「お待ちください!納得行きませんわ!!」
クラス代表を選出している時、話題性と言う意味で一夏がクラスの大半から選ばれた。一夏自身、それは重々承知しているし、やる気が無いと言う訳ではない。その為承諾してクラス代表になることを決意したのだが、決まる直前に1人の生徒が異議を唱えた。
「納得行きませんわ!!そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんて良い恥さらしです!このセシリア・オルコットにそのような屈辱を1年間味わえとおっしゃるのですか!?」
敢えて言うが、誰もそんなこと一切言っていない。ただ自分が立候補しなかっただけの話である。
「はぁ、オルコット。私は自薦他薦は問わないと言ったのだが、聞こえていなかったのか?」
「それは失礼しました。ですが、実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然!それを、物珍しいからと言う理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこの様な島国でISの技術を学ぶために来たのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」
もはや止まることは出来ない。指から放たれた矢が二度と戻ることが無いように、出してしまった言葉もつけてしまった勢いも戻ることは無い。さらに加速し加熱するだけだった。
「良いですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれは、この学年の首席であるわたくしですわ!大体!!文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛なのです!なのにそれだけでは飽き足らず、男なんかをクラス代表にするとは……どれ程ISを汚せばこの国は気が済むのですか?!」
『誰もアンタの実力なんて分かる筈無いだろ』
ザルバの発した一言に、マシンガンの如く出続けていたオルコットの言葉が止まった。
『入試時の戦闘ログは誰にも見せられていない。そんな中で実力を分れと言う方が無理だ。それにお前さん、自己紹介の時に代表候補生とも専用機持ちとも言っていなかった。それなのに何故ここにいる人間全員が実力を分かってると思ったんだよ』
「あら?指輪風情が偉そうにこの私に説教ですか?私の国なら代表候補生の名前くらい誰でも知ってますわよ?それが候補生への礼儀のでは?」
『1人しかいない国家代表なら兎も角、たかが候補生程度で威張り散らしてる様なヤツに払う礼儀なんて無い。確かにお前は専用機を与えられている。だがそれはデータを取るための試作機。選ばれた理由は技術面を評価されたのではなく、単にビット兵器と呼ばれる新型兵器に対する適性が高かったからだ』
「ッ!?指輪が知ったような口を……!」
『知ったような、じゃない。知っているんだよ。俺は一夏のサポートAIとして作り出された。だが、サポートするには知識が必要だ。だから、全て教えられた。開発者から、テレビから、ラジオから、本から、インターネットから、ISから、そして自分自身の目から。だから知ってるんだよ』
この言葉に押し黙ってしまう。今の時代、専用機を与えられる理由は様々存在する。その中には当然技術以外の事で与えられることも少なくない。実力、操作技術以上に、ISと言う物には適性が必要不可欠だからだ。どんなに実力が高くても適性が低ければ専用機は与えられず、逆に実力が低くても適性が高ければ専用機が与えられる。
勿論、国は両方を兼ね備えている候補生や操縦者に専用機を与えるのだが、そんな人間は正しくダイヤモンドの原石。見つけ出すのが困難だ。しかし技術だけではどうしようもない事が存在する。いくら努力しようとも乗り越えられない壁がある。ならば才能に懸けようとする。それが今の時代と言うものだ。
「なら、私の境遇も全て知っていると言いたいのですか?!」
『知るか。何で初対面の人間の全てを知らなくちゃならないんだよ。俺が知ってるのはISがどんなものかで、どんな人間に与えられて、何を基準に選考され、人間がどんな生物かって言うことくらいだ』
よくアニメや小説、ドラマ、マンガでは追い詰められた人間が相手に対して「お前に私の何が分かる?!」と叫ぶが、それは余りにも身勝手な事だ。分かる筈がない。長くてたった数日の付き合い。知っている方が気持ち悪い。苦し紛れに放ち、少しでも自分の過ちを正当化させる意味しか持たない安い言葉だ。
