ガーリー・エアフォース Sisiter's Vaportrail   作:liris

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久しぶりに一ヶ月以内の更新が出来ました

……エスコンのプラモを三機分買ったから多分また更新速度が落ちるとは思いますが(白目)

そしてこれは全く関係ない話になるのですが、とあるメーカーの『最新ステルス機セット』なるもので
F-22、F-35、Su-57、Su-35S、J-20、J-30。この組み合わせに違和感を感じたのは作者だけなんだろうか



Order17 Diver~霧の記憶~

「ミュベールさん。ベルクトを破棄するって本当ですかっ!?」

「……鳴谷君、どこからソレを聞いたの?」

 

 文字通り飛び込んで私の元に来た鳴谷君の言葉に思わず声が硬くなる。この一件はまだ公になっていないハズなのに……?

 

「申し訳ありません、私です」

 

 鳴谷君の後ろからファントムが静かに答える。

 ……耳がいいのも考え物ね。特にこういう時は。

 

「こっちに来て。八代通室長を交えて人がいないところで話しましょう」

 

 八代通室長に連絡して二人に知られた事を伝えると指定された会議室に来るように言われ、二人を連れてそこに向かう。

 中に入ると八代通室長はもう来ていて剣呑極まりない表情(かお)で待ち構えていた。

 

「中尉、一応聞いていくが彼に喋ったのは君か?」

「まさか。私が報告したとはいえ誰彼構わず喋ったりはしません」

「ならファントム。お前か?」

 

 八代通室長の問いに静かに頷くファントム。それを見た八代通室長はますます不機嫌そうに顔を歪める。

 

「盗み見はよせと何度も言っただろう。ただでさえ中央から厳しい目で見られてるのにベルクトと一緒にお前まで処分対象になったらどうするつもりだ」

「ご心配なく。足がつくような真似はしていません」

 

 なんでもないかのように言うファントム。けど、彼女を追求したせいでベルクトの破棄が決定的なのが鳴谷君に知られたわね。

 

「それじゃベルクトを処分するのは本当なんですか」

「今すぐというわけじゃないがな。今ベルクトの所属は自衛隊(ウチ)じゃなくてオーストラリアのE.F社だ。向こうの了承なしに勝手に処分する事はできん」

 

 そう。今の彼女はあくまでE.F社(ウチ)の所属。雇い主であっても勝手に解雇(アニマの場合は処分になりそうだけど)は出来ない。言い換えれば本社、そしてオーストラリア政府が承諾しない限りベルクトは破棄される事はない。

 ……時間稼ぎでしかないんだけど。

 

「とはいえ元々ベルクトの受け入れは俺の独断だ。それにE.F社が乗ったから上も国内に置いておくことを許可したんだ。それが今みたいなわけの分からん状況になったらそういう訳にもいかん」

「ここ最近のスクランブルの多さですか」

「ああ。ベルクトが来て以来小松方面のスクランブルの多さは異常だ。確率の偏りでごまかすのはもう無理なレベルだ。ベルクトがこの以上の原因の一因なのは間違いないだろう」

 

 ……自分が報告した事とはいえ聞いていて気持ちのいいモノじゃないわね。最悪、自衛隊がE.F社(こっち)の承諾を得ずに処分する可能性だってある。

 オーストラリアに逃がす事も考えてはいるけどそれをするには沖縄……そこにいる米軍がどう出るか、という不安がある。研究材料として米軍に捕らえられる可能性がある以上下手に逃がせない。

 

「原因はまだわからないんですか」

「俺達だけじゃなくヘンガー主任達も調べているがまだ掴めん。俺としても分らんまま終わらせるのは不本意だがそのためにここにいる全員を命を危険にはさらせん」

「それは……」

 

 八代通室長に噛みつく鳴谷君だけどその気持ちはよく判る。私も立場を抜きにした個人的な考えはベルクトの処分に反対だからだ。

 

「……せめてあの娘の記憶が戻ればね」

「記憶が戻ればベルクトは助かるんですか」

「あの娘の記憶が戻ればどうしてザイを引き寄せるかが判る。原因が判れば対処法も判るハズよ」

「中尉の言うことはもっともだがな。どうやってそれをする。色々と試したがベルクトの記憶は言うなれば鍵穴が壊れた扉だ。使える時間も金も限られている以上いづれ取捨選択をしなきゃならん」

 

