ガーリー・エアフォース Sisiter's Vaportrail   作:liris

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GAFの合同同人誌、届いて早速見ました
参加された方々、今回も素晴らしい作品をありがとうございました!


今回の話、おそらく賛否両論分かれると思いますが取り合えず一言。

――――――待たせたな今回は明華のターンだ



Order21 秘密の話、していた話

 ベルクトが軌道上に行ってから数日後、私は一部の整備スタッフと共にオーストラリアのヴィクトリア基地*1に戻っていた。というのも機体のC整備をする時期が来ていたのと、次の作戦で私は艦載機のF/A-15S/MTDに乗るからその慣熟訓練の為だ。

 F/A-15S/MTD自体あまり使った事がない上に、今回の作戦は滅多にしない空母への着艦もあるから訓練は必須だった。

 

(機体の方はクセがなくて扱い易くはあるけど……物足りないというかやっぱりS-32(愛機)と比べて()()がないわね)

 

 正式採用機であるF-15S/MTDシリーズにそう評価を下すミュベールだがある意味それは仕方がない。正式採用機である以上、ある程度の扱い易さは必須。S-32のようにその気にならなくてもパイロットを殺しかねない機動性を持たせれば事故多発機になり、とてもじゃないがマトモな運用は出来ない。

 ミュベールもそれは判ってはいるのだがどうしても愛機と比べてしまう。

 

(とはいえ着艦訓練自体は何とかなったわね。アグレッサーになる時の訓練でしたのを身体が覚えててよかったわ)

 

 それに目の前に目標があるとソレに集中出来る。

 ……実を言うと私はまだベルクトの事が完全に吹っ切れたわけじゃない。現在位置を国防宇宙軍が把握してるから戦闘中行方不明(MIA)扱いにはなってない。とはいえ今ベルクトがいる場所はそう簡単に戻れる場所じゃないし、そもそも起こす事も出来ない。彼女が帰還出来るのは〈誘蛾灯〉を無力化出来る算段が立ってからになっている。

 あの娘がいなくなった悲しみや寂しさは勿論ある。いるべき人がいない物足りなさともいえるのかもしれない。とはいえそれで仕事がなくなるわけじゃないし、なによりソレが原因で墜とされたりしたらベルクトが戻った時に悲しむ。だから今は目の前にあるタスクをこなしていく。

 

「ご苦労だったな、スタークス」

「社長」

「少しは気分転換になったか?」

 

 ……やっぱり社長には私が何を考えてるかお見通しだったらしい。

 

「ええ、少なくとも戻った時よりはだいぶよくなりました」

「そうか。……それと急で悪いんだが小松に戻ってほしい、と言ったらどのぐらいで出れる?」

「今からですか? 出ようと思えば燃料の補給と武装の装備が終わり次第出れますけど……なにかあったんですか?」

 

 一応訊くけど何かあったのは明らかだ。明日まで滞在予定だったのがいきなり今から戻れるか、なんだから。

 

「ヘンガーから電話があってな。実は――――――」

 

 ヘンガー主任が言うにはアメリカ軍のアニマ・ドーターの研究者から呼び出され、鳴谷君とグリペンの二人と一緒にゲイザーが神奈川の厚木基地に連れて行かれたらしい。いきなり呼ばれたのは向こうが予定を曖昧にしていたのに今朝になって突然決めたからしい。本当なら私もと言われていたみたいだが、肝心の私がオーストリアにいたから鳴谷君とグリペン、そしてゲイザーで向かったという事だった。

 ……その説明を聞いた私は頭が痛くなった。非公式にしても予定ぐらいは立ててほしい。

 

「……わざわざアメリカが呼び出したという事は用件は次の任務(ミッション)ですか」

「間違いなくな。わざわざ厚木までお前達を呼び出す理由は分からんが。ただそういう訳で小松に戻り作戦の準備に備えてほしい」

「……いよいよなんですね」

 

 ――――――次の作戦。それは受け身中心だったこれまでの作戦と違い、人類側(こっち)から攻勢に出る。

 その内容は上海奪還作戦。大陸への橋頭堡を築く為、上海をザイから取り戻す。ベルクトの時は航空戦力を総動員したけど今回は空母機動部隊を中心とした国防海軍も作戦に参加する。とはいえアメリカ海軍は第七艦隊が潰走してから纏まった戦力を動かすのを渋っている。そこで新鋭の空母を持つオーストラリア国防海軍が名乗りを上げた。

