ガーリー・エアフォース Sisiter's Vaportrail 作:liris
好きなようにやり過ぎて時折どのイベントを拾ってないか忘れそうになります(オイ、作者)
メイドツアーから三日後、私はこれまでシュミレーターでの訓練オンリーだったベルクトの実践訓練の準備をしていた。
ベルクトのメンテナンスと改修がようやく終り、実際に飛ばしての訓練を行えるようになったからこれからテスト飛行を行うからだ。
「ベルクト、確認しておくけど訓練プログラムの内容は把握してるわね?」
「はい。始めに機体の機動チェックをして、その次に訓練目標への実弾訓練でしたよね?」
「正解。ま、今回は訓練といっても貴女の技量を実力を図るだけだからそう気負わなくていいわよ? 本格的なのは貴女がどれくらい飛べるか知ってからだしね」
内容としてはシンプルで私と追いかけっこを交互にしてもらうというモノ。追う側と追われる側、双方の技術が私達には必要だからまずはソレを私との追いかけっこで実感してもらうというモノ。
実弾訓練の方はそれに比べれば簡単で使い捨ての
「それじゃ行きましょうか。あまりのんびりしてるとスクランブル機や民間機と滑走路の取り合いになるしね」
――――――日本海上空、高度25000フィート。
≪AQUILA01から03へ。訓練空域に到着よ。これより訓練を始めるわ。――――――準備はいい?≫
≪――――――いけます≫
若干の間と少し震えた声音での返事。
……まったく、気負うなって言ったけどベルクトの性格じゃやっぱり難しかったかしら?
≪……ベルクト。今回のコレは遊びみたいなモノだから力を抜いて? 手を抜け、なんて事は言わないけど力み過ぎるのもよくないわよ?≫
コールサインやTACネーム以外で呼ぶのはあまりよろしくないけど今開いてるのは部隊内のみの回線。外に聞かれなければ
≪あ、その、ごめんなさい……≫
≪別に怒ってるわけじゃないから謝らなくていいわ。というかベルクトは私はこの程度で怒ると思っているのかしら?≫
≪そ、そんなことはないですっ!≫
からかい混じりにそう言うと想像通りに力強く否定してくれるベルクト。エメラルドグリーンの腹黒お嬢様とは大違いね。
≪ふふ、少しはリラックス出来たみたいね≫
≪あ……。その……ありがとうございます≫
≪いいのよ。それじゃ始めましょうか≫
≪――――――はい!≫
力強い肯定。――――――うん、これなら問題なさそうね。
≪それじゃ始めるわ。最初は私が逃げるから――――――しっかりついてきなさい!≫
通信を切ると同時に機体を左へロールさせ、更にそこからインメルマンターンで機体を反転させつつ高度を上げると一拍遅れてベルクトがついてくる。
訓練を兼ねた同系列機による鬼ごっこが始まったのだった。
≪――――――さて、ここまでにしておきましょうか。お疲れ様≫
≪は、はい……。ありがとう、ございました……≫
ほとんど息を乱していないミュベールと対照的に大きく息を乱しているベルクト。その呼吸の様子が訓練の結果を如実に物語っていた。
結果はミュベールの圧勝だった。が、それはベルクトの技量が低かったという訳ではない。
そもそもベルクトは実戦らしいモノをロシアから亡命する際のしか経験していない。それに対してミュベールは小松に来る前から対ザイの戦場で飛んでいたし、ザイが現れる前も傭兵として飛んでいる。文字通り潜り抜けてきた修羅場の数が違う。
だというのにクルビット系の
とはいえベルクトもミュベールが見せた動きを少しずつだがモノにしていき、勝つ事こそ出来なかったが技量を着実に上げてみせた。
(機体の基本性能もあるんでしょうけど悪くないわね)
実際ミュベールはベルクトがこんなに早く見せた機動をモノにするとは思っていなかった。ベルクトには悪いがマトモな空戦が出来るようになるにはもう少しかかると思っていたからだ。
(とは言ってもまだ機動がモノになったというだけ。実戦で使えるかはまた別なんだけど)
難度の高い機動が出来るようになったとはいえまだそれは
≪こちらコマツ・コントロール、八代通だ。AQUILA01、03。聞こえるか≫
ベルクトのこれからの訓練に考えを巡らしていると小松基地からの通信が入る。
……こういう時の通信っていいモノだった覚えがないんだけど。
