ガーリー・エアフォース Sisiter's Vaportrail 作:liris
DACTではない初の戦闘回なので皆さんのご期待に添えられるかビクビクです。
……そろそろ設定的なモノも作りますかね。
――――――室戸岬沖。
ここでの空中給油を終えれば間もなく敵地と化しつつある海鳥島。
……ミュベールが作戦前にファントムと話せる機会はここしかなかった。。
≪ファントム、少しいいかしら?≫
≪……あなたも暗号化通信でなにかご用でしょうか?≫
……貴女も?
≪私以外に貴女に話しかけたのがいるのかしら?≫
≪ええ。彼から≫
……ああ、なるほど。考えてみればこの中で一番不安を感じているのは鳴谷君だものね。八代通室長から聞くに彼が実戦を経験したのはまだ一度。そして二度目がブリーフィングの時点でアレなら不安を感じるのは無理ないわ。
≪あなたも私に『きちんと協力してザイの基地を攻撃しよう』といったことを言うつもりですか?≫
……鳴谷君が何を言ったか想像がついたわ。この様子だと逆に言い負かされたと思うけど。
≪違うわ。私が言っておきたいのは指揮官への意見具申のようなものよ≫
≪……聞きましょう≫
今回の作戦でファントムは私じゃなく自分が指揮を執る事を条件に首を縦に振った。だから意見具申、というカタチなら聞く気を持ってくれるみたいね。
≪判っていると思うけどファントム、貴女はこの作戦の指揮官よ。作戦の成否はもとより部隊の命運そのものも貴女が持っているといってもいいわ≫
≪その通りですがなにか?≫
≪……作戦が失敗するとしても誰かが墜ちる、なんて事は避けてちょうだい≫
……余談だが、ミュベールはゲイザー以外に今回の作戦が失敗するという予想は話していない。話せば余計な不安要素が出かねないと判断したからである。
≪『失敗するとしても』、ですか。傭兵にしてはずいぶんと弱気なんですね、あなたは≫
≪慎重、と言ってほしいわね。戦場で生き残るにはそれぐらいが丁度いいのよ≫
挑発的なファントムの言葉だけど生憎とその手の事は言われ慣れてる。そんな言葉で激昂する事はないのよね、私は。
≪貴女が私達をどう思っているかなんて私には判らない。私は私であって貴女じゃないからね。――――――ただ、ザイを倒す。その一点において私達は同じところを見ているハズよ。違う?≫
≪……そうですね。それについては同意しましょう。それがなにか?≫
≪無駄な戦力消費は避るべきよ。貴女だって使える『駒』はあるに越した事はないでしょ?≫
味方を駒扱いするのは正直気は進まない。が、それで彼女が味方を切り捨てる可能性を少しでも減らせるなら安いもの。
彼女の行動原理が『生き残る』事なら多分乗ってくれるハズ――――――
≪確かに一理ありますね。ではお聞きしますが私になにをしてほしいのですか?≫
≪(よし、乗ってくれたっ!)指揮官は貴女だけど私にも指揮権を寄越してもらうわ。少なくとも私は貴女よりはイーグルとグリペンの事を知っているし、必要なら撤退命令だって出すわ。現状戦力での遂行が不可能なら『次』に繋げるために出来るだけ戦力を温存するのは必要でしょう?≫
通信先のファントムは思案しているのか押し黙る。けどそれもわずかなもので、ファントムは即座に答えを出してきた。
≪いいでしょう。あなたの考えに乗ってあげます。私としても扱いにくい味方の指揮をするのは気が進みませんから≫
ファントムの答えは私が望んだものだった。これで取り敢えず私の判断でも作戦を行える。
(これで一つ、懸念が片付いたわね。)
≪AQUILA02から01、ならびにBARBIE各機へ。第七艦隊の護衛に向かいます。ご武運を≫
そうこうしている内にゲイザーが編隊から離れるポイントに到着し、第七艦隊へ向かって行く。
――――――戦いの時はすぐそこまで近づいていた。
ゲイザーが編隊から離れ、しばらくすると攻撃目標の海鳥島が視界に入ってきた。
かつては海鳥ぐらいしか訪れることのなかった島だけど今は異質な煌めきを持つザイの基地へと変貌しつつあった。
――――――EPCMレベル上昇、ガスト28、29、30。EPCCM起動。
機体のシステム音声とともにEPCMに対するカウンター・システムが起動し、同時にFCSのロックを解除する。
≪AQUILA01、エンゲージ。FOX1!≫
宣言とともに
それに触発されたのか、イーグルがザイへ吶喊していく。
