に持ち込む。

 幸い、空自のパイロットの練度は世界的に見ても高い。モノにするのにさほどの時間はかからなかった。

 

≪AQUILA01、FOX1。――――――スプラッシュ・ワン≫

 

 ザイが接近してくるまでに足の長いセミアクティブ空対空ミサイル(SAAM)で確実に数を減らす。この数日はスクランブルが頻出していて身体はもちろん、機体にも優しくないので一つの戦闘にかける時間も短縮させておきたかった。

 ……別のスクランブルで上がり、その最中にこの空域の支援要請が飛び込んできたから残弾は元より燃料の心配もあったし。

 本来私の隣にいるゲイザーも別のスクランブルで出撃させないといけない程で、どうやら向こうも私と同じような状況らしい。幸いゲイザーは相手が少数ならドッグファイトに持ち込んでも勝てるし、自機のミサイルが尽きてもミサイルベッドになる友軍機がいれば撃墜出来るから連戦の負担は私よりも軽そうだった。

 

≪AQUILA01、FOX2!≫

 

 受け持った最後のザイをロックオン、ミサイルをリリース。向こうもそれに気付いたのか鋭角的な急旋回で躱そうとするも至近距離でミサイルが炸裂し、機体の半分を喰いちぎる。

 

≪AQUILA01、FOX3≫

 

 あれだけ損傷していれば放っておいても墜ちるだろうけど念には念を入れてトドメを刺す。

 アクター、ピジョンの両隊も受け持ってくれたザイを墜としてレーダーからザイの反応は全て消えていた。

 

≪……こちらAQUILA01。ごめんなさい。もう少し早く到着していれば――――――≫

≪PIGEON02からAQUILA01へ。貴官が謝ることはない。AWACSの話じゃこっちの支援要請を受けたのは別空域で交戦してる時だったんだろ? むしろそんな状況で来てくれたんだ。感謝してる≫

≪それに落とされた奴らは無事にベイルアウトした。すぐには無理だろうがまた復帰してくるさ≫

 

 ――――――そっか。ベイルアウト出来てたのね。

 それを聞いて肩の力が抜ける。機体の損失は確かに痛いけどパイロットの替えはない。このエリアのザイを一掃して救助の為のヘリも近づけるからベイルアウトしたパイロットも大丈夫でしょう。

 

≪こちらウルフィ。空域のクリアを確認。帰投を許可する≫

≪AQUILA01、ラジャー。帰還する(RTB)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小松に戻ると別のスクランブルに対応していたゲイザーも戻ったばかりなのか、「疲れた~」なんて言ってタラップに座り込んでる。

 そんな帰還直後の私達にベルクトがタオルを差し出してくれた。

 

「ミュベールさん、お疲れ様です。ゲイザーさんもどうぞ」

「ありがと、ベルクト」

「ありがとー! あー、ひんやりして気持ちいい……」

 

 ゲイザーの言う通り、ベルクトのくれたタオルは水で濡らしてあったのか気持ちがいい。それなりの汗をかいていたからベルクトのこういう心遣いは嬉しかった。

 そうして機体の傍で身体を休めていると聞き慣れてしまったスクランブルアラートが聞こえてくる。

 

「……またスクランブル? 続くわね」

 

 滑走路に目を向けると山吹色(サンライトイエロー)のF-15Jが滑走して飛び上がって行く。今回のインターセプターはイーグルみたいだけど……元気娘のイーグルも連日のスクランブルでイラついてるのか上がり方が荒っぽい。

……あんな垂直上昇に近い上がり方をしたら舟木さんに怒られるんじゃないかしら。

 

「はぁ……。いい加減にしてほしいよ。ここんところずっとスクランブルで帰りにも別のエリアに行くとか疲れるし……」

「そうね。スクランブルで上がってその帰りに別のスクランブルに出るなんて本来は滅多にないもの」

 

 出撃したスクランブルと撃墜数に応じて報酬は上がる。けどこうもスクランブルが続くと機体の整備は勿論身体への負担も小さくない。

 ……一応私達傭兵は違約金を払えば出撃拒否をする事は出来る。けどこうも多いと一度拒否してもすぐ別の出撃要請がくるから結局やる意味がないのよね。

 