≪こちらAQUILA01。どうしました?≫
≪訓練中悪いがスクランブルに出てもらう。バービー全機とAQUILA02は既に別のスクランブルに上がって間に合わん。中尉達には悪いがそのまま迎撃に向かってもらう≫
――――――予感的中。こうならないようゲイザー達に待機をお願いしてたのにまさか全員出払うような状況になるとわね。
≪……状況は?≫
≪ザイが四方面から時間差で侵攻してきている。各方面の編隊規模は三、四機といったところだ。纏まって来てくれたら待機していた面子だけで対処出来たんだがな。こう分散されると各方面に戦力を振り分けるしかない。その上、一か所敵編隊の規模が見えんところがある。そこにグリペンとゲイザーは向かわせたから残り一か所には中尉達に向かってもらわなきゃならん≫
確かにそれならゲイザーをグリペンの補佐に付けるのは正しい。対ザイの電子妨害と支援が出来るゲイザーなら相手の規模が見えなくてもある程度ならなんとか出来る。
けどそれは――――――
≪室長、私達が向かうという事はベルクトを連れて行くという事です。――――――それを承知の上のオーダーですか?≫
――――――今ここで、ベルクトを実戦に参加させるという事に他ならない。
≪ああ、わかっている。どのみちベルクトにもいずれは実戦を経験させるつもりだっただろう。今回がいい機会だ≫
……八代通室長の言い分は正しい。私もいずれさせるつもりでいたから実戦を経験させる事に関しては私は文句はない。
文句があるなら、それは――――――
(ベルクトの経験がなさ過ぎる、って事なのよね)
初の訓練飛行がそのまま実戦の洗礼。E.F社でもたまにあった事ではあるけど出来る事なら避けたかった事象。それがミュベールの懸念だった。
けど状況的にそれを盾に取る事が出来ないのも事実。データ・リンクを通じて送られた情報は私達以外は間に合わない事を示していた。
≪判りました。AQUILA01、03と共に迎撃に向かいます≫
≪任せたぞ≫
そう言って八代通室長は通信を切り、私は意識を実戦へと切り替える。
≪ベルクト、聞いてたわね? 悪いけど予定変更。目標を訓練用の標的からザイへ変更よ。……大丈夫?≫
≪……やります。やらせてください≫
微かに震える声でベルクトは返事をする。明らかな強がりだし三、四機程度ならミュベール一人でもなんとか出来る。が、彼女の決意を蔑ろにするような事をミュベールはしたくなかった。
≪……判ったわ。ただし無理はしない事、いいわね?≫
≪はい≫
この時の判断が正しかったのか。――――――それとも間違っていたのか私には判らない。
ただ一つ、確実に言える事は引き金となったのは間違いなくこの日だった。
訓練空域を離れて数分。徐々に大きくなっていくEPCM反応を目標に、ロシア出身の二つの翼が空を駆ける。EPCM特有のノイズがインカムに入り始めた頃、ミュベールはその発信源を補足した。
≪敵編隊を補足しました。方位2-8-0≫
現れたザイは4機。こちらに気付いてないのか横一列になってまっすぐ飛んでいる。
≪AQUILA01から03へ。ボギー四機の内三機は私がやるわ。貴女は残り一機にいきなさい≫
少し過保護な気もするけど改修した兵装システムが作動不良でも起こしたらシャレにもならない。一対一ならすぐ墜とされるような事はないでしょう。
≪わかりました。……チャンスをくださってありがとうございます≫
≪言っておくけど、私から見てマズいと判断したら介入するわ。チャンスを生かしたいならしっかりね。――――――AQUILA01、エンゲージ≫
ロールしながら高度を上げ、バレルロールからのループに繋げて悠々と飛んでいるザイを上から強襲する。
≪AQUILA01、FOX2≫
放たれたミサイルは違う事なくロックしたザイに向かい、ガラス細工の機体を四散させる。攻撃した事でようやくこちらに気付いたのか、鋭角的な航跡を描き、上を取っている私からブレイクして逃れようとする。
――――――好都合ね。
≪AQUILA03、貴女は分断したのをやりなさい≫
≪りょうか……ラジャー。AQUILA01≫
単騎になったザイにベルクトを向かわせ、合流出来ないよう2:1に分断する。
あとは私が受け持った二機を速攻で片付ければベルクトのフォローに向かえるようになる――――――!
