何時からだったか――
"白い白い枯れ木の様な腕"
自分がこの世界にとっての異物だと理解したのは――
"白い白い枯れ枝の様な指"
何時からだったか――
"胸にぽっかりと空いた孔は何を喰らおうとも決して埋まることはない"
この飢えにも似た渇きを感じたのは――
"それでもこの虚しさが嫌で嫌で仕方がないから"
何時からだったか――
"故に今日も僕は同胞たちを喰らう"
自分が虚だと認めたのは――
一体、何時からだったか…もう思い出せない
天には月が浮かぶ。ここは常夜の世界。救いはなく、安らぎもない。あるのは闘争…それだけ。
だからコレにも慣れてしまった。
「なんだコリャ!こりゃまた弱そう!モヤシっ子!イエー!」
白い仮面を被ったゴリラみたいな
「放っておいてくれないかな…?」
でも多分無理かな…彼、見た目も発言も頭悪そうだし…。
「放っておけ!それは無理!お前はオレ様、ゴリラッパー様の縄張りに土足でIN!。唯で通れる訳ナッシング!」
あ、やっぱりゴリラなのか。ってぞろぞろと出て来たな…。ひーふーみー…面倒だ…全員喰らうんだしどうでもいいか…。
「ビビッてるゥ!声も出ナイト!こいつ等オレ様の配下!イエー!全部で六三体!テメェの勝機ゼロ!オレ様勝利確実Who!」
全部で六三体か。態々教えてくれるなんてもしかして彼は親切なんじゃないかと思い始める。けどそのラップなのかも分からないのは非常に不快だ。
「イエー!!」
その掛け声とともに僕は彼に殴り飛ばされる。
「何だなんだ!今のでアウト!とんだ雑魚!けど安心しなYO!オレ様!何様!ゴリラッパー様!血肉となる栄誉をプレゼント!!」
そう言い持ち上げた僕に噛みつく彼。けどごめんね?僕を捕食した時点で
「自分から喰われる!心意気!大したもんだ心意気ッ!?」
今更気付いても遅いよ。もう君の体は僕のものだ。
「ぐおォああアア!!なんだこれハ!なんでオレが!オレノカラダガああああアアア!!」
彼の体の中から植物の蔓の様なものが次から次へと飛び出し巻き付いていく。飛び出した蔓は徐々に彼を覆いつくすだけでは飽き足らず、周りにいた配下達にも同じように巻き付き覆いつくし、ゆっくりと絞め殺していく。正確に言うと絞め殺しながら分解して吸収している…が正しいかな…?きっと怖いよね…意識があるまま自分の体が分解され喰われていくのは…けど、先に手を出してきたのは君達だからね…?そうして暫く続いていた叫び声が収まった頃には、彼らがいた部分が空っぽになった蔓と、ゴリラッパーが居た筈の場所に立つ僕の姿だけがあった。
「ふぅ、そこまで美味しくなかった。まったく、やるなら最後までへんてこラップ貫くべきだろうに…」
本来、虚というのは体の一部を喰われるだけでも進化が止まり、現状維持するか退化するかどちらかになる。だが、僕は少々特殊で喰われる瞬間に肉体が分解され相手に融合する…つまり僕を捕食することは出来ないってことだ。…あとは全身相手の中に入り込んでさっきみたいに蔓を出して中から喰い殺す。後に残るのは僕の心と同じようにぽっかりと空いた空間だけだ。まぁ態々捕食されなくても種子を飛ばしてしまえば同じことが出来るんだけどね…。
「うん。…今日も綺麗な月だ」
空を見上げればそこには変わらず月が浮かんでいる。僕はここが『BLEACH』という漫画の世界だと知っている。自分が何故虚なのかなんて分からないし、分かりたくもない。最初は混乱した…目を覚ませば目に映るのは白い枯れ木の様な腕と白い枯れ枝の様な指、そして胸にぽっかりと空いた孔だけ…。混乱が落ち着いてくると自分が知る漫画の世界に出てくる悪霊・虚に似ていることに気付いた。それと同時に自分の力の使い方が頭に浮かび上がってくる。そして飢えにも似た渇きも一緒に…。最初は自分が虚になったなんて認められなくて、漫画の世界に居るなんて認めたくなくて、これは悪い夢だと何度も自分に言い聞かせた。…けれど現実は変わらなくて、何時しか僕は諦めてしまった。虚であることを受け入れてしまったんだ…。それからは早かった…自分が虚であることを受け入れた僕はただ渇きを満たすためだけに周りの虚を喰らい尽くした。
「…でも、渇きは満たされない。どれだけ同胞達を喰らおうとも決して満たされない」
そんな僕でも分かっていることはある。この身は
「…あぁ、退屈だ。」
此処には闘争しかない。そう、喰うか喰われるか…其れしかないんだ。
…そうだ、何も無いというのなら…原作の悲劇を変えてみる。と、いうのはどうだろう…?出来るかなんて分からない。けれど僕がこの世界に居るのには意味がある筈なんだ。だからこれから起こる悲しい"未来を変える"ことを僕の
「うぉぉおおおおおおおオオオオオ!!!!」
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い!!
