ガーリー・エアフォース Sisiter's Vaportrail   作:liris

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な、なんとか年内に間に合った……
とはいっても結局ベルクト編は終えられなかったか……

間違いなく今年最後の投稿です。
この作品を楽しみにしてくださっている皆様、来年もよろしくお願いします。




Order19 Tear Drop

「これはまたスゴいモノを持ち出してきましたね」

 

 一夜明けた翌日の午前。八代通室長が手配したという“ブースター”を見て思わず出た言葉がソレだった。

 ――――――100メートルはありそうな増槽を巨大化させ、翼とエンジンをくっつけたようなソレはイカを連想させる。轟音と共に降りてきたソレは、逆噴射(リバーサー)を使ってなお滑走路をギリギリに使って着陸。航空機としては異形ともいえるフォルムで注目を集めていた。

 

「……なんなんです、これ?」

 

 一緒に見に来ていた鳴谷君から呆れと驚きの入り混じった声。

 ……鳴谷君の気持ちは判る。私もこんなものが出てくるなんて思わなかった。

 

「RELスカイロン。英国イギリスはリアクション・エンジンズ社が試作した宇宙往還機だ。エアブリージング式のロケット・エンジンで大気圏の内外を段々飛行する正真正銘のスペースプレーンだ。元々グリペンのコアに適合する機体を探している時に調達したんだが、まさかこんな形で役に立つとはな」

 

 さらっと説明する八代通室長。前半はともかく、後半の内容には正直私ですら呆れた。

 

「……コレにグリペンのコアを? 仮に適合していたとしても空戦出来るんですか、コレ」

 

 どう見てもこのスカイロンで空戦が出来るようには見えない。こんな機体でHi-MATをしたら機体が真っ二つに折れてもおかしくない。

 

「……相当迷走してたんですね」

「そう言ってくれるな。我々としても切羽詰まっていたんだ。で、E.F社の返事はどうなんだ?」

「了承はもらいました。作戦空域エリアがマリアナ沖なので日本に派遣された部隊は今夜から明日にかけて東南アジアの各国に移動してそこで作戦の準備を行うと。それとオーストラリア本国に残っている連中と正規軍も参加してくれるそうです」

 

「……よく正規軍を動かせたな」

 

 正規軍がPMCの要請に応えた事に驚きを露わにする八代通室長だけど私達にとって驚くような事じゃない。

 

「私達はオーストラリア国防空軍(正規軍)と深い繋がりがありますから。加えて言うなら、せっかく新しく迎え入れたアニマ・ドーターを使い捨てる気はないというオーストラリアの意思表明でもありますね」

 それにまだ確定じゃないけど航空隊とは別の援軍が来てくれる可能性もある。

 ……あくまで可能性だからアテになるかは微妙なのがネックなんだけど。

 

 

 

 ――――――スカイロンが到着する数時間。

 

≪本当ですか?≫

≪今現在は承認待ちだがな。承認がおりれば“レイシア”嬢が参加する。が、これに関しては怪しいところだから発表はするな≫

 

 確かにレイシアが投入されるなら大きな助けになる。けどアレの投入は色々と承認がいるから間に合うかどうかは社長の言う通り微妙なところね。

 

≪判りました。レイシアの事はまだ伏せておきます≫

 

 承認され、援軍としてレイシアが来てくれれば切り札になるけど間に合わなかったら落胆の幅も大きい。故に知らせるのはE.F社と正規軍(オーストラリア側)の隊長格のみとなった。

 

 

 

「……で、このスカイロンでベルクトを打ち上げる気ですか。お父様?」

「おう。打ち上げた後の回収は心当たりががあるんだろう、中尉」

「えぇ。すぐには難しいと思いますが必ず彼女をサルベージします」

 

 そのアテがあるから私はベルクトを宇宙に打ち上げる、なんて案を出した。オーストラリアにはソレを可能にする技術と設備が揃っているから〈誘蛾灯〉の解析と無効化、この二つをどの国も影響を受けない宇宙空間で行えば後はサルベージするだけになる。