 政府としてはこの機会にアドバンテージを取る狙いもあるんだろうけど現場の人間からしたらその辺りの事はどうでもいい。上海を取り戻せば航空戦力だけじゃなく地上部隊も動員出来るようになる。簡易的であっても基地が作られれば今後の作戦で大きな助けになるでしょうね。

 

「判りました。それでは機体と私自身の準備が整い次第小松に戻ります」

「あぁ。埋め合わせに今度ゲイザーと一緒に戻ってきた時に何か奢ろう」

「ではそちらも楽しみにしています」

 

 社長と別れた私は宿舎に置いていた荷物を手早くまとめ、再びハンガーに戻ると機体の方は最終チェックに入っておりもうすぐ出発出来そうだった。

 

「スタークス中尉、台湾空軍に話が通っていて空中給油機が手配されているそうなので給油はそれで行うようにとのことです」

「最終チェック完了しました! いつでも出せます!」

「ありがとう」

 

 チェックの済んだ機体に乗り込み管制塔に指示の元、離陸準備に入る。

 

≪ヴィクトリア・コントロールからアステル。現在ランウェイ29にワルキューレ隊がアプローチ中。上がるならランウェイ03から出てください≫

≪了解、ヴィクトリア・コントロール。ランウェイ03から上がる≫

 

 傭兵基地というのもあって管制塔とのやり取りも正規軍の基地や民間空港と比べてかなりフランクに出来る。勿論外部の機が相手だときちんとやるから身内故の緩さではあるけど。

 

≪アステルからヴィクトリア・コントロールへ。出発します≫

≪了解、アステル。しっかり稼いできてくださいね?≫

 

 ――――――さて、出るとしますか。

 

 オーストラリア謹製の荒鷲と共に、私は小松を目指して出発した。

 

 

 

 

 

 台湾領空で空中給油をし、なんとか日が落ちる前に小松に戻れた私はヘンガー主任にF/A-15S/MTDのメンテナンスをお願いして荷物を置きに宿舎に戻っていた。

 

(ゲイザーからの連絡はまだないし何があったかは戻ってから聞くとしましょう)

 

 そして何気なくアクィラ、バービー両隊のスケジュールを見て思わず固まってしまった。

 ――――――鳴谷君は今日オフになっていたからだ。

 

「……確か厚木には急に連れて行かれたのよね、彼」

 

 嫌な予感がする。傭兵としてじゃなくて女としての勘だけどこの手の予感は外れてくれた試しがない。

 急いでヘンガー主任に電話をかけた結果が――――――

 

≪彼には悪いがたぶん強引に連れて行かれただろう。本当に急だったからな≫

 

 ――――――予感的中。休みだったなら家にいただろうし、もしかすると明華ちゃんと遊びに出てたかもしれない。

 ……念の為明華ちゃんの様子を見に行きましょう。急ぎだったなら碌に説明してないかもしれないし。

 

≪……少し基地の外に出てきます。緊急の用事が起きたら連絡を≫

≪ああ、気をつけてな≫

 

 急いで駐車場にある車を出し、以前鳴谷君から教えてもらった彼と明華ちゃんが住んでいる家に向かう。

 家の前車をつけインターホンを鳴らすと中から走っているような足音が聞こえてくる。

 

「慧っ!?」

 

 勢い良く戸が開いて明華ちゃんが文字通り飛び出してきたけど、いるのが私だと判るとあからさまに落胆した顔になった。

 

「あ……」

「こんばんわ、明華ちゃん。」

 

 出来るだけ笑顔を浮かべて明華ちゃんに挨拶をするけど私とは対照的に明華ちゃんの表情は暗い。

 ……これは間違いなくなにかあったわね。

 

「ミュベール、さん。……どうしたんですか?」

 

 明華ちゃんの声は硬い。というより警戒心や不信感が滲み出てる。コレだけでなにがあったのか大体の予想がついてしまった。

 