霊圧が暴走する。霊圧が荒れ狂い、砂を巻き上げる。
「アァアアアアアア!!!」
仮面が剥がれるのと比例して自分の中の何かが抜け落ちていくのを感じる。なんのために破面化しようとしてたんだっけ…?何をしようとしてたんだっけ…?
「アアアアアああああぁ…」
だけどそんな感覚を無視して更に腕に力を込め…そして完全に仮面を剥ぎ取る。暴走していた霊圧はまるで時間が巻き戻るかのように一か所に集まっていく。全ての煙が晴れた場所には佇む一人の男。
「あぁ、痛かった。予想以上に痛かったな…けどこれで…」
自分の腕を見る。そこには枯れ木の様な腕はなく、人の腕がある。指を開いて、閉じてを繰り返し感触を確かめる。
「あぁ…なんて…」
感情が高ぶっていくのを感じる。やっとあの化物のような姿から解放されたッ!なんて!なんて!
「素晴らしい」
周りには僕以外居なかった筈なのに聞こえてきたその声は僕がよく知っている声で、僕が知るはずも無い声…。あぁ、本当にクソだ。よりによってお前が来るのか…。高ぶっていた感情はあっという間に醒めきっていた。…僕は声を掛けて来た相手にゆっくりと振り返る。…振り向いた先に居たのは想像通りの人物達。
「…護廷十三隊五番隊隊長、
まずは挨拶代わりに正体を言い当ててやろう。それで殺されたとしても僕は構わない。もう、どうでもよくなって来ていた…自分の命もこれから先に起こるであろう
「驚いたな…まさか僕の名前を知っているとは」
ならもっと驚かせてあげるよ。
「その後ろにいる二人も当ててあげようか?
藍染の警戒が一気に上がったな…流石にここまでベラベラ話せば警戒するよね。…さて、どうしようかな?彼の斬魄刀『
「…何故その事を知っているんだい?」
だから精一杯コイツ嫌がらせをするとしよう。精々、辿り着くことのない答えを探して頭を悩ませるがいいさ。
「正直に話すとでも思っているのかい?」
斬魄刀に手を掛けたな…ならあの言葉が来るか。
「「ならばせめてこの斬魄刀を見てくれないか?」って言う問いかけの答えはNOだよ」
ビンゴだ。まさか自分の台詞に被せてくるとは思わなかったのか驚いてる気配を感じる。気配を感じるっていうのは勿論、目は瞑っているからだよ。じゃないと見ちゃうしね。目なんかなくても周りの状況は手に取るように分かるから問題はない。
「君の斬魄刀『
「貴様っ!藍染様に対してなんと無礼なっ!」
おや?