 

「指揮系統はどうなるんですか?自衛隊だけでなくE.F社、それにオーストラリアの正規軍も加わるならかなりの規模になりますが」

「それに関してだがファントム、今回の作戦の総指揮はお前に執ってもらう」

「私がですか?」

 

 もちろん、E.F社だけでなくオーストラリア空軍を含めた総指揮をファントムにしてもらうのには理由がある。

 

「これは中尉と話し合った結果だ。今回の作戦、迎撃に出てくるザイも相当だろう。AWACSも同行するとはいえかなりの混戦になる。ゲイザーは今回電子支援とザイへのジャミングに集中してもらうからな。そうなるとAWACSに全体の動きを俯瞰させ、指揮は現場でお前が執るのが一番いいだろう」

 

 今回指揮官機に要求されるのはAWACSから送られるデータを元に、戦域全体の指揮を執る能力。

 小規模ならともかく大規模な空戦で指揮を執りながら戦う、なんて事は私には出来ない。ファントムならある程度戦いながら指揮を執れるだろうし、彼女は頭がキレるから不測の事態への対応力も高い。指揮官を任せるのには十分すぎる。

 

「一つ質問です。E.F社の傭兵とオーストラリア軍は私の指揮に従ってくれるのでしょうか?」

「その辺りは私達で根廻しをしておくわ。元々ゲイザーがAWACSの真似事をしても動いてくれる人達だから貴女の指揮でも大丈夫だと思うけど」

 

 そもそも誰が指揮を執るかでいちいち揉めるようじゃ話にならない。私たち(E.F社)からの推薦があれば問題はないでしょう。

 

「……わかりました。今回の作戦の総指揮をお受けしましょう。それとお父様。ザイを吹き飛ばすのに戦略核を使用するということでしたが米軍の許可は降りたのですか?」

 

 当たり前だけど自衛隊のどこの部隊も核兵器は持っていない。必然的にアメリカから融通してもらう事になっている。

 

「あまりいい顔はされなかったがな。作戦の不参加を条件に手配してもらった」

 

 八代通室長の言う通り今回の作戦にアメリカ軍は参加しない。社長から聞いた事だけど彼らは近々ザイに対する大規模作戦を行う予定らしい。実際E.F社にもその話は来ていて、詳細はまだ知らされてないけど航空戦力を中心とした作戦というのは聞いている。

 だからアメリカ軍としては今回の作戦で戦力を損耗させたくないのが本音だろう。

 

「起爆の方もこちらでやる。EPCM下でまともな通信が出来るのはアニマ・ドーターであるお前達と、ミュベールのようにAZCCに乗っている連中だけだからな」

「……つまり、起爆タイミングも私が?」

「わかっているじゃないか。そういう訳だからファントム、今回お前は最前線から一歩引いた位置にいろ。お前がやられたら作戦全体が狂う」

「そうね。アニマが一機減るのは痛手だけど直接戦闘を行うのは数でカバー出来る。けど戦域全体を指揮出来る貴女は替えが効かないもの」

 

 オーストラリアはアニマこそゲイザーしかいないけど、代わりに開発元だけあって多数のAZCCが配備されてる。部隊の隊長格は当然だけど隊によっては全機AZCCへの改修が済んでいるところもある。

 ……おそらく最初の一撃はともかく、近接格闘戦になればオーストラリア機が戦闘の中心になるでしょうね。

 

「わかりました。作戦空域と参加する部隊の情報を確認しておきたいので私はこれで失礼します。……あぁ、それともう一つ」

 

 立ち去ろうとしたファントムは思い出したように足を止め、その顔を半分だけこっちに向けて――――――

 

「私達より彼女の側にいてあげてはどうです。今彼女に必要なのはあなただと思いますよ?」

 

 そう言うとファントムはひらひらと手を振ながら再び離れていく。

 私としてもベルクトの側に行きたいけど、まだ手が離せないから行きたくても行けないのが実情。私としても“伝言”を預かってるから出来ればベルクトのところに行きたいところだけど……