「明華ちゃん良かったら少し付き合ってくれない? 実は私……会社の用でオーストラリアに行ってて日本にはついさっき戻ったところなの。だから何があったか教えてほしいのよ」

 

 何があったのか想像はつくけど実際は何があったのか詳しく知っておきたい。ゲイザーがいたのにフォローしないって事は本当にする暇さえなかったんでしょうね。

 

「ただ……詳しい話をする上で人に聞かれたくないんだけど……今は明華ちゃん一人なら上がっていいかしら?」

「……はい。どうぞ」

「お邪魔するわね」

 

 鳴谷君の家に上がった私は明華ちゃんに案内されて彼女の部屋に入る。

 彼女の部屋はシンプルであまりものが置かれていない。だからといって殺風景というわけじゃなくさり気なく小物が置いてあるからそこから部屋の主の趣味が垣間見える。

 

「ここにどうぞ」

「失礼するわね」

 

 明華ちゃんに促されてベッドに腰掛け、隣に明華ちゃんが座る。

 

「それで明華ちゃん。何があったのか話してもらえる?」

「……」

 

 訊いてはみたものの、明華ちゃんは黙ったまま。……話す気がないというより本当に話していいのか迷っているように見えるし、それは仕方ないと思う。私達大人の都合で振り回したんだから。

 そうして時計の長針が二週ほどして明華ちゃんはついに教えてくれた。

 

「今日は……慧と一緒に遊びに行く予定だったんです」

 

 ぽつり、ぽつりと明華ちゃんは少しずつ言葉を紡ぐ。

 

「昨日、慧から誘ってくれて……バイトも休みで呼び出しも絶対入らないからって言ってたから楽しみにしてたんです」

 

 紡がれる言葉から感じ取れるのは鳴谷君と過ごす時間を取られた怒り。そして予定を守らない私達に対する落胆だ。

 

「なのに……これから出ようって時になって、いきなり連れて行かれたんです。……久しぶりに二人で遊びに行けると思ったのに……」

 

 明華ちゃんの言葉は嗚咽混じりで途切れ途切れになり、最後の言葉を紡ぐ頃には膝を抱え、そこに顔をうずめて顔も私からは見えなくなってしまう。

 

(けどこれは誰だって怒るわね。折角鳴谷君が誘ってくれたのに大人(こっち)の都合で潰しちゃったんだもの)

 

 しかも出る直前という最悪のタイミング。どう考えても悪いのはこちら側だった。

 

「……ゴメンね、明華ちゃん。同じ関係者として私は謝る事しか出来ない」

 

 ベッドからいったん立ち、彼女の手を握りながら小さくなった身体を正面から包み込む。

 私が頭を下げたところで明華ちゃんが台無しにされた時間が戻るわけじゃない。けど顔は見えないけどきっと泣いているであろう彼女を見て、何もせずにいるなんて私には出来なかった。

 

「……明華ちゃん。貴女は気付いてるんでしょ? 鳴谷君の基地でのバイトが普通のものじゃないって」

 

 これから私がする事はれっきとした契約違反。バレたら何らかのペナルティーがあるのは間違いない。

 ……けど、それは無関係の娘が悲しむのを黙って見ていていい理由にはならない。

 

「それは……」

 

 返事はないけどその表情がどう思っているかを如実に物語ってる。

 なら……話すべきだろう。

 空自に雇われている人間としては仕方ないと割り切るべきなんだろうけど、目の前で必死に泣くのを堪えている彼女を見てそんな事を言えるほど私は人間が出来ていない。

 それに――――――これ以上黙っていると明華ちゃんと鳴谷君の間に決定的な亀裂が出来る気がしてならない。

 

「……ずっと疑問には思ってたんです。いくらなんでもあんな急に呼び出されたり、連れて行かれたりするなんて普通のバイトじゃないと思いますから」

 

 ……まぁそうよね。PX程度のバイトで急に呼び出されたりっていうのはちょっと有り得ない。明華ちゃんが疑うのも当然といえば当然か。

 

「明華ちゃん。これから私が話す事は決して誰にも話さないって約束出来る?」

 

 明華ちゃんから一歩離れ、ベッドに座ったままの彼女を正面から見下ろすカタチで意思を問う。

 