「馬鹿みたいだ」
「何だと貴様っ!」
あっ、いけない。…つい声に出てしまった。これじゃ僕が煽っているみたいじゃないか。
「いいんだ、要」
「しかし藍染様っ!」
「要、僕に二度同じことを言わせるつもりかい?」
「っ!申し訳ございません…」
おぉ、怖い怖い!生で見る藍染はやはり怖いね。さてさて何て言ってくるかな?ちょっとワクワクしてきたぞ。
「…君が何故、僕達の事…僕の斬魄刀の能力までもを知っているのかはこの際置いておこう。それよりも君に聞きたいことがある。君が望むなら私はさらなる力を君にあげよう。…その代わりに君はその力を僕達の為に役立てて欲しい。悪い話ではない筈だ。君はその渇きを満たすことが出来る、私は強大な力を持つ味方を手に入れることが出来る…どうかな?」
…まさかのスルーとは恐れ入ったよ。置いといていい事じゃないだろう…。けど僕に対しての対応なら正解だ。せっかくちょっとテンション上がってきたのに、一気に醒めた。…生きていても死んでもいいと思うならせめて楽しそうな事を選ぶとしよう。
「うん、いいよ。正直退屈してたんだ。喰らっても喰らっても満たされない飢えにも似たこの渇きも、力の差も分からず群がってくる雑魚共の相手もさ」
「ならば…」
「けど、この目を開ける事はないよ。切り捨てる気満々の君を誰が信じるものか。どうしても目を開けろというならば僕は君の後ろの二人を殺すよ。僕も君に殺されるだろうけど、その二人は確実に殺せる。」
これは誇張でも何でもない、確信してる。自分でもここまで強いとは思わなかったけど目の前の二人からは脅威を感じられない。藍染からはひしひしと痛いほど感じているんだけどね…。そしてそれは藍染もだろう。彼は理解しているはずだ。僕の言うことが誇張でも何でもなく事実であることを…。
「…いいだろう。君の提案を呑もう」
ほっ。何とかなったみたいだ。あっでもこれだけは聞いておかないとな。
「ところで…何時まで猫被ってるんだい?君の本来の一人称は「私」のはずだろ?」
「…本当に君は、どこまで知っているんだい?」
「さぁて、ね。まぁ、これからよろしく頼むよ
「さて、今回皆に集まって貰ったのは他でもない。新しい同胞を紹介するためだ」
場所は変わりここは
「入って来てくれ」
呼ばれたみたいだ。僕は先輩方がいる部屋に足を踏み入れる。踏み込んだ部屋には六人の破面が座っている。
「紹介しよう。彼が新しく我らの同胞となった…」
「アルヴァ・エンデ。よろしく、先輩方」
「彼には空白だった七席目…最後の
まさか仲間になると同時に
あれから更に年月が経った。一体何年経ったかなんて分からない…ここにいると時間の感覚が麻痺しちゃうから困りものだ。けど最近は何かが引っ掛かっている。自力で仮面を剥がした時に感じたあの抜け落ちた感覚が原因だと思う。僕はハッピーエンドが好きだ。好きだった…と思う。僕は破面になって何をしようとしてたんだっけ?それが思い出せない。
「何や、こないなところで月見てたんか?」
この声は…
「市丸君じゃないか。君が来るなんて珍しいね」
「そやろか」
「そうだよ」
彼は確か松本乱菊の取られた魂魄を取り返す為に藍染の手下になったんだよね…。けど結局取り返すことが出来なくてそのまま彼は藍染の凶刃に倒れる事になる…ッ!なんだッ!頭がッ!
「ぐッ!!うぅう!」
「どうしたん?」
頭に浮かんでくるのは原作の一部。
"ありがとな…お陰で…心は此処に置いて行ける…"
僕が変えたいと願った悲劇の数々。
"あかんかった。結局、乱菊の取られたもん取り返されへんかった。やっぱり…謝っといて良かった…"
そうだ…そうだった。僕は!何でこんな大切なことを忘れていたんだ!僕が破面になったのは、こんな悲劇を起こさせないために力を求めたからだろッ!なのにどうして忘れてた!クソッ!自分が嫌になる!!何が初期メンバーやったね!だ。馬鹿じゃないのか!僕が馬鹿だったせいで悲劇を変えるにはもう時間が残されていない…なら、藍染を殺すしかない。けど今は耐えろ、機会を待つんだ。
「…うん。大丈夫だよ市丸君。…ちょっと、忘れてた大事な事を思い出しただけだから」
そう、とっても大事な事を…思い出したんだよ。
「そならええけど…」
…その日から僕は藍染を殺す機会を窺い始めた。けど、それがいけなかったんだろう。藍染の恐ろしさは十分に理解しているつもりだった。違うか…理解したつもりになっていただけだった…。だから今、こうして僕は
「ぐっ…がッ…」
死にかけているのだから…。
「君が私を殺す機会を窺っている事には気づいていたよ。いや、君だけじゃない。ここにいる破面全員が私を殺す機会を探している。その中でも特に私を殺すことに執着していたのが君だった…」
「お前は…全て…分かっていて…一人になったのか…?」
「当然だろう?正直君の能力は脅威だ。どうやったのかは分からないが、私の行った事を知っている。それに…私たちの能力も事細かに知っているんじゃないか?まさか私の鏡花水月の能力だけ…ということもあるまい」
最初に会ったあの時のツケが回って来たって事かッ!恨むぞ…あの時の僕!
「それに、君の刀剣開放状態の能力は特に危険だ…寄生型虚の能力としては最上級のものだろう。種子を植え付けた者だけでなく、自身に触れた者すら取り込み内側から喰らい尽くす…最後に残るのは宿主の
「お前はッ!自分が霊王になる為ならば周りの人間がどうなってもいいのかッ!どれだけの悲劇を作り出せば気が済むんだお前はッ!!!」
やはりこいつは許せない。自分の目的の為なら全てを犠牲にして突き進むコイツは!コイツだけはッ!!
