ガーリー・エアフォース Sisiter's Vaportrail 作:liris
というかベルクト編は各話が何故か長くなってしまう不思議
……ちょこちょこ作者の趣味や嗜好が出てきます
「E.F社からの増援か」
「ええ。今の出撃ペースではパイロットへの負担が大き過ぎます。少しでも緩和する為に私が個人的に要請しました」
私が昨日社長に要請したのは増援の要請。一向に収まる気配のないザイの襲撃にパイロットと整備士の人達は倒れる人が出てもおかしくないこの状況。特に自衛隊側は損耗もあって機体の手配もある。だから私達としては防衛ラインが崩れる前に手を打っておく必要があった。
「ああ、日本側への負担はありません。今回の増援は私が個人的にお願いしたものなので増援で来る隊の雇い主は私になります。ただし彼らに対して自衛隊には制約がかかりますが」
「……どんな制約だ」
「指揮権の問題です。私達と違って今回来る彼らは日本が雇ったわけじゃありません。つまり彼らへの指揮権は自衛隊側にない。――――――簡単に言って自衛隊の命令じゃ彼らは動かないという事ですね」
暗に口を出したいなら金も出せ、という事を伝えると案の定八代通室長は顔をしかめた。
まぁ彼等の腕を見れば間違いなく自衛隊側で雇うでしょう。
「……わかった。ここに来るのはどんな連中だ?」
「Su-47とYF-23が4機の二個小隊と整備関係のスタッフですね。以前ベルクトの改修に必要な装備を運ぶのに輸送機が来たでしょう? その時に護衛についていた隊です。その時に話をしてる人達もいたので割と早く馴染むと思いますよ?……こっちには三日後に着くという事です」
両隊ともザイと何度も戦ってきた部隊だから練度は高い。整備の人達もF-15S/MTDでF-15系の整備は慣れてるハズだから即戦力になってくれるでしょう。
「そういうわけなので彼らが使うハンガーを用意してもらえませんか? 出来れば部屋も」
最悪部屋が確保出来なくてもハンガーは空けてほしい。特にステルス機のYF-23には必須だから少なくともその分だけでも必要になる。
「それぐらいならいいぞ。こっちで調整してやる。それぐらいの苦労で増援、それも腕が確かな連中が来るなら大助かりだ」
「ではお願いします。あ、それと私達アクィラの面子はこれから出てくるのでなにかあったら私に電話してください」
「この状況でか?」
「どのみち今日一日は私達は機体の整備や調整で上がれませんしから。飛べないのに基地にいる必要はないでしょう?」
早い話が今日一日アクィラの面子は暇。そしてスクランブルが今のペースのままならこの先揃って
それにゲイザーはともかく、外との接触が少なかったであろうベルクトに色々なモノを見せてあげたいと常々思っていたし丁度いいわ。
「なるほどな。確かにそれなら問題はないな」
「では」
「ああ、三人とも外出許可を出してやる。今日は好きに使っていいぞ」
――――――彼女は知る由もないが、結果的にミュベールの予感は当たる事になる。
彼女達が純粋に休みを楽しめるのは、この日が最後となってしまう事をミュベールはまだ知らなかった。
私服に着替えて小松の街に出てきた私達は駐車場に車を置いて歩いているんだけど……もの凄く見られているのが判る。
薄々予想してた事ではあるんだけど。
「……やっぱり目立つよね、私達」
「あははは……」
改めて再認識したように言うゲイザーと困ったように笑うベルクト。
そう、この三人はかなり目立つ。アニマの二人は誰が見ても美少女といえるし、ミュベールに至っては同性から見ても見惚れる程の美人。この組み合わせで目立たないという方が無理があるだろう。