「そんなに多くのザイが?」

「この一週間は毎日スクランブルね。一日一回は必ずあるし多い時はそれこそ何度も。今日だって私は二回、ゲイザーもよね?」

「だね。ミュベールとは別で上がってそのまま他の戦域にゴー、だったからね。稼げるのはいいけど少しは遠慮してほしいよ」

 

 ゲイザーも始めはEMLを持って上がっていたけどあまりにスクランブルが多いから今は私達同様ミサイルを使ってる。元々EMLは使用後のメンテナンスが重要な装備だから必要な時に使えない、なんて事になったらシャレにならないからミサイルで済む出撃はそれで上がってる。

 

「……ごめんなさい」

「ベルクト? どうして貴女が謝るのよ」

「皆さんが戦っているのに、アニマの私は地上で待っているだけですから」

「それは仕方ないよ。ベルクトのドーターはメンテと装備の改修がまだ済んでないんでしょ?」

 

 ゲイザーの言う通りベルクトのドーターはメンテナンスはともかく、西側の装備を使えるようにするための改修がまだ終わっていない。必要なパーツと増員された整備班の人達は三日前に到着したけど頻発するスクランブルのせいで基地全体で整備関係の人達が忙しく、ベルクトのドーターの改修になかなか人を回せないのだ。

 

 ――――――余談だが、この時小松に来た輸送部隊は輸送機がXB-70を改修したC-70(オーストラリア国防空軍所属機)が二機。護衛にSu-47とYF-23が一個小隊ずつ(こちらはE.F社所属部隊)とかなり独特だったため、撮影に来ていた航空マニアが狂喜乱舞していたりする。

 

「それだけじゃないんです。……私は稼働歴そのものが少ないですから」

 

 そう、Su-47を実戦配備しているのはE.F社だけで、それも運用されて一番古い機体でも五年に満たない。F-15やSu-27のような運用実績がないからSu-47のアニマであるベルクトは経験そのものが少ない。

 

(…加えてこの娘は記憶がないからE.F社で運用された経験も引き出せるかが怪しい。……空いた時間があればシュミレータで訓練をするよう言ってはあるけど記録を見る限りまだ拙い。だから改修が済んでも出来れば実際に飛んでの訓練をしたいところなのよね)

 

 ベルクトへの訓練プランを頭の中で組み立てるミュベール。彼女としてはベルクトの事を考えていたが、ベルクトは思案顔のミュベールを見て自分が無言で責められていると思ったのだろう。

 

「変……ですよね」

 

――――――だからだろうか。その声が自信を責めるようなものだったのは。

 

「ベルクト?」

「……私には過去の記憶がなくて、アミマなのに戦った記録すら見つからない。亡命を希望しておいてその理由も説明ができなくて……私があなた方の立場なら怒り出すと思います」

 

 ――――――その言葉は、ベルクトが抱えている負い目の発露だった。

 俯きながら言ったベルクトの表情はミュベールからもゲイザーからも見えない。けれどその声色だけでベルクトが自身を責めている事に気付くには十分だった。

 

「……ベルクト。貴女を助ける時に戦力として加える打算がなかった、なんて綺麗事は言わないわ」

 

 事実、ミュベールはベルクトをE.F社の戦力にする事を考えていた。だからこそベルクトが亡命してすぐに報告を上げていたわけだが。

 

「でもね。アニマだからといって道具扱いする気も私にはないの」

「え……?」

 

 ……改めて言葉にするのは恥ずかしいけどベルクトにははっきり言った方がよさそうね。

 ミュベールはベルクトの正面でしゃがんで少し見上げるカタチで言葉を紡ぐ。

 

「私はね。貴女達を“人のカタチをしているだけのモノ”と見る気はないわ。理屈として――――――いえ、実際そうなんだけど私はそんな風に割り切れないのよ」

 

 それは以前ミュベールが慧に問われた時の答えに近い。違いがあるとするならあの時は『言える筋合いがない』と意図的に黙っていた事を言おうとしている事だろう。

 