≪負っけないよーっ!≫
吶喊したイーグルはそのまま手近にいたザイをすれ違いざまに機関砲で撃墜する。……やるのはいいけど私達の仕事がファントムの護衛なの忘れてないでしょうね、あの突撃娘。
≪AQUILA01からBARBIE01へ。イーグルの後ろについてフォローに回りなさい。すり抜けたのは私が対処するから≫
≪いいの?≫
≪ええ。護衛任務より純粋な制空戦の方がやりやすいでしょ? 貴女がイーグルのフォローに入るように私がフォローするわ≫
≪わかった≫
そう言ってグリペンも前に出て、イーグルの要撃をすり抜けようとしたザイを撃墜する。
するとファントムから通信が入る。
≪グリペンも前に行かせてあなた一人で対処できるのですか?≫
≪ええ、下手に三機が固まって貴女に近い位置にいると不意をついて貴女に仕掛けるのが出てくるわ。それなら始めから防衛ラインを三層にして各ラインで迎撃する方がいいわ。それに私の手持ちもイーグルの位置まで届くから私からもフォローは出来るわ≫
――――――ミュベールの算段はこうだ。
突撃思考のイーグルと、慧が搭乗して機動に制限のあるグリペンは直掩機として動くのに正直難がある。だから二機には先行してもらい、通常の制空戦闘に近い感覚で戦わせる。ファントムの直掩と両者へのフォローをミュベールが行った方がいいと判断したのだ。
ただ懸念もある。今はまだ向こうも増援が上がってないけどいざ上がってきた時にそれがどれほどの数なのか。そこが問題だった。
≪――――――っ! AQUILA01! 二機そっちに抜けられた!≫
イーグル・グリペンによる防衛ラインを抜けて二機ザイがこちらに向かってくる。
≪大丈夫よ。だからこっちにくるのは追わずに迎撃に集中して≫
――――――さて、こっちもさっさと済ませるとしましょうか。
正面から向かって来るザイの内、片方に狙いを定めて機体を加速させる。
≪FOX2≫
こちらの
ザイを撃墜してもミュベールは速度を緩めず、残る一機を見定める。残る一機はミュベールの頭上から仕掛けようとするも、容易くやられるミュベールではない。見失っていたならともかく、目を離さなかった相手が頭上を取っても脅威を感じるどころかむしろ『狩場』にやってきた獲物に等しい。
(もらったっ!)
エンジン出力は落とさず速度を維持し、エアブレーキを稼働させて速度の低下を最小限に抑えたコブラで急激なピッチアップというS-32の機体特性とミュベールだから出来る機動で先に動いていたザイの後の先を取る。
≪FOX3ッ!≫
S-32から放たれた機銃弾は重力に反して空を昇り、ザイに無数の穴を穿つ。やられたザイも最後のあがきで機銃弾を放つも、ミュベールは機体を更にピッチアップさせながら機体を加速させてザイが発砲するよりも早く射線から逃れる。
≪まるでサーカスですね。そんな機動で最後まで
二機を片付け、ファントムの右翼側に並ぶと呆れたような口調で言ってくるファントムだが無理もない。真っ当な機体とパイロットなら今のような無茶な機動をすればどちらかに異常が出るだろう。
≪問題ないわ。この程度の
――――――が、AZCCへの改修がされたS-32も、そしてミュベールもまともな機体とパイロットではない。両者ともに10Gを超える機動に耐える機体とパイロット。DACTで見せたスピンターンに比べればミュベールにとってそうキツいものではない。
(イーグルとグリペンは……大丈夫そうね)
レーダーから見る限り両者ともに順調そうに見えるけど……なにか引っ掛かる。
(ザイにとってここは太平洋に出るために必要な要衝のハズ。それなのに増援の直掩機を上げてこないなんて妙ね)
――――――その時レーダー上に、海鳥島からイーグルとグリペンに向け飛来する“なにか”が映った。
≪――――――ッ! イーグル、グリペンッ!! 島からミサイル! 逃げなさいッ!!≫
――――――瞬間、空が白く染まった。
飛来したミサイルは通常のモノとは異なり、“点”の爆発ではなくイーグルとグリペンの周りにいたザイをも巻き込む“面”の爆発だった。
≪な、なにっ!? 今のっ!!≫
≪――――――ッ!≫
イーグルからの通信には無数の警告音が混じり、それが完全に避けきれなかった事を示していた。
――――――離れた位置から見ていたから判る。飛来したミサイルは敵味方関係なく、“空域”そのものを攻撃した。……あんなモノは私も見た事がない。
