ガーリー・エアフォース Sisiter's Vaportrail   作:liris

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設定集の前に短編を一本投下
突貫作業で書いたものなので短い&少し雑かもしれません

時系列的にはorder13~16の間です



Extra Order1 アクィラの長姉

 真夏ほどじゃないが十分暑い初夏のある日、基地に来たら八代通さんが待ってると言われグリペンに会うよりも先に執務室に入る。執務室の中は廊下より冷房を強くしてあるのか扉を開けた途端涼しい風が流れてきた。

 

「よく来てくれたな。君に渡すものがある」

「なんですか? これ」

 

 机の上に二つの封筒。厚みはほとんどなく、大きさも普通の郵便用とあまり変わらないから入ってるのはそんなに大きいものじゃないらしい。

 

「君はここにはアルバイトだと言って来てるんだろう? バイト代が出ていないと以前一緒に来た娘も変に思うだろう。そういうわけで、ここの購買(PX)でバイトをしたら貰えるであろうバイト代を振り込んだ口座だ。好きに使うといい」

「あ、ありがとうございます」

 

 そう言って八代通は慧に銀行の通帳とカードを渡す。

 中身を見てそれなりの金額が入っているのを見た慧は、色々と約束をすっぽかしたりしまっている明華になにか奢ろうと決める。

 

「それとこっちは俺とミュベールからだ」

 

 そう言って八代通が取り出したのはさっきのものとは別の銀行の通帳とカード。何気なく中を見てみるとそこに記載されていた金額は0が一、二、三、四……え、なんだこの金額っ!?

 

「あ、あの八代通さん。なんかこっちの通帳ものすごい金額が書いてあるんですけど」

 

 渡された通帳の口座にはゼロが六つという文字通りの大金が預けられていた。

 

「悪いがそっちの内容については中尉に直接聞け。俺も用意したとはいえ発案したのと中身もほとんど中尉だからな」

「……わかりました。直接聞きにいってきます」

 

 

 

「ファントム。ミュベールさん達がどこにいるか知らないか?」

「今の時間ならシュミレータを使ってベルクトの訓練をしていると思いますよ」

 

 ミュベールさん達を探しているとたまたまファントムと会ったからダメ元で訊いてみる。幸いファントムは知っていたようであっさりと教えてくれた。

 

「それで慧さん。ミュベールさんにどのような用事が?」

「いや、ちょっと訊きたいことがあるんだよ。お前こそいいのか?」

 

 慧がそう思うのはもっともだ。なにせファントムは慧について来た道を戻っている。シュミレータのある部屋は慧も知っているから案内というわけではないだろう。

 

「いえ、ちょうど手が空いているものですから暇つぶしにどんな話をするのか聞かせていただこうかと。聞かれたくない話なら無理にとは言いませんが」

「暇つぶしかよ」

 

 別に聞かれて困る話じゃないけど暇つぶしになるんだろうか、こういうの。

 ……というかミュベールさんがいくつなのか知らないけど、こんな大金をポンと出せるぐらい稼いでるんだろうか、あの人。

 

「そういえばミュベールさんっていくつなんだろうな」

「……慧さん。女性の年齢を訊くのは失礼だと思いませんか?」

 

 ……訊き方がマズかった。ジト目で見てくるファントムの目には『なにを言ってるんですか』という呆れがありありと浮かんでいる。

 

「まぁ慧さんにデリカシーを求めるのは難しそうなのでこれぐらいにしておきましょう」

「……」

 

 ファントムの失礼な言い方に反論しようとする慧だが、これまでファントムにの物言いに反論してロクな目にあってこなかったのを思い出して言うのをやめる。

 

「とはいっても私も彼女の経歴は気になるところです。人間であそこまでの機動を出来るようになるには素質はもちろんそれに見合った訓練も必要ですから」

「ファントムから見てもやっぱりミュベールさんってすごいのか?」

「すごいというよりは異常です。資質もあったとは思いますが、ミュベールさんの年齢であれほどの技量に至るには早い段階で相応の訓練をしていなければいけませんから」

 

 なるほど。ファントムの予想だとミュベールさんはかなり早くから訓練をしていたことになるらしい。

 ……ん? 今何か気になる事を言ってなかったか?