「私にとって貴女もゲイザーも大事な仲間で妹分よ。そんな貴女達を道具として見れるわけがないでしょう。――――――だからそんな泣きそうな顔をしないで」

 

 ベルクトの頬に手を当てて己の本心を告げるミュベール。

 傍で聞いているゲイザーは『相変わらず甘いなぁ』と思っていたりするが、嬉しそうに顔が緩んでいるので満更ではなさそうである。

 

「それに、記憶がないならこれから積み上げていけばいいわ。思い出せない記憶はもしかしたら取り戻せないかもしれない。――――――けど、『これから先』の思い出は作っていく事が出来るんだから」

「…………っ!」

 

 その言葉が引き金となったのか、ベルクトはミュベールに抱きつく。ベルクトを抱きとめたミュベールはその身体が小さく震えている事に気付く。

 

「私は……ここにいていいんですか? 皆さんに迷惑しかかけてないのに……」

 

 ――――――否。身体だけではなく、その言葉も震えていた。

 ベルクトは亡命しておきながら何も出来ない自分を責めている。受け入れた私達に返せるものがないから、と。

 

「勿論よ。さっきも言ったでしょ。記憶がないならこれから積み上げていけばいいって。これから学んで、未来(あと)で返せばいいのよ。――――――貴女はここに生きてるんだから」

 

 そんなベルクトの問いをミュベールは肯定する。それがミュベールの答えだった。

 

「それじゃあわたしからもいいかな」

「ゲイザー?」

 

 空気を読んでこれまで二人のやり取りを傍観していたゲイザーだったが、彼女もベルクトに思うところがあるらしい。

 

「ベルクトは記憶がないことを気にしてるけどわたしはそのことを悲観的に考えなくていいと思うよ? どちらかというとある意味チャンスみたいなもんなんだし」

「……それは、どういう意味ですか?」

 

 ベルクトの表情が硬くなる。それに気付かないゲイザーではないのだが、気付かないフリをして言葉を進めていく。

 

「ロシア軍アニマの『ベルクト』としてじゃなくてE.F社の『ベルクト・クローディア』……一人の個人として生きるのもアリなんじゃないかと思うよ?」

 

 ベルクトにとってその言葉はあまりに予想外だったのか。大きく見開いた目をゲイザーに向けている。

 ……当の本人は『えっ、なにその反応?』と困惑気味だが。

 

「上の人達はいい顔しないと思うけどさ。わたしはそういうのもアリだと思う。ミュベールだってベルクトが選んだんなら上がなんと言おうと応援するでしょ?」

「まぁね」

 

 自分をアニマとしてではなく個人として見てくれる二人。――――――そんな二人にベルクトは既視感を感じ、一瞬だけ視界が白く染まる。

 

「……? ベルクト、どうかした?」

「あ、その……一瞬意識にノイズのようなものを感じて……」

「大丈夫? 調子が悪いなら検査を受けた方がいいんじゃない?」

「大丈夫ですよ。もうなんともありませんから」

 

 そう言うベルクトは確かに本当になにもなさそうで、これ以上言うと逆効果になりそうだった。

 

「それじゃあ二人とも。そろそろシャワーを浴びて着替えに行きましょうか。ちょっと長話になったから次の仕事まであまり時間がないわよ」

 

 そう、ここはまだハンガーの中。――――――もっと言えばミュベールとゲイザーは着替えすらしてないから汗をかいたままだ。

 そして彼女達が言う次の仕事は汗をかいたまま出るのはよろしくない内容なので急ぐ必要があった。

 

「うわ、ホントだ。ちょっとヤバいかも」

「ベルクト、悪いんだけど先に行って準備をお願いしていい? 私とゲイザーはシャワーで汗を流してくるから」

「……はい! しっかりやっておきますね!」

 

 そう朗らかに言うベルクトを見て、ミュベールとゲイザーは改めて自分達に出来る事はしてあげようと心の中で誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――昼飯を食べるなら一二時前に行ってみろ。面白いものが見れるかもしれんぞ。

 

 グリペンの検査が終わって食堂に行こうとした俺達に八代通さんがそんなことを言ってきた。

 

