今回は独自解釈、過去捏造が出てきます。
そこは一面氷漬けの世界。そんな世界で死闘を演じる同じ顔をした少年が二人。拮抗しているように見えた戦いは白い死覇装を纏う少年によって黒い死覇装を纏う少年が巨大な氷の塊に凄まじい勢いで激突する事で中断される。
「ぐッ!」
氷塊に激突した黒い死覇装を纏う少年は、苦しそうにうめき声を上げながら氷塊の中から出てくる。立つのもやっとなのが見てわかるほど少年の体はボロボロで今にも倒れそうな様相を呈している。
「諦めな。テメェじゃ俺には勝てねぇ…理性で戦ってるテメェじゃな」
白い死覇装の少年はそう話しかける。だが黒い死覇装を纏う少年は睨み返すばかりで言葉を返す様子はない。それを見た白い死覇装の少年は再び語り掛ける。
「俺が何なのかテメェはもうわかってる筈だぜ?」
「お前は虚なのか…?」
白い死覇装の少年、いや…虚の少年はその答えに満足したように嗤う。
「ああ、正解だ!俺はテメェの中に眠っていた虚の力だ!俺より弱いテメェに用はねぇ、さっさと死んで俺に身体をよこせ!テメェ以上にうまく使ってやるからよォ!!」
そう叫ぶと虚の少年は刃を構え眼下に佇む少年目掛けて急降下し氷の竜を叩き込む。
「く…そ…」
黒い死覇装の少年にもはや避ける程の力は残っておらず、そのまま氷の竜の咢に呑まれる。
「テメェはそのまま氷の中で眠ってな…あとはテメェを殺すだけだぜ――」
虚の少年はそう言って振り返る。そこには静かに佇む自分と同じ白い死覇装を纏う青年の姿。自分を押さえ付けているもう一人の邪魔者を敵意の籠った目で睨み付け、その名を呼ぶ。
「――夢月」
名前を呼ばれた青年、夢月は氷塊の方へ一瞬目を向けるもすぐに目の前の虚の少年へと目線を合わせる。
「内なる虚…君が冬獅郎君の虚の力か。悪いけど君に冬獅郎君の身体を渡すわけにはいかないんだ…だから…」
「俺を倒す…ってか?」
虚の少年の問いに対して己の斬魄刀を抜き放ち青年は静かに答える。
「ああ、そのつもりだよ」
その返答に虚の少年は獰猛に嗤う。お前に出来るのかとでも言うかのように。
「だったら…やってみろ!!」
そして両者は激突する。片や身体の主導権を握るため、片や恩人である少年を守るため。互いに譲れないものの為に刃を握りぶつかり合う。
ベッドの上で眠り続ける少年を見つめる一人の少女。彼女は五番隊に所属する死神、
「失礼する。む、雛森殿…今日もいらしてたのですか?」
そんな彼女に話しかけるのは十三番隊に所属する死神、
「朽木さん…うん。シロちゃ、日番谷君が起きてるかもって思って…でも、やっぱり眠ったまま」
「雛森殿…」
雛森は彼が倒れたと聞いたその日には駆け付けており、今日もこうして見舞いに来たのだろう。彼女はずっと眠っている彼の事を見ている。その顔は何かを必死に耐えているようで、縋りつくものを探しているようで、そんな彼女を見ていられなかったからルキアは話しかける。
「雛森殿!大丈夫です!日番谷七席もきっともうすぐ目を覚ます筈です!」
誰が見てもカラ元気だとわかるがそれでも雛森にとってはありがたかった。そして同時に気を使わせてしまった事に申し訳なく思った。だから彼女も空気を換えるため明るく振る舞う。
「そうだよね!起きたら心配かけた分お説教しなくちゃ!」
「その意気です!雛森殿!」
それから二人は他愛もない話をした。あそこの甘味処が美味しい、あの隊は誰が綺麗で憧れるなど。奇しくも二人は同じく鬼道が得意という事もあり話が弾んだ。そんな中ふとルキアの目に入ったのは眠る彼の隣に立てかけられている彼の斬魄刀『氷輪丸』。氷雪系最強と名高いその斬魄刀の持つ力はルキアも実際に身をもって体験していることから疑いようはない。だが、『氷輪丸』を氷雪系最強と何故死神達は知っているのだろう…?そう考えてしまったからかつい口に出してしまった。
「氷雪系最強の斬魄刀…」
「え?ああ、『氷輪丸』がどうかしたの?」
「あ、い、いえ…何故みながみな氷雪系最強と知っているのかと疑問に思いまして…」
「確かに…なんでだろう…?」
言われてみればそうだと雛森も首をかしげる。二人して疑問に思っているとその疑問に答えるかのように声がかかる。
「それは氷輪丸には前任者がいたからだ」
その声に驚いた二人はビクッと跳ね上がると急いで振り返り声の主を確認する。
「「浮竹隊長!?」」
そこに居たのは十三番隊隊長、