 

「行ってきていいぞ、中尉。後の手続きは俺の方でやっておく。向こうも作戦の要となるアニマのメンタルケアと言えば納得するだろう」

「いいんですか?」

 

 ハッキリ言って八代通室長からこんな事を言われるのは思わなかった。予想外の人から言われたからパッと言葉が出てこない。

 そんな私の心情を無視し、八代通室長は面倒くさそうに言う。

 

「ベルクトの精神的なケアが出来るのはお前とゲイザーぐらいしかいない。で、ゲイザーの奴は色々と調整中だから今ベルクトのところに行けるのは中尉しかいない。……そういうわけだから、さっさと行け」

「……判りました。そうさせてもらいます」

 

 

 

 

 

 ファントムと八代通室長に背中を押されるカタチで作業を切り上げ、ベルクトのいる部屋のドアをノックする。

 

「ベルクト? 私だけど入っていいかしら?」

「はい、大丈夫……え? あ、待ってくださいっ!?」

 

 入ろうとすると一瞬の間をおいてストップの声。

 ついでに言うと部屋の中からバタバタとずいぶん慌ただしい物音も聞こえてくる。トラブル、ってわけじゃなさそうだけど……。

 

「ベルクト? なにかあったの?」

「あ、ごめんなさいミュベールさん。入られても大丈夫です」

「それじゃお邪魔するけど……誰か来てたの?」

 

 部屋に入るとテーブルの上には中身の入ったマグカップは二つ。それとお菓子が入ってそうなビニールのパッケージも傍にある。

 

「えっと……F-2Aが来ていたんです」

 

 F-2A……バイパーゼロだったわね。姿が見えないけどようだけど……。

 

「ミュベールさんが来てそこの窓から出て行ったんです。……その、恥ずかしいからと」

「恥ずかしい?」

「初めて会う人といきなり顔を合わせるのは恥ずかしい、と」

「…………」

 

 スゴい。なんというか物凄く純な(アニマ)だ。今まであまり周りにいなかったタイプの娘だから新鮮にすら感じる。

 そういえばバイパーゼロは元気娘のイーグルとセットで那覇基地にいたのよね。あの元気娘と人見知りのアニマがセットで配置……。スゴいわね、那覇基地の人達。

 

「ごめんなさい、ミュベールさん。私も止めたんですけどF-2Aはあっという間に部屋から出てしまって……」

 

 私が那覇基地の人達に感心していると、バイパーゼロを止められなかった事に責任を感じているのか申し訳なさそうにベルクトが小さくなっていた。

 どうやら私がしょうもない事を考えているのをベルクトは私がバイパーゼロに避けられてショックなんだととったらしい。

 

「気にしないでいいわよ。避けられたのはまぁ……確かに少しショックだけどそれが理由で黙り込んだわけじゃないから」

「そう、なんですか?」

「ええ。イーグルとバイパーゼロの面倒を見てた那覇基地の人達はスゴいな、って感心してただけだから」

 

 そう言うとベルクトは安心したのかホッとしたのか胸をなでおろす。

 安心したベルクトを改めて見ると私に叩かれた頬が未だに少し赤い。紅葉、とまではいってないけどベルクトの肌が元々白いからかかなり目立つ。

 

「……ベルクト、さっきはゴメンね。痛かったでしょ?」

 

 あの時の私は感情のまま動いたから全く加減をしてなかった。私はそれなりに鍛えているからたぶん……いや、間違いなく痛かったと思う。

 

「大丈夫です。それに、その、少し嬉しかったんです」

「え゛」

 

 予想外の返事に思わず一歩引く。まさかベルクトからそんな言葉が出てくるなんて……。

 

「ベルクト……。貴女そういう趣味に目覚めちゃったのね……」

「ち、違いますっ! ?そういう意味じゃありません! ミュベールさんは私がヤリックの想いを無駄にしようとしたから怒ってくれたんですよね? それが嬉しくて」

 

