ガーリー・エアフォース Sisiter's Vaportrail 作:liris
つ、次で必ず参陣するのでもう少しお待ちを……っ!
※ゲイザーの一人称を『私』から『わたし』に変更しました。
小松に到着して数日。沖縄で足止めをされていた整備班の人達も合流し、私達アクィラ隊もスクランブル待機のローテーションに組み込まれるようになった。
とは言っても私達はスクランブル待機でも通常より高い金額を取っているので頻度は少ない。なので基地内ではトレーニングをしたりと割と自由にやっている。
そして今日はグリペン・鳴谷君のペアとイーグルがシュミレータでしている模擬戦をゲイザーと一緒にモニター(鳴谷君にお願いされた)しているところだった。
「うーん、なんていうかグリペンの動き、ちょっとたどたどしいね」
「それは仕方ないわ。イーグルと違ってグリペンは鳴谷君が搭乗するからシュミレータにもそれが反映されてるのよ」
実機で彼が搭乗するのに、シュミレータにそれが反映されていなかったら実際に飛んだ時に彼が死にかねない。だからグリペンのシュミレータには9G以上の機動をすると警告が出るようになっているそうだ。
「グリペンも大変だね。慧くんもミュベールぐらい耐えられる身体ならよかったのに」
「……ゲイザー? 言っておくけど彼が普通で、私みたいなAZCC適応者がおかしいだけだからね?」
自分で言って少し悲しくなるけど事実なのよね……パイロットとしては恵まれているんでしょうけど初見の人達からは奇異の目で見られるし。
「失礼します。スタークス中尉はおられますか?」
「ええ、自分になにか?」
「八代通室長が呼んでおられます。執務室に来てほしいとのことです」
……? なにかしら、今日は特に予定はなかったと筈なんだけど。
「わかりました、すぐに向かいます。……そういうわけでゲイザー、私は八代通室長のところに行ってくるからグリペンと鳴谷君にアドバイスをしておいてくれる? 気付いたポイントはたぶん一緒だと思うから」
「いいよー。大事な話ならあとで教えてね?」
数日の間に歩き回って覚えた基地内の中でも特に足を運んだ執務室に入ると、前置きなしで八代通室長は本題を切り出してきた
「明日の夕方、三沢にいたアニマが到着する。機種はRF-4EJファントムⅡだ」
「増援のアニマ、ですか」
私達が小松に来る前、社長から『アニマを小松に集中させ、運用性と即応力を上げる』と聞いていた話がいよいよ現実になるのね。
ただ――――――
「なんだ、なにか言いたそうだな?」
「……ええ、新しいアニマが来て戦力が増えるのは歓迎すべき事です。私達が雇われたのもそのためですから。ただ……私が気になるのは新しく着任するアニマ――――――ファントムの性格です」
正直、今でさえグリペンとイーグルは色々と張り合う事が多いので私とゲイザー、それに鳴谷君で取り持っている。だからファントムのアニマがどんな娘なのかは結構重要な事だったりする。
「それについてなんだが……この資料を読んでもらえれば分かる」
八代通室長の出した資料を読み込んでいくが、その内容はあまりにも問題だった。
「……これ、本当ですか?」
「俺も忙しくてね。騙すためにわざわざこんなものを作る暇はない」
「なら余計問題です。ただでさえグリペンとイーグルはそりが合ってないのに下手をすれば余計面倒な事になりますよ……?」
私が八代通室長にこうも食ってかかる理由。それは三沢基地でファントムが行なっていた事が原因だった。
資料によれば三沢基地ではアニマが原因のトラブルは起きていない、とある。が、それはあくまでファントムが
……正直、その手腕は見事と言うしかない。自身に矛先が向かないよう他に注意を逸らす、というのは古くから使われて来た手段だから別にいい。問題なのはそれを(同僚としてはともかく戦力としては)味方に行った事でしょうね。
ファントムの所属がこれから小松になるとしても、対立関係が出来上がってしまった三沢で人間関係が良くなるのは時間がかかるでしょうし。