「グリペン、今日食堂でなにかあるのか?」

 

 隣りを歩くグリペンに訊くも首を横に振った。特になにかあるわけじゃないらしい。

 

(まぁ行けばわかるよな)

 

 そして件の食堂に着いて何の気なしに入ると――――――

 

「あ、いらっしゃいませ」

 

 アルビノのアニマが給仕をしていた。――――――メイド服で。

 

「ベ、ベルクト。どうしたんだ? その格好……」

「えっと……変ですか?」

「いや変っていうか……」

 

 自衛隊基地の食堂にメイドがいたら誰だってこうなると思う。

 

「あれ? どうしたの、慧君。注文もせずに突っ立って。……あ、もしかしてベルクトに見惚れてた?」

「いや、そうじゃ――――――」

 

 なくて、と続けようとして固まる。

 

「……ゲイザー。お前もなんでそんな恰好してんだ……?」

 

 振り向いた先にいる赤髪のアニマもベルクト同様にメイド服を着て給仕をしている。

 ……いやほんとなんなんだ?

 

「私とベルクトだけじゃないよ? ほら、あそこ――――――」

 

 ゲイザーが指をさした方を見るとそこにいたのは三人目のメイド――――――ミュベールさんだった。

 あ、頭がいてぇ。いつからここはメイド喫茶になったんだ。

 ちなみにゲイザーとベルクトがミニスカートなのに対してミュベールはロングスカートでどことなくデザインも二人のものとは違い、眼鏡までかけている。

 二人がメイドならミュベールさんはその上のメイド長のような雰囲気のつくりになっている。

 

「そもそもなんで食堂でメイドをしてるんだよ……」

「あ、それは「ベルクトーッ! 来たよーっ!」……ごめんださい。また後で」

 

 ゲイザーに呼ばれたベルクトはぱたぱたと軽い音を立てて配膳台の方へ行き、手際よくトレイの準備をしていく。

 呼んだゲイザーの方を見ると食堂に入ってくる私服の人達が見えた。

 

「な、なんだ?」

「見学ツアー」

 

 次から次に起きる予想外の出来事に唖然としていると隣にいたグリペンが呟いた。

 

「広報班がやってるPR活動。一般の人達を受け入れて基地の仕事を説明する。午前の部が十時から十一時でそのあと体験喫食」

「体験喫食?」

「食堂で自衛隊のご飯を食べてもらう」

 

 ああ、なるほど。

 要はアクィラ隊の人達がツアーの人達の相手をしてるってことか。だから十二時前に食堂に行けって言ってたのか。三人がツアーのスケジュールに合わせて働いてるから。

 ――――――って

 

「いや、なに考えてんだあの人達っ!?」

 

 傭兵と亡命したアニマが民間人の相手……しかもメイド服でとかやることが予想外すぎる。現にツアーに来た人達はメイド服の三人を見て目を白黒させている。

 

「驚いた?」

 

 あまりの光景に驚いていると集団から離れたミュベールさんがこっちにやって来た。

 

「驚いたなんてもんじゃないですよ。そもそもなんでそんなにメイド服があるんですか? ……まさか、ここの備品じゃないですよね?」

 

 メイド服が備品の基地とかいくらなんでも嫌すぎる。

 

「流石にそれはないわよ」

 

 うん、そうだよな。メイド服が備品なんて――――――

 

「全部ゲイザーの私物だしね」

「……は?」

 

 待て。今ミュベールさんはなんて言ったんだ?

 

「あのミュベールさん。もう一度言ってもらっていいですか?」

「だから全部ゲイザーの私物だ、って言ったのよ。ああ、私が今してる伊達眼鏡は自前だけど私達が着てるメイド服は全部ゲイザーの私物よ?」

 

 全部ゲイザーの私物?

 え、ゲイザーってこういう服が好きなのかっ!?