「……教えてくれるんですか? 慧がなにをしてるのか」

「全部は教えられないし、これからの事を考えると知らない方がよかったと思うかもしれない。それでもいい?」

 

 明華ちゃんの返事は判り切ってるけどそれでも一応訊く。明華ちゃんは聡い娘だから私がこうして訊く理由も判っているでしょう。――――――答えてしまえば後戻りが出来なくなるという事が。

 

「知らない方がよかった、ってどういうことですか……?」

「言葉通りの意味よ。付け加えるならコレは知り合いとしてじゃなく軍属としての忠告でもあるわ」

 

 ミュベールのその言葉に明華は迷っていた。慧が何をしているかはもちろん知りたい。――――――しかし同時にそこまで踏み込んでいいのかという躊躇いもある。

 慧が自分に言わなかったのは言えば自分が心配すると思ってるんだろうし、口止めされてもいるからだというのはミュベールの言い方で気付いていた。それを理性では納得出来る程度には明華は聡く、感情では受けとめられる程大人ではなかった。

 時間にすれば数秒、しかし明華にとっては大いに悩んだ結果――――――明華は小さく、しかし確かに首を縦に振った。

 

「……それじゃあ話すわね。鳴谷君が基地のPX……購買でバイトをしている、っていうのは基地に来る名目よ。……本当はザイに対抗する為の協力をしてもらってるの」

「協力って……」

「私達が使っている戦闘機は普通のモノじゃないの。だから扱えるパイロットも限られるんだけど……そのうちの一人が不安定でね。飛ぶどころか倒れたりする事も結構あったのよ。けど何故か鳴谷君と一緒にいると安定してたの。だから鳴谷君には基地では出来るだけ彼女の傍にいてもらう必要があったし、どうして彼と一緒だと安定するのか細かくデータを取る必要があったの」

「そうだったんですか……」

 

 ……ここで止めておけばまだ鳴谷君を明華ちゃんの中でただの〈民間協力者〉というレベルで済ませておける。――――――けど、そんな()()()()()()()()()()()()()()()という事で彼女の先ほど、そしてこれまでの苦悩を流すのは踏み込む決めた彼女に失礼だろう。

 

(……ゴメン、鳴谷君。貴方の努力を無駄にするようで悪いけど……私はこれ以上彼女が傷付くのに黙ってられないわ)

 

 そうしてミュベールは慧がずっと隠していた真実を口にする。

 

「――――――もう一つ。鳴谷君もザイと実際に戦っているわ」

「!?」

 

 ――――――明華にとって決定的ともいえるその事実を。

 

「どういう……どういうことですかっ!? 慧が戦ってるって!?」

「……言葉通りの意味よ。さっき不安定といった彼女が戦うには鳴谷君が近くにいないといけない。だから――――――」

「だからって! どうして……どうして慧じゃないといけないんですかっ!?」

 

 立ち上がって私に詰め寄る明華ちゃんの瞳は怒りとなぜという疑問に満ちている。

 ……けど私じゃ明華ちゃんの求めている答えは出せない。鳴谷君とグリペンがあそこまで相性がいい理由を私も知らないからだ。

 

「……研究してる人の話では鳴谷君といる事で彼女の脳波が安定するからだそうよ」

「でも! どうしてそれで慧が戦わないといけないんですかっ!?」

「…………」

 

 私の胸元を掴んだ明華ちゃんから向けられる怒りは、傭兵とはいえ軍属である身なら遺族から向けられる――――――決して慣れてはいけないものとよく似ている。

 その感情に私は沈黙で返すしかない。私達が自分達の都合で鳴谷君を戦場に立たせている事は覆しようのない事実。そこから向けられる怒りは私達が背負うべきものでもあるが故に。

 

「……どうして。どうしてなにも……言わないんですか……。どうして今まで……教えてくれなかったんですか……」

 

 私の胸元で泣きながら感情をぶつける明華ちゃんの頭に手を回そうとして……その手を止め、その手を降ろす。

 

(……今の私にそんな事をしていい権利はないわね)

 

 泣きながら掴んだ服を握りしめる明華ちゃんに私は何もすることが出来ない。今の私に出来るのは明華ちゃんの感情をこのまま受け止める事だけ。

 