 

「……ファントム。お前ミュベールさんの年齢とか知ってるのか?」

「お父様の保管しているデータを少し見ただけです。それにも年齢や傭兵としての実績はあってもそれ以前の記録は載っていませんでしたが」

「お前……さっき俺に年齢を訊くのはマナー違反って言ってなかったか?」

「あら。私はミュベールさんの年齢が気になって調べたわけではありません。ミュベールさんの資料を見てたまたま知っただけですから」

 

 軽く訊いただけなのにこの言いよう。正直訊くんじゃなかったと後悔する。そんな俺とは対照的にファントムは楽しげなミュベールさんのいう“イイ笑顔”を浮かべて満足げだ。

 ……教えてくれたのは助かったけど、プラスかマイナスかと言われるとマイナスだったかもしれない……。

 

 

 

 

 

 途中でグリペンに連絡するとグリペンも興味を持ったのかこっちに来ると言ってきた。グリペンも加わって目的の部屋に入るとちょうど休憩していたのか、ミュベールさん達アクィラの面子は椅子やシュミレータ自体に腰かけて談笑していた。

 

「あの、ミュベールさん。今いいですか?」

「大丈夫よ。どうしたの?」

「これのことなんですけど……」

 

 そう言ってミュベールさんが主に用意した口座のカードと通帳を見せると、それだけで俺がここに来た理由をミュベールさんは察したようだった。

 

「ソレがどうかしたの?」

「どうかしたの……って、これ金額間違えてません? 明らかに学生に渡す金額じゃないと思うんですけど」

「間違いじゃないわ。鳴谷君は私達と同じように命を懸けて戦ってるんだから相応の報酬は受け取るべきよ」

「けど……」

 

 気持ちは嬉しいけど正直気が引ける。

 ……その、百万単位のお金をこうなんでもないかのように渡されると金銭感覚が狂いそうだ。

 

「鳴谷君はまだ学生でしょう? ならこれからの進路を考える上で進学だって視野に入れるべきだし、それぐらいはあっても困らないわ。鳴谷君と明華ちゃんが金銭面で進学を躊躇ってるなら私が出してあげてもいいぐらいだし」

「…………」

 

 俺だけでなく明華が進学するお金まで出そうとするミュベールさんに言葉が出ない。冗談を言っているようには見えないから本気でそう言ってるんだろう。

 

「以前から気になっていたのですがミュベールさんはどのような経歴なのですか? これほどの金額を渡せる経済力もですが、ミュベールさんの年齢でそれほどの技量を持つにはかなり特殊だと思うのですが」

 

 ファントムの言葉に腕を組んで思案顔になるミュベールさん。……というかファントム、勝手に中身見るなよ。

 

「そうね……せっかくだから少し昔の話をしましょうか。考えてみたら話した事なかったしね」

 

 そう言ってミュベールさんは自分の過去を語りだした。

 

 

 

 

「私は元々オーストラリア国防空軍……正規軍にいたの。とは言ってもいたのは航空部隊じゃなかったし、正確には空軍の管轄下にある国防宇宙軍の所属だったの。そこで私は〈アークバード〉のクルーとしての訓練を受けていたのよ。……この中でアークバードを知らない人、いる?」

 

 アークバード?

 判らなかったから手を挙げたけど挙げたのは俺だけだった。マジかよ。

 

「それじゃ軽く説明するけわね。アークバードはオーストラリアの宇宙開発のための宇宙機で、カテゴリーとしては一応人工衛星の部類なんだけど……正式には『大気機動宇宙機』というまったく新しい部類の宇宙開発機なのよ」

「大気機動宇宙機?」

「ええ。アークバードは大気摩擦を利用して軌道を変更出来るから運用の自由度が既存の衛星と比べて高いの。これにはオーストラリアの宇宙開発と関係があるけどね」

「そうなんですか?」

 

 宇宙開発って聞くとロケットやスペースシャトルを使うイメージがあるけど違うんだろうか。

 

「オーストラリアの宇宙開発はスペースシャトルやロケットの打ち上げじゃなくて独自の単段シャトル(SSTO)をマスドライバーで打ち上げる方式。だから受け取り側も軌道を自由に変更出来るプラットホームである必要があったの。あ、ちなみにマスドライバーっていうのは簡単にいうと強力なカタパルトみたいなものね」

 

 マドライバーがなんなのか教えてくれたのは間違いなく俺のためなんだろう。実際マスドライバーって言われてもわからなかったし。

 

「で、私はそのアークバードのクルーとして訓練を受けていたの。衛星とはいってもアークバードは大気圏内の飛行も可能だから航空機としての操縦訓練も必要だったのよ」

「衛星なのに大気圏内も飛べるんですか?」

「あまり知られてないけどね。大気圏内で飛行するためのエンジンも積んでるから出来るわよ。アークバードはSSTOだけじゃなく空中給油でも燃料を補給出来るから」

 

 説明を聞けば聞くほどアークバードは特殊な機体なのがわかる。人工衛星だけど普通の航空機と同じように飛べるって無茶苦茶便利じゃないか。

 ……ん? ならなんであまり使われてないんだ?