 そう。結局はあの娘の記憶が戻らないと本当の意味でベルクトを救えない。門外漢だから仕方ないのかもしれないけど、――――――私じゃベルクトを救う事が出来ない。

 

「ハルカ」

 

 私が無力感に打ちひしがれているとグリペンが部屋の入口に立っていた。

 

「なんだグリペン。今手が離せないから用ならあとで――――――」

「慧を探してて話を聞いてた。ベルクトの記憶を回復させる手段なら存在する」

「「「「――――――は?」」」」

 

 グリペンの突拍子もない言葉にこの場の空気が固まり、ファントムですら呆然としている。

 

「……聞き違いかしら? グリペン、今ベルクトの記憶を回復させる手段があるって聞こえたけど」

「ある。精神的に距離が近いミュベールとEGGのパターンをある程度変動させられるゲイザーなら可能」

 

 あっさりと言うグリペンにようやく頭の処理が追い付いてくる。

 ――――――私達が鍵、ですって……?

 

「具体的にはどうする」

「一時的でいいからミュベールとベルクトをEGG同期で繋いで同一個体と認識するようにする。ゲイザーは少しでも二人の同調率を高めるために二人の波形をコントロールする。それ以外は私と慧の同期と同じ。アニマのプロテクトは外からのアクセスに対して働くから、意識の内側からならプロテクトは働かない」

「八代通室長、やりましょう」

 

 たとえ勝ち目が低くても今までは可能性すら見えなかった。けど少しでも可能性があるなら賭ける価値はある。

 

「本気か中尉。成功する確率が不明なのにやる気か?」

「たとえ成功率が一割以下でもその一割を掴めばいいだけの事です。それに――――――これ以外に方法はないでしょう?」

 

 『怖気づくなら勝手にやりますが』と小声で、けど聞こえるように言うと腹を括ったのか八代通室長は不敵に笑ってEGG調整の手配をする。

 

「挑発に乗ってやろうじゃないか。ただし、俺達が開けるのはパンドラの箱だ。何が出てきても後悔するなよ」

「しませんよ。何もせずあの娘を見捨てる方が後悔しますから」

 

 可能性があってそれを試せるなら私はそれを試す。

 ――――――手を伸ばせば届くかもしれないのに伸ばさないで誰かを失うのはゴメンだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 検査施設の部屋はいつもとは少し様子が変わっていた。急ごしらえでモニターや床を這うコードやケーブルが増設され、普段は離れて置いてあるベッドもぴったりとつけてある。

 そんな中でゲイザーとベルクトは待っていた。

 

「ミュベールさん」

 

 私達が入って来るなり笑顔で迎えてくれるベルクトだけどその笑顔は儚げで何かを悟ったようなモノだった。

 

「……もう時間がないんですね?」

「……そうね。もう聞いてるようだから隠したりはしない。これからやる事が失敗すれば貴女は最良でも日本から追放。最悪アニマとしての機能を停止させられるわ」

 

 アニマとしての機能停止。それが何を意味するか判らないベルクトじゃない。現に必死に抑えているけど握りしめた彼女の拳は震えてる。

 ……隣で聞いてるゲイザーから小動物ぐらいなら殺せそうな眼で睨まれるけど、逆を言えばそれだけゲイザーはベルクトの事を気にかけてるという事でもある。それが私には嬉しかった。

 

「けどね、ベルクト。私は貴女をそんな目に遭わす気はないの」

「……え?」

 

 私の言葉が意外だったのか、目を見開いて私を見つめるベルクト。

 ……まったく。それなりの付き合いにはなるけどまだ私のこういうところは判ってなかったみたいね。

 

「知り合ってまだそんなに長くないけど私は貴女をゲイザー同様大事な妹だと思ってる。――――――ええ、大事な妹分を勝手に処分なんてさせるものですか」

「ベルクト、ミュベールはこういう人だよ。身内、それも女の子相手にはすっごく甘い。けど最後まで手を伸ばしてくれるから好きなんだよ」

 

 嬉しい事いってくれるじゃない。

……前半に引っ掛かる言い方をしてくれた事に関しては時間が惜しいから流すんだけど。

 

「ま、そういう事よ。だから打てる手があるなら打つわ。その為に貴女の中に入らせてほしいの。……いい?」

「……はい。私も自分の正体を知りたいと思っていました。どんな結果になったとしても私はそれを受け入れます。後悔は……きっとしないと思います」

 