 当然、ミュベールも本気で言ったわけではない。やらかしてしまった手前、気まずいモノがあったので少しでも空気を和ませようとしたミュベールなりの冗談である。

 ま、ベルクトの純粋な言葉に目を背けざるをえないわけだが。

 

「ミュベールさんはどうしてここに? 明日の準備をしていると聞いていましたけど……」

「ファントムと八代通室長から貴女の傍にいろ、って言われたんだけど……もしかしてお邪魔だった?」

 

 実際私が来るまでバイパーゼロと話していて、私が来た事で彼女は逃げちゃったし。

 

「そんなことないですっ! その……明日は出撃したら一緒に帰る事が出来ないので嬉しいです」

 

 強がりだとすぐに判る笑顔で言うベルクト。

 ……彼女にそうさせるのは私で、そんな顔にさせているのも私。案を出した私にこんなことを思う資格なんてないのかもしれないけど、そんな哀しい笑顔(かお)をさせていると思うと罪悪感がこみ上げてくる。

 

「……ゴメンね、ベルクト。間違いなく私は貴女を一人にさせる。暗い宇宙でたった一人にね」

 

そう。私の案は帰還出来る見込みがあるだけで、やらせようとしている事は〈誘蛾灯〉計画を考案した連中と大差ない。提案した時は妙案に思っていたけど、こうして時間をおいて考えると一人孤独に待たせる私は彼等よりタチが悪いかもしれない。

 

「大丈夫です。待っている間私はスリープモードで眠っていますし、その間に見れる夢もヤリックだけじゃなく皆さんからたくさんもらいました」

 

 だから大丈夫です。と微笑むベルクト。そう言うベルクトに私は何も言えなくなる。せめて時間がもう少しだけあればまた違ったかもしれない。

 ……もしも(if)の事なんて考えても意味がないのかもしれない。それでもロシアでのベルクトの扱いを知ってしまった私はそう思わずにはいられなかった。

 

「それに……謝らないといけないのは私もなんです」

「どういう事かしら?」

 

 謝るのは私の方でベルクトが謝らないといけない事なんて特にないと思うけど……。

 

「実は私……みなさんにお話しした時に一つだけお伝えしなかったことがあるんです。〈誘蛾灯〉のように能力面でのことじゃないんです。私は……ヤリックがどうして私を助けたのか。どうして自分の命を賭けてまで試作品のアニマを助けたのかということを意図的に話さなかったんです」

「……」

 

 ベルクトの精神世界(なか)に入った時に私は彼と会ったけど、確かに彼がベルクトを助けた理由までは聞いていない。

 ……彼の口ぶりからなんとなくは察せられたけどソレは部外者である私が軽々しく“判る”と言っていいものじゃない。

 だから私は聞かせてもらってもいい? とベルクトを促した。

 

「彼と私はお互いを特別な異性として見ていたんです」

 

 ……お互いを意識してる、とは思ってたけどまさかそこまでの関係だったとは思わなかったわね。それなら彼があそこまでベルクトの事を想っていたのにも納得出来る。

 

「……驚かれないんですね」

「私は貴女の中で彼に会ったからね。鳴谷君とグリペン同様“特別”な関係なのは想像してたもの。……そこまでとは思っていなかったけど。」

 

 出来る事なら実際に会ってみたかった。私だけじゃなくE.F社の人達ともきっと彼は意気投合出来たでしょうから本当に残念だわ。

 

「……ベルクト、貴女宛の伝言を彼から預かっているわ」

 

 彼の事が出たから彼から託された伝言を伝えるべく私は口を開く。

 予想外の内容だったのか、ベルクトの顔は驚きに満ちていた。

 

「ヤリックから、ですか……?」

「ええ、貴女の中に潜った時にね。貴女宛ての言葉だからあの場で言うのは憚られたの。言うわよ? ――――――『僕は君といれた事に後悔はなかった。君といた時間は星の光のように輝いていたと。だから自分を責めずに、これからは自分の進みたい道を歩んで欲しい』と」

 

