ガーリー・エアフォース Sisiter's Vaportrail 作:liris
そしてお待たせしました。
ミュベールとゲイザーの機体お披露目ですっ!
※前話でのミュベールの待遇を中尉に変更しました
――――――小松基地。
日本の航空自衛隊の基地の一つであり、ザイに抗う日本の最前線。
その滑走路を一人の男性と少年が眺めていた。
「オーストラリアから増援が来るって言ってましたけど……どんな人が来るんですか?」
そう尋ねたのは鳴谷 慧。上海近海でグリペンと出会い、ザイから非難した日本の小松で再会した少年。グリペン曰く『自分に欠けていた』存在。そしてグリペンを通して空への憧れが再燃した『
「正確には一人と一機だな。来るのは傭兵とアニマだ」
答えたのは八代通 遥。日本のドーターとアニマに関する技術の第一人者。……技官とはいえ肥満体で、お世辞にも整っているとは言えない顔立ちのせいか一見しただけでは自衛隊の関係者には見えないが。
「戦力としてアニマだけじゃなくパイロットの方も優秀な実績がある。ベトナムを中心とした東南アジア方面でザイの撃墜数がトップのパイロットだ。あそこは南洋の守りで正規軍や多くの傭兵が常駐している激戦区だ。その中でのトップというのは生半可な実力じゃない」
「撃墜数トップ……」
その言葉に慧は思わず言葉を呑む。グリペンと一緒に飛んだからこそ、その言葉の重さがわかる。自分はザイを墜とすどころか意識を保つだけで精一杯だった。けど今から来る人はザイを何機も墜としているという。内心、どんな人なのか興味津々だった。
「そのせいで向こうには高い金を取られたよ。幸いにも報酬は上からの支払いだからアニマに関する予算を削られずに戦力を増やせて助かったがな」
露骨に顔をしかめる八代通だがそれは仕方がないだろう。慧は知らないが相場より四割増しの報酬なのだ。元々予算が多いとは言えないだけに削れるなら日本側としてはもう少し削っておきたかった、というのが本音だ。
「と、来たな」
八代通の言う通りジェットエンジン独特の音を響かせ、二機の戦闘機がアプローチしてくる。が、その機体に慧は驚いた。
一機はまるで鏃をそのまま戦闘機にしたような機体。全体的にのっぺりとした直線的な面の多い機体で、グリペンやイーグルに見慣れたせいか異様な雰囲気を纏っているように見える。
その特徴的な機体に慧は見覚えがあった。グリペンのことを調べている時に見つけた機体。あれは確か――――――
「F-117?」
「似てるが少し違うな。E/F-117G、あれがE.F社のアニマだ」
八代通の言う通り機体のカラーリングが通常ではありえない赤褐色。同じ赤でもグリペンのそれとはまったく違う。例えるならグリペンは煌めきのある
そしてアニマを先導するように降りてきた方もアニマに劣らない異様さを持つ機体だった。黒を基調に白と黄色の混じった迷彩色。F-15を上回る機体サイズにアメリカ系の機体とは異なる流麗なデザイン。加えて主翼が機体の前に向かっている独特の形状に箱型のエンジンノズル。少なくとも慧はそんな機体を見たことがなかった。
「八代通さん。なんなんです、あの機体?」
「おそらくS-32だろう。俺も実物を見るのは初めてだ」
「S-32?」
聞いたことのない機体だ。どこの国の機体なんだろうか?
「ついでだ。乗ってるパイロットとアニマが降りるまで簡単に説明してやる。まずアニマのE/F-117Gだがあれは君の言ったF-117をベースに作られた電子戦機だ」
「電子戦機?」
「一般にはあまり馴染みがないだろうな。通常の戦闘機と違って相手のレーダー妨害や味方のミサイル誘導をサポートするのが主な役割だ」
その分機体自体の攻撃能力はそう高くないがな、とつけ加える八代通。
「話を戻すがE/F-117Gは元にしたF-117に比べてステルス性は落ちているが代わりに電子妨害でそれをカバーしている。電子妨害で相手の目をくらませ、本人はレーダーに映りにくいから見つからない、なんてふざけた機体だよ」
八代通の説明は少々違うところもあるが、電子戦機という概念を初めて知った慧がどんな機体かを知るには充分だった。
「それじゃあもう一機のS-32っていうのはどんな機体なんですか?」
「そっちの方は俺もあまり知らん。知ってるのはアレがロシアの試作機の更にプロトタイプということぐらいだな。E.F社にはその手の機体が多く存在している、と聞いたことがあるが本当だったとはな」
八代通の言うその手の機体、というのは元が実験機や試作機だったりコンペティションで競合機に敗れて正式採用されなかった機体の事だ。
この手の機体は総合能力では正式採用された機に劣るが、特定分野では上回っている事が多い。
例えば機動性を重視した機体でも試作機の段階で挙動がピーキー過ぎた場合、量産型ではある程度マイルドな挙動にされる。これは量産して多くのパイロットが扱う以上避けられない。――――――いくら限界が高くても扱えなければ意味がないからだ。