 

「話を聞いているとアークバードのような大気機動宇宙機はロケットやスペースシャトルよりよさそうですけど……どうしてオーストラリアしか使っていないんですか?」

「それはミュベールさんがメリットしか話していないからでしょう。オーストラリアでしか運用されていないのはそれ相応のデメリットがあるのでしょう」

「ファントムの言う通りよ。一番大きいのはコストね。だから元々アークバード級は三機造られる予定だったけど……二号機は機体のみの完成でエンジンを含めた中身は入れられずに博物館行き。三号機に至っては建造自体されなかったのよ。ただでさえ宇宙開発はお金がかかるしね」

 

 宇宙開発って聞くと夢があるけどやっぱり先立つものは金なのか。ミュベールさんとゲイザーがあれだけのお金をくれたのはそういう事なんだろう。

 

「結局アークバードは一号機のみが運用されて余剰になったクルーは計画から外されたの。外されたクルーはそのまま空軍で戦闘機や輸送機のパイロットとして残った人もいるけど、私のように空軍を辞めてE.F社や民間の航空会社に入ったのもそれなりにいるわ。E.F社に入ってからは傭兵として色んな所に行ったり実力を認められて軍の戦技教導隊(アグレッサー)に選ばれたり……そんなところね」

 

 ミュベールさんの話を聞いてどうしてミュベールさんがあんな動きができるのかわかった気がする。素人の俺でも戦闘機どころか宇宙に行くための訓練を受けてたんだったらそりゃあ激しいGにも耐えられるだろう。

 

「あの、ミュベールさん。ミュベールさんはどんなきっかけでゲイザーさんと出会ったんですか?」

 

 ベルクトがおずおずと小さく手を挙げる。さっきまでの話だとミュベールさんがE.F社に入る前のことがメインだったから気になるんだろう。

 ……実は俺もミュベールさんとゲイザーがどう出会ったのか興味あるし。

 

「あー、出会いのきっかけ自体はそんないいものじゃなかったわよ? 私はゲイザーに万が一………この娘が人類側(私達)の敵に回った時に処断する事が出来るパイロットだからゲイザーのパートナーに選ばれたのよ」

「処断って……」

「始末する。って事よ」

 

 ミュベールさんの言葉にグリペンとベルクトは露骨に顔を顰める。

 ……当の本人であるゲイザーは全く気にしてなさそうなのがすごいが。

 

「……どうしてミュベールが選ばれたの?」

 

 グリペンの疑問はこの場にいる全員の疑問だ。もちろんミュベールさんが強い、ってこともあるんだろうけど選ばれた理由はそれだけじゃない気がする。

 

「……ゲイザーと組むパイロットはジャミングの影響を受けにくい機関砲やレールガンを使いこなせる事が必須だった。みんなも知ってる通りゲイザーは味方のミサイルをコントロール出来る。だからいざそうなった時はミサイルは役に立たない。だからロックオンに頼らない無誘導の兵装を使いこなせる事が必須だったの」

 

 実際ゲイザー海鳥島の時に多数のミサイルをコントロールしていた。それなら味方だった相手からのミサイルを狂わすなんて簡単だろう。

 

「で、何人かいた候補の中でも私はHiMATに耐えられる身体を持っていて、しかも傭兵だから正規軍の人達にはさせられない仕事をさせる事が出来る。それが決定打となって選ばれたわ。ゲイザーを処断する時だけじゃなく純粋にザイと渡り合う事も必要だったからね」

 

 私が女でソロだったのも大きいんだろうけどね、と付け加えるミュベールさんだけどそれも実力があってこそだろう。訓練でファントムとイーグルにも勝てるぐらいだし。

 

「ゲイザー。私もゲイザーに訊きたいことがある」

「わたし? 別にいいけどなにを訊きたいの?」

「ゲイザーは……周りから何も言われなかったの?」

「グリペン……」

 

 グリペンの言葉は重い。口調こそ変わらないけどそこにどんな想いが込められているのかすぐにわかった。

 

「私も元々は正規軍にいたんだけど……その時はまぁ色々と言われたよ。ザイから作られた人形とかね。けどミュベールは『私は傭兵で昨日の味方が今日の敵になる事だってあるしその逆もある。だから貴女がザイから生まれたとしても私にはそんな大した問題じゃないわ』って。それを会って開口一番そう言ってくれたんだ」

 