 

「あ、グリペンも着る? 予備はまだあるからすぐ着替えれるよ?」

「私は別に……」

「似合うと思うんだけど……あ、そうだ。グリペン、ちょっと耳貸して。――――――――――――」

「着る」

「そう言ってくれると思ったわ。……ゲイザー! グリペンに予備の服お願ーい!」

「はいはーい♪」

 

 メイド服を薦められて一度は断るグリペンだが、ミュベールさんがが耳元でなにか言うとグリペンは一転して乗り気になった。(読者の皆様ならグリペンが何を吹き込まれたか想像はつくと思う)

 そうしてゲイザーに連れられて奥に行ったグリペンだったがものの二、三分で着替えてきた。

 ――――――ヤベぇ、すごく似合ってる。

 

「慧、どう?」

 

 そう言いながら、くるっと回るグリペン。ミニスカートタイプのメイド服だからそれに合わせて裾がふわりと舞い、スカートの中がちらりと見える。

 思わず目を逸らすけどミュベールさんとゲイザーには見られてたのかこっちを見て微笑んで……訂正、ミュベールさんはともかくゲイザーの奴はニヤニヤ笑っていやがった。

 

「ダメだよ、グリペン。そんなにスカートを翻したら見えちゃうでしょ」

 

 俺の方を見てニヤニヤしながらもグリペンを窘めるゲイザー。

 助かった。さすがに俺から言うのは恥ずかし過ぎる。なんだかんだで注意してくれるなら安心――――――

 

「そういうのは見せるんじゃなくて『見えそうで見えない』ようにした方が慧くんも喜んでくれるよ、きっと」

 

 ――――――できるわけがねぇ。

 

「おいゲイザー! 一体なに言ってんだよ!?」

 

 核爆弾並みにトンデモナイことを言うゲイザーに思わず突っ込む。

 

「え? 男の子ってしっかり見えるより見えなかった方が想像力が掻き立てられるから好きなんじゃないの?」

「お前誰からそんなこと聞いたんだよっ!?」

「ネットとE.F社(ウチ)の先輩方。好きな人に見せるチラリズムについて色々熱弁してくれる人、多かったよ?」

 

 ……頭が痛くなる。なんてことを学んで教わるんだろうか。

 そして話のインパクトが強くて忘れられているがここは食堂。それもお昼時という事に加えて見学に来ている一般の人達もいる。

 結果、どうなるかというとチラリズムがなんなのか親に訊く子がいたり俺達から目を逸らす人多数。

 ……一部『なるほど』と感心してる女の人達がいるけどそこは見なかったことにしたい。

(余談だが、後日ゲイザーに教えたのは女性社員が中心だと知った慧はE.F社の人間に若干の苦手意識を持つようになったとか)

 

「ミュベールさんいいんですかっ!? なんかとんでもないこと覚えてるんですけど⁉」

 

 グリペンのイチコロ以上にアレなことを覚えてるゲイザーに助けを求める慧だが残念な事に求めた相手が悪かった。

 

「いいんじゃない? そうしてこの娘達が個性豊かになるんだし。アレは学ぶな、コレも学ぶなじゃ何も学べないし」

 

 いや、言ってる事は正しいんですけどこれはその内容がマズすぎるでしょう!?

 内心で抗議する慧。しかし残念ながらミュベールは妹分に大甘で叱るべき時はちゃんと叱るのだが基本的には自由にさせているのだった。

 

「それに似合ってるでしょ?」

「……はい」

 

 ミュベールさんの言う通りメイド服を着たグリペンはいつもと違った雰囲気でとても可愛らしかっ――――――」

 

「人の内心を勝手にモノローグにして言わないでくださいっ!?」

「あ、気に障った? いつもゲイザーとファントムに揶揄われてるからたまには違う人からされるのも新鮮味があっていいんじゃないかと思ったんだけど」

「勘弁してください……」

 

 むしろされない方が助かります。というよりあの二人を止めてほしいです。

 ……色々と教えてもらってるから言えないけど。

 

「というかなんでメイド服を着てるんです?」

「ああ、それはゲイザーの提案なのよ。私服にエプロンをしただけだとつまらないし、どうせなら可愛くて親しみが湧く格好の方がいいってからって。実際好評みたいだしね」

「色々染まりすぎだろ……」

 

 親しみやすいの方向性が完全に明後日を向いてるだろ、ゲイザーのやつ。

 メイドのいる自衛隊基地って噂が立ったらどうするんだろうか。

 