「まぁナンパとかされないのはミュベールのおかげかな。ミュベールがいなかったらたぶんちょっかいを出す人はいるだろうし」
「……? ゲイザーさん。なんでミュベールさんがいると声をかけられないで済むんですか? ミュベールさんだってすごい美人だと思うんですけど」
「ベルクト、それ逆」
「逆、ですか?」
「そ、ミュベールぐらい突き抜けてると大抵の男って声をかけるのに尻込みするみたいなのよ」
……実際そうだしそれで助かってる面もあるけど改めて口にされるとなんか釈然としない。
いやされたい訳でもないんだけど。
「一応言っておくけどゼロになるってわけじゃないわよ? してくる人はしてくるし」
この場合問題なのはそういう連中は大抵ロクなのじゃないって事なのよね。いかにも下心があります、ってのが丸判りなのが殆どだし。
……ま、その手の連中には最悪力ずくでお引き取りしてもらうんだけど。
「ま、寄ってくる連中の話はここまでにしときましょ。そろそろお昼だしどこに行くか食べながら決めない?」
「さんせーい」
「あ、はい。いいですよ」
――――――で、ミュベールが選んだ店というのが
「お好み焼き、ですか」
「なかなかボリュームがあるね」
それも広島風のお好み焼きと中々のチョイス。いや実際よく見つけたものである。
「この前明華ちゃんから教えてもらったのよ。最初はちょっと驚いたけどアタリの店だったのよね」
「いつの間に……」
「それでどうする? ここ、店お人に焼いてもらう事も出来るし自分達で焼く事も出来るけど」
私としてはせっかくだから二人には自分の手で作るのを体験してみてほしいけど。
「やってみたいけどどんなふうにやるのか見てからでいい? さすがにぶっつけ本番でやるのはちょっと……」
「私もです……」
「じゃ、それでいきましょうか。……すいませーん!」
店員の人に注文を伝えるとすぐにお好み焼きの生地と具が運ばれ、生地を掬ったミュベールは鉄板の上でクレープのように薄く円形に広げていく。
手際よく鉄板での上で調理していくミュベールの手際にベルクトは驚く。
「すごい。上手ですね、ミュベールさん」
「ある程度なら料理は出来るのよ。基地にいるとあまり作る機会はあまりないけど」
派遣先によっては自分で食事をなんとかしないといけない時もあるから自然と上手くなるのよね。どうせ食べるなら美味しい方がモチベ―ジョンを保てるし。
「ゲイザーさんも料理をするんですか?」
「あー。わたしは調理ならできるけど料理は自信ない」
「……? 料理と調理って違うんですか?」
「ホントの意味がどうなのかは知らなけどさ。調理はとりあえず食べれるようにするで、料理は美味しく食べられるようにするモノって思うんだ。いやホントになんとなくそう思ってるだけなんだけど」
余談だがE.F社の傭兵でこの手の考えをしている人間はそれなりに多い。食べれるモノを作れるのと美味しいモノを作れるのは別で、当然人気があるのは後者である。
「……と、そろそろ出来るわよ。もう一回ひっくり返すんだけどやってみる? 思い切りよくやれば上手くいくけど」
「あ、ならわたしやってみようかな。ベルクトはどうする?」
「私は……やめておきます。上手くできる自信がないので……」
「それじゃゲイザー、はい」
ミュベールからヘラを受け取り、言われた通り思い切りよくひっくり返すゲイザー。……が、思い切りよくやり過ぎたのか、大惨事まではいかないがソレに近いレベルの失敗……早い話がひっくり返すのに失敗して散らばったのだ。
ある意味期待を裏切らなかったとも言えるが。