「驚かせてしまったようですまないな。話が聞こえて来たからつい答えてしまった」
二人は予想外の人物の登場に驚いたもののすぐに意識を切り替える。
「い、いえ…「それよりも浮竹隊長!シロちゃ、日番谷君の『氷輪丸』に前任者が居たって本当ですか!?」雛森殿?」
食い気味にそう問いかける雛森の姿を見て一瞬驚くも、自身も聞きたい事であることには変わらない。そう考えたルキアも浮竹が答えるのを待つことにした。
「お前達も卍解を会得したものは一人の例外もなく名前を尸魂界の歴史に刻まれることは知っているだろう?あれは正式に言えば卍解まで至った斬魄刀の所有者の名前とその能力を記録するという事なんだ」
「名前は分りますが何故能力まで記録する必要があるのですか…?」
ルキアは疑問に思った事をそのまま口に出す。
「ははっ。確かに朽木が疑問に思うのも無理はない。だがこれは必要な事なんだ。同じ斬魄刀が現れる事は非常に稀とは言え
確かに情報は大切だろう。知っているのと知らないのとでは大きな違いがあるし、知っていれば被害の拡大も防げる可能性も上がってくる。記録される理由は理解できた。ならば次に疑問に思うのは…
「あの…浮竹隊長。『氷輪丸』の前任者ってどういう人だったんですか…?」
そう、前任者の事だ。思い返せば皆やたらと『氷輪丸』の事を警戒しているようだった。そしてそれは古参の死神になればなるほど顕著になってくる。
「『氷輪丸』の前任者の名は
「え!?」
「親友を斬ったんですか!?何故総隊長殿はそのような事を!?」
聞かされたのは驚きの内容だった。総隊長の親友であり、総隊長自らが斬り捨てたなどこれだけでは意味がわからない。混乱している二人を見た浮竹は自分もそこまで詳しくは知らないのだが、と前置きをしてから話し始めた。
「氷月蒼士朗は元柳斎先生と共に最強の死神と言われていたらしい。炎熱系と氷雪系、性格も真逆だったが、なぜか二人は馬が合ったんだそうだ。互いの実力を認め合い高め合った二人は何時しか最強の死神と呼ばれるようになり、同時に二人の振るう斬魄刀も最強と呼ばれるようになった。事実、最強であることは間違いないだろう?」
確かにそうだ…。総隊長の斬魄刀が解放されたところは見たことがないが日番谷が振るう『氷輪丸』の凄まじさは何度も稽古をしているルキアはもちろんの事、雛森も
「だが、二人は護廷十三隊の在り方を巡って対立した。元柳斎先生は今の護廷十三隊の在り方を押し、氷月蒼士朗はそれまで通りの人の命を顧みない殺伐とした殺戮集団で在るべきだと、死神は魂のバランスを調整する事だけを考えているべきだと、そう言っていたらしい」
「そんな事を…」
「だから、総隊長は斬ったんですか?自分の親友を…?」
雛森のその問いかけに浮竹は苦笑いすると困ったように続きを話し始める。
「いや、元柳斎先生も最初は話し会いで解決しようとしたらしいんだが、どこまで行っても平行線で決着が付かなかったんだそうだ。最後まで話し合いの解決を望んだ元柳斎先生と違い、氷月蒼士朗は元柳斎先生に護廷十三隊の在り方を掛けた死闘を申し込み、元柳斎先生はそれを受けた。いや、受けざるを得なかった。」
「ですが隊長。総隊長殿は受けないこともできたのではないですか?」
ルキアは疑問を呈する。それに答えたのは浮竹ではなく同じく話を聞いていた雛森だった。
「…受けなければ総隊長が、氷月蒼士朗の考えに屈したと認めたものとする。なんて書かれていたら受けようがない…ですよね?」
「ああ。実際、それに似たことが書いてあったらしい。…そして二人は激突した。互いに卍解を使った文字通りの死闘だったそうだ。…そうだ。この尸魂界の外れに草木が一本も生えていない岩しかない場所があるのを二人は知っているか?」
「いえ…私はそのような場所は記憶にありませぬ」
「私も分かりません」
浮竹の問いかけは不思議なものだった。岩しかない場所があるから何だというのだろう?それが二人の疑問だった。
「そこはもう千年以上草木が生えない。いや、命というものが失われた土地しかない。その場所こそが元柳斎先生と氷月蒼士朗が死闘を行った場所だ。未だに大地に爪痕を残している。それだけで二人の戦いの凄まじさが分かるだろう…。だからこそ、この話を知る死神達は『氷輪丸』を警戒するし、元柳斎先生もまた、冬獅郎の事を気にかけるんだろう」