だが逆に言えば、本来の設計スペックを持っているため量産機では踏み込めない領域にも行けるという事でもある。その領域に踏み込めるのは素質に恵まれ、その機体に巡り合えた運を持つわずかな者達だけだろう。しかしそのわずかな者達だけが、設計上望まれた本来の機体性能を引き出せるのだ――――――。
そうこう話しているうちに二機は着陸し、誘導路からエプロンへと入ってくる。機体はスクランブルにも対応出来るよう、アラートハンガー近くの格納庫になるそうだ。
「さて、それじゃE.F社のエースとご対面といこうか。グリペン達も定期検査が終わる頃だから先に連中の使う格納庫に行ってるはずだ」
そう言ってE.F社の人達が使う格納庫に八代通はさっさと歩いていき、それに続くカタチで慧も走っていく。
……その途中検査が終わっていたハズのグリペンとイーグルの睨み合いに、慧と八代通は頭を抱えたくなった。
着陸したミュベールとゲイザーは機体が格納庫に納められるまでの間、降りる用意をしながら同行する予定だったもう一機の人達について話していた。
≪ねぇミュベール。整備班の人達、大丈夫かな?≫
≪大丈夫よ。あの人達はその道のプロだもの。≫
そう、本来ミュベール達は整備班の人達と機材を積んだ輸送機と共に来る予定だったのだが、油圧系のトラブルで輸送機は沖縄から出発出来なかったのだ。そのためひとまず先にミュベール達は小松に入る事になった。輸送機の修理が完了するまでの間にザイが襲ってこない、という保証がない以上戦力であるミュベール達だけでも先行しなければならなかった。
≪だから、私達は私達の仕事をしっかりしないといけないわ。彼らの事が気になって任務に集中出来ませんでした、なんて彼らが聞いたら間違いなく怒るわよ?≫
≪……そうだよね。わたし達は、わたし達の役目を果たさないと≫
そうして二人は話を終えてそれぞれの機体にかけられたタラップを使い、小松の地を踏む。
降りた側には白衣を着た(おそらく)技術者であろう人と、私服の少年少女が私達を興味深そうな視線で見ていた。
「E.F社所属、アクィラ隊隊長を務めていますミュベール・スタークスです。TACネームはアステル。階級は中尉でザイとの戦闘では主に遊撃任務に就いていました。傭兵の身ではありますが正規軍との作戦経験もありますのである程度正規軍の“流儀”はわかっています。これからよろしくお願いします」
「同じくE.F社所属、アクィラ隊の二番機E/F-117G-ANM ゲイザーです。電子支援を主にしています。隊長共々よろしくお願いしますっ!」
PMCとはいえ正規軍に属する際はきちんとした挨拶をしなければならない。私達は社の代表として派遣されているから雇い主は私達を通してE.F社を見る。だからラフな挨拶は基本的に許されない。
「あー、俺は八代通。防衛省の技術研究本部で特別技術研究室の室長だ。一応そっちも含めて作戦を行う際は指揮を執ることになっている。そしてこっちが
「……よろしく」
「あ、ミュベールだ。やっほー、久しぶりっ!」
ペールピンクの髪の娘がグリペンでイーグルは……相変わらずね。
「なんだイーグル、スタークス中尉と会ったことがあるのか?」
「わたしもそれ知りたいなー。いつ知り合ったの?」
八代通室長とゲイザーからイーグルといつ会ったのかを訊かれるけど……八代通室長はともかく、ゲイザーは予想がつきそうなものなんだけど。
「半年前にね。ほら、ちょうどゲイザーは機体のC整備*1をしてた時よ。その時の雇い主は沖縄のアメリカ軍だったから日本側に私がいる事は知られていなかったのね」
「そうそう、米軍の人達を
あの時は二個小隊程度だったから確か数分で片付けたわね。……大変だったのは戻ってからだったんだけど。
(戻ってからというものイーグルやアメリカ軍の人達に絡まれて那覇の街を飲み歩くハメになったし)
「そういうわけで、私はイーグルと面識があるんです。なので初対面なのはグリペンのアニマと……そこの彼ね」
アニマである彼女はともかく、彼は訓練生としても若過ぎるし服装も私服。年齢はともかく規律にうるさい正規軍の人間が
「ああ、彼はまぁ……民間協力者というやつでね。詳しくは後で説明する」
民間協力者、ね……。自衛隊がそんな事を許すなんてよほど重要な役目があるみたいね、彼は。ま、きちんと説明があるならいいでしょう。
「それじゃ、私は細かい話をしてくるからゲイザーは好きにしてていいわよ。――――――ああ、それと彼からも話を聞きたいのですが?」
「……わかった。それじゃ二人とも執務室まで頼む。ここじゃ落ち着いて話ができんからな」
「わかりました。それでは案内をお願いします」
さて、一体なにが出てくるのかしら――――――?
