ガーリー・エアフォース Sisiter's Vaportrail   作:liris

26 / 26
クリスマスに投稿ですがそんな要素は全くありません(断言)

もはや投稿ペースが半年に一回になっている事にかなりショック
仕事の勤務時間が夜勤になるとモチベーションが削られる事を身をもって味わっています


……一話一話が長いのも原因なんですけどね






Order24 海の上の間奏曲

「では明日の作戦のブリーフィングを行う」

 

 ハーリングのブリーフィングルームに乗艦していたパイロットが集まる。集まったパイロットは基本的に所属別に分かれているけど例外もいる。私とゲイザーみたいに本所属がE.F社だけど今は独飛に雇われているから小松のみんなといる、というようにE.F社で見覚えのある顔ぶれが散らばって座っている。

 ちなみに今ここにいるアメリカ軍の人達はライノ以外は全員海軍航空隊。空軍の人達は自衛隊から参加する人達同様、オンラインで参加している。

 そんな風に参加する面子を見回していると、横にいる鳴谷君が気まずそうに話しかけてきた。

 

「あの、ミュベールさん。俺……少しならわかりますけど完全に英語だけだと内容がわからないんですけど……」

 

 あー、ソレは考えてなかったわ。

 私は元々英語圏で日本語も大丈夫だから忘れてたわ。

 

「私が訳してあげるから疑問点があれば教えて。言葉の意味ならその場で。作戦への質問なら後でその為の時間があるから代わりにしてあげる」

「……ありがとうございます」

 

 小松に帰ったら英語の勉強も見ようかしら。日本の学校のいわゆる『テストの為の勉強』じゃ使う為の英語は身に付きにくい、って学生の頃日本の留学生から聞いた事があるし。

 

※以後の会話で『』内の言葉は英語だと思ってくお読みださい。

 

『今回の作戦の指揮を執るオーストラリア国防海軍、空母ハーリング艦長のカミナガだ。今回の作戦目標は大陸内部への反抗拠点となる上海の奪還。なので今回の作戦はオーストラリア、日本、アメリカの三軍での合同作戦となる』

 

 上海奪還という言葉に集められたパイロット……特に傭兵組がザワつく。耳を澄ますと『いよいよか』とか『腕がなる』といった言葉が聞こえてくる。

 と、聞き耳を立てていると鳴谷君から疑問が飛んできた。

 

「ハーリングの艦長って日本人なんですか?」

「いいえ。カミナガ艦長は日系ではあるけどれっきとしたオーストラリア人よ」

 

 そこに驚くの? と思ったけどもしかしたら私達が慣れているだけで鳴谷君の反応の方がむしろ普通なのかもしれない。

 

『静かに。これより作戦の説明を行う。ブルーム作戦と名付けられた当作戦は三段階に分けて進行する。まず航空戦力を中心に制空権を確保するジュピター作戦。次に艦砲、ならびに巡航ミサイルによる地上攻撃を行うマーキュリー作戦。その後の上陸戦となるマーズ作戦に分かれている。貴官達の出番は言うまでもなく、制空戦となるジュピター作戦だ』

 

 艦載機組で希望者がいれば爆装してマーキュリー作戦にも参加してもいいぞ、という冗談が続きあちこちから苦笑混じりの笑いが起きる。

 ……何人かの傭兵から稼ぎ時だのやるか等と割と本気なのがいるけどそこは個人の自由という事でスルー。

 

『さて、貴官達に参加してもらうジュピター作戦だが、今回の作戦はまずフェイズ1でオーストラリアのXC-70と当艦隊から発射したMPBMで先制攻撃する。この攻撃は敵の数を減らすためでもあるが、同時にザイを散らばらせて密度を下げる目的もある』

 

 XC-70だけでなく、艦隊側にもMPBMを積んでいる艦がある事に少し驚きだわ。勿論同じなのは弾頭だけでベースはSM-6でしょうけど。

 

「今回もMPBMを使うんですか?」

「みたいね。ベルクトの時の件で密集して出てくるザイに有効なのが証明されたから使わない手はないでしょ?」

 

