この氷原に死すとも   作:玫瑰月季

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感想をくださった皆さんありがとうございます。
感想の返しにつきましては、ただでさえ遅い執筆速度を考えると難しいと思いますので感想返しについてはご容赦願います。
一週間に一本を目安に投稿していこうと考えておりますのでどうか生暖かい目でご覧下さい。


2.氷雪と雷霆

その日、尸魂界(ソウル・ソサエティ)に激震が走った。

真央霊術院に入学したその日の内に付与された斬魄刀を解放した生徒が現れたというのだ。

それも解放された斬魄刀の名は氷輪丸(ひょうりんまる)。氷雪系最強の斬魄刀である。

最初のうちは多くの死神が質の悪い冗談だと一笑に付していたが、時が経つにつれ、より詳しい情報が出回ると「ありえない」や「信じられない」と口をそろえて言う始末。

しかしそんな騒ぎも護廷十三隊(ごていじゅうさんたい)の歴史そのものと言っても過言ではない一番隊隊長にして総隊長 山本 元柳斎 重國(やまもと げんりゅうさい しげくに)がその目で確認してくるまでの事だった。

 

 

 

 

 

 

俺が自身の斬魄刀『氷輪丸(ひょうりんまる)』を解放した後、我に返った教員によって演習は終了となり、渦中の俺は教員室へと連行された。

別室で待つよう言われた俺は慌ただしく動き回る教員達を横目に精神世界へと意識を沈める。

 

「よくやった小僧」

 

精神世界へと沈んで来て最初の台詞がそれか…。どれだけ目立ちたがりなんだよ…。

 

「それは違うと思うよ。彼の…そして君の力を周りに見せつける必要があったんだ」

 

いつも通りこちらの()()()()()()()かのように話しかけてくる夢月。

しかし見せつける必要か…。こいつら普段はそこまで仲良くないくせに時々二人して突拍子もないことを仕出かすから質が悪い。今回もそうじゃないだろうな…?

 

「どういうことだよ。確かに目立ったとは思うけどよ」

 

それに雛森にもカッコいいとこ見せられたと思う。そっちが主とは言わないけど。…本当だぞ?

 

「今の君の実力を考えてごらん。正直なところ六年生だろうと今の君の相手になんかならないよ。真央霊術院を一年で卒業した市丸ギンという前例もある以上、君がいつまでも真央霊術院(ここ)に通う必要はない。そんなのはハッキリ言って時間の無駄だ」

 

俺の質問にはどうやら()()()()()夢月が答えるようだ。

どうやら氷輪丸は自身に関係する事しか説明する気がないらしくいつも夢月が説明している。

 

「ならばどうすればいいか。簡単な事だ。市丸ギンを超える逸材だと証明すればいい。入学当初に斬魄刀を解放するような生徒なんて今までも、そしてこれからも現れることはないだろうしね。君という例外を除けば…だけどね」

 

なるほど。だからこいつらは俺に斬魄刀を解放するよう言ったのか。

氷輪丸が目立ちたがりだからじゃなかったんだな。

 

「まぁ…彼が自身の存在を歴史に刻みたかったのは本当だろうけどね」

 

は?なんだと…?

 

「当然だ。我が炎熱系最強(ヤツ)如きの陰に埋もれるなどあっていい筈がない。故に小僧。よくやった」

 

「だってさ。よかったね冬獅郎君」

 

氷輪丸…お前って奴は…。

それから夢月。笑ってんのバレてるからな。

しかし我が斬魄刀ながらなんて負けず嫌いなんだ。

 

「僕は君と彼、どっちもどっちだと思うよ」

 

やかましい。

 

「さて、真面目な話をしよう。望む展開としては護廷十三隊の席官クラスが来てくれることだ。できる事なら一番隊、六番隊、八番隊、十三番隊あたりが来てくれるとベストな展開だ。特に一番隊が来てくれると最高かな。あそこは規律には厳しいがその分しっかりと物事を見る事の出来る隊士が多い。何よりあそこは総隊長の率いる隊だからね」

 

毎回思うんだが未来を見せた事といい、やたらこの世界に詳しい事といい謎が多い奴だ。

しかし俺の事を考えての発言だとわかっているから夢月(コイツ)への疑問は今は置いておこう。

いつか話してくれる時が来る…そんな気がするんだ。

 

