俺の第2の人生は戦車道と言う競技のある世界でした   作:ふみみん

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無職になって1年なので初投稿です。


20・母と娘、そして春です!

「すー……はー……」

お母さんの部屋の前で深く深呼吸をする。

 

 

――――先ほど謎の料理対決が済んだ後、守矢君に呼ばれた。

 

「しほさんから話があるから、今日の22時にしほさんの仕事部屋を訪ねてくれ」

「お母さんが?」

「着せ替えの代わりにな、思ってること包み隠さず話してくれっから」

「で、でも……」

「なぁに、ただちょっと()()()()()()()()()さ」

 

 

 

一体何を話すんだろう。

一体何を話せばいいんだろう。

考えても考えても答えは出ない。

親子で話?戦車道以外で何を話すというのか。

 

そこでふと気づいた。

 

もう長いことお母さんと()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

……考えてもしょうがない。

答えなんてでないんだから。

 

 

コンコン

 

「誰?」

「……みほです」

「入りなさい」

 

お母さんの許可を得て仕事部屋へ入る。

 

 

「お母さん」

「……」

 

座ってメモ用紙を見ているお母さんの表情は険しかった。

 

「……何見てるの?」

「これ?守矢君からの指令書みたいな物かしら?」

「な、何やらせようとしてるんだろ……」

「余計なお節介ってやつかしら?……本当、そういうところは、

彼の母親そっくりね」

「照さんの事?」

「えぇ」

ふぅ、と溜息をつくお母さん。

 

「今回の事と照さんと初めてあった時って本当……そのまんまなのよね」

「そのまんま?」

「知りたい?」

「……ちょっと気になるかも」

「縁側で話しましょうか、ここだと気を使うでしょ?」

「ご、ごめんなさい」

 

 

お母さんの後を追うようにして部屋を出て、縁側に腰掛ける。

 

「彼女と会ったのは戦車道全国大会の決勝戦だった。

当時3年の私は隊長でね……」

 

 

お母さんの口から語られた過去の事件。

先日の決勝戦とまったく同じ状況でまったく正反対の対応を取ったお母さん。

それに怒って詰め寄った照さんとお母さんの本当の気持ち。

 

「決勝は本当に驚いたわよ、あの時と同じ状況が私の娘に

起こっていたんだから」

「うん……」

「戦車からあなたが飛び出た時は、驚きと一緒に、

やっぱりとも思ったわ」

「やっぱり?」

「えぇ、あなたはまほに比べれば優しすぎる。

あの状況なら飛び出してもおかしくない、と」

「でも……お母さんは……西住流は勝つことが全てだって……」

「西住流の師範としてはね……でも、母親としては別よ」

「母親として……?」

「これはね……私、まほ、逸見そして守矢君の共通見解になるわ」

 

 

な、なんだろう……。

 

 

 

 

 

「なんで命綱も付けずにあの濁流に飛び込んだの!?」

 

 

「え、えぇ!?」

予想外の言葉だった。

 

「あの勢いならあなたが溺れる可能性も十分に考えられたのよ!?」

「で、でも……」

「あの場で一番危険だったのは命綱も着けずに飛び込んだあなたよ。

もしあの時……あなたにもしものことがあったら……」

 

 

意外だった。

お母さんが。

西住流の師範が。

 

勝利とは別のことに意識を置いていることを。

 

 

「でも、試合には負けたし……お母さんは西住流は勝つことを尊ぶ流派だって……」

「それは西住流師範としての立場での言葉です」

 

西()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……私はダメな母親ですね。誰かにお膳立てされないと

言いたいことも言えないとは……」

少し悲しそうな顔をするお母さん。

こんなお母さんは始めてみる。

 

 

「みほ」

「は、はい!」

 

 

 

「あなたがあの子達を助けようとしたこと、あの場で私には出来なかった決断をしたこと。

そんなあなたを私は誇りに思います、胸を張りなさい……」

 

 

 

お母さんとしての言葉。

当たり前に思える言葉に私は感情を抑えることが出来なかった。

 

 

「うん……!うん……!」

 

 

お母さんに戦車道のことで褒められたのは初めてかもしれない。

 

「ほら、もう泣かないの」

「ごべんなざい……」

「まったく……誰に似たんだか……」

 

そう呟くお母さんは少し笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「すぐにでも転校するの?」

「勉強もあるし流石に無理だよ」

「……これから戦車道はどうするの?」

「守矢君も言ってたけど、戦車に乗らなくても出来ることはあると思う」

「そうね……特にあなたは車長になることが多いから、

色々やれることはあるわね」

「学校では乗らないの?まほに言えばきっと……」

「それはお姉ちゃんに悪いよ、納得できない子も一杯居るだろうし」

「私も黒森峰の中では表立って動くことは出来ないわ」

「うん、お母さんに迷惑はかけないよ」

「……はぁ、これは私が悪いのだろうけど」

そうお母さんが呟いた。

「もっと私やまほを頼りなさい。

黒森峰校内ではダメでも西住本家(ここ)なら通せることもあるわ。

戦車に乗りたくなったら菊代に言いなさい。

確約は出来ませんが出来る限り私も力になりましょう」

「うん……ごめんね……」

「そこは謝るところじゃないでしょう?」

「そう……だね……ありがとう、お母さん」

 