「もーっ! ついてこないでよ! イーグルは一人で食べるんだから!」

 

 そんなわりとしょうもないことを考えていると廊下の方からけたたましい声が響いてくる。

 

「あらあら。あなたについてきたわけじゃありませんよ。私も昼食にしようとしたらあなたが先に向かっていただけですから。ああ、折角なので一緒に食べませんか? 先ほどの模擬戦の振り返りもしておきたいですし」

「ぜーっったいイヤ!」

「そう仰らず、通算24敗1分けの原因をきちんと分析してみませんか。……と、分析できるだけの容量がないから勝てなかったのですね、失礼しました」

「きぃぃぃぃっ!」

 

 どうやらファントムに負けたイーグルが同じタイミングに食堂に来てからかわれてる。ある意味いつも通りの光景だった。

 

「ファントム? 今日はお客さんが来てるんだからそれぐらいにしておきなさい。貴女だって見世物になるのはゴメンでしょう?」

 

 ミュベールさんの言う通り軍事基地とはあまりにかけ離れた光景にツアーの人達は驚きで固まってる。

 ……メイド服を着たミュベールさん達を見てファントムとイーグルも固まってるけど。

 

「ミュベールさん? どうしたんですか、その格好は」

「ただのメイド服よ。それよりファントム、あまりイーグルをからかうのはやめなさい。やるなとは言わないけどやり過ぎはよくないわ」

 

 やり過ぎなければいいのかと内心突っ込む。もしかしてミュベールさんも人をからかうのが好きなんだろうか。

 

「分かりました。私もすこしやり過ぎていたようです。お詫びに今日のお昼は私がおごりますよ」 

 

 マジか。言われたからとはいえファントムが素直に聞くなんて驚きだ。イーグルも同じなのか目を見開いて驚きを露わにしてる。

 

「ほんとに?」

「ええ、本当です。今買われた食券はいくらですか?」

「380円」

「分かりました。では……と、すみません。細かい持ち合わせがないので5000円札を出しますからおつりをいただけますか?」

「う、うん」 

 

 両手で計算しておつり分の4620円を取り出すイーグル。ファントムが先に千円札を受け取り、残りの620円を受け取りポーチにいれようとして「あ」と声をあげた。 

 

「ごめんさい千円札がありました。申し訳ないのですが両替してもらえますか? 無理ならいいんですが」

「……そのくらい別にいいよ。ご馳走してくれたんだし」

 

 ……ん? ファントムでも自分の手持ちを間違えることがあるのか。意外だな。

 

「五千円札と千円札、それに貴方が持っている4000円で一万円札に交換して貰えますか」

「えーっと……5+1+4で10だから……10000円だね。はい」

 

 五千円札と千円札が一万円札に交換される。お金を受け取ったファントムが微笑んで。手を差し出す。

 

「清算終了です。これで仲直りということでよろしいですか?」

「うん! ファントムイイ人だね! ちょっと見直した!」

 

 差し出された手を無邪気な笑顔で握り返すイーグル。仲直りしたみたいでよかったんだがさっきのやり取りに違和感があるのは気のせいなんだろうか? 

 

「……はぁ。期待した私が馬鹿だったわ」

 

 呆れたようにミュベールさんは言う。ミュベールさんはなにが起こったのかわかったのか?

 どういうなのか訊こうとしたらすぐ横を白い風が通り抜けた。

 

「あ、あの! 失礼ですが財布に元々いくらぐらい入っていたんですか?」

「え? 財布ってイーグルの?」

「はい」

「15000円だよ? ……あれ? なんで10000円しか入ってないの? お昼ご飯奢って貰ったのにどうして?」

 

 ちっ、という舌打ちの音が聞こえる。音のした方を見てみるとファントムが不愉快そうに顔を歪めていた。

 ……どういうことなんだ?