「……あたしだって、わかってるんです。ミュベールさんに当たっても意味ないって。でも……慧が戦ってるって聞いて、そんなの……っ!」

 

 ……明華は自分のしている事が八つ当たりだと判っている。判っていてなお、目の前にいるミュベールに自分の中から湧き上がってくる憤りをぶつけずにはいられなかった。

 そして、ミュベールもそれは判っている。判っているから……ミュベールは明華のされるがままでいた。――――――それを受け止める事が贖いだとでもいうように。

 

「……もう、誰かがいなくなるのは嫌なんです。あたしは、一緒に、いてくれるだけでいいのに、なんで……!」

 

 ――――――それが明華の本心。明華の心の奥底には常にその事への恐れがあった。明るく、そして気丈に振舞っていても明華は慧もいなくなってしまう事が怖かった。

 だからこそ、八つ当たりだと判っていても明華はミュベールに当たるしかなかった。

 

(……本当、自分が嫌になるわね)

 

 胸の中で泣き続ける明華を見て、ミュベールは降ろしていた手を挙げてそんな事をする権利はないと自身を見下しながらも胸の中で泣きじゃくる明華の頭を撫でる。

 

「ミュベール、さん……?」

「明華ちゃん……貴方の怒りも恐れも、全部私が受け止める。だから――――――」

 

 全てぶつけていいわというミュベールの言葉に、明華の瞳から堰を切ったように涙が溢れ、声にならない憤りをミュベールにぶつける。

 その間、ミュベールは自身の言葉を違える事無くずっと明華の涙と憤りを受け止め続け、彼女が落ち着くまでずっとそうしていた――――――。

 

 

 

 

 

 ――――――あたしはずっと不安だった。

 

 慧と一緒に上海を出てから……ううん、慧のお母さんがザイに殺されてからずっと……あたしは身近な人がいなくなるのが怖かった。

 

 日本に来て少し安心できたけど、慧が自衛隊に入るって言いだしてそれはまた出てきた。最初に聞いたときは思わず怒鳴っちゃったけど、内心では慧まで死んじゃったらどうしようっていうのでいっぱいだった。

 

 そして、慧が自衛隊の基地に行ってバイトをするようになってから慧は変わった。いきなり呼び出されたり、急に身体を鍛えたりし始めたり……変な怪我をして帰ってくるようになった。――――――だから、購買のバイトっていうのは嘘で別のことをしてるのはすぐにわかった。

 

 けど……慧は教えてくれそうになかった。話せないのか心配かけたくないのかはわからないけど必死になって隠そうとしてた。……だからあたしも気づいてないフリをしてた。不安を押し殺して、絶対に泣いたりしないように、なんでもないように返事をしてた。

 

 ――――――そして、ミュベールさんに慧のしてる事を教えられて、ずっと抑えてきたものが一気にあふれ出した。止めようと思っても止められなかった。ずっと怖かったこととか、なんで慧が戦ってるのとか、いろんなのがごちゃませになったものをあたしは全部ミュベールさんにぶつけてた。それでもミュベールさんは最後まであたしを受け止め続けてくれた。――――――それがどうしてか……すごく嬉しかった。

 

(……そっか。あたし……ずっと誰かに聞いてほしかったんだ)

 

 

 

 ――――――そうして自分のすべてをぶつけ、我に返った明華は今まで自分がしていた事を思い返して顔が真っ赤になった。

 

(……どうしよう。勢いに任せてあたし、とんでもないことしちゃったんじゃ……!)

 

 密着した状態から少しだけ顔を話すと、自分の顔があったであろう位置には涙の跡がしっかりと残っている。

 そして頭を撫でていたミュベールが、明華が動いた事に気付かないわけがなかった。

 

「……落ち着いた? 明華ちゃん」

 

 そう言ってくれるミュベールさんの声は変わらず穏やかで、私を気遣ってくれてるのがわかる。

 ……それに、すごく温かい。

 

「……姐姐(ジェジェ)

 

 だから、なのかな。思わずこんなふうに呼んじゃったのは。

 