≪FOX2!≫
ロックしたザイに向け時間差で二発のミサイルをリリース。ミサイルに狙われたザイは速度を上げながらのHiMATという人間では不可能な機動を以って逃れようとする。が、それで躱せたのは初弾のみ。時間差で放たれた二発目は惑う事なく喰らいつき、籠められた炸薬によって爆散する。
レーダーに目を落とせばベルクトも撃墜し、残る輝点は一つだけになっていた。
(これで残り一機――――――えっ!?)
残った一機をシーカーに捉える直前、五感が揺らぐような強烈なEPCMが機体の電子機器を乱す。それはAZCCに施されている高レベルの電子防御を突破するほどのモノであり、捉えようとしたザイは急停止して無理やり機体を反転させてこちらに向かって来る。
――――――ザイといえど物体である以上、物理的な法則は働く。音速レベルの飛行でいきなり速度をゼロにして反転すれば間違いなく大きな負荷がかかる。それは自壊しかねない動きだった。
(ッ! ロックして撃つんじゃ間に合わない!)
反射的に機関砲のトリガーに指をかけ30㎜弾を
その間にもザイは損傷を無視し、なお速度を上げ向かって来る。
(まさか
だが向かってきたザイはミュベールのS-32の無視し、あろうことか一直線にベルクトの方へ向かっていく。そして狙われたベルクトはザイの異変に気付いていない。
――――――それを見て背筋が凍った気が、した。
≪ッ! ベルクトっ! 逃げなさい!!≫
機体を反転させ、アフターバーナーを焚いて最大戦速で追いすがる。、が、反転して追うミュベールと機体の一部を損壊させながらも始めから全力で加速していたザイでは数秒分の開きがある。
ベルクトも私の
≪FOX2!≫
残り一発、最後となったミサイル
(間に合ってっ!)
鋼の猟犬は空を
少しでも時間を稼ぐためにベルクトはパワーダイブで高度と引き換えに速度をあげる。それで稼げる時間はほんの数秒。しかしミサイルがザイに追いつくには充分過ぎる数秒。
避けきれないのか――――――それとも
≪……EPCMもレーダーも反応なし。お疲れ様、ベルクト。よく生き残ったわね≫
≪は、はい。……その、私はお役に立てたでしょうか……?≫
ザイにやられかけた事を気にしてるのか、ベルクトはおずおずと訊いてくる。
≪ええ。目標だったザイを単騎で墜として予想外の事態になっても生き残った。初陣としては上々よ。ただ一言注意しておくけど戦場にいる間は絶対に気を緩めちゃダメよ≫
≪……はい≫
私が何を言いたいのか悟ったのか、ベルクトの声のトーンが一気に沈む。……こうなるとは判ってはいたけど言わないとベルクトの為にならない。
――――――けど、
≪ベルクト、その沈んだ気持ちはさっさと忘れなさい。それは何の役にも立たないから≫
≪……え?≫
ミスを引きずって墜ちた同僚は何度も見てきた。ミスを引きずれば身体は固くなって判断力も落ちる。失敗を悔やむのは確かに大事だけど本当に大事な事は悔やむ事じゃない。
≪忘れちゃいけないのはその経験よ。生き残れたならその失敗を経験として活かしなさい。――――――貴女にはまだ次はあるんだから≫
≪次って……失敗した私にまだチャンスをくれるんですか……?≫
≪当然よ。一度の失敗で外すなんて事はしないわ。それに、失敗は誰にでもあるものよ≫
その失敗から生き残れるかどうかはまた別問題なんだけど……これを言うとベルクトは間違いなく気にするでしょうね。
……うん、言うのはやめておきましょう。
≪さ、小松に帰りましょう。初陣を勝利で飾れたお祝いに美味しいものを食べに行きましょうか≫
≪え……でも、その……いいんですか……?≫
≪ええ。ささやかだけどそれぐらいのお祝いはしてあげる≫