「……はぁ。いけると思ったんだけど」
そう言うゲイザーだが言葉の割にはあまり落ち込んではいない。むしろ次は上手くいけるかも、というチャレンジ精神に溢れた顔である。
(ちなみに散らばった具はミュベールが手早く集め、今は失敗の跡は残っていない)
そうして焼きあがったお好み焼きをミュベールが取り分け、熱さに怯みながらも三人は口に運んでいく。
「ん~、おいしい!」
「はい! ちょっと熱いですけどおいしいです」
大きめの一口でパクつくゲイザーと熱さに苦戦しながら少しずつ口に運ぶベルクト。二人とも初めて食べるお好み焼きだけどお気に召したようで何よりだ。
「二人ともソースが口の周りについてるわよ」
ほら、と言って鉄板越しに二人の口元を拭うミュベール。鉄板からは熱気が昇っているのにソレを気に留めず世話を焼く姿はどこからどう見ても姉のソレである。
ゲイザーはされ慣れてるのか平気そうだが、ベルクトの方はというと恥ずかしいさからか顔が赤くなっている。
「あ、ゴメンねベルクト。ゲイザーはこういう事をしても気にしないからそのまま貴女にもやっちゃたわ」
「い、いえ! 大丈夫です! その、少し驚いただけでむしろうれしかったですし!」
「あら」
自分が何を口走ったのか理解して顔を真っ赤にするベルクト。
そんなベルクトを見てミュベールは少し意外そうに、そしてゲイザーはというと――――――
「ふ・た・り・と・も? わたしを放ったままにしないでほしいんだけど~?」
面白いモノを見たと言わんばかりにベルクトの反応を楽しんでいた。
ミュベールはゲイザーのこういうところは慣れているので聞き流しているが、ベルクトはそうではなく今は耳まで真っ赤にしている。
「ゲイザー。そこまでにしてあげなさい? 純粋な娘をイジめるのはそこまでにしておきなさい」
「はーい」
ミュベールとしてももう少し見ていたいと思わなくもないがこのままだとベルクトが恥ずかしさで倒れかねないので助け舟を出す。
……そうでなかったらやるという事でもあるが。
「それでこの後はどこに行くの? 前みたいに買い物?」
「折角だから少し遠出しましょ。アシはあるしなにより歩きだと人目を集めるし」
三人とも機体が動かせないから呼び戻される事はまずない。そもそも車で出たのも思い切って普段行けない市外まで足を伸ばすのがミュベールの算段だった。
「いいね、それ。私も市外には行ったことないし」
「でしょう? ベルクトはどう?」
「そ、その……私も見てみたい、です……」
遠慮がちに言うベルクトだけど私にとってはそれで充分。
問題があるとすれば行った先を気に入ってくれるか、って事なんだけどこればかりは出たとこ勝負でいくしかないか。
さて、二人とも気に入ってくれるかしら……?
小松から車で移動する事30分。車の中から見える景色を興味津々に見る二人と一緒に話しながら、目的にしていた動物園に到着する。
……我ながら柄じゃないところを選んだなとは思う。現にベルクトはともかくゲイザーは意外なモノを見たような目を向けてるし。
「なんていうか……意外なチョイスだね。それなりに長い付き合いだと思ってたけどミュベールに動物を可愛がる趣味なんてあったんだ」
着いて早々失礼な感想を言ってくれるわね。私自身そう思ってるから否定しないけど。
「私だって柄じゃないってのは判ってるわよ。でもどうせ行くなら変わったところの方がいいでしょ?」
買い物とかは市内でも出来るからわざわざ市外まで出てする必要はないのよね。勿論市内にない店だってあるけど似たり寄ったりというところだし。
他じゃ出来ない経験って事ならアリなんじゃないかなって思ったんだけど。