 数の多いザイは戦闘になれば散開するけどそれまでは固まっている事が多い。範囲攻撃が出来るMPBMは先制攻撃としてうってつけ。マリアナ沖での戦闘でそれが証明されたから大規模な戦闘ではこれからも使われるでしょうね。

 

『続くフェイズ2は貴官らパイロットやアニマの出番だ。このフェイズ2は編成を大きく三つに分ける。足の長い長距離空対空ミサイル(LR-AAM)を積み、撃ったらすぐ帰還・補給し再攻撃を繰り返すα(アルファ)隊。軽く、数を持てる短AAMをメインに積みドッグファイトを行う近接部隊であるβ(ベータ)隊。そしてアニマ、ブラウラーで編成し戦域の“穴”を塞ぐθ(シータ)隊の三隊に分ける』

 

 編成を分けていればCICからの指示も個別じゃなく纏めて出来るから、指揮のしやすさという点から見ても当然といえる編成。

 加えてコレなら練度の低いパイロットでも戦力になる。……つまり、α隊に編成される隊はザイ相手にドッグファイトをするのが難しいと告げられる事でもある。

 

『編成の内容だが一番の激戦区となる近接戦闘隊のβ隊にはE.F社とオーストラリアからの選抜隊を中心に編成し、ロングレンジ攻撃が主体となるα隊にはアメリカの海軍航空隊と日本な航空自衛隊を中心に編成する。なお、航空自衛隊に派遣されているアクィラ隊の二人には現場での指揮と電子支援をしてもらうためβ隊と共に出撃してもらうが……構わんな?』

『大丈夫です。いけます』

 

 これは予め聞いていた事。空中管制機(AWACS)がいるとはいえ現場で指示を出せる人間は一人でも多い方がいいし、そもそも負担の大きいβ隊に私達傭兵組が入れられるのも当然だ。

 

『空母への着艦能力を持たない機は武装を使い果たした時点で離脱してもらう。本作戦では補給基地として台湾が全面協力してくれているからそこで補給し、可能ならそこから再出撃してもらう』

 

 だから燃料の心配は不用だと言外に加えられる。空戦は燃料消費が激しいから帰りの燃料を心配しなくていいのは大きい。

 台湾も直接戦闘には参加しなくても後方支援という形で支援してくれる。空母に降りれない通常の機体も武装を使い切った後に再出撃出来るのはありがたい。

 

『それと今回は戦域が広いため電子戦機E-767が二機サポートに来る。このE-767はAQUILA02の指揮下に入る。――――――ゲイザー。この二機を中継(ハブ)にする事で広域を支援出来るし“目”も広くなる筈だ。好きに使え』

『イエッサー』

 

 E-767が二機も来てくれるのは心強いわ。ハーリングの艦載機も合わせると、今回の作戦にはAZCCだけでも40機近くいるから戦域のほぼ全てで電子支援が受けられる。余程変な位置から撃たない限り当たるでしょうね。

 

『なお、本作戦にはアークバードも参加する。とはいえ彼等の主な役目はザイがこちらのMPBMのようなミサイルを使って来た時の迎撃や大型の連中が現れた時のカウンターだ。今作戦は敵味方入り乱れての乱戦になる可能性が高いため不利な隊への直接支援は難しい。その事を忘れるな』

 

 直接的な支援がないとはいえ、アークバードも来る事にどよめきが広がる。直接支援は期待するな、と言っていたけどミサイルを正確に撃ち抜くあの照準精度なら要請次第で向こうも応えてくれるでしょう。

 

『――――――以上が今回の作戦の内容だ。なにか質問がある者はいるか?』

 

 質疑応答になり、私達より前の方で聞いていたオーストラリアの海軍航空隊のメンバーから手が挙がる。

 

『純粋な疑問ですが、いくら電子支援を受けて武装を無駄なく使えても迎撃に出てくるザイは相当な数が出てきます。そうなると数で押されると思いますがその対策は?』

 

 この疑問は私も含めて作戦に参加する多くのパイロットが気になっていると思う。私自身は空戦機動でザイに遅れをとるつもりはないけどザイの『数』という優位はそれだけで脅威だし、そもそも並程度のパイロットはザイの動きに対応出来ない。