「……明華ちゃん? 今のは……?」

「あ、その、ですね。あたし一人っ子なんですけど、お姉ちゃんがいたらミュベールさんみたいなのかなって思って、それで……」

 

 恥ずかしさで言葉が最後まで続かない。あんだけ泣きわめいておいてアレだけど恥ずかしいものは恥ずかしい。

 

(呆れられてたらどうしよう……)

 

 そう思っていたけどそれはいらない心配だった。

 だってミュベールさんは――――――

 

「私でよければいくらでも姉代わりになってあげるわ。私も明華ちゃんみたいな娘が妹なのは大歓迎よ?」

 

 あたしの不安を柔らかい笑顔で受け入れてくれたのだから。

 

 

 

 

 

「落ち着いた? 明華ちゃん」

「は、はい。ほんと色々とごめんなさい……」

 

 落ち着いた明華ちゃんの隣に座り直したけど明華ちゃんはさっきまで自分の行動を思い出して顔を真っ赤にして俯いてる。

 ……まぁあんなに泣きながら自分の心情を言うのは確かに恥ずかしかったでしょうね。私だって明華ちゃんぐらいの時に同じような事をしたら恥ずかしさで相手と目を合わせられないし。

 

「気にしないで。私も明華ちゃんの助けになれたなら嬉しいから」

 

 私が明華ちゃんの助けになれたかは彼女にしか判らないけど、あの涙を受け止めた事に意味があったと私は信じたい。

 

「それと私から言った事は鳴谷君には内緒にね? 鳴谷君も貴女に黙っている事をずっと悩んでるから」

「慧も……?」

 

 鳴谷君も明華ちゃんに黙ってる事を悩んでるし、その事がプレッシャーにもなってる。トレーニングや訓練に付き合っている時に、彼は明華ちゃんに心配をかけてないか不安だと言っていたし。

 

「そっか……。慧も悩んでたんだ……」

「ええ。だから明華ちゃん、この件で鳴谷君を責めないであげてね? そもそもこの件で鳴谷君は口外するな、って言われてるから好きで明華ちゃんに黙ってたわけじゃないの」

 

 そもそも組織として見た場合、口外せずにいる鳴谷君の方が正しくてこうして明華ちゃんに話した私の方が間違ってる。だから明華ちゃんにはその事を誤解してほしくない。

 

「……ミュベールさんはどうしてここまでしてくれるんですか? ミュベールさんが教えてくれたことって話すのマズいことなんですよね?」

「そうね。いい悪いで言えば悪いわ。思いっきり守秘義務に反するし」

 

 そう言うと明華ちゃんの瞳が不安に揺れる。

 たとえ明華ちゃんが誰かに話したりしなくても、私のした事が機密事項の漏洩には違いない。話した相手がどうこうではなく話した事自体が問題なのだ。

 

「けどね明華ちゃん。私はね、女の子が泣いているのを見るのは嫌なの。……明華ちゃんを泣かせた私にこんな事を言う資格はなのかもしれないけどね」

「そんなこと……」

 

 けどそれは傭兵……というより軍属の人間としての正しさ。その為に誰かを泣かせるのは受け入れられない。

 たとえそれが原因で社を追われたとしても私は私の信じた道を行きたい。 

 

「だから私は今回話したの。結果として明華ちゃんを泣かせちゃったけど、貴女が鳴谷君と仲が悪くなるよりはずっといいわ。……憤りで流す涙と誰かと仲が悪くなって流す涙は違うもの」

 

 どちらが重いというのわけじゃない。けど前者と違って後者は流さなくても済むかもしれない。なら私は自分に矛先を向けられても後者を止められる方を取る。

 ……それが巻き込んでしまった側の責でもあると思うから。

 

「ミュベールさん……ありがとうございます」

「いいのよ。お姉さんみたい、なんて思ってくれたならそう思ってくれる妹を助けるのは当然だもの」

 

 実際には明華がそう思うよりも前に行動していたミュベールだが、それに突っ込むのはまぁ野暮というものだろう。

 

「あの……これってバレちゃいけないんですよね?」

「ええ。これは鳴谷君にも秘密だから共犯者ね、私達」

 