「けどそんな簡単に席官が来るもんなのか?いかに斬魄刀を解放したとは言え、学生だぞ」

 

確かに初日に解放したことは前代未聞だろう。

だがそれでも席官クラスが来るほどの事とは思えない。

 

「冬獅郎君。君の斬魄刀は何だい?彼…氷輪丸は()()()()()の斬魄刀だ」

 

「然り。凡百の斬魄刀などと一緒にされては困る」

 

これだ。普段仲が微妙な癖にこういう時は息がピッタリになる。

そして二人が組んだ時に口で勝てた例は一度もない。

そんなこちらの心境を分かっているのかは分からないが夢月は話を続ける。

 

「永らく現れなかった氷雪系最強の斬魄刀『氷輪丸』が現れた。それも解放したのは貴族でもない少年だ。解放した君の為人(ひととなり)が分からない以上、反逆を企てる可能性も捨てきれない。天を支配し、全てを凍らせ氷の世界へと変える斬魄刀。その力が尸魂界に向けられたらどうなる?それだけで彼らが動く理由になる。彼らは魂の調整者(バランサー)なのだから…」

 

だから来るだろう。夢月はそう締めくくった。

今更ながらに気付かされる。自分の持つ斬魄刀の力を。容易く命を奪う事ができる強大な力を。

俺に振るう事が出来るのか…?もし力を制御できなくなったら…。

 

「自分の力が怖いかい?」

 

そうだよな。こいつなら必ず見透かしたような言葉を投げかけてくると思った。

 

「ならばどこかの隊長さんの言葉を借りるとしよう。"自分の剣に怯えぬ者に剣を握る資格は無い"なればこそ、自身の力を理解し怯えた君には剣を握る資格があるのだろう。それに今更だよ。君は覚悟をとっくの昔に決めた筈だろ?」

 

言外に忘れたのかい?と言ってくるコイツはやっぱり良い性格をしている。

だがその通りだ。とっくに覚悟は決めてある。俺は…

 

「雛森を守る」

 

あぁそうだ忘れてはいけない。自分の覚悟を。

今一度目の前の二人を見る。もう、迷わない。そんな意思を込めて。

 

「「それでいい」」

 

…やっぱり仲いいだろうお前たち…。

そんな事を思いながら俺は意識を精神世界から浮上させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼する」

 

その言葉と共に数人が教室へと入ってくる。

俺は閉じていた目を開け、入室してきた()()()()()()()()()()死神を見つめる。

とりあえずはどこの隊の者か確認しないとな。

 

「あんた達は?」

 

「これ!口を慎まんか!」

 

此方が口を開いたと同時に学長がそう諫めてくる。自分でも口が悪いとは思うが直す気は無い。さらに学長が何かを言おうとするが、学長が口を開くより先に死神が口を開いた。

 

「私は護廷十三隊一番隊副隊長 雀部 長次郎 忠息(ささきべ ちょうじろう ただおき)と申す者だ。そしてこちらは護廷十三隊一番隊総隊長 山本 元柳斎 重國( やまもと げんりゅうさい しげくに)殿だ。少年、君の名を聞きたい」

 

なんだと?これは…あいつらの言う最高以上が来ちまったな…。

だが今はそれよりも名乗ることが先だな。

 

「日番谷冬獅郎だ。西流魂街(るこんがい)一地区『潤林安(じゅんりんあん)』出身」

 

今、俺の前に居るこの死神が副隊長ってことはあの爺さんが総隊長。炎熱系最強の斬魄刀を持つ死神…か。

そんな事を考えていると

 

「おぬしが氷輪丸を解放した童に相違ないか」

 

「ああ。俺が氷輪丸の担い手だ」

 

俺が氷雪系最強の斬魄刀所有者だ。そんな気概を込めて総隊長の爺さんの目を見返す。

 

「うむ。ならばこの儂におぬしの力を見せてみよ。演習場はまだ使えるな?」

 

!?この爺さん俺と戦うつもりか?丁度いい。総隊長とやらの実力を知りたいところだったんだ。

 

「は、はい。…いえ!お待ちください!演習場は彼の作り出した氷の残骸がまだ…」

 