 ゲイザーは元々その『数』の不利を埋める為に生まれたアニマだけど、それでもミサイルの数には限界がある。私としてもこの答えはきになるところ。

 

『それに関してはこちらのシャンケル博士から説明してもらう。……博士、お願いします』

 

 艦長に促され、白衣を着たいかにも研究者然とした白人の男性が出てくる。

 ……あの人がシャンケル博士。グロウラーを開発した人、か。

 

『き、君達の疑問はもっともだ。確かにザイの数は厄介な要素だが、連中はそれを完全に使ってはいない』

 

 シャンケル博士の言葉にざわめきが広がる。私としても今の言葉の真意はとても気になる。

 

『こ、このグラフを見てほしい。このグラフは過去の戦闘で連中が撤退したタイミングを解析したもので、横軸が時間、縦軸がザイの被撃墜数だ。け、結論から言えば連中は単位時間で戦力の2~3割を失った際に撤退する。言ったん戦域から退いて被害の拡大を抑えに入る、というわけだ。連中は決して全滅するまで戦ったりはしない』

「……そういえば海鳥島の時もザイは不利になったら退いていきましたね」

「私もザイが全滅するまでやったのは少ないわ」

 

 その数少ない例外は向こうの数が少なく、撤退する前に速攻で墜としたケースだけ。

 確かに博士の言う通り、連中はある程度纏まった数で仕掛けてきても必ず全滅する前に撤退する。とても興味深い話だわ。

 

『な、なので今回は連中のこの行動を利用する』

『利用って事はこっちの被害が大きくなる前に連中が退くまで墜としまくるってことか?』

『そ、その通りだ。今回は敵の数も多いだろうから2~3割減らすだけでもかなりの数を叩かなくてはならない。それに長引けばそれだけ連中が撤退する可能性が小さくなるから、作戦が始まってすぐに片をつける必要もある。だ、だから合同での作戦だ。』

 

 シャンケル博士の説明に勝てるかもしれないという空気が広がっていく。それだけ博士の説は衝撃的なもので、特にアメリカ軍の人達の反応が顕著だ。

 

(第七艦隊の事もあってアメリカ主導の作戦は今のところ失敗が目立つものね)

 

 だからアメリカの上層部(上の連中)の思惑はともかく、現場の人達は名誉挽回のチャンスを求めていた。今回の作戦でザイへの対策は自国の人間が中心になっているとなれば士気も上がるでしょうね。

 

『他に訊きたい事があるものは?』

 

 私達の近くにいたファントムが挙手する。

 あの娘、変な事言わないでしょうね……?

 

『日本の航空自衛隊、独立飛行実験隊のファントムです。この作戦ではβ隊の負担が一番大きいと思われますが、β隊の損耗率はどのくらいを見積もっているのですか?』

 

 予感的中。やっぱりというか、特大の爆弾を落としたわね。

 ファントムの質問にどう答えるのか、カミナガ艦長に視線が集中する。――――――そして艦長は重苦しく口を開く。ある意味、作戦に参加するパイロット達への死刑宣告となるその数字を。

 

『……はっきり言っておこう。β隊の損耗率は少なく見積もっても40%以上と言わざるを得ない』

 

 ――――――損耗率40%以上。その数字にパイロット達の間に動揺が走る。しかも少なく見積もってという事はそれより大きくなるという事でもあるし、ザイ相手だと間違いなく40%のラインを超える。

 ……出撃すれば二人に一人は戻って来れないかもしれない数字だから動揺するの人が出るのは当然、か。

 

『では、今回の作戦はそれを踏まえたものである、と?』

『そうだ。これだけの損耗率が出る事を承知で軍、ならびに各国政府の上層部はこの作戦を立て、許可を出した』

 

 確かにザイが跋扈する大陸本土に仕掛けるなら犠牲が出る事は避けられない。加えてザイにどこまで人間の“常識”が通じるか判らないし、私達がアークバードを使ったようにザイにもなんらかの“隠し玉”がある可能性だってある。

 