 

「いい、イーグル。最初の4620円はファントムの出した5000円に対してのお釣りなんだから、それを含めて両替しちゃ駄目よ。ファントムが1000円を出した時はもう620円を受け取った後なんだから」

 

 なるほどな。釣銭と両替を二重計上されたのか。もちろん意図的に金の流れを分かりにくくするために。

 ミュベールさんの説明を聞いたイーグルは最初ポカーンとしていたが段々と顔が赤くなっていく。

 

「もしかしてイーグル、また騙されたっ!?」

「学習しないあなたが悪いんです。もう少しで笑い話のネタが増えたんですけどね。たかが四桁の計算もできないポンコツ演算機現るって」

「むかーっ!」

 

 掴みかかろうとするイーグルをミュベールさんが抑え、イーグルとファントムの間にベルクトが割って入る。 

 

「あなたは……確か例の亡命機ですね。なんですか? 見ず知らずのアニマでも不正を許せないと? ご立派な正義感ですが少々立場をわきまえられてはいかがでしょう。半端な理解で仲裁に入ると身を滅ぼしますよ?」

 

 そう言って冷ややかな視線を送るファントムだがそれに怯まずベルクトは踏み出す。お互い人形のように整った端正な顔を見据え、相手に対峙している。

 時間にしてほんの数秒。だが息が詰まるようなこの空気の中は一秒がとても長く感じる。

 そしてその均衡を崩すべくベルクトは息を吸い込み――――――

 

「お金がないなら私が出しますから!」

「……は?」

 

 ――――――その予想外の言葉にファントムだけでなく見ていた全員が固まった。 

 

「ご、5000円くらい差し上げますから。そんな事で自分を汚さないで下さい。どれだけ貧しくても心だけは豊かに保っているべきなんです!」

「ま、貧しい!? 私がっ!?」

「いくら必要なんですか? 10000円ですか? それとも20000円ですか? なんだったら、私から八代通さんに頼んでも――――――」

「く、くくく……」

 

 ベルクトが最後まで言い切る前に聞こえてきた笑いを嚙み殺す声に思わず声の出所を見る。そこにはイーグルを抑えながら笑いを我慢している(声が漏れてるから隠しきれてないけど)ミュベールさんがいた。

 今のミュベールさんはメイド服を着てるからぶっちゃけ仕える令嬢を笑うメイドにしか見えないところがアレだが。

 

「……ミュベールさん、失礼じゃありませんか?」

「ご、ごめんなさい。その、抑える気はあったんだけど面白いモノは面白くて」

 

 恨めし気に言うファントムとは逆に、ベルクトはきょとんとした顔でミュベールさんが笑ってる理由がわかってなさそうだった。

 

「ま、ふざけるのも度が過ぎると自分が惨めになるいい教訓になったんじゃない?」

「言ってて下さい!」

 

 不機嫌そうにイーグルの手になにかを置くとファントムはそのまま食堂から出て行った。

 

「あれ? 五千円だ。なんで?」

「返すって事でしょ。さ、一段落ついたから食べてらっしゃい」

「うん!」

 

 笑顔で頷いてそのままランチを取りに行くイーグル。さっきのことはもうどうでもよさそうだった。

 ミュベールさんはというやれやれ、と言わんばかりに肩をすくめてる。

 

「ミュベールさん、お疲れ様です。」

「頑張ったのはベルクトだけどね。……ところで鳴谷君。私達が気になるのは判るけどそろそろグリペンのお腹が限界だと思うんだけど」

「あ」

 

 そう言われてグリペンの方を見ると、着替えに加えて俺を待ってるのか未だに頼んだAセットのランチに手を付けずにい机に突っ伏していた。

 

「わ、悪い! 待たせたっ!」

「大丈夫。もう少し遅かったら限界を超えて大変なことになるところだったけど」

 

 よし、これからはあまり長い時間お預けになることがないよう注意しよう。空腹で意識失調にさせたらなんて言われるかわかったもんじゃない。

 

「そういえばお前、その恰好で食べるのか?」

 

 恰好というのはもちろん今グリペンが着ているメイド服のことだ。近くで見ると結構高そうに見えるから着替えた方がいいと思うんだが。

 

「着替える時に元々そういう服なんだから汚れても問題ないって言われた」

 