 ……すごい。何がすごいってミュベールさんもザイと戦っていたなら撃墜された仲間だっていたはずだ。なのに初対面でアニマの生まれを知ったうえで言い切れる器の大きさがすごい。

 

「あ、それにこんな事もいってたよね。『ザイから生まれたからって必ず人間の敵、って訳じゃないでしょう。それとも貴方達は殺人者の子は必ず殺人者になるから殺せ、って言う気?』って」

「確かにそんな事も言ったわね。けど別段変な事を言ったつもりはなかったわよ」

 

 はい、そうですかって受け入れられないのも人間だけど、とそれを何でもないかのように言うミュベールさんはやっぱり器が大きいと思う。

 ……俺もそのことを知った時はグリペンを拒絶したし。

 

「その後に『ただ私が貴女といるのは貴女が裏切った時に始末する為だからそれを忘れないように』って言われた時はこの人、どっちの味方なんだろうって思ったけど」

「「「ミュベール(さん)……」」」

 

 当の二人以外から呆れたような視線がミュベールに向けられる。上げた後に落とす、というかそれは言わなくてもよかったんじゃないだろうか?

 

「貴女だって薄々は気付いてたでしょ。自分に付けられるのが監視役も兼ねてるって事ぐらい。それなら変に隠してお互い気を遣うより始めから言っておいた方がいいと思ったのよ」

「ま、それも少しの間だけだったけどね。今じゃ正規軍の人達も普通に……っていうか娘の友達とかそんな感じで接してくれるし」

 

 ちなみに言っておくとオーストラリア軍……特にパイロット組が気さくなのは傭兵であるE.F社のパイロットの影響が大きい。

 一般に傭兵と聞くと金の為に戦う兵士というイメージが強いが、同時に彼等は生き残る事の重要性をよく知っている。ザイが現れる前の正規軍ではそうそうになかったが、傭兵である彼等は『戻って来れなかった』同僚を見てきたし、『残された』側の悲しみも何度も見てきた。だからたとえ仮の部下であっても彼等は育てる事に手を抜いたりはしない。その結果、教えられた側も信頼を寄せて段々とまぁ似た者同士になっていく事が割とあるのである。

 

「でも一番わたしに色々してくれたのはやっぱりミュベールだよ。訓練だけじゃなくて休日には基地の外に連れ出してくれたりしたし。上の人達を説得して私をE.F社に異動させてくれたのもミュベールだしね」

「待った。なんでその事をゲイザーが知ってるのよ。……私、教えた覚えないんだけど」

「前に社長が教えてくれたよ? ミュベールは変なところで照れ屋だから自分からは絶対言わないだろうって」

「あの人は……」

 

 たぶんミュベールさんはゲイザーに秘密にしているつもりだったんだろう。顔を背けてるけど微妙に顔が赤くなってるのが俺でもわかる。なんというかミュベールさんのそういうところを見るのはものすごくレアだった。

 

「ま、まぁそういう訳だからベルクトもオーストラリアに行ってからの事は心配しなくていいわ」

 

これで話はおしまい、と言ってミュベールさんが立ち上がる。つられて時計を見ればそれなりの時間が経っていてもう検査の時間だった。

 

「……ヤバい。グリペンもう検査の時間だ。早く行かないと怒られるぞ!?」

「ん。知ってた」

「気付いてたなら言えよっ!?」

「検査は多少遅れても平気。けどミュベールの話はなかなか聞けないからこちらを優先した」

 

 気持ちはわかるけどそれならそうと言ってくれよ!? 連絡とか出来たんだし

 

「すいません。コイツを連れていくんでこれで失礼しますっ!?」

 

 返事を聞くのを待たずにグリペンを連れて出た……のだがやっぱり間に合わず、検査を行うスタッフの人に怒られはしなかったものの連絡ぐらいは入れるよう注意された。

 待っている間携帯を見るといつの間に来ていたのか、ミュベールさんからメッセージが届いていた。

 

『お金の返却は不可。どうしても受け取れないというならこの戦いが終わって学校を無事卒業してから返しなさい』

 

 というシンプルだけどこれからも頑張って生き残りなさいというメッセージ。

 それを見た俺はミュベールさんとゲイザーの厚意を受け取り、最後まで生き残る事を改めて決意した。

 




慧への報酬は原作に書かれていませんでしたが命を懸けているのにボランティアというのは流石にどうよ、と思ったので書きました
(ほとんどミュベールの話でしたが)

久しぶりの慧視点で書きましたが、やはり書き慣れていない分話している時はともかくモノローグにあたる部分が難しいですね

違和感があるところ等があれば勉強になるので是非ご指摘お願いします


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