『最後にオレ個人から貴官達に言っておく。こんな作戦を認めたオレが言えることではないが――――――できる限り生き残れ。緊急脱出(ベイルアウト)するのは恥ではない。機と運命を共にする事こそが恥と思え。機体は金で買えるが君達パイロットはそうではないからな』

 

 ――――――生き残れ。ソレはシンプルながらもパイロット達共通の交戦規定(ルール)

 カミナガ艦長は元々航空隊の際出身だからパイロットの事をよく知ってる。……その艦長からみれば多くのパイロットに犠牲を強いる今回の作戦は出来れば許可したくなかったでしょうね。

 

『お前達はこれからも国の未来を背負う者だ。もう十年経てば君達の中からも国の舵を取る者だって現れるだろう。その時まで生き残って――――――我々老いぼれの年金を払ってくれ』

 

 冗談めかした艦長の言葉にブリーフィングルームに笑いが起き、緊迫した空気が適度に緩む。隣の鳴谷君も今の言葉でいい意味で緊張がほぐれたみたいだし。

 

「……なんか意外ですね。オーストラリア軍の人達って偉い人達でもあんな冗談を言ったりするんですか?」

「朱に交われば赤くなる、ってね。演習や訓練で私達E.F社の傭兵と関わっていたら無駄な硬さは抜けてくるわ」

 

 軍としても初めは渋い顔だったそうだが、その方が却って連携が取れて結果が良くなったそうだ。規律等に関して厳しいイメージのある軍だが、より良い結果を出せるソレを認めない程柔軟性がないわけじゃない。

 

『これでブリーフィングを終わる。――――――あぁ、それと差し障りのない範囲でならどう過ごしても構わん。ハメを外し過ぎないようにな』

 

 艦長自ら堂々と黙認宣言をする、というのはオーストラリア以外の軍ではあまりないでしょうね。オーストラリア軍はE.F社というPMCと共同で訓練や任務をする機会が多いからか、割とそういう事には寛容だ。

 それに今回はオーストラリア、日本、アメリカの三軍(オーストラリアはE.F社と正規軍だから正確には四軍だけど)による合同作戦。少しでも打ち解ける機会をという艦長なりの配慮なんでしょうね。

 

「みんなはどうする? 私は知り合いがいるかもしれないから参加するけど」

 

 答えが判りきってる娘が二人ほどいるけど、その二人以外は判らないから一応訊いておく。

 

「イーグルも行くーっ!」

「わたしも行こっかな。海軍式のこういう会がどんなのか興味あるし」

 

 答えの判っていた二人――――――イーグルとゲイザーは迷わず即答。むしろこの二人の場合、騒ぎ過ぎの方に注意しないと。

 

「鳴谷君達は? 勿論出ずに休んでいるのもアリだけどたぶん結構美味しいものが――――――」

「慧。行こう」

「……決まりみたいね」

 

 最後まで言うのを待たず『美味しいもの』に反応するグリペン。

 ……美味しいものに興味があるのが悪いとは言わないけど、ソレをエサに攫われそうで少し不安を感じなくもない。この辺りも鳴谷君には頑張ってもらわないと。

 

「ファントムは? 無理強いはしないし、しなくてもいいけど」

 

 正直ファントムはそういう場に喜んで参加するタイプには見えない。だから誘いはしたものの断られると思っていたんだけど――――――。

 

「そうですね。せっかくですので私も行きましょう」

「……意外ね。誘っておいてアレだけど断られると思ってたから」

 

 本当に意外。ファントムの事だから馴れ合いは不要です、って断るかと思ってたけど。

 

「逆に訊きますがグリペンやイーグルから目を離して安心できますか?」

「うん、無理ね」

 

 グリペンは料理があれば大人しくしてるだろうけどイーグルを一人にしておくのは不安。……なんというか、イーグルのノリとこういう場で騒ぐ連中は『ウマが合いすぎる』のだ。

 残念ながらゲイザーもこういうのは楽しむ方だからブレーキになってくれるかはちょっと怪しいところがあるし。

 

「ええ。ですので大変遺憾ですが私は二人のお目付け役として行くとしましょう」

 