おどおどしながら学長が答える。あんた学長だろうが、もっとシャキッとしろよ。

そんな為体(ていたらく)じゃそのうち学生にも嘗められるぞ。

 

「構わぬ。氷なぞ儂の前ではすぐ溶け落ちる」

 

…言ってくれるじゃねぇか。俺の氷輪丸の氷がすぐ溶けるだ?絶対に一泡吹かすぞ爺。

 

「元柳斎殿。ここは私にお任せを。この雀部 長次郎 忠息が必ずやこの少年の力を引き出してみせましょう」

 

爺打倒の覚悟をしていた俺の耳に入ってきたのは副隊長のそんな言葉だった。しかもとんとん拍子でそのまま副隊長との模擬戦が決まってしまった。

これは総隊長と戦うのは無理そうだな。だが実践経験がなかった俺にはちょうどいい。今の自分がどこまでできるか確認もこめて戦ってやる。

 

「良いぜ。ただしお互いに斬魄刀を使用した実戦形式で…だ。」

 

もっとも、条件は付けさせてもらうがな。

副隊長は驚いたようだが結局こちらがその条件を呑まねば動かないと見たのか了承した。

まずは副隊長(あんた)でどこまでやれるか試させてもらうぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして移動してきたのは先ほど俺が氷輪丸を解放した演習場。被害が出ないように総隊長自ら演習場に結界を張る。片手間にこれほどの結界を張るか…さすがは総隊長といったところだ。

 

「両者共に全力を尽くせ。よいな」

 

総隊長はそう言いながら自身の副隊長へとなにか目配せしている。大方、こちらの実力を引き出せとかそんなところだろ。目を閉じ集中する。今の俺がやるべきことは意識を戦いへと向ける事だ。

 

「では…はじめ!」

 

その号令と共に目を開ける。相手は護廷十三隊一番隊副隊長。油断はしない!

瞬歩を使用し、相手の懐に潜り込むと同時に氷輪丸を下から切り上げる。

 

「ッ!」

 

どうやら瞬歩をできるとは思わなかったらしく少しの動揺が見れた。だが、弾かれる。刃と刃がぶつかった時の甲高い音が鳴る。此方の実力を正しく把握できていない今のうちにこのまま押す!

 

「縛道の六十一 『六杖光牢(りくじょうこうろう)』」

 

そのためにまずは動きを止める。副隊長がさっきとは比べ物にならない驚愕に満ちた表情を浮かべる。やっぱり、入学初日の学生が鬼道を使ってくるとは思わないよな。初見殺しもいいところだろう…だが、この最大のチャンスは逃さない!

 

霜天(そうてん)()せ…『氷輪丸(ひょうりんまる)』!!」

 

零距離からの氷輪丸の解放…。普通なら氷付けだが、油断はしない。相手は明らかな格上だ。

何より相手はあの一番隊副隊長だ。総隊長の右腕がこの程度のはずはない。

 

「まずは非礼を詫びよう少年。いや…日番谷冬獅郎殿」

 

そう言い俺の後方に現れたのは半身を氷漬けにされながらも闘志を全く失っていない、いや先ほどよりも大きな闘志をその瞳に宿した副隊長の姿だった。解放の瞬間に瞬歩で距離をとったのか。

 

「私は貴殿を心のどこかで侮っていた。たかが学生。なにができると…だが、その結果がこの姿だ。この…今の姿は私への戒めだろう。貴殿の力を見誤った私への罰だ」

 

警戒が一気に上がったな…。こちらを対等とはいかなくとも脅威であると認めたか。

出来れば今の刀剣解放で終わらせたかったんだがな…。そう上手くはいかねぇか。

ならこちらも全力で行くぜ()()()()()

 

「故にここからは油断はなしだ。私もお見せしよう…我が斬魄刀の真なる姿を!」

 

霊圧が上がっていく…来る!

 

穿(うが)て『厳霊丸(ごんりょうまる)』!!」

 

雀部副隊長の手にはレイピア状に変化した斬魄刀が握られている。あれが雀部副隊長の斬魄刀か。

 

「ゆくぞ!日番谷殿!」

 

さっきの攻防とは逆。今度は副隊長が瞬歩を使用して俺に迫ってくる。だが見えてるし反応もッ!?ちっ掠った…ッ!!電撃だと!?斬魄刀を振るった途端に…そうか!これがあの斬魄刀の能力!