 一瞬の沈黙。けどその一瞬でベルクトは私が自身の中に入り、記憶と向き合う事を受け入れてくれた。

 ……強いわね。人間でも自分の過去を直視出来る人は多くない。その過去に疑問を持ってるなら尚更でしょうに。

 

「ただ……」

「ただ?」

「もし、ですよ? 私が人間の敵だったらどうしますか? E.F社や自衛隊からの意見じゃなくてミュベールさんの考えを聞かせてください」

 

 私個人の考え、ね。そんなのはもう決まってる。

 

「貴女が敵になるとは思えないけど、もしそうなったら他ならない私の手で終わらせる。――――――ええ。この役目を誰かに譲るなんて事はしない。八代通室長や鳴谷君にもこの役目は譲らないわ」

 

 ベルクトが敵になるというなら私が責任を持って彼女を終わらせる。それが一時でも姉貴分になった務め。彼女の幕を引く役目を誰か譲るなんて絶対にしない。

 

「そろそろ始めるぞ。ノイズを極力抑えるために覚醒レベルを限界まで落とす。外の刺激を遮断して鎮静剤も投与するから意識もかなり朦朧とする。目的を目指して動けるかは分からん。本当にこのやり方でいけるんだな、グリペン?」

「大丈夫、多分」

 

 多分なんて曖昧な事を言ってる割にグリペンの言葉に迷いはない。

 ……なにかしら。見過ごしてはならない違和感のようなものを感じるんだけど。

 

「あのミュベールさん。一つお願いをしてもいいですか」

 

 グリペンの言葉に違和感を感じつつも今はベルクトの事が優先。上着を脱いで頭や胸にモニターの為のセンサーや電極を付けて横になろうとすると、隣で既にベッドに身体を預けていたベルクトから断れなさそうな目でお願いされた。

 

「いいわよ。なに?」

「手を、握ってもらえませんか」

「ええ」

 

 ベルクトの左手をそっと握り、目を瞑る。

 顔にアイマスクとヘッドホンがつけられて視覚と聴覚が遮断される。今私が感じるのは右手に繋いだベルクトの手の温かさだけ。けどそれすらも段々判らなくなっていく。

 

 ――――――同調、開始。

 

 すぐ近くにいるハズのゲイザーの声が遠く聞こえ、私の意識は深海に堕ちるように沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――目が覚めた時、そこは霧の中だった。

 先がまったく見通せない白い闇。頭がぼんやりして自分がどうしてこんな場所にいるのか思い出せない。

 

(まずは状況を整理しましょう。ここがどこなのか、どうしてここにいるのかは不明。手がかりは右手から感じる気配だけ、か)

 

 周りを見てみてもうっすらと見えるメリーゴーランドに煉瓦塀の建物や鉄格子の門扉と見覚えのない景色ばかり。手がかりになりそうなモノは見当たらない。

 ――――――けど、微かながら胸の奥から訴えてくるモノがある。私は、右手から感じる大切なナニカの為にここに来たのだと。

 

(意識が戻る前、私は誰かと手を繋いでいた……? ゲイザー? いえ、違う。あの娘じゃない。私は確かベルクト、と……)

 

 そうして思考がベルクトにたどり着いた瞬間、私は全て思い出した。

 

(――――――そうだ。私はベルクトの記憶を回復させる為にここに来た。あの娘がザイを引き寄せてしまう理由を探る為に彼女と同調した)

 

 その事を自覚すると心なしか、霧が少しだけ薄くなる。先が見通せないのは変わらないが、足元と近くになにがあるか判る程度にはなってくれた。

 

(それにしてもここはどこなのかしら? ベルクトの意識の中ならここはあの娘にとって縁のある場所だと思うんだけど)

 

 手がかりを探して霧の中を歩き続ける。

 キリル文字――――――ロシア語で書かれた案内版に辿り着き、そこにはこう書かれていた。

 

「マクシム・ゴーリキー記念文化と休息の中央公園? ここがベルクトにとって縁のある場所なのかしら?」

 

 そう考えてはみるけどアニマであるベルクトと、この公園になんの接点があるのか私には判らない。ちらほらと見える店の類もシャッターが下ろされていて調べるのは難しそう―――「驚いた。ここに外からお客さんが来るとはね」―――ッ!?