 ブリーフィングルームのドアに目を向けると、食堂までの案内人とおぼしきハーリングの乗員が何人かスタンバっている。

 ブリーフィングルームを出た私達は彼等に食堂までの案内をお願いしつつ、無理のない範囲でハーリングの説明もしてもらうのだった。

 

 

 

 

 

 案内されて着いたハーリングの食堂は戦場にだった。訂正、戦場のような騒がしさだった。なんというか……まさに飲めるや食えやの大騒ぎ、が一番しっくりくる。

 

「……ここ、空母の中でしたよね。場末の居酒屋などではなく」

 

 心底頭が痛い、というのが態度に出ているファントム。隣にいる鳴谷君も唖然としてる。

 そしてそんな二人を気にしてないのがここに二人。

 

「ね、ミュベール。もう入っていいんだよねっ!?」

「ええ、楽しんでらっしゃい」

「慧、行こう」

「ちょ、ちょっと待てよっ!?」

 

 意気揚々と参加していくイーグルと、料理に惹かれたグリペンに引っ張られて騒ぎの中に入っていく小松組。そんな三人を見ながら呆れたようにファントムが溜息をつく。

 

「まったくあの二人は……」

「あはは……。ミュベール、あの三人はわたしとファントムに任せて。知り合いも来てるんでしょ?」

 

 さらっとファントムを巻き込んむゲイザー(我が妹分)。いや確かにファントム自身もグリペンとイーグルから目を離すつもりはないって言ってたけど。

 

「さらっとファントムを連れてく気も満々だけど……いいの? ファントム」

「私とて知り合いに会う邪魔をするほど野暮ではありません。……非常に不本意ではありますが」

「思いっきり嫌そうじゃない」

「まぁまぁファントム。少しは楽しもうよ。そんなふうに眉間にしわを寄せてたら可愛い顔が台無しだよ? ほら行こ?」

 

 口説くような口上でファントムの手を引くゲイザー。少しだけ振り向き、ウインクしていくあたり本当、誰に似たのかしら?*1

 ……けど、あの二人がいるならイーグル達の手綱は任せて大丈夫そうね。余程の莫迦がいない限りあからさまな未成年に酒を出すのはいないでしょうし。

 私は私の相手を探すとしますか。

 

「さて、どこにいるかしらっと」

 

 こういった場では暗黙の了解と言うべきか、騒ぎたい人はテーブル席の方に集まり、逆にカウンター席にはその騒ぎをみて楽しんだり騒ぎから少しだけ離れたい人が集まってる。

 だから彼女がいるならカウンター席にいるハズなんだけど……っと、いたわね。

 

「ナガセっ!」

「……スタークス? 久しぶりね。いつ以来かしら?」

「第六航空団内での以来じゃない?」

 

 彼女はケイ・ナガセ。私同様アークバードの元クルーで所属も私と同じ第六空団。違うのは私は傭兵だけど彼女は国防空軍の所属という事ぐらい。アークバードのクルー時代も彼女とは同期だったから付き合いとしては一番長かったりする。

 

「それにしても貴女達ラーズグリーズまで参加してるとは思わなかったわ。そっちの他の面子は?」

 

 そう訊くとナガセは苦笑しながらテーブル席の方を指す。指の向いた方向を見るとナガセ以外の他の面子はテーブル席で盛り上がっていて、そこにすごーく見慣れた金髪娘が一緒になって騒いでいた。……よし、今のは見なかった事にしましょう。隊の隊長がヘッドロックをかけられているなんてのはきっと私の見間違いだ。

 

「相変わらず元気そうね、貴方達」

「……気を変に気を遣わなくていい」

 

 ラーズグリーズ隊は国防空軍の中でも珍しく、隊の中での上下関係はあまり厳しくない。と、いうのも彼等は数あるオーストラリア国防軍の中でも唯一訓練生時代から同期で固められた隊だ。加えて私達傭兵ともウマの合うとても陽気な

 

「それにしてもビックリしたわ。基本的に国外に出る事のない貴女達が参戦するなんて」

「……私達が来たのは勿論上海奪還のためだけどもう一つだけ理由があるの」

「それって私が聞いていい話なの?」

 