「…やはり、私の目的までも知っていたか。君は危険な存在だ、アルヴァ・エンデ…何も言わずとも全てを見通すことのできる何らかの能力。そして他者の経験、霊力、その存在の全てを喰らい尽くす虚としての力。…私の元に集まった
破綻させる可能性…?そんなものどうでもいい!僕の質問に…
「質問に答えろッ!藍染!」
「…悲劇か、覚えておくといいアルヴァ・エンデ。悲劇というのは、現実に抗う術を持たなかった弱者達が、自分達の弱さから目を逸らすために作った都合のいい言葉に過ぎない。」
な…に…?
「な…何を…」
「真の強者は悲劇などと言った言葉を使わない。…そうだろう?今の君のように地に伏し、現実に抗うことが出来ず淘汰されていく現実を悲劇と…そう、君達は呼称する。…君が言う悲劇とは強者によってしか引き起こされず、悲劇と嘆くのは君の様な弱者だけだ」
コイツは何を言っているんだ…?何で平気な顔をしてそんな事を言えるんだ…?
「…分かるかい?強者が悲劇を嘆く事などありはしない」
そういう事か…コイツは…最初から強者だった。だから弱者の気持ちなど分からない。分かるはずもない。経験したことない事を理解できるはずがない。それでも…それでもッ!
「弱者だから切り捨てるのか!?弱い者を踏みにじってもお前はッ!お前は何も…何も感じないのかッ!!」
立ち上がれ、足に力を入れろ。ここで折れたらそれで終いだ。
「…可笑しな事を言う」
腹に力を入れろ!最後まで諦めてたまるものかッ!!!
「弱者を喰らい続けてそこまで登り積めた君が、弱者の気持ちを問うのか。」
ッ!
「そ…れは…」
「君は私の鏡花水月を警戒して瞳を閉じたと言った。だが本当にそれだけか…?」
やめろ…
「何が言いたい…」
やめろ…
「君は…自分が今まで
やめろ…
「だからこそ君は、自分の見たくない現実から目を逸らしたくて…文字通りその瞳を閉じたんだ」
「やめろッ!!」
怒りに身を任せて飛び出す。
「君は十分働いてくれた…」
血が噴き出す。これは僕の血か…?何時斬られた…?
「だからそこで好きなだけ己が無力を嘆くがいい。…それが君に相応しい最期だ」
その言葉を最後に藍染は姿を消した…。自分の血溜まりに倒れ伏して死に逝く姿は、藍染の言う通り、喰らって来た
「おい!お前!大丈夫なのか!?」
誰かの声が聞こえる…僕を呼んでいる…?いったい誰が…。
「おい!しっかりしろ!」
閉ざしていた目を開ける。僕の瞳に映っていたのは子供。
「こ…こは…」
辛うじて絞り出した声は絶え絶えで自分でも、もう永くはない事が分かるほどだ。
「ここは西
西流魂街…?それは確か…
「もう、ダメかな…」
「ふざけんなっ!まだ何もしてないのに諦めてんじゃねぇ!!何かないのか!お前が助かる方法!」
!?そうだ…まだ何も…何もしてない…けど、助かる方法…?ある。一つだけ、ある…けどそれはッ!?
「ぐッ!がハッ…」
血を吐き出し咽こむ僕を見て少年が何かを気付いたようで話しかけてくる。
「あるんだな!?助かる方法が!言えよ!早く!お前死んじまうぞ!!」
…必死だな少年。こんな死に損ないになんでそんな必死になるのか分からないけど…。
「君に…君に寄生する事…が…できれば…もしかしたら…」
こんなこと言われて受け入れる奴がどこにいる…?だから少年、早くここから離れるんだ…あとは自分で何とかするから…。
「わかった!それでお前は助かるんだな!?嘘じゃないよな!?」
わかった…だと…?言ってるんだこの少年は…?