「二人は見てみたい動物とかはある?」
「あ、折角だから鳥を見てみたいな。わたしは違うけどわたし達の機体って鳥の名前がつけられてるのが多いでしょ? だからちょっと見てみたいなぁーって」
「私も見てみたいです」
なら丁度いいわね。ここにはうってつけの鳥がいるもの。
「それじゃ決まりね。割と近くに丁度いいのがいるからまずそこに行きましょう」
正面ゲートをくぐって歩く事数分。そこにいたのは私達――――――特にベルクトにとても所縁のある鳥だった。
「この子達が……本物のイヌワシなんですね」
「この鳥が
初めて見るイヌワシに目を輝かせるベルクト。ゲイザーもSu-47はE.F社でよく見るから興味津々みたいね。
「すごい……イヌワシってこんなに大きいんですね」
「あ、でもここの解説には日本のイヌワシは小柄ってあるよ。海外のはもっと大きいんじゃないかな」
Su-47は戦闘機の中でも大柄な部類。名付けた開発チームも小鳥の名前を付ける気は起きなかったでしょうね。
「もっと大きいんですか……。一度見てみたいですね」
「いつか見れるわ。貴女もE.F社の社員になったんだからこの先世界の色々なところを見に行けるわ、きっと」
……我ながらどの口で言うのかとは思う。
私は今回の頻発するスクランブルがベルクトに起因していると疑ってるクセに。
「……? ミュベールさん、どうしたんですか?」
考えていたことが顔に出ていたのか、ベルクトが心配そうに訊いてきた。
……いけない。今は彼女達を楽しませる為に来たんだからその手の事は基地に戻ってからにしないと。
「なんでもないわ。休みなのに少し仕事の事を考えてただけだから気にしないで」
「そう、ですか……」
とてもじゃないけど今考えていた事はベルクトに言える内容じゃないからはぐらかす。
……それが嘘なのはベルクトも気付いてるかもしれないけど。
「もー、せっかく遊びに来たんだからこういう時ぐらいは仕事を忘れようよー」
私とベルクトの間に流れる空気を察したのか、ゲイザーが軽い口調で咎めてくる。こういう気を利かせてくれるから助かるわ。私一人だとなかなか難しいし。
「……そうね、悪かったわ。ベルクトもごめんね?」
「い、いえ! 大丈夫です!」
「それじゃあ次はここに行こうよ」
ゲイザーが近くにあった案内板で興味があるところを見つけたのか、指をさして走っていく。
「二人ともー! はやくはやくー!」
「あ、ちょっと待ちなさい! ああ、もう!! 行くわよベルクト」
「……はい!」
走り出したゲイザーを追うため、私が差し出した手をベルクトはしっかりと握り返してくれた。
「……はぁ、はぁ。」
「ゴメンねベルクト。……大丈夫?」
私としては控えめに走ったつもりだったけどベルクトにとってはそうじゃなかったらしい。ゲイザーに追いついた時には息を切らしていた。
「あー、ミュベールに連れられて走ったらそうなるよねぇ」
ご愁傷様、なんてアレな事をのたまうゲイザー。
……ベルクトの名誉のために言っておくと彼女の身体能力は決して低くはなく、イーグルについていけるぐらいはある。今回は
「……大丈夫です。すぐ落ち着きますから」
そう言ったベルクトは深呼吸をして呼吸を整える。元の体力がそれなりにあったからか、ベルクトはすぐに落ち着いた。
「あ、ちょっと動かないでね?」
「?」
呼吸は落ち着いたけどその顔にはまだ汗が滴っているからハンドバッグから出したタオルで拭いてあげる。
「これでよし……ってベルクト、どうしたの?」
「あぅぅ……」
拭いてあげたベルクトは何故か顔を真っ赤にしてるけど…もしかして私またやっちゃた?