 私も彼女も所属は同じ第六航空団。けど傭兵の私と正規軍のナガセじゃ当然扱える情報のレベルが異なる。

 聞いちゃいけない類の話だった場合、『理由がある』と教えてくれただけでもかなりのサービスになる。

 

「大丈夫。むしろ用件はあなたよ、スタークス」

「私?」

 

 ラーズグリーズが来た理由の半分は私にあると言われても心当たりはない。強いて言うならベルクトの件で無理を言った事ぐらいだけど。あの件にラーズグリーズ隊は関わってないからザッパリだ。

 けどナガセの持ってきた話は確かに彼女の言う通り私ととても縁のあるモノだった。

 

「ミュベールはアークバードの二番艦がどうなってるの知ってるわね?」

「ええ。計画は凍結されたけど、機体の大部分は完成してたから今は航空博物館で展示されてるんでしょ」

「その凍結した計画を復活させる案が国防宇宙軍で挙がってるの」

「……本当に?」

 

 今更アークバード計画が復活? 予算だのなんだので中止になった計画が今になって?

 

「ザイとの戦いでアークバードの有用性が証明されたから計画を再開させる案が出たの。……都合のいい事に、二番艦の機体は完成していて、後は中身を入れるだけだから」

 

 確かに一から造るよりある程度完成してるモノを使う方がコストは抑えられる。

 そしてここまで言われれば私への用事も想像がつく。

 

「……私に国防宇宙軍に戻れっていうの?」

 

 私の言葉にナガセは静かに頷く。

 確かにそれなら私向きの用件だ。元アークバードのクルーの中でも空軍に残ったのは実はあまり多くない。私みたいに再訓練が最小限で済み、かつ軍の内情にも詳しいとなるとそれこそ片手で数えられる程しかいない。だからこそ声がかかったんだろう。

 

「一つ確認したいんだけど……それは、命令?」

「違うわ。アークバードのクルーは今のところ志願と推薦。強制じゃない」

 

 ……そう。なら答えは決まってる。

 私は――――――

 

「……正直、とても嬉しい申し出だわ。私が一人でやってたら受けてたわね」

「残念ね。やっぱり断る?」

 

 やっぱり、って事はナガセは私が受けないって判ってたみたいね。言葉とは裏腹に全然残念そうじゃなさそうだし。

 

「悪いけどね。今の私には大事な妹分がいるの。たとえ天秤の反対側に乗っているのが昔の夢だったとしても、今の私はあの娘達の姉貴分でいる事を取るわ」

 

 そう言いながら私は視線をゲイザーに向け……る途中でファントムが瓶に直接口をつけて酒を飲み干してる姿が目に入る。

 いや、なにやってるのあの娘っ!? いつもの冷静さはどこに行ったのよっ!? ゲイザーはゲイザーで周りと一緒になって囃し立ててるし!

 そんなあの娘達の方を見て唖然としてる私を見てナガセは小さく、けど楽しそうに笑ってる。

 

「E.F社の社長が言っていた通りね。あの人言ってたわよ。ミュベールは多分断るだろうって」

 

 やっぱりというか社長にも話はしていたらしい。今の私はE.F社に籍があるから当然といえ当然なんだけど。

 

「社長はなんて?」

「『個人的には断りたいところだが、ミュベール本人が望むならその意志を尊重する』と聞いてるわ」

 

 ……コレだから社長には頭が上がらない。社の利益としてはマイナスになると判ってても、私達の意思を優先してくれるから私達もよほどの事じゃない限りE.F社を辞めようとは思わないのよね。

 

「社長には私の考えなんてお見通し、ってわけね」

「いい上司じゃない。それにミュベールの気持ちは私もわかる。私も子供の頃からの夢だったアークバードに乗り続けることより彼の隣で飛び続けることを選んだから」

 

 そう言うナガセの視線は私……じゃなく私の後ろ。取り敢えずはまだじゃれ合いの範疇でヘッドロックをかけられているラーズグリーズ隊の隊長であるに向けられてる。

 

「似た者同士ね、私達」

「……そうね」

 

 私達は昔からの夢よりも今自分の隣にいる相手を選んだ。

 昔の私が今の私を見たらどう思うのかしら。夢を捨てた事を蔑むか……夢よりも大事なもの(存在)が出来た事を喜んでくれるのかしら?