 

「誰っ!?」

 

 咄嗟に腰のホルスターからM-92FC/S.E(サムライエッジ)*1を抜き、声をかけた人物に銃口を向ける。

 ……声をかけてきたのはトレンチコートを着た白人の男性で、銃を向けられているのに柔らかな笑みを浮かべている。

 

「……貴方は誰ですか? ここ――――――ベルクトの中にいるならあの娘に縁があるとは思うのですが」

 

 目の前にいる男性にそう問うと彼は微かにその笑みを崩し、合わせようとしてなかった目を合わせてきた。

 

「君こそ何者だい? 確かにここは君の言う通り“彼女”の中――――――正確には願いの産物だ。外からは入れないし、見つけられないはずなんだが」

 

 願いの産物……。ならこの風景も、目の前にいる彼もベルクトの願い、という事かしら?

 

「……私はベルクトの記憶を回復させる為、ゲイザー――――――他のアニマに協力してもらい、ベルクトのEGGと同調してここに来ました」

 

 素性の判らない人間に話すのは危険かもしれない。けどここがベルクトの願った世界なら――――――ここにいる彼はベルクトにとって必要な人間のハズ。

 どのみちこのままじゃ手がかりは得られない。――――――ならここは踏み込むべきだ。

 

「……記憶の回復か。残念だけどそれはできない」

「それは、何故?」

 

 銃を握る手に、引き金(トリガー)に添えた指に思わず力が入る。

 

「僕はかつて彼女と一緒にいた人間の残滓に過ぎない。外からの働きかけで変わる事はありえないし、そもそも彼女の記憶を回復させるという事は彼女の持つ“能力”も回復させるということだ。だからできない」

「……封印措置が不完全で、そのせいでベルクトに時間が残っていないと言っても?」

「――――――!?」

 

 ――――――途端、彼の顔から笑みが完全に消えて驚愕を露わにする。

 

「詳しく、教えてくれないか」

「ええ。実は――――――」

 

 私はベルクトと出会ってから頻発するようになったザイの襲撃。ベルクトしか見ていないようなザイの異常な行動。そして――――――日本側がベルクトを処分しようとしている事。その全てを話した。

 すべての話を聞いた彼は愕然と『馬鹿な』と空を仰いでいた。

 

「そんな、そんなはずは――――――」

「残念ですけど事実です。仮にあの娘を国外に脱出させても事態の原因が判らない限りあの娘はずっと苦しみ続けます」

 

 あの娘は自分が何者だったのか、そして何故自分がザイを引き寄せるのか口にはしないけど疑問に思ってる。それが判らないとあの娘を本当の意味で救う事が出来ない。

 

「……私は貴方と一緒にいた時のベルクトは知りません。けど、貴方が知らない今のベルクトは知っています。今のあの娘はかつての自分を知り、受け入れようとしています。今あの娘と共にいる私達を、そして今のあの娘を信じてくれませんか」

「…………」

 

 私と彼が話し始めて初めての静寂が訪れる。

 彼が激しい葛藤に苛まされているのは明らかだけど、私は彼が答えを出すまで待つ。

 ――――――彼は言った。今の自分はかつての“自分の残滓”だと。だからこのまま銃を向けて強制させても力にはなってくれないと思う。“今”ここにいる彼が自ら意志で手を取ってくれないといけない気がする。

 

「……一つ教えてくれ。なぜベルクトにそこまで肩入れする。君達にとってあの娘は他国のアニマで命を懸けてまで助ける義理はないはずだ」

 

 長い沈黙を経て、彼が私に問うたのは当然と言えば当然の疑問。そしてその問いに対する私の答えは決まっている。

 

「私はあの子の事をSu-47のアニマ、ベルクトとしてではなく一人の人間……ベルクト・クローディアとして生きてほしいと思っています。これで答えにはなりませんか?」

 

 私の答えに彼は一歩ずつ歩み寄ってくる。その表情(かお)は一つの決心をした者の真剣さだ。

 

「ベルクト・クローディア……。彼女に人としての名前を贈ったのか。――――――もう一つ問おう。君達はベルクトに“人”としての居場所を作り、これからも守っていけるのかい?」

「その為に私はここに来たんです。――――――これからもあの娘を護るために」

 

 彼の真剣さに私も応える。

 ……私と彼では共に過ごしたあの娘は違うかもしれない。けどあの娘を救いたいという気持ちでは同じ方向を向いているハズなのだ。

 