 

「我が厳霊丸の一撃を避けるとは見事。しかし甘い!この距離ならば避けることはできまい!」

 

今度は後ろかッ!俺はあえて雀部副隊長の攻撃を受ける。いや、正確には受けたように見せる。

攻撃を受けたように見えた俺の全身に()()()()()()()()。氷で自身の分身を作り出すこの技の名は

 

「『斬氷人形(ざんひょうにんぎょう)』」

 

砕けた氷に目を見開く雀部副隊長は頭上にいる俺に気付いたようだがもう遅い。そこは既に氷漬け、足は潰させてもらった。これで瞬歩は使えない。

 

「『氷輪丸』!!」

 

触れたもの全てを凍らせる水と氷の竜を叩きこむ。着地した俺は雀部副隊長の姿を確認する。

当然のことだが雀部副隊長は氷漬けになっている。

 

「勝ったか…?」

 

そう漏らした瞬間…なんだこの霊圧は!?

雀部副隊長から凄まじい霊圧が放たれたかと思うと氷漬けにされている雀部副隊長目掛けて雨雲から雷が落ち、氷が弾け飛ぶ。

 

「まだだッ!!」

 

そして凄まじい気迫と共に()()()()()()()()()()雀部副隊長が姿を現す。

 

()らせ『厳霊丸(ごんりょうまる)』!」

 

その叫びと共に再び雨雲から雷が雀部副隊長目掛けて落ちる。まさか氷輪丸の天候を支配する能力『天相従臨(てんそうじゅうりん)』を逆手に取った自己強化か!?雀部副隊長は雷が迸る斬魄刀を振る…ってヤバい!

 

「縛道の八十一 『断空(だんくう)』!!」

 

俺と雀部副隊長の間に透明な壁が出来上がり、電撃を防ぐ。

 

「まだだッ!!我が『厳霊丸』の雷はこんなものではないッ!!」

 

ほぼ無傷の俺に比べ、雀部副隊長は傷つき血を流している。圧倒的に有利なのは俺のはずなのになんだこのプレッシャーはッ!!俺の心の叫びと比例するかのように『断空』に亀裂が走る。

 

「『綾陣氷壁(りょうじんひょうへき)』!!」

 

今の俺が持つ最高度の防御技を迷わず使う。迷えばその瞬間やられる。その考えは正しかったようですぐに『断空』は砕け散り『綾陣氷壁』に雷は直撃した。

 

「甘い!我が雷をその程度で防げると思うな!!」

 

「嘘だろ!?ぐっ!」

 

だがそれがどうしたと言わんばかりに『綾陣氷壁』すら砕き雷はこちらに向かってくる。

咄嗟に瞬歩を使用し回避するが、反応が遅れた事で雷が左腕を掠る。すぐに掠った左手を確認するも痺れて使いもにならない。

 

「掠っただけでこれかよ!」

 

思わず悪態を付くが状況は悪くなるばかりだ。もう左手は使えない。しかも長引けは長引く程、こっちが不利になるのは目に見えている。なら今の俺に出来ることは…

 

「俺の全力をこの一撃に込めるだけだッ!いくぞ雀部副隊長!!」

 

俺は逃げない。言外にそう言う俺に対して雀部副隊長の答えは

 

「良かろう!受けて立つ!全身全霊を賭して挑んでくるがいいッ!!」

 

その答えを聞いた俺は右手に持つ氷輪丸に全霊力を注ぎ込む。

 

「まだだ!まだ足りない。もっと!もっとだ!!」

 

そうだろう氷輪丸。俺たちの力はこんなものじゃない筈だ。

 

"いいだろう。小僧もっと霊力を込めろ!雷など氷漬けにして見せてやる!!"

 

あぁやってやるさ氷輪丸。既にこの天の全ては俺の支配下だ。つまり、あの雷の自己強化はもう使えないし使わせない。目の前にいる男を見る。体中から雷を迸らせるその姿はまるで雷神のようだ。そして何よりその瞳に一点の曇りもない。ならば互いに言葉は不要。この一撃をもって決着を付ける!!