 

「またこうして一緒に楽しみたいわね」

「その時はザイに勝った時の祝勝会か、宇宙が再び平和利用される事を願ってやりましょう」

「悪くないわね」

 

 軍事の評論家辺りが聞いたらなにをバカな、と一笑するかもしれない。けど私達は宇宙軍時代の教官からこう教わった。

 『本当に叶えたい願いは疑問形ではいけない。必ず出来ると自分の中で確信として持て』と。だから私達は再びグラスを交える日が来る事を疑わない。――――――必ずその日は来る。そしてお互いその時も生きていると信じているから。

 

「それじゃ今夜は今回の作戦の成功を祈って」

「それと人類(ヒト)の勝利を願って」

 

 乾杯、と二人がグラスを合わせる。キン、とグラスが喧騒の中静かに響いていた。

 

 

 

 

 

『……それは確かなのか?』

 

 一方その頃、ミュベール達が小松基地では基地に残っているヘンガーが自身の纏めたファイルを片手に電話をしていた。

 いい機会だからと他のE.F社スタッフは臨時の休みにし、自身はE.F社本部でS-32のC整備をしている顔馴染みの達と今後のアップデートを視野に入れた打ち合わせを()()()()()()()()

 

『ああ、残念ながらな。お前も気付いてはいたんじゃないか?』

『……まぁ、な』

『それでどうする。ミュベールには悪いがS-32(この機体)はもって一年というところだ。それ以上は耐えられんぞ?』

 

 自分の外れててほしかった予想が当たってしまい、ヘンガーは思わず近くの壁を力任せに叩く。

 元々S-32という機体が実験機だったため、性能面はともかく機体の耐久性という点では不安があったからだ。

 

『……ミュベールからは今回の作戦後にこっちで説明しておく。そっちでも出来るだけの対策を頼む』

『ああ、それは任せておけ。彼女に死なれたら困る』

 

 そんな事になったら本社の女性陣に刺されかねん、と笑いながら言ってくれるがミュベールの本社での人気を考えると本気でそうなりかねん。『お姉さま』と慕われているのは伊達じゃないのである。

 

『それともう一つ。今E.F社(ウチ)で手配出来る機体をリストにしといてくれ。……勿論、ミュベールの技量に応えられるのをな』

『それは構わんが調達コストがかなり高くつくぞ? ミュベールレベルの技量に応えられる機体は限られるからな』

『その辺りも要相談だな。それじゃ頼むぞ』

『ああ、任された』

 

 電話を切ったヘンガーは煙草を取り出し、一服する。

 普段はミュベール達の機体があるのでハンガーで煙草を吸うのはご法度だが、今はハンガーに機体はなくがらんとしているから遠慮することなく吸える。

 

『……避けられないとはいえ、何度訪れても嫌になるな。パイロットに機体の耐用限界が迫っているのを伝えるのは』

 

 それもミュベールのように愛着を持ってるパイロットなら猶更だ。ロシアとE.F社双方で墜落事故を起こし、欠陥機の烙印を押されようとしていたS-32はまさしく出会うべきパイロットに出会えた稀有な機体だ。それを整備し続けたヘンガーも当然愛着はある。

 

「……不味いな」

 

 好きな銘柄のハズなのに今夜の煙草の味はひどく不味く、不安を吐き出すための慰めにもならなかった。

 

*1
どの口が言うか




あとがき

原作にもあるシャンケルのどもりは日本語で話しているからだと思いますが、当作では英語での会話でもどもらせています。
……その、どもりを取るとキャラが薄くなったので(メタい)

そして今回登場したハーリングの艦長。最後の一言を言わせたいために引っ張ってきました。彼の元ネタを知ってる人がいたら驚きです



なお、最後の一幕で本社と本部両方が出ているのは仕様です。詳しくは後に書くオリジナルの話で説明します
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。