「……はぁ」
……と、これ見よがしにに大きなため息をつくゲイザー。なにか凄く失礼な事を考えられたような気がするんだけど。
「ゲイザー。なにか言いたいの?」
「べつにー? ベルクトも顔を赤くしてないで入ろうよ。ここ、動物に直接さわれるんだよ」
そう、ゲイザーが突っ走った先にあったのは兎をはじめとした小動物とふれあえる体験コーナーだった。平日という事もあって他に人がいないから私達の独占状態だ。
「いろんなのがいるね」
「私も少し驚きだわ」
動物園でしかもふれあえるコーナーにいるせいか、ここにいるのは人懐っこい子ばかりで抱き上げても暴れたりという事はない。
というか柔らかい上にモフモフしてるから抱いててすごい気持ちいい。これはちょっとクセになるかも。
そしてこのコーナーを一番満喫というか歓迎されているのが――――――
「ベルクト……すごいなつかれてるね」
そう。私とゲイザーのところにも来てくれるけどベルクトはその比じゃない。中には自分から頭を擦り付けている子もいる。
この差はなんなのかと思わなくもないけど――――――
「ふわぁ……!」
うん、兎を幸せそうに抱いてるベルクトが可愛いから些細な問題ね。
「取り敢えず、と……」
スマホのカメラを起動してベルクトの写真を撮る。勿論シャッター音はならないよう設定済み。だからベルクトが抱いてたり傍にいる動物には気付かれないハズ。
ゲイザーも同じ事を考えていたのか、同じようにスマホのレンズをベルクトに向けている。
「ベルクト、写真撮るからこっちを向いてくれる?」
「あ、はい!」
兎を抱きながら笑顔を向けてくれたベルクトにシャッターを切る。向けられた自然な笑顔を見るとここを選んでよかったと思う。
ベルクトだけじゃなくゲイザーも楽しんでくれてるし。
「そろそろ別のエリアに行ってみる? まだここで遊ぶのもアリだけど」
「んー、わたしはどっちでもいいよ。ベルクトは?」
「え? そうですね……」
名残惜しいのか真剣に悩むベルクト。が、それでも他の動物への興味が勝ったのか他の動物も見て回ると言い、私達は再び園内を回る事にした。
――――――この後私達は色々な動物を見て回った。虎をはじめとした猛獣にベルクトは少し竦んでいた(というかエリア名と中身のギャップが凄い)けど、それ以外――――――特にオーストラリアの動物がいるエリアで目を輝かせていた。
そうして園内を一周して見終えた時には夕方になり、二人ともはしゃぎ疲れたのか後席で肩を寄せ合って眠っている。
「zzz……」
「……ん、……すぅ」
ミラー越しに二人の寝顔を見ているとある事を思いつく。
ちょうど信号で止まったからバッグからスマホを出して止まってるうちに二人の写真を撮る。
「……コレは私だけの
基地に戻る車の中で呟いたミュベールの言葉は、誰にも聞かれる事無く消えていった。
――――――その日の夜、一緒に寝ていたゲイザーを起こさないようこっそり出た私は、ランオフエリアに寝っ転がって月見ならぬ星見をしていた。
少し雲が出ているけどそれでも星空を見ていると落ち着いてくる。少し雲が出てるのが残念だけど明るい月の光を覆ってくれてるからむしろちょうどいい。
そうして星を見上げる事数分、意外な人がやって来た。
「ミュベールさん」
「……ベルクト? どうしたの、こんな時間と場所で」
「ミュベールさんが見えたのでそれで……来てしまいました。ミュベールさんはどうしてここに?」
「私は月見ならぬ星見というところよ。ゲイザーもだけど私もこうして星を見に出てくる時があるのよ」
ゲイザーは純粋に星空を見るのが好きなんだけど私は違う理由もある。私は一人で考え事をしたい時や落ち着きたい時にもよく星空を見る。
昔からそうしていたせいかコレが一番落ち着くし考えを纏めやすいのよね。
「あの、となり……いいですか?」
「ええ、いいわよ」
私の許可を取ったベルクトは私の隣に座って同じように空を見上げる。――――――その姿を見てふと思う。ベルクトはここに来る前はどんな扱いをされていたのかと。