「彼女は人類の敵じゃないし、災厄でもない。ただ、与えられてしまった役割が異常だっただけだ。僕はそれをなんとか変えようとした。待ち受ける破滅に抗おうとした。だけど僕は失敗してしまった。彼女を救う事ができなかった。もし君達が彼女に救いを、まだ見ぬ世界を示してあげられるのなら――――――」

 

 そこから先を言おうとして、自身の言葉に驚いたように彼は苦笑する。 

 

「おかしいな。記憶の残滓でしかない存在がオリジナルの方針を覆すなんて。映画の登場人物が予定外の台詞を喋り出すようなものだ」

「……少なくとも、私にとって貴方はベルクトの事を真剣に想ってくれている“人間”です。決して残滓なんかじゃありません」

 

 私の言葉に彼は虚を突かれたのか目を点にするけど再び柔和な笑みを浮かべる。

 そしてその笑みはあった時のようにどこか作った印象を受けるものじゃなく、自然な柔らかさを感じる笑みだ。

 

「ベルクトが出会ったのが君のような人間でよかった。おかげで安心してここを去れるよ」

 

 彼がそう言うと、霧と共に周りの景色が消えていく。

 ――――――意識の覚醒が近い。そう感じた私は彼に問わなければならない事があった。

 

「最後に教えてください。ベルクトの意識の中でずっと彼女の傍にいてくれた貴方は誰なんですか?」

 

 もしかするとこれは意味のない問いなのかもしれない。けど私は今までずっとベルクトの心の傍にいてくれた彼を“名を知らぬ誰か”として送りたくなかった。

 

「――――――ヤラスラフ・ギンツブルグ。彼女はヤリックと呼んでいてくれたけどね」

「私――――――私はミュベール・スタークスです。Mr.ギンツブルグ。貴方の意志は私が――――――」

 

 継ぎます、と。私がいうよりも早く彼の姿が見えなくなる。

 覚醒の為に浮上しようとする意識の中で、私は確かに彼の声を聞いた。

 

「“彼女”に伝えてくれ。僕は君といれた事に後悔はなかった。君といた時間は星の光のように輝いていたと。だから自分を責めずに、これからは自分の進みたい道を歩んで欲しいと。そう伝えてくれ」

 

 あちら側で待っているから、という声を最後に彼の声が聞こえなくなる。

 覚醒しようとする意識を留め、『当分行かせません』とだけ答えると柔らかな光が頷くように瞬いた気が、した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――霧の公園から戻った私の目に飛び込んできたのは、照明の人工的な光だった。あの公園から戻ったせいか、同じ色なのに随分と違うモノに感じる。

 

「検査施設……。戻ってきたのね」

 

 そうして今まで何があったかを思い出す。

 ベルクトに同調してあの娘の深層意識に潜り、そこで誰と出会い、何を話したかを。 

 

「目が覚めたか」

「……八代通室長。ベルクトは?」

「目が覚めて一番に訊く事がそれか。……安心しろ。あいつの記憶は回復した。そのことについては問題ない」

 

 よかった。無事記憶が戻った――――――って待った。今引っ掛かる言い方をされなかったかしら?

 

「八代通室長、『そのことについて』とはどういう意味です?」

「お前が起きる前にベルクトは目覚めて一足先にあいつの事情を聞いた。……まったく、一難去ってまた一難とはこのことだ」

 

 嘲笑うような言葉からはとてもじゃないけど事態が好転したようには思えない。むしろ厄介事がプラスされたような言い方だ。

 

「……ベルクトの抱えている事が判ったんですよね」

「ああ、とんでもない話だぞ。ロシア人共は頭がイカれてるとしか思えん」

「……色々とアレな兵器を実用化するロシアですから多少頭のネジが飛んでいるのは判りますが」

「その中でもあいつはとびきりだ。これから中尉にも聞いてもらう。自分で聞いた方がいいだろうからな」

 

 ――――――覚悟しておけ。

 そう忠告された私達はまだ知らなかった。アニマを人のカタチをしただけのモノとしか見ない無機質さと、唯一の例外だったMr.ギンツブルグの想い。

 ロシアという国で相反する感情を向けられた事を、この時の私達は想像すら出来なかった――――――。

 

*1
某シリーズでお馴染みのM92FSのカスタムモデル




あとがきで一つ謝罪を

セルユニゾン様、申し訳ありません
セルユニゾン様の作品に登場するオリ主と同じ傭兵という立場からか、ヤリックと出会った時の反応がかなり似通った(というか同じ)になってしまいました

この場を借りて謝罪します
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