 その言葉を聞いたベルクトの紅い瞳から涙が溢れる。それはベルクトがずっと表に出さなかった感情の発露だった。

 

「……ばか、ですよね。言いたいことを言うだけ言って、自分はいなくなるなんて」

 

 そう言ってベルクトは込み上げる感情を抑えつけるように瞼を固く閉じる。その姿は流れようとする涙すら自身のうち()に留めるようだった。

 

「私は……」

 

 ベルクトが言葉を紡ぐより早く、私の身体は動いていた。

 

「ミュベール、さん?」

「抑えなくていいわ。私程度の胸ならいくらでも貸してあげるから――――――好きなだけ使いなさい」

 

 そう言ってミュベールはベルクトを優しく抱きしめる。それはベルクトが今まで抑えていた想いを受け止めるような抱擁だ。

 抱きしめられたベルクトは最初こそ戸惑っていたものの、ゆくりと私の背中に手を回して顔を押し付けるように抱きついた。

 

「私……ヤリックのことが好きでした」

「ええ」

「私は…… 彼と、二人で生き残りたかった……」

 

 私はベルクトを抱きしめる腕に力を入れる。胸に体温とは違う熱さを感じるけど、私はソレを受け止めるようにベルクトを強く抱きしめる。

 

「ミュベールさん……私は……私達は……どうするのが最善だったんでしょうか……?」

 

 私にはその答えが出せない。正確には言えない。私は、ロシアにいる限り彼女達の想いが実らなかった事に気付いてしまったからだ。

 確かに彼は〈誘蛾灯〉計画の中心でプロジェクトを多少遅らせたりは出来た。けど言ってしまえばそれが限界でもあった。ベルクトが始めから〈誘蛾灯〉の為に生み出されたアニマ。いづれ使われる事は確定で、その意にそぐわない動きをしたら間違いなくベルクトの傍から外される。……いえ、事実彼は外された。二人が揃ってお互いの想いを成就させるには彼がベルクトとともに(ロシア)を脱出するしかなく、そしてそれは不可能だ。

 純粋な科学者だったMr.ギンツブルグではアニマの戦闘機動に耐えられないし、ロシア側も〈誘蛾灯〉計画の中心人物が搭乗しているとなれば領内で撃墜すべく大規模な追撃部隊を動かしていたと思う。そうなれば待っているのは二人の死しかない。

 ……なんて皮肉。二人はロシアでなければ出会えず、ロシアでは決してその想いが実る事がない。本当、なんて皮肉な巡り合わせだったのかしら。

 

「…………」

 

 果たしてコレを口にするべきなのか迷う。言えば間違いなくベルクトがショックを受けるのは目に見えてる。かといって嘘で誤魔化す気にはなれない。

 悩んだ末に私は――――――

 

「ベルクト。私に言える貴女はショックを受けると思う。それでも聞く覚悟はある?」

 

 抱きしめたベルクトから一歩下がり、私は問う。

 

「……はい。聞かせて、ください」

 

 微かに声を震わせ、それでもベルクトは聞く方を選んだ。故に私は偽りなく伝える事にした。

 私の考えを聞いたベルクトはやはりと言うべきか、小さくないショックを受けていた。それでも最後まで聞いたのは自分から聞いたからか。――――――それとも、彼女自身薄々気付いていたのだろうか。

 

「ミュベールさん、その、ありがとうございます」

「……どうしてお礼なんか言うのよ。私は――――――」

「ミュベールさんなら誤魔化すことだって出来たのにはっきりと教えてくれました。ミュベールさんだって出来れば言いたくなかったんじゃないですか?」

「……私もそうするべきか悩んだわ。けどここで嘘を口にするのは貴女に不誠実な気がしたのよ」

 

 受け入れる覚悟をした人に嘘を言うのはその人に対する侮辱でしかないと私は思ってる。だから私はたとえどんなに残酷なことであろうとその覚悟をした人には嘘偽りなく伝える。それで敵を作る事もあったけど私は曲げるつもりはない。

 