『逆に聞こう。お前に一夏の実力が分かるか?一夏の境遇が分かるか?理解しているのか?』
「そ、それは……」
『今までお前さんが言っていた事は、これと同じ無条件に自分の全てを無理矢理理解しろといっていたのと同じだ。そして敢えて言おう。コイツの実力は確実にアンタよりも上だ。何故なら』
「ザルバ、それ以上はよせ」
「構わん。どうせいつかは判明することだ。言っても問題なかろう。正直、お前がクラス代表の候補者になった時、すぐにでも話しておこうと思ってたことだ」
ザルバが言おうとしていた事を一夏は止めたが、千冬は話せと言う。隠すことにも意味が無いからだろう。どの道クラス代表になれば対抗戦で判明する。それが少し早まるだけの事だ。
『コイツは黄金騎士、牙狼を使うものだ』
「黄金騎士?牙狼?ふ、フハハハハハ!アハハハハハハハ!!何を言うかと思えば、牙狼?そんな物が存在して、その男が使用者だと?ハハハハ!指輪と思って今したが、ジョークセンスの塊の様ですね」
牙狼の名前を聞いた瞬間、大きな声を上げて笑った。他の生徒も同じ様に笑っている。一部はキョトンとして何の事かは分かってないが、どうやら牙狼はその程度の認識の様だ。
「そんな日本の笑い話をここでも聞くとは思いませんでしたよ」
「それ本当に言ってる?牙狼なんて存在しない架空の機体だよ?存在する筈無いじゃん」
「黄金騎士なんて言われてもね~」
「まぁ良いでしょう。仮に牙狼が本当に存在して、その男が黄金騎士と言われる使用者なら、その実力を見せてもらっても問題は無いですよね?織斑先生?」
「良いだろう。1週間後に第1アリーナで試合を執り行う。勝者にはクラス代表をやってもらう。それまでは各々を準備を行え」
殆どがザルバが話を進めたような物だが、千冬も代表決定戦と言う名目で2人の決闘を認めた。
「えらいことになったな……」
「今更気にしても仕方ないだろ」
「何でお前はそんなに余裕なんだ?」
「今までやれることは全部やって来たからな。死にかける事も含めて……」
「ごめん……聞いちゃってごめん……」
昼休みになって食堂で昼食を食べていたのだが、会話の中で過去の事を思い出した一夏は少し遠い目をしていた。そして気まずくなったのか、思い出してしまった箒は謝っておいた。
「ザルバ。あの人の機体の情報はあるか?」
『名前はブルー・ティアーズ。ビット兵器と言われる新兵器を搭載した試験機だ』
「試験機?」
『あぁ。ビット兵器は操縦者の脳波で操作するんだが、当然新兵器なだけに不明な事や危険な所、不安定な事が多々ある。あの機体は、ビット兵器のデータを取ることを目的に製作された。当然、万が一の事態に備えて性能その物は抑えられてる。とは言っても、機体の構造上、拡張性も高いがな。因みに、操縦者の技術自体は言うほど高くはないようだ。中の上以上上の下未満って所だ。成長の見込みはまだまだあるみたいだがな』
それは十分に強い。技術力もある方だろう。しかしそれは代表候補生と言う一部の中と言うのなら、ザルバの言葉は本当と言うことになる。世界は広い。広すぎると言うほどにだ。代表候補生の中での実力は、その先でも通用すると言う道理はない。
「いつも通り訓練して、普通に過ごそう」
「良いのか?特別な訓練とかしなくて?」
『人には慣れたリズムってのがある。戦う相手に合わせて一々特別な訓練を織り混ぜてるようじゃ、かえって実力向上の妨げになる』
「な、成る程」
『ま、個人差ってのは誰にでもある。必ずしもそのやり方が合ってると言う訳ではない。自分に合ったやり方ってのが1番良いぞ』
ザルバの発言はどれも的を射ている。その言葉1つ1つに箒は関心を受けていた。そして自分も取り入れられる物は取り入れようと言う姿勢だ。
「ごちそうさま。じゃ、放課後は剣道場に行くよ」
「分かった。私は先に行って部長に一部の使用許可を貰っておく」
一夏は食器を返却し、一足先に教室へと戻っていった。
『今日入学式の筈だが、もう入部してたのか?』
「生徒数が多いから混雑を防ぐために入試合格者は入学の説明を受ける時に入部届けを出すらしい。箒も合格後の説明会で出したみたいだ」
『成る程』
この学園のスタンスをザルバと話ていると、無事に昼休みは終了。午後の授業に突入していった。
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