日中遊びに行った時もだけど今も興味深そうに星を見る姿を見ると、ロシアにいた頃はそんな自由もなかったんじゃないかと考えてしまう。
私が考え過ぎてるだけならいい。だけどどうしても私はその可能性を捨てられなかった。
「ミュベールさんはベルクトがロシア語で何を意味するのか知っていますよね?」
そんな事を考えていると私の隣に座り込んだベルクトがぽつりと、そんな事を訊いてきた。
「勿論知ってるわ。イヌワシよね?」
E.F社の人間ならSu-47のペットネーム、ベルクトがイヌワシを意味するのはよく知っている。なにせ社で正式配備されている機だ。知らない方がおかしい。
「ええ。ではロシアにはイヌワシに関する古い民話がありますがそちらは知っていますか?」
「いいえ。どんな話なの?」
身体を起こしてベルクトに向き合う。
イヌワシに関する民話というのにも興味があるというのもあるけど、なんとなくベルクトから真剣な雰囲気を感じたからだ。
「出世を夢見て都会に出たイヌワシはそこで鷹匠の採りとして働き始めます。しかしある日、故郷の仲間を狩ってしまい悲嘆にくれたイヌワシは鷹匠の元を離れて、故郷に戻りました。けどそこに仲間の姿は無く、あるのは人間の狩りによって荒らしつくされた地だけでした」
本人は気付いていないのか、話をしているベルクトの髪や肌が淡く光を帯びている。ベルクトはそんな自分の状態に気付かず話を続けていく。
「そこで初めて彼は気づくんです。『自分がほしかったのは富でも地位でも名誉でもなく、家族や友人との平穏な日々だったのだ』と。残りの生涯を失ってしまった家族友人達の捜索に当てたイヌワシがやがて衰弱して最後には飛ぶ力すら失ってしまいました。けどそれを哀れに思った神様が彼に光の翼を与えるんです。神から光の翼を与えられたイヌワシは罪や業から解放されて空を駆け上がり、やがて天上の空から対地をを照らす星になったと。――――――そんなお話です」
それは大切なモノを失ってから気付く悲しい話であり、それに気付かなかった罪に対する贖罪を求めるような話だと私は思った。
「うまく言えないけど……悲しい話ね」
「そうですか? 私は少し憧れます」
「憧れるって……どうして?」
「過ちを犯しても最終的には許される。空を昇り続けてみんなを照らす光になれるのなら素敵な話だと思いませんか?」
そう言って微笑むベルクトだけど私にはその微笑みがとても痛ましく見えた。
だからだろうか、
「……それは違うわ」
「ミュベールさん?」
「確かに犯した罪は許されるのかもしれない。けど消える事はないわ」
――――――こんな事を言おうとしているのは。
「たとえ周りが許しても――――――その事実が消えない以上ソレは心の中に残り続けるわ」
私は傭兵であり、極論相手を殺す事を生業としている。基本戦うのは戦地だから法としての罪には問われない。
――――――だからといって『殺人』という罪を犯していないわけじゃない。たとえ法としての罪に問われなくても、私達は自身への呵責でそれが罪である事を自覚するのだから。
「だから完全な許しはないのよ。――――――ソレはずっと背負っていかないといけないモノだから」
どんなに取り繕っても自分が罪を犯したという事実は消えない――――――消えてくれない。それはずっと背負っていかないといけない十字架だから。
「それなら……過ちを犯したら救われないということですか……?」
「貴女のいう救いが犯した罪から解放される、という意味ならね」
震えるようなベルクトの問いにミュベールは言外にないと断言する。ベルクトもそう言われる事を覚悟はしていたのか、ミュベールの言葉に身体を震わせはするが声をあげたりはしなかった。
「もちろんその事を仕方がなかったと割り切って正当化したり忘れてしまえば解放されるかもしれないわね。……けどベルクト、貴女はそんな割り切りは出来ないでしょ?」
「……はい。できないですし……しちゃいけないと思います」
しちゃいけない、か。私達なんかよりこの娘の方がずっと人間らしいじゃない。