「……ミュベールさん。ミュベールさんは……ゲイザーさんや私をどう思っているんですか? ……その、アニマとしてではなく私達個人をどう見ているんですか?」

 

 私がどう思ってるか、ね。ベルクトも判っているんでしょうけど敢えて言葉にしてほしいんでしょうね。

 

「そうね。私にとって貴女達は大事なだと思っているわ。ゲイザーは人のカタチをしているからといって人間として見るのは間違いだ、って言ってるけど私はそう思ってないわ」

 

 ゲイザーのこの言葉は以前あの娘が鳴谷君に言った言葉であり、彼女自身だけじゃなくアニマに関わる関係者の多くの考えでもある。私や鳴谷君、そしてE.F社の現場組のように人間扱いする方が珍しい方になる。

 けど――――――

 

「私にとって人間かアニマかは些細な問題なのよ。確かに貴女達の生まれは生物のソレとは違う。けどそんなのは大した問題じゃないわ」

 

 ……そう私にとってソレはとっくの昔に答えを出している事。

 あの時鳴谷君には言わなかったけど私の言葉を切望してるベルクトには言うべきでしょうね。

 

「私は大事なのは“在り方だと思ってる。たとえ貴女やゲイザーが“自分は人じゃないと言っても受け入れる気はないわ。―――――――だってそんな風に誰かの為に涙を流せる娘を人間ではない、なんて私は思えないもの」

 

 そもそも人間の感情だって突き詰めれば脳内の電気信号によって現れるモノ。暴論になるけどソコに人間とアニマの差なんてないと思う。

 

「大事なのはどんな生まれだったか、じゃなくてどう生きるかなのよ。私も、小松の人……はちょっと微妙なところだけどE.F社の人達はみんな貴女を人として見てくれるわ。ゲイザーもみんなから娘や孫扱いされてるしね」

 

 ちなみにゲイザーを特に可愛がっているのは孫扱いしている面々である。傭兵という職業柄、離婚していたりそもそも独身のままという人も多い。だから容姿が十代後半のゲイザーはその手の面々から可愛がられている。

 

「私も……ゲイザーさんのように受け入れてもらえるでしょうか?」

「大丈夫よ。貴女はいい娘だもの。必ず受け入れてくれるわ。それは私のお墨付きよ」

 

 むしろベルクトがいじめる奴がいたらその時はいじめた事をを後悔するぐらいの仕返しをソイツにしてやるつもりだ。

 そう言うとベルクトは困ったような笑みになったけどさっきまでのみような泣き顔よりずっといい。

 

「あの、ミュベールさん。……一つだけお願いしてもいいですか?」

 

 少しだけ浮かんだ笑みを引っ込め、恥ずかしがるように目を伏せるベルクト。

 ……なんとなくだけど、少しだけいつものベルクトに戻ってくれた気がしてほっとする。

 

「いいわよ。なに?」

「その……もう一度抱きしめてもらっていいですか?」

 

 私にとってはささやかだけどベルクトにとっては我儘になるのか、ベルクトは『断られませんように』と祈るように目を伏せるベルクトに少しだけ溜息がでる。

 ……まったく、そんな願いを私が断るわけないでしょう。

 

「いいわよ。一度と言わず何度でも。それこそ今だけじゃなくこれから先いつでもしてあげる」

 

 ―――――――これから先いつでも。当たり前のようにベルクトが戻ってくる事を言うミュベールにベルクトは身体を預け、その温かさを身体に覚えさせるように抱きつく。

 抱きつかれたミュベールもベルクトの髪を梳くようにそっと撫でる。

 暫しの別れを惜しむように、再び触れ合う事を祈るように――――――

 

 




 ちなみにこの時ゲイザーはミュベールとベルクトのやり取りをバッチリ見てました。
が、空気を読んで部屋から離れ二人きりにしてあげています。

 いよいよ次でベルクト編最後の空戦。
 原作と異なり米軍は不参加。代わりにオーストラリア陣営が参加です。

 ……ハードル上げて困難にしてしまった感はありますが頑張ります。
 
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