 

「霜天に坐せッ!」

 

「穿てッ!」

 

奇しくも互いの口から漏れ出るは互いの半身たる斬魄刀の解号。決して負けない。勝つのは俺だ。そんな想いを刃に乗せて叫ぶ。

 

「『氷輪丸』!!」

 

「『厳霊丸』!!」

 

氷の竜は全てを凍てつかせんとその顎を開き、轟く雷霆は全てを穿たんとばかりに迸る。

両者がぶつかり合い、その力の奔流に耐え切れず結界は砕け散り、粉塵を巻き起こす。

粉塵が晴れてくるとそこには満身創痍の二人の姿。互いに斬魄刀の解放は解かれており、斬魄刀を地面に突き刺し杖代わりとすることでと立っている状況。故にこの戦いは

 

「それまで!この勝負、両者引き分けとする!」

 

引き分けとなる。総隊長による号令によって緊張が解かれた俺は立っていられず座り込む。

 

「素晴らしい戦いでした。日番谷殿」

 

そう言い近づいてくる雀部副隊長。こっちは立っていられないってのに。これが副隊長との差か…。まぁ当然…か。夢月が言うにはこの副隊長は卍解を使用できる筈だ。戦う前は使わせてやるって思ってたんだがな…。

 

「そっちも…な。やっぱり副隊長は強いな…」

 

「謙遜する必要はありませんぞ日番谷殿。貴殿の実力、既に学生の領域にはありませぬ」

 

そう言われてもな…。あの二人に半殺しにされてきた身としては判断基準がいまいちわからないんだよな。

 

「然り。主の実力は既に学生の領域にあらず。席官と相違ない実力じゃろうて」

 

総隊長…副隊長でこの実力ならこの人はどれだけの高みにいるのだろう。けれど、いつか必ず超えてみせる。氷輪丸(相棒)との約束なんだから。

 

「けど足りないんだ。俺はもっと強くなりたい。総隊長…あんたを超えるぐらいに。」

 

そう、足りないのだ何もかも。助けられる命があることを知った。守りたい人(雛森)が出来た。俺はもっと強くならなくちゃいけない…あんたを超えるくらいに。でないと雛森を藍染(アイツ)から守り抜くことが出来ない。今の俺には遠すぎる目標だってことは重々承知の上だ…けど決めたぜ。

 

「俺の目標は()()()()()()を超える死神になることだ。絶対にあんた達を超える死神になってやる」

 

だから、あえて俺は口にする。おい、雀部副隊長。何驚いてんだよ。あんたは俺が最初に越えるべき壁だ。

 

「ふん。小童が吠えおるわ。精々励むことじゃ、儂は逃げも隠れもせん」

 

ハッ、上等だ。首を洗って待っていやがれ。そう口に出したつもりだが、既に限界に来ていた俺の意識は暗闇に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数日が経った。

あの戦いから一夜明けた次の日に教員から()()()へ飛び級することが決まった事を伝えられた。つまり、雛森より後に入学したのに雛森より上の学年になってしまったのだ。

それもこれも全部あの二人がかかわっているのは間違いない。さらに悪いことに雀部副隊長との一件は最後のぶつかり合いで結界がぶっ壊れた事によって生徒たち全員が知ることとなった。これにより俺は周りから恐れられる始末。唯一心配してくれたのは雛森だけだった。それでもまさか涙を流して抱き着いて来るとは思わなかったが…いや、それだけじゃない。

恥ずかしかったがやっと俺の覚悟を雛森に告げることができた。最初は驚いていたようだったが最後は何かを耐えるかのように大丈夫だと言って微笑んでくれた。きっとまだ頼りないと思っていたんだろう。それなのに俺の事を思って不安を押し殺してまで大丈夫だと言ってくれた…なんて情けないんだ俺は…守りたい相手に逆に心配されるなんて…けど、落ち込んでいる暇はない。雛森の期待に応えるためにも俺は強くなるんだ。そうだ雛森と言えば…

 

「なぁ夢月」

 

夢月を呼ぶ。

 

「なんだい?」

 

俺の考えをコイツには聞いて貰いたい。

きっと俺に未来を見せたコイツなら分かっているはずだから…。

 