この後小松に戻ったミュベールは外出する旨を八代通に伝えるのだが、たまたまそこに居合わせたイーグルが羨ましそうにしていたからついでという事でアニマ全員に奢る事になる。
この時ミュベールは初めてグリペンの健啖っぷりを知るのだが、動じる事無く(食べ放題じゃない普通のメニューで)好きなだけ食べていいと驚きの発言。食べ終えて支払額を見たファントムが二重の意味で呆れていたが、当の本人達は全く気にしていなさそうだったとか。
その日の夜、私は今日交戦したザイの行動に関して社長に報告していた。
「脅威である筈のお前を無視してまでカミカゼをやろうとしたザイか。……興味深いな」
「私もザイと戦ってきてあんな行動を取るザイを見たのは初めてです」
あのザイの行動はあまりに異常だった。ミサイルも機関砲も使わず、ただひたすらに相手を目指す。アレはこれまで何度もザイと戦ってきた
「ザイ自体も変わった個体、というわけでもなかったんだな?」
「ええ。割とよく見る制空型です」
「……となるとザイ自体、というより外的な要因があったのかもしれんな。その時なにか変わった事はあったか?」
変わった事ね。特になかった……いえ、あったわね。
「関係があるか判りませんがその直前、強烈なEPCMがありました。――――――
「AZCCの電子防御を突破する程のEPCMか。原因があるとしたらソレが一番高そうだな。……よし、その時のデータをコピーしてこっちに送ってくれ」
「判りました」
「ああ、それとヘンガーに言ってその時のEPCMが以前にも検知されてないか照会しておけ。……照合するのは十日分でいい」
「……っ!」
……社長の言う十日。それが何を意味するのか私には判ってしまった。
「社長、それは……」
「お前には悪いがな。――――――そもそも気付いていないお前ではないと思うが」
「それは……」
社長の言っている事は正しい。
……私はとっくにその可能性を考えていたのだから。
「……一つ私の方からも要請が」
「なんだ、こちらで対応出来る事か?」
「ええ、実は――――――」」
社長は私の要請を聞くと快くOKを出してくれた。これで懸念は一つ消えるとまではいかなくてもだいぶ楽になる。
「ではこれで――――――――ッ!?」
唐突なノイズと共に視界――――――否、
……この感覚は覚えてる。AZCCが配備される前、ザイと戦《や》りあった時に幾度となく味わされた不快な感覚。
「…ベ…ル? おいミュベール! なにがあったっ!?」
社長の呼びかけで意識がクリアになる。それでも五感を蹂躙したあの感覚の余韻は消えず、思わず近くの壁に身体を預けた。
「……信じ、られないんですが……EPCM、です……」
「なに?」
「ですから、EPCM、です。それも体感で判るほどの」
EPCMの効力は発信源から離れるほど落ちる。ここまでここまで強い体感となると発信源はそう遠くない。
「……ミュベール。さっきのデータの事だが早急に送れ。お前だけでなくアクィラ隊
「わかり、ました……」
社長からの命令を了承して通話を切る。
正直仲間を疑うようで気は乗らない。けどあの娘になんらかの手がかりがあるのも確か。
「……どっちに転ぶか判らないけど動かない事には始まらない、か」
そう呟いた言葉は誰にも聞かれる事なく消える。
――――――見上げた夜空はまるでミュベールの心境とこれから先を表すような暗天だった。
当作品のベルクトはミュベールにしごかれたせいか原作より技量が上がっています
ちなみにベルクトに施された改修内容は
・西側規格の兵装を使えるよう火器管制システムの変更
・ウェポンベイの構造変更(映画ステルスに登場したE.D.Iのウェポンベイをイメージしてください)が主です