「それに関しては俺も懸念している。正直ファントムとイーグルが上手くやるのは期待できん。良くも悪くもイーグルはあの性格だからな。彼とグリペン、それに君とゲイザーに期待するしかない」
「……私達、日本のアニマ達の機嫌をとるために来たわけじゃないのですが」
「そんなことは俺も分かってる。が、今回の部隊編成でかなりの無茶を押し通してな。結果が出なければ最悪、アニマの運用が出来なくなるレベルの予算削減になりかねん」
「……それはマズいですね……」
そんな事になったら間違いなく日本は陥ちる。そうなればザイが南洋へ進出してくるルートが増え、東南アジアの防衛ラインが破られかねない。
日本政府はコトの大きさが本当にわかっているのかしら? ……『ザイの主張を理解し、対話の姿勢を示す事が重要』なんて内容のニュースが堂々と、それも最前線ともいえる国で流されている時点で察するべきなのかもしれないけど。(私とゲイザーも初めて聞いた時は驚きすぎて開いた口が塞がらなかった)
「はぁ……前途多難ですね」
私の溜息混じりの言葉にまったくだ、と同意する八代通室長。
……何も起きなければいいんだけど……こういう時に限って嫌な予感って当たるのよね……。
ミュベールと八代通が揃って溜息をついている頃、ゲイザーはシュミレータで模擬戦をしていた三人のうちグリペンと慧の二人にミュベールの代わりをするところだった。
(ちなみにイーグルはゲイザーが褒めちぎったのでグリペンと特に揉めることなく上機嫌で離れた)
「さて……二人ともお疲れ様。ミュベールは八代通室長に呼ばれたから代わりにわたしと一緒に模擬戦の反省をしていこっか」
「あ、ああ。頼む」
「…………」
慧くんはいいけどグリペンは……やっぱり不機嫌になっちゃたか。目の前でイーグルを褒めちぎったから仕方ないと言えば仕方ないんだけど。
「ほらグリペン、機嫌直してよ。グリペンだってあのままイーグルといたらケンカになるってわかってたでしょ?」
「む」
「そうなったら彼も苦労するよ? 主にメンタル的な意味で」
そう言うと少しはわかってくれたのか仏頂面が心なしか柔らかくなった……気がする。
できれば仲良くしてほしいなぁ、わたしとしては。……きっかけがあればいいライバル関係になると思うんだけど。
「……なんとかならないかなぁ」
「ゲイザー、なにか言ったか?」
「ううん、なんでもない」
いけないいけない。今はミュベールの代わりをきちんとやらないと。
「話がズレちゃったけど、始めてもいい?」
そう言うと緩めだった空気が引き締まる。わたしも気を引き締めていかないと。
「それじゃ、始めるね。……大前提としてグリペンじゃイーグルみたいな推力のある相手に速度や急上昇を組み込んだ
「イーグルの方がパワーがあるからか?」
「正解。それを踏まえてさっきの模擬戦でイーグルにやられた時、グリペンはイーグルにどう仕掛けた?」
「……急上昇のからのループ軌道で上を取ろうとした」
「それが今回の敗因だね。イーグルは反応こそ遅れたけど速度をグリペンほど失ってなかった。逆にグリペンはあの時直角に近い角度でのハイレートクライムとループ軌道で速度を失ってた。そこでイーグルは推力にモノをいわせたバレルロールで上からグリペンの後ろを取った、っていうのがイーグルが仕掛けた機動かな」
だからその前のパワーダイブで高度を失ってたのが痛かったかな、と付け加える。たぶんミュベールも近いことを言うと思う。(一応あとで確認してもらうけど)
空戦は物理……もっと言うなら運動エネルギーと位置エネルギーをの使い方が肝要。グリペンのように機動に制限があるわけじゃないけど、わたしのドーターはミュベールのS-32どころかオーストラリア空軍のF-15S/MTDと比べても性能的には劣る。だからわたしも色々と試してきたし、グリペンと慧くんが色々と試す気持ちが少しではあるけどわかる。
だからその上で重要なのは――――――