「最近の雛森の頑張りをどう思う…?」

 

俺は恐る恐る夢月にそう問いかける。俺の勘違いでなければ多分…。

 

「雛森ちゃんかい?最近凄く頑張っているようだね」

 

そうなのだ。ここ最近の雛森は前にも増して頑張っている。

朝早くから鬼道の練習をして、授業が終われば道場で遅くまで斬術の練習をする。

 

「彼女も隣に立ちたい相手が出来たんじゃないかな?だからこそ彼女も今まで以上に頑張れるんだろうね」

 

そうか…そうなのか…やはり…俺がどんなに守りたいと言っても雛森にとっては…

 

「藍染か…。そうまでしてアイツの力になりたいのかよ…雛森…」

 

藍染(アイツ)の力になることが最優先なんだろう…。くそっ!俺にもっと力があれば…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「藍染か…。そうまでしてアイツの力になりたいのかよ…雛森…」

 

冬獅郎君が凄まじい勘違いをしている件につきまして。

僕はどうすべきなんだろう…?これもしかしなくても僕が未来を見せちゃったからだよね…?雛森ちゃんの努力=藍染のためっていう方程式できてるよね。

今の雛森ちゃんはどっからどう見ても冬獅郎君を意識しているだろうに…。雛森ちゃんは雛森ちゃんで冬獅郎君の覚悟をなんか誤って捉えている気がするし…。

互いに勘違いしているような気がするんだよね…。

 

「藍染ッ!雛森の心を弄んでそんなに楽しいか…!俺は…俺はお前を絶対に許さねぇ…!!」

 

これは流石に藍染に同情してもいいのでは…?

彼まだ何もしてないと思うんだけど。それに何より今の雛森ちゃんにとって藍染って隊長としての尊敬はあっても原作程の好意はないよね。

 

「夢月!特訓に付き合ってくれ!俺にはもっと力がいるッ!藍染の野郎をぶっ倒す為にッ!そして必ず…必ず雛森の目を覚まさせてやる!」

 

今彼女の目を覚ましちゃうとそれこそ藍染の思うつぼだと思うんだけど…。

それにそれって君への恋心が冷めるってことなんだけど…?

 

「ねぇ冬獅郎君。雛森ちゃんは別に藍染のために頑張っている訳ではないと思うよ」

 

とりあえず伝えておこう。じゃないとこれ、どこまでも一人で突き抜けて行っちゃいそうだ。

 

「ありがとう夢月…。けど気を使ってくれなくても大丈夫だ。俺はお前に未来を見せてもらった。最悪の未来を…だから俺は覚悟を決めた。雛森を守ると…守り抜いて見せると。この覚悟は揺るがねぇ…絶対にだ。だから大丈夫だ夢月。俺は折れねぇ」

 

…あれ?

 

「いや、気を使ったとかじゃなくて彼女は本当に…」

 

「夢月。俺はそんなに信じられないか…?確かに俺はまだガキかもしれねぇ。でもお前の信用は決して裏切らない。俺は必ず藍染を倒す…必ずだ」

 

あ、これ何言ってもダメなヤツだ。…うん。これは仕方ないね。仕方ないから…

 

「…わかった。君を信じよう冬獅郎君」

 

とりあえず真面目な顔して合わせておくしかないよね…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シロちゃんが斬魄刀を解放したあの後、シロちゃんは教員に連れられて行った。おそらく教員室に行ったんだろうけど…そのあとのシロちゃんと雀部副隊長の霊圧のぶつかり合い。昨日はシロちゃんの事が心配でほとんど眠れず気付けば朝になっていた。友達から聞いたシロちゃんは雀部副隊長と戦ったという話を聞いて昨日の霊圧のぶつかり合いを思い出す。そして居てもたってもいられなくて…。

 

「あっ!ちょっと桃!?」

 

友達の静止も振り切ってシロちゃんを探して走りだしていた。

怪我をしているかもしれない。腕が折れてるかも。もしかしたらもっと酷い怪我をしているかもしれないし、最悪もう死…。そんな暗い考えが頭の中をぐるぐる回ってどんどん悪い考えが浮かんでくる。気付くと水滴が頬を伝っていた。一度気付いてしまうと止まらずどんどん涙は溢れてくる。