 小さく笑みを浮かべ、唇に人差し指を当ててそう言うとようやく明華ちゃんの瞳から不安の色が消えて笑ってくれた。笑顔といっても少し困ったような笑顔ではあるけど、それでもさっきまでの泣き顔よりずっといい。

 明華ちゃんが見せてくれた笑顔に私はようやくここにきてよかったと実感出来たんだから。

 

 

 

 

 

「明華ちゃんは英語は得意? あ、この場合の得意っていうのは成績がいいとかじゃなくて会話みたいに実用的な事なんだけど」

「えっと……得意というわけじゃないですけど、できないってほどでもないです」

 

 あれから私達は少しの世間話になって、そこから明華ちゃんの進路の話になった。学生の明華ちゃんにとって進路をどうするかは人生の大きな分岐点になる。その上で英語が出来るか否かで選択肢がだいぶ変わるし、もう一つ気になる事もある。

 

「これは私の勘なんだけど……おそらく鳴谷君はザイとの戦いが終わっても空から離れる事はないわ。今みたいに軍に近い位置にいるか民間の航空機会社に行くかは判らないけどね」

 

 私の気になる点というのはコレだ。鳴谷君は間違いなくこの戦いが終わってからも空にいる事を選ぶ。明華ちゃんが鳴谷君の傍にいる事を選ぶなら、その準備は早い方がいい。

 

「どうしてそんなことがわかるんですか?」

「判るわよ。彼と同じような目をした人はたくさん見てきたもの。私も彼も『ソラ』に魅せられた人間だから同族なのは判るのよ。その辺りの理由は私より明華ちゃんの方が知ってるんじゃない?」

「それは……そうですけど。けどそれと私の英語ができることとなにか関係があるんですか?」

 

 まぁ確かに。これだけだと話は繋がらない。

 けど――――――

 

「これは私からの提案なんだけど……明華ちゃん、貴女航空関係のスタッフを目指してみない?」

 

 彼女が私の提案を進路に考えるなら話は変わってくる。

 

「……はい?」

「だから航空関係を目指す気はない? 航空関係って聞くとパロットをはじめとした乗務員が浮かぶと思うけど空港自体に務めるグランドスタッフも立派な航空関係者よ」

「えっ? それって……」

「明華ちゃんの考えている通りよ。鳴谷君が航空関係に進むなら実際に支える立場を目指すのも悪くないと思うのよ、私は」

「!!」

 

 私としては悪くない進路だと思う。グランドスタッフは乗務員に比べてなる為の門が狭いわけじゃない。勿論グランドスタッフの中でも管制官を目指すなら必然的に競争は激しいけどそれに見合ったやりがいもある。

 ……まぁ問題がないわけじゃないんだけど。

 

「とはいっても今はザイの事があって航空関係の仕事は落ち込んでる。そこは今戦ってる私達を信じてもらうしかないんだけど」

 

 特に国際線は世界的に見ても縮小傾向にある。ザイの制空権下にある中国大陸は飛行禁止区域に設定されているからだ。だから私が明華ちゃんに進めた道は人類側(私達)がザイに勝たないと安泰とは言えない。

 ――――――その一方で有望そうな学生を押さえておきたいというのもある。

 

「それに……これは当分先になるけど、中国をザイから奪還したら沿岸部はともかく内陸部は復興の為に幾つも空港が出来る。だから今のうちにスタッフとして有望そうな人を押さえておこうと思って」

 

 ザイとの戦後、中国大陸に空港が再建されれば間違いなくそこで働いてもらう人が必要になる。けど人は一日二日では育たない。管制関係のように専門知識がいるとなると猶更だ。

 

「だから英語ができるか聞いたんですか?」

「ええ。空港……特に国際空港のスタッフで英語は必須といえるスキルよ。だから見込みがありそうな子を今から育てておこうかなって」

「そうなんですか……」

 

 スタッフ間でする話はともかく、業務中でやり取りは一部の例外を除いて英語で行われる。だから英語が元々出来るのと出来ないのじゃ下地がだいぶ違ってくる。

 特に明華ちゃんのように元々中国語が出来るとなると、中国で空港関係が再建されたら必ず必要な人材になる。

 

「ま、この事は鳴谷君が話せるようになってからでもいいと思うわ。私としてもこういう道もある、って提示した程度だし」

 