「二人にしてみれば不本意かもしれないけど模擬戦ではいくらやられてもいいのよ。少なくともわたしやミュベールはそう考えてるし」
「「えっ⁉」」
ま、『いくらやられてもいい』なんて言われたらそういう反応になるよね。
「納得できない。きちんと説明して」
わたしの言葉にグリペンは問い詰めてくるけど当然か。肝心なことを言ってないわけだし。
「ゴメンゴメン、言葉が足りなかったわね。わたしやミュベールにとって模擬戦は“対応力”を育てるためのもの、って考えなの。シュミレータでも、実際に飛ぶにしろね」
「……対応力を育てる、ってどういうことなんだ?」
んー、ミュベールみたいに上手く説明できればいいんだけど。
「わたしのは受け売りみたいなものなんだけど……わたし達にとって模擬戦での勝ち負けはあまり重要じゃないの。もちろんわたしだって勝てたら嬉しいし負けたら悔しいよ? でも模擬戦ってなんのためにやると思う?」
「自分の実力を知って技量を高めるため」
「それならわざわざ相手と一緒に飛ぶ必要はないでしょ? それだけならシュミレータの難易度をいじったりすればいいんだし」
グリペンの意見も間違ってはないんだけど
「いい? 模擬戦を行う一番の目的は実戦で墜とされないよう経験を積むことだとわたしは思う。
実際、模擬戦で得られるものっていうのは勝った時より負けた時の方が多いし。そういう意味ではミュベールやイーグルと戦るのは二人にとって悪いことじゃないかな。
「……それでも負けるのは悔しい」
「うん、強くなるためにその気持ちは大事だよ。その気持ちがなくなったら強くなれないからね」
結構負けず嫌いなんだ、グリペンって。
ちょっと意外。
「なぁゲイザー。それなら俺達が強くなるにはどうしたらいいんだ?」
慧くんの疑問はもっともなんだけど……うーん、私わたし達とは前提が違うからわたしじゃ答えは出ない。ホント、二人にはどんな方法がいいのかな?
「……これだけ言っておいてなんなんだけど……わたしじゃありきたりなことしか言ってあげられないかな。二人は慧くんの身体のことがあるからわたし達のやり方はあまり使えそうにないし……」
「それでもいい。俺達だけだとわからないことの方が多いんだ」
「なら……まずは実機・シュミレータに関わらず模擬戦をしたら今回みたいにしっかり『なにがダメだったのか』っていうのをしっかり見直すことかな」
これは基本。自分の失敗や相手がどんな動きをしたかを見返さないと自分達の課題も見えてこないし。……二人の場合はそれ以前に採れる方法に制限もあるんだけど。
「それと見直す時に自分達だけじゃなく別の人の意見を聞くのもいいと思うよ? 自分達だけじゃ見えないものがわかるかもしれないからね。わたしはともかくミュベールならいいアドバイスをくれるかもしれないし」
「……? ゲイザー、どうしてミュベールの方がいいアドバイスをくれるの?」
「え? だってわたしよりミュベールの方が強いからだよ?」
「はぁっ!?」
驚いてる驚いてる。ちなみにグリペンの方は静かだと思ったらショックで固まってる。……驚きの度合いはこっちの方が上みたい。
「ありえない。アニマより空戦で強いなんて――――――」
「グリペン? 言っとくけどわたしは電子戦機で支援が本領なんだよ? ある程度は空戦はできるけど本職には敵わないし」
そもそも空戦では機体の性能的にもミュベールの方が上だしね。ドーター化して少しはマシにはなってるけど元のE/F-117Gは鈍足・低機動の低スペック機だし。
「ま、ミュベールの強さは一緒に飛んだらよくわかるよ。南洋エリアでザイの
一緒に出撃するか
この翌日。アニマとミュベール達によるバトルロワイアルが行われるなんて――――――
模擬戦でイーグルが勝った時の機動は原作の『横にぐわーんと、ぐるぐるーってしただけだよ!』と『ばばーん、どーん!」を脳内変換して推力にモノをいわせたバレルロールとしました。
余計な気を起こさなければ次でいよいよミュベールがその実力を見せる……かも。