「話を…聞いて…いた…の…かい…?僕は…君の…体を…乗っ取る…かも…知れない…よ…?」
言葉を話すことすらもう限界に近い。
「お前こそ何人の話聞いてるんだ!死にかけてる奴に乗っ取られる程、俺は弱くねぇ!!さっさとしやがれ!」
あぁ、こんな堕ちる所まで堕ちた僕だけどまだ…
「生きてて…いい…の…かな…?」
「馬鹿野郎!!生きててダメな奴なんているわけないだろうがっ!お前だって生きてて良いに決まってんだろ!!」
あぁ…僕は…誰かにそう言って欲しかったのかもしれない。命を奪いに来る連中しかいなかったあの世界では誰もそんな事言ってくれなかったから…。
「あり…が…と…う…」
あぁ…虚になってから初めて言ったな…"ありがとう"って…。
…その時から、僕は誓ったんだ。
たとえ、あの日の出来事を冬獅郎君が覚えていなくても。だから…だからさ…
「お前は邪魔なんだよ」
僕の前に居るのは冬獅郎君に寄生した虚。名前は知らないし、知る必要もない。
「ひひっ!ひひひひひひ!まさか!まさかッ!同胞に会うとはのう!!」
「悪いけど君にはここで消えて貰うよ。冬獅郎君にこれ以上負担は掛けられない。」
コイツが寄生したせいで冬獅郎君の容量を超えてしまった。それによって冬獅郎君の中に虚の力が
「負担…じゃと…?ひひっ!ひひひひひひひひひひひひっ!」
そう言って何が可笑しいのか笑い続ける虚。
「…何が、そんなに可笑しいんだい…?」
「これが笑わずにいられるか!まさか虚の貴様が!この小僧に負担を掛けている主がッ!言うに事欠いて負担を掛けられないと!そう抜かすのかッ!!!」
「…」
「滑稽じゃ!これを滑稽と言わずして何と言う!」
あぁ…そんな事…分かっているよ。僕の存在が冬獅郎君の負担になっている事くらい。お前に言われなくても分かっているんだよッ…!
「それでも…お前はここで終わりだ」
「態々、主の精神世界に儂を引きずり込んだのもその為か?」
やはり気付いているか。当たり前だよね…ここはどこからどう見ても…
「こんな虚圏そのものの精神世界など我ら虚でなければ有り得んじゃろうて!」
その通りだ。この精神世界は僕のもの。僕が作り出した
「もうおしゃべりは終わりだよ。名も知らない虚」
「ひひひひっ!主からは全く霊圧を感じぬ!大方この小僧を乗っ取る事に失敗して使い果たしたんじゃろう!虚勢だけは一人前じゃのう!ならばせめて自身を喰らう者の名ぐらい覚えて逝くがいい!儂の名はテンタクルス!藍染様が作り上げた虚よ!」
そう言って飛び掛かってくる虚・テンタクルス。しかし…藍染が作り上げた…ね。
「不愉快だ」
「ぐへっ!」
僕は飛び掛かって来たテンタクルスを蹴り上げる。
「何が!?一体何が起こった!?」
どうやら哀れな
「どこへ消えた!」
コイツは僕の姿を捉える事が出来ていない。…それがさらに僕の怒りを掻き立てる。不愉快だ。そんな感情を載せて思い切り殴りつける。
「ぐッバっ!!!」
そのまま地面に激突し、激しく粉塵が舞い上がる。霊圧が集まっている…『
「調子に乗りおってェええええ!!!!」
予想通り奴が口から汚らしい赤と緑の合わさったような色をした『
「…」
けど、そんなもの素手で十分だ。僕は左手で奴の『
「ば…馬鹿な…儂の『
「この程度の『
さぁ、僕の予想が正しければそろそろ
「なんじゃお前は…何じゃお前はぁああああああああああああ!!!!」
逆上し背中の触腕を解放したテンタクルスはこちらへ向かってくる。
「何者か…ね」
左手の人差し指に霊圧を集める。集まった霊圧は若葉色に染まっていく。
「僕は…夢月。唯の…夢月だ」
その言葉と共に放った僕の『
一面が氷で覆われた世界で同じ顔をした黒い死覇装を着た少年と白い死覇装を着た少年が剣を交えている。
「はぁ、はぁ…はぁ…クソッ!」
黒い死覇装を着た少年は激しく肩で息をしている。だが一方の白い死覇装の少年は…
「何だその
その言葉と共に手にした斬魄刀を投げ、柄の部分についてる鎖を使って更に振り回す…だが、
「!?」
氷の竜が彼の投げた斬魄刀を辿るようにして上り白い死覇装を着た少年を飲み込む。
「あまり…嘗めんなよ…痛い目見るぜ、今みたいによ」
氷の竜に飲み込まれた白い死覇装の少年はそれでも獰猛に笑う。
「そう来なくちゃなッ!!」
二人の少年は再び激突する―――
これ、次で終わるんだろうか…。