「――――――というわけで彼はグリペンが安定して飛ぶために必要だ。だから民間協力者としてこの基地に出入り出来るようにしている」
八代通室長から彼がここにいる理由を聞かされたけど呆れと驚きしか出てこない。全く訓練を受けていない一般人をドーターに同乗させ出撃させたなんて……両者揃って墜とされても不思議じゃない。
ただ――――――
(その気骨は嫌いじゃないけどね……。グリペンが彼と一緒じゃないと安定しない、というのは大きな問題なんだけど)
ゲイザーも最初は不安定だったけど、それはあくまで飛行や戦闘機動といった動きの話。グリペンのように起きている事自体が安定しない、というのは致命的だ。
だからグリペンの調子を左右する彼の存在は重要なんでしょうね。……だからと言って一般人を戦場に出すのは個人的には反対だけど――――――
「鳴谷君……だったわね? 一つ訊いてもいいかしら?」
「は、はい。なんですか?」
「どうしてあなたは危険を冒してグリペンに乗るのかしら? 訓練を受けていない身で戦闘機――――――それもドーターに乗るのがどれだけ危険なのかは知っているわよね?」
そう、それが彼自身の意志というなら止めはしない。強制で
だから私は強制でソラに上げる事を容認しない。その時は生き残れてもいずれは墜ちる。あの場所は理由のない人間がいつまで飛べるほど寛容じゃないからだ。
「……スタークスさんが納得できる理由なのかはわかりません。ただ……俺はグリペンと一緒に飛んでいたい、です……」
「アニマが撃墜したザイを使って生まれているとしても?」
「…………ッ!!」
我ながら意地の悪い質問だと思う。それでも、彼がグリペンと一緒に飛ぶと言うなら訊いておかないといけなかった。
「……知っています。けどあいつはザイじゃないです」
そう言う彼の瞳に迷いはない。……どうやら本気のようね。
「その一言で充分よ。……意地の悪い事を訊いて悪かったわね。謝らせてちょうだい」
そう言って私は頭を下げて彼に謝罪の意を示す。さすがにあんな事を言って謝りもしないなんて真似は私には出来ないし。
「い、いえ大丈夫ですからっ! その……そんな風に謝られるとこっちが申し訳ないですっ!」
「ありがとう。それと私の事はミュベールでいいわ。改めてこれからよろしくね?」
「は、はいっ!」
そう言いながら出した私の握手に彼は戸惑いながらも応じてくれた。
……なら仕事の話に入りましょうか。
「それで八代通室長? 今回私とゲイザーはザイに対する戦力として雇われたわけですが……契約内容に変更はなしでいいんですか? 具体的にはプラスで彼の訓練等も請け負いますが?」
「こちらとしては助かるが……いいのか?」
「えぇ。もちろん別料金はいただきますし、スクランブル待機中はお断りですけどね。彼さえ良ければ請け負いますよ?」
「……ふむ、個人的にはお願いしたいところだが報酬を出すのは上の連中だからな。考えさせてくれ」
……仕方ないわね。彼の上役に期待というところかしら。
「あの、ミュベールさん。俺からもお願いします。足手まといになるのは嫌なんです」
「そうね、ならお金のかからない程度の座学とかシュミレーター程度なら付き合ってあげるわ。それが私が個人として出来る協力よ」
薄情に思われるかもしれないけど、誰かを指導するという事はその人がどう育つか責任を持つという事。報酬を取るのは指導した人を必ず成長させるという契約。だから私は
「それでもいいです、よろしくお願いしますっ!」
「決まりね。それじゃ八代通室長、期待していますね?」
「わかったわかった。なんとか頼んでみるさ。その代わり、結果は出してもらうぞ?」
「当然です」
やる事が増えるかもしれないけどやらずにいるより遥かにいい。……ゲイザーがなにか言ってくるかもしれないけど理由を説明すればわかってくれるでしょ、あの子なら。
――――――多少違うところはあるけど、私達アクイラも彼とグリペンの関係に似ているのだから。
おまけ
格納庫に残されたアニマ達はというと――――――
「改めてE/F-117G ゲイザーです。日本に来るのは初めてだから色々教えてくれると嬉しいな」
「いいよー。イーグルがいろいろ教えてあげるねー」
「その子からだと喋ってばかりで説明にならない。私の方がここには詳しいから私が適任」
たちどころに冷えていく格納庫内の温度にゲイザーは
(え? もしかしてこの子達って仲悪いの? ど、どうしようっ!?)
おろおろしながらも二人を宥めるのが小松に来て最初の役目になるのだった。
エルジア、そしてアクィラときたのでSu-37と予想された方、残念ながら外れでした。
(S-32ならグラーバクやオヴニル、それにアレクトだろうという突っ込みはナシの方向で)
整備スタッフの人達はアクィラ到着時のインパクトのため、沖縄に留まってもらいました(笑)
次でファントムに参陣を考えていますが……原作二巻のミッションでゲイザーとファントムの役割が諸に被るのをどうするか考えなくては……
(趣味で選定するからこうなる)