≪イーグル、グリペンっ! 無事っ!?≫
≪うー、いったー≫
≪BARBIE01からAQUILA01へ。私も慧も無事≫
接近すると二機とも主翼から煙が尾を引いている。ノーダメージ、というわけにはいかなかったけど無事だった事にほっとする。
が、内心では自身の失敗に歯噛みしていた。
(――――――しくじった)
両者の気性と状態を考えてイーグルとグリペンを前に出したミュベールだが、それが完全に裏目に出てしまいイーグルとグリペンだけが狙われる結果となったからだ。
≪ミュベールさん。グリペンは今のを対空型のクラスター型って言ってましたけどなんとかできないんですか?≫
≪方法がないわけじゃないけど、今回私達は対空用のミサイルしか積んでない。やるとなると発射母機に接近する必要が≪上にご注意を≫――――――っ!≫
割り込んできたファントムの声に促されて上を見ると太陽を背に黒い点が近付いてくるのが見えた。
――――――島の直掩だったザイがさっきの爆発に紛れてこちらに忍び寄ってきていたのだ。
≪各機、ブレイクッ!≫
降下してきたザイは奇襲のためミサイルではなく機銃で仕掛けてきたため、際どくはあったが三機とも回避が間に合った。
≪攻撃してきたのになんでレーダーアラートがなかったんだっ⁉≫
≪敵が電波封止していれば警告は出ませんよ。レーダーは真上には届きませんし、太陽を背にされたら目視すら困難になる。死角から攻めるのは空戦の王道ですよ≫
余裕に満ちたファントムの指摘。それと同時に再びこちらの上を押さえようとするザイが視界に入る。
あのコース――――――狙いはイーグルとグリペンッ!?
≪FOX2!≫
≪あー、もうっ!≫
私が上を押さえようとするザイを撃つと同時に、正面から仕掛けてくるザイにイーグルがミサイルを放って空に都合五つの焔の花が咲く。
(ファントムは……?)
ファントムの位置はさっきまで私達がいた位置より遥かに後方――――――戦域からの離脱がすぐに出来る位置へ退がっていた。
≪ちょ、何してんのっ!? 早くこっちに来てってば! こっちのミサイルがなくなっちゃう!≫
≪身を守るのに精一杯に見えますが? そんな状態で私の護衛ができるんですか?≫
≪できるかどうかじゃなくてやってるんだから! そっちも作戦通りに――――――≪イーグルッ! 高度を上げなさいっ!!≫
ファントムに意識が向いたイーグルの隙を突くようにザイからミサイルが放たれる。
(間に合えっ!)
機体を加速させてミサイルの射線の割り込み、チャフとフレアをリリース。
幸いミサイルはそれに喰いついてイーグルに当たる事無く明後日の方向に逸れる。
≪FOX3≫
そしてそのミサイルを撃ってくれたザイに突撃したグリペンが蜂の巣へ変える。
――――――が、視界に入ったものを見て私は背筋が凍るのを感じた。
(……マズい)
――――――ミュベール達の視界に移るのは、昼だと言うのに夜空を思わせるほどの星の
(……これは今の戦力。いいえ、万全の状態でも独飛だけでやるのは無理だわ。これだけの数を相手取るとなるとゲイザーに
――――――故に、ミュベールは決断した。
≪AQUILA01から全機へ。現場指揮官として命じるわ――――――全機撤退。この戦域から離脱しなさい≫
≪冗談でしょっ!? ここまできたのにっ!!≫
≪ミュベールの判断は正しい。残弾を撃ち尽くしたら逃げられなくなって手遅れになる≫
≪うーーっ!!≫
イーグルはごねたけどグリペンも同じ結論に達したようで二機とも反転し、離脱コースに入る。
≪殿は私がするわ。撤退コース上の敵機を墜とすからそこから最大戦速で離れなさい≫
(私の采配ミスでダメージを負ったんだからその責任は取らないと)
檻のようにこちらを包囲しようとするザイの比較的層の薄い箇所に狙いを絞り、残りのXMAAを放って脱出口を作る。
そこからイーグル・グリペンが包囲網から抜けたのを確認し、ミュベールも離脱する。
――――――海鳥島制圧作戦は、ミュベールが予見したように失敗に終わったのだった。
「じーーーーーー」
「な、なんだ、ゲイザー。こっちをじーっと見て」
「初のザイ戦なのに私だけのけ者……」
「い、いや第二次海鳥島戦ではちゃんと出番があるから……」
「……それまでは?」
「…………」
再び無言で逃げる作者
「待てーーーっ!!」
次回は4月中に仕上がればいいなぁ……