 勿論、ミュベールは明華がその道に進むなら協力する気である。航空関係ならミュベールも知識面も多少は教えられるし、E.F社になら推薦状を出す事も出来る。……その場合はオーストラリア行きが確定するので要相談にはなるのだが。

 それでも明華にとってミュベールがした提案は進路を考える上で一つの大きな指標になった。

 

「あの、ミュベールさん……色々ありがとうございました!」

「お礼なんていいわよ。私がしたくてしたんだから」

「でも……」

 

 本当に気にしなくていいのに。けどそれじゃ明華ちゃんは納得しないわよねぇ……。

 あ、そうだ。

 

「なら明華ちゃん。今度貴女の料理をご馳走してくれない?」

「えっ? でもそんなのじゃお礼にならないち思うんですけど……」

「そうでもないわよ。私もそれなりにはする方だけど……やっぱり気にかけてる娘が作ってくれる料理は食べたいもの」

「なっ!?」

 

 さらっとそんな事を言うミュベールに思わず顔が赤くなる明華。

 ……こういう事を自然体で言うから同性からモテる(なお、本人はある程度自覚した上で言っている)のである。

 

「前に鳴谷君から明華ちゃんのご飯が美味しいって聞いてね。羨ましなーって思ったのよ」

 

 美味しい料理が作れる明華ちゃんにもだけど、ソレを当たり前のように食べてる鳴谷君の方が私は羨ましい。誰かの為に作られた料理がどれだけいいものなのか鳴谷君は気付いてるのかしら?

 

「なら……今度お礼をかねてご馳走します。腕によりをかけて作りますから楽しみにしててください!」

「ええ。あ、その時は鳴谷君には内緒にね? それと今回の事はオーストラリアから戻った私から聞いたって鳴谷君には言っておいて。内容としては荷物が崩れて怪我人が出たって聞いた、とでも言っておけば大丈夫でしょう」

 

 後で鳴谷君にもこの内容で説明したとメッセージを送っておけば彼も帰ってから説明がしやすい。怪我人が出た、となれば急ぎで呼ばれた事の説明もしやすいでしょうし。

 

「そろそろ私は戻るわ。正式な許可を取って出たわけじゃないから遅くなるとマズいから」

「あ、はい。すいません色々と」

 

 明華ちゃんの部屋を出た私達はそのまま家の外に出る。

 ……玄関まででいい、と言ったのにわざわざ外まで見送りに出てくれるあたり明華ちゃんの性格が出てるわね。

 

「それじゃあね、明華ちゃん。今日は私達の都合で振り回して悪かったわ」

「い、いえ。確かに慧が連れて行かれた時はその……嫌でしたけど代わりにミュベールさんとお話出来ましたから。……その、約束の日を決めたらまた連絡しますね?」

「ええ。楽しみにしてるわ」

 

 そうして車に乗り込んだ私は軽く手を振り、それに明華ちゃんがぺこりとお辞儀をしたのを見て車を出す。

 ヘンガー主任からの連絡は特に何もなく、私と明華ちゃんが話している間トラブル等がなかった事に安堵する。

 

(さて……ゲイザー達が戻ってきたら色々話を聞かないとね)

 

 なお、この時ミュベールはゲイザー達が帰ってくるのはまだ先だと考えていた。が、基地に戻って割とすぐ一行が戻ったので、何の為に呼び出されたのかと頭を抱える事になるとはこの時点では思いもしなかったのだが。

 

 

*1
E.F社がグレート・ヴィクトリア砂漠に持つ空軍基地。実際のオーストラリアには存在しない




ストーリー的には三巻ですが今回は久しぶりに明華のターン
原作沿いだとどうしても明華は出番が少なくなってしまうのでこういう時にしっかりと絡ませたいですね

そして本人も言ってる通りミュベールの行った事は当然違反行為です。それでもミュベールにとっては明華が知らない事で慧と彼女の軋轢が大きくなる事の方が問題だったので発覚したらペナルティーを受ける事を承知した上で話しました


……ベルクトと明華が出ると何故か長くなる、不思議だ
厚木基地での内容は原作とあまり変わらない事になるので恒例?の冒頭説明でやっていきます
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