 

「シロちゃん…いやだよぉ…」

 

シロちゃんが居なくなるなんて考えるだけで胸が張り裂けそうだ。

苦しいよ、シロちゃん。どこにいるの?早く元気な姿を見せて安心させてよぉ…。

 

「何が嫌なんだ…?」

 

聞き間違えるはずがない。この声は!バッと勢いよく顔を上げる。シロちゃんが驚いているようだが気にしないでがっしりと離さないように抱き着く。

 

「うわぁぁぁぁあん!シロちゃんが無事でよかったよぉおお!!」

 

シロちゃんに抱き着いた後は安堵やいろいろな感情が一気に溢れて思い切り泣いてしまった。

 

「悪い。心配かけたみたいだな…」

 

そう言いながらシロちゃんは私の事をしっかりと抱きしめ返してくれた。それが嬉しくてまた涙が溢れてくる。ずっとこうしていたいとも思う…けどシロちゃんには聞かなくちゃいけないことがある。

 

「ねぇ…シロちゃん。シロちゃんはどうして戦うの?どうしてそんなに強くなろうとするの…?」

 

どうしてシロちゃんがそこまで強くなろうとするのか…おばあちゃんが言っていたシロちゃんの"覚悟"がきっと関係してる。だから私はそれがどうしても知りたい。

 

「守りたいものが出来たんだ。俺はまだまだ弱い…昨日、雀部副隊長と戦ってみて改めてそう思った。今のままじゃあの人達みたいに守る事なんてできやしないってわかったから…」

 

守りたいもの…?それに雀部副隊長…達?そういえば友達が昨日は総隊長も来てたみたいだって言ってたような…?総隊長達と同じものをシロちゃんも守りたいってこと…?もしかしてシロちゃんの守りたいものって…。

 

「シロちゃんは…守りたいの…?その…総隊長達みたいに…」

 

総隊長達が守っているもの…それはこの尸魂界と現世に生きる人たち…。それを守ることがどれぐらい大変かなんて私には想像もできない。

 

「あぁ、俺は守りたい。いや、俺が守りたいんだ。頼む…俺に守らせてくれ」

 

やっぱり…。でもシロちゃんにそんな無理してほしくない。してほしくないけどシロちゃんの覚悟も無駄にしたくなんてない。だから…

 

「うん。シロちゃんならきっと大丈夫」

 

だから私はシロちゃんを安心させられるように微笑む…自分の気持ちに蓋をして。今の私じゃシロちゃんの力にはなれないから…私も強くなろう。シロちゃんの守りたいものを私も守れるように。そんな覚悟を私が決めているとシロちゃんが

 

「その…雛森…?そろそろ離れてくれないか…?」

 

どうして?どうしてそんなこと言うの…?もしかして嫌…だった…?

そんな私の気持ちに気付いたのかシロちゃんは

 

「いや…あのな?嫌なわけじゃなくて…その…周りの目がな…」

 

周りの…目?周りの目!?急いで周りを見渡せば教員の方達や学生のみんながこっちを興味深そうに見ていた。ここが教員室の前だってことを忘れていた事に今更ながら気づいた私はもう限界だった。

 

「し、失礼しましたぁああああ!!」

 

そう言って走ってその場から離れた。後から聞いた話だと凄まじい早さでみんな驚いていたそうだ。恥ずかしい!とても恥ずかしい!けど頑張るって決めたんだ!シロちゃんの隣に立てるくらい強くなって見せるもん。だからその時まで待っててね?シロちゃん。

 

 




日番谷「あぁ、俺は(雛森を)守りたい。いや、俺が(雛森を)守りたいんだ。頼む…俺に(雛森を)守らせてくれ」

雛森「あぁ、俺は(皆を)守りたい。いや、俺が(皆を)守りたいんだ。頼む…俺に(皆を)守らせてくれ」

噛み合っているようで噛み合っていない。そんな二人です。

今回の注意事項3点

※雀部副隊長が使用した電撃を纏う攻撃は原作にはありません。
※勿論、雀部副隊長は光の奴隷にもなりません。
※夢月君は「さらば蝋翼、我が半身」とか言いません。
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