……こういう事を
「……貴方が何を抱えているのか私は判らない。けど貴女の十字架を背負う事は出来ないけど貴女自身を支える事は出来るわ」
「……え?」
ベルクトの瞳に困惑の色が浮かぶけど仕方ないわね。遠回しな言い方をしてる自覚はあるし。
「勘違いしないで。他人にはどうあってもその人が背負った十字架を担う事はできないわ。これは絶対よ。……でもね、倒れそうになる相手を支えたり手を差し出す事は出来るわ」
他人に出来るのは背負う事を代わるんじゃなく
背負ったモノの重さを誰かに理解する事は出来ない。……人によって受け止める重さが違うからだ。
「だから……苦しくなったらいつでも頼りなさい」
「……迷惑じゃ、ないんですか?」
「貴女一人を支えるぐらいどうって事ないわ」
「でも私……私に返せるものなんて――――――」
ない、と続けようとしたベルクトの言葉を遮るように、私はベルクトを抱きしめてた。
「……え?」
ベルクトの困惑した声が聞こえるけど私は構わず抱く力を籠める。
「いいのよ、そんな事は。私は見返りがほしいから言ってるんじゃなくて私がそうしたいからなんだから。――――――だからいつでも来なさい」
これから先の事を考えると私のやろうとしてる事は命令違反――――――それとも背信行為にとられるかもしれない。
けどまぁ……仕方ないじゃない。自分が背負っているかもしれない“ナニカ”に怯えてる娘を見捨てるなんて私には出来ないし。
「ミュベール、さん……」
抱きしめたベルクトが腕の中で小さく震える。その声も涙ぐんでいて、いつしか嗚咽に変わっていく。
そんな彼女を私は落ち着くまでずっと抱きしめ、その涙を受け止め続けた。
おまけ ~その後の二人~
「落ち着いた?」
「はい……その、ありがとうございました」
「ならそろそろ戻りましょうか。明日からはまたスクランブル待機だからね」
そう言って立ち上がるミュベールの袖を遠慮がちにベルクトが掴んでいた。
「? どうしたの?」
「その、よろしければなんですけど……一緒に寝てもいい、ですか?」
意外といえば意外なベルクトの“お願い”に驚くミュベールだったが笑顔でそれを快諾する。
「いいわよ。ただ先客がいるからそこは了承してね?」
「ひょっとしてゲイザーさんですか?」
「ええ。一応あの娘にも部屋はあるんだけど寝る時は私と一緒がほとんどね」
余談だがミュベールの部屋にはゲイザーの着替えも置いてあるので実質二人部屋状態になっている。
そしてミュベールが星見に出た以上残されたゲイザーがベッドを占領しているのは当然といえば当然だった。
ベルクトを連れて部屋に戻ったミュベールはゲイザーを起こさないようそっとずらし、ベッドに入って空いたスペースにベルクトを誘う。
「それじゃいらっしゃい」
「し、失礼します……」
顔を赤らめながらベッドに入るベルクト。と、同時に目が覚めなくてもミュベールの気配を感じたのかベルクトの反対側にいたゲイザーがミュベールに抱きつく。
……本当に寝たままなのか怪しい行動である。
「あの、ミュベールさん。私も、その……」
後半は囁くような声だったがベルクトがなにを言いたいのかミュベールはすぐに察した。
「いいわよ、ベルクト。好きなようにして」
「……!」
それを聞いたベルクトは遠慮がちではあるがゲイザーと同じようにミュベールに抱きついた。
「ミュベールさんの身体……暖かいです」
「ふふ、貴女も十分暖かいわよ」
当然ベルクトの言う『暖かいは』体温の事だけではない。ミュベールも判ってて同じ意味で返している。
「それじゃお休み、ベルクト」
「はい……おやすみなさい……」
――――――翌朝、目覚めたベルクトは自分とゲイザーによって服をはだけさせ、半裸に近い状態のミュベールを見て顔を真っ赤にするのだが―――――――まぁ完全な余談である。
色々と作者が好き勝手にやっているベルクト編もようやく中盤
……少し風呂敷を広げ過ぎた気がしないでもない
一つ確実に言えるのは――――――
兎を抱いてはにかむベルクトは間違いなく可愛い(台無し)