 

 

守矢君のおかげで、私とお母さんはまたちゃんとした親子に戻れた……かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、世話の焼ける母娘だこと」

少し離れたところで隠れて様子を伺っていたが杞憂だったな。

俺はその場をそっと離れて自分に宛がわれた部屋に戻る。

「しほさんがメールくらい素直になってりゃ何の問題もないんだがなぁ」

上の立場ってのもなかなか不便なものよな。

「でもまぁ、あの調子なら大丈夫そうだし明日大洗に……あん?」

俺の部屋の前の縁側にはまほが腰掛けていた。

「おかえり、守矢」

「よぉ、エリカと赤星さんと一緒じゃないのか?」

「二人共すぐに寝てしまったよ。みほの件やお母様とのことがあったからな」

「あー、精神的にガリガリやられたのか」

なんだ、ならコスプレもさせてねぇんだな。

「……主な原因は君だと思うが」

「あんなイベントうちの学校じゃ日常茶飯事だぞ?角谷の姐さんが

色々ひっちゃかめっちゃかにしていくからな」

「黒森峰にはそういった催しなどないからな……」

「中学もガチガチだったもんなぁ……」

「これから寂しくなるな」

「なぁに、転校にはまだ時間はあるし、今生の別れってわけじゃないんだ。

メールでも電話でも好きにやりゃいいさ」

「それにいままで仲間だったみほと争う可能性があると思うとな……」

「みほが大事なら戦う時、まほの西住流で叩き潰してやればいいさ。

簡単にはやられてはくれないだろうけどな」

 

まぁ、それこそ総力戦って感じだろうなぁ。

 

「そん時は特等席で観戦させてもらうとするさ」

「当然、私を応援してくれるのだろう?」

 

「どっちも応援するに決まってんだろ」

「むぅ……」

「不満そうな顔をするなよ」

 

 

 

不服そうな顔をしていたまほだったが、

急に俺に頭を下げてきた。

 

「守矢……本当にありがとう」

「なんだよいきなり」

「もしかしたらみほが戦車道を捨てかもしれなかった」

「そうだなぁ、戦車道が嫌いになってたかもなぁ。

だけどならなかった。それでいいじゃねぇか」

「それでも、だ」

「律儀だねぇ」

「……私はダメな姉だな」

「なにがよ?」

「みほを庇うことも出来ず、現状で放置してしまった」

「しょうがねぇだろ、黒森峰の隊長ってのはそれだけ重たいもんだ。

それに、あの場で庇ったところで誰も許しはしねーよ、残念ながらな」

「だが……」

「いや違うな……説明不足過ぎるのか、敗戦はみほのせいじゃないって言ったところで、

何にも考えてねぇやつらにゃわからんぜ」

 

そもそも自分らのチームの戦略の性質を把握している連中なら、

パニックにはならねぇだろ。なった時点で自分らの強みが失われるんだからな。

 

「そういう意味ではこの敗戦は必然であって、いいタイミングなのかもな」

「変えられるのだろうか、この私に」

「それはまほの頑張り次第だな。ただ、困ったことがあれば

いつでも相談してくれ、ご期待に応えられるかはわからんがな」

 

まほの頭をくしゃくしゃっと撫でる。

 

「さて、俺はそろそろ寝るからまほも部屋に戻りな」

「何を言っている、今夜は私もここで寝r」

「んじゃ、おやすみ!」

 

 

まほを締め出し布団に入る。

 

まぁ、家族がまとまったようでよかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、まほ・みほ・エリカ・赤星さんに見送られ熊本を発った。

 

 

それからは青森に行きちびっこ隊長(カチューシャ)をなだめに行ったり、

生徒会の手伝いでめまぐるしく過ぎていった。

 

 

夏休みが終わって季節は夏から秋へ、秋から冬へ。

 

 

 

そして冬から春へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学年一個上がっても、通学路はなんも変わりゃしねぇなぁ」

いつもの時間、いつもの喧騒、いつもの風景。

今日もまた変わらぬ一日が始まる。

 

 

 

 

「いや……少しは変わったか?」

 

 

 

視線の先には少し浮かれ気味な女子高生。

 

「アイツはやっぱなんも変わってねぇな」

よそ見して電柱にぶつかるとか滅多にみねぇよ。

思わず笑みがこぼれる。

 

 

 

 

「大洗に来て早々もうドジってんのか?」

その女子高生に駆け寄って声をかける。

 

 

ビクッとする女子高生。

 

 

「まさか戦車道のない大洗学園(うち)に来るとはなぁ」

 

恐る恐る振返った顔はやはり見知った顔だった。

 

「あ……」

あちらも俺に気づいた様子。

 

「事前に行ってくれれば引越しの手伝いとかもしたんだがね」

「えっと……あの……」

相変わらず試合以外じゃおろおろしてんなぁ。

 

 

 

なにはともあれだ。

 

 

 

「おはよう、みほ。」

「っ!うん!守矢君、おはよう!」

 

 

 

 

その笑顔はとても晴れやかで、

いつもの風景に少しばかりの花が添えられることとなった。

 

 

 




久しぶりに書きましたん。
共学なので県立大洗女子学園から大洗学園と表記しています。


ぼちぼちお金を稼ぎつつ就職活動してるので更新は遅くなりますですよ。

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