 ああ、俺らから見るとコスプレ衣装だけどゲイザー達からすれば仕事着(趣味も混じってるだろうが)でもあるのか。

 確かにツアーの人達への対応を見てもミュベールさん達は仕事をしっかりこなす、って雰囲気が出てる。コスプレみたいな感じで着ているわけじゃなさそうだった。

 実際小さい子にはしゃがんで目線を合わせて話しかけたり、多少マニアック(基地の詳しい仕事内容とか)な質問にも淀みなく答える。

 そうして俺達が食べ終わる頃にはツアーの人達も移動を始め、ミュベールさん達から引き継いだ自衛官が次へと案内していく。

 ……なんというか、昼を食べに来ただけなのにものすごい濃い時間だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけと言う名の幕間

 

「ただいまー」

「おかえり、慧」

 

 あのあとグリペンの休養日ということもあってスルランブルに駆り出されることもなかったので久しぶりに早い時間に帰る事ができた。

 

「あれ? 慧、その紙袋なんなの?」

 

 明華が言ってきたのは帰る前に明華への土産にとミュベールさんから渡されたものだ。大きさの割には軽く、持って帰るのにもあまり苦労はしなかった。

 

「ミュベールさんから明華にお土産だって」

「ミュベールさんから?」

 

 そう言って明華は紙袋から中のものを取り出し、折りたたまれていたものを広げる。中に入っていたのは――――――メイド服だった。

 

「「…………」」

 

 あまりの衝撃に俺も明華も言葉が出ない。

 ……なんつーものを持たせるんだ、あの人っ!?

 

「ね、ねぇ、慧? これって着てほしいってことなの?」

 

 顔を赤くしながら訊いてくる明華の言葉に思わず冷や汗が流れる。

 やばい! 変なことを言ったらなに言われるかわからねぇ!?

 

「い、いやぁ今日ゲイザーがそれを着てさ! 明華にも似合うかな、って言ってたからそれでミュベールさんが持たせてくれたんじゃないかなっ!?」

 

 よし、なんとかそれっぽい理由になった!

 

「と、とりあえずあたし、この服部屋に片付けてくるね!」

「あ、あぁ」

 

 赤く火照った顔を冷やす意味でも部屋に入った明華だったが、部屋にある姿見の鏡を見て少しだけ気が変わった。

 

「……今まで避けてたけど……やっぱり興味はあったのよね、こういう服……」

 

 少しだけ、と自分に言い聞かせてメイド服に袖を通す。実際に着てみると結構しっかりしたつくりで雑貨店で売られている安物とは全然違っていた。

 

「……やっぱり、あまり似合わない、かな……」

 

 ここにミュベール達がいれば間違いなく褒めるのだが生憎ここにはいない。客観的に見れば間違いなく似合っているのだが、明華自身そういう服をあまり着ないこともあってそう感じていた。

 

「……やっぱりやめよ。ミュベールさんには悪いけど箪笥の中に――――――」

「明華ー、やけに遅いけどどうしたんだ?」

「け、慧っ!?」

 

 ……一応言っておくが慧とてノックせずに明華の部屋に入る事は基本的にない。が、たまに“うっかり”忘れてしまう事もある。幼い頃から一緒にいる身近さからくる失敗であり、今回のうっかりもソレだった。

 

「み、明華? その服……」

 

 見られた明華は俯いて身体を震わせている。

 そして付き合いの長い慧はそれが何を意味するのかよく知っていた。

 

「け……」

「あー、その、明華?」

「慧のばかーっ!!」

 

 ミュベールがこの場にいれば感心するほどの踏み込みで慧に近づいた明華はその勢いのまま右手をフルスイング。その強烈な右が慧の身体ごと意識を飛ばす。

 

 ――――――意外と、似合ってたな。

 

 薄れゆく意識の中、そんな感想を浮かべて慧は意識を手放した。




元々はアクィラの面々にメイド服を着せるネタ回の筈だったのに前半が予想を超えたシリアスに。
ベルクトのイベントをかなり先取りしてしまった感がありますがこれというのもミュベールが女誑しなのが悪い(ォィ)

おまけで明華に着せたのは作者の趣味です(笑)
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