想像以上だった。自分達では知らなかった事実、歴史。もしかしたら今自分が所属する護廷十三隊が人の命を顧みない殺伐とした殺戮集団になっていたかも知れないと聞いたら、総隊長が勝者となったのは喜ばしい事だ。喜ばしい事だが…
「…どんな」
「雛森殿…?」
「どんな気持ちだったんでしょうか…?自分の親友を…憎んでいた訳じゃないのに願った形が違うからと殺しあって…斬るしかなかった総隊長の気持ちは…」
雛森という少女はとても優しい。相手の事を思いやる事ができ、自分の事のように喜び、悲しみ、怒ることができる優しい少女だ。だがそれは悪く言えばそれは相手の気持ちに感情移入しすぎてしまうという事でもある。
「…どうだろうな。俺に例えるなら、京楽と本気で殺しあってその果てにアイツを斬るっていう事だからな…考えただけでもゾッとする」
苦々しい表情でそう漏らす浮竹に対し二人の少女は掛ける言葉が見つからなかった。
「僕を斬るなんて随分と物騒な話をしてるんじゃない?浮竹」
「京楽…!」
「「京楽隊長!?」」
音もなく現れたのは八番隊隊長、
「一体何の話をしていたんだい?」
「…『氷輪丸』の前任者、氷月蒼士朗について話していたんだ」
浮竹の答えを聞いてすこし目を見開いた京楽は直ぐ何かを悟ったように小さく"そうかい"と呟くと話を聞いて気持ちが沈んでいる二人の少女に目をやり、空気を換えるように明るい声で話し出す。
「けど浮竹、僕を斬るって例えは酷いんじゃない?僕が何かしたのかと驚いちゃったじゃないの」
「いや、それは…まぁ、そうだな。うん、すまん京楽」
「冗談だよ、冗談。…君達も何時までも沈んでちゃダメだよ?山じいが彼を斬った時何を思っていたかなんて僕らには分かりようがない事なんだからさ。沈んでいるよりも山じいが選んだ今の護廷十三隊の在り方は間違いじゃなかったと、僕たちが証明してあげた方がずっといい」
「京楽隊長…」
京楽が沈んでいる自分達を気にしてくれているのが分かるからこそ二人も前を向く。何時までも沈んではいられない。総隊長が選んだ今は正しかったのだと自分達が証明しなければいけないのだから。
「私、頑張ります!総隊長が選んだ今は間違いじゃなかったって思うから!」
「わ、私もそう思います!」
二人の少女の覚悟を聞いた古参の死神二人は笑みを浮かべる。自分たちの師が選んだ事は間違いなんかじゃなかったとそう思えたから…。
「「「「ッ!!」」」」
だがそんな優しい暖かな空気を壊す冷たく重たい霊圧が彼らに圧し掛かる。その発生源はベッドの上で寝ていたはずの少年。
「ぐあぁあああああ!!!」
「シロちゃん!!」
「ダメだ!!近寄るんじゃない!」
苦しそうに叫び声を上げる少年に駆け寄ろうとする雛森を止めた浮竹は自らの斬魄刀に手を伸ばす。
「これは…只事じゃなさそうだねぇ…彼、負けたのかい?」
京楽の呟きは虚に言葉通り、虚に負けたのかという確認、そして斬る覚悟はあるのかと自らの親友へと投げかける問いかけでもある。そんな中、事態は動く。眠っていたはずの少年は立ち上がり、少年を覆っていた結界は霊圧に耐えられず破壊され、眠っていたベッドも粉々に吹き飛ぶ。そしてその中心に佇む少年は俯いていた顔をゆっくりと上げる。
「アアアアアアアアア!!!!」
その顔には白い仮面。それは少年が虚の力に負けた証に他ならない。
「嘘…嘘だよね…?シロちゃん…」
その姿を見て呆然自失となるのは彼に恋心を抱く雛森である。自分の想い人の少年が虚になるなど彼女の理解を、いや心が理解することを拒否していた。
「京楽、二人を頼む」
そんな雛森を他所に浮竹は自らの斬魄刀を抜き放つ。
「…いいのかい?」
「ああ、覚悟は出来ている。冬獅郎は…俺が斬る」
「そうかい…」
そう言って京楽は二人の少女を自分の背に隠す。二人に見せるべきではない。そう判断しての行動だった。
「シロちゃん…嘘だよ…こんなの絶対嘘…シロちゃんは、虚になんかに負けたりしない。…だから、私が助けるんだ」
「雛森殿…?」
ルキアは隣で呟き始める雛森を見やる。その目には先ほどまでの怯えはなく、覚悟を決めた力強い目をした彼女の姿があった。同時に嫌な予感がひしひしとしている。
「シロちゃん!!」
「なに!!」
「雛森殿!!」
「ダメだ!君まで行かせる訳にはいかないよ」
ルキアは彼女を止めようとするが一歩遅かった。驚く浮竹の声と自分を制止する京楽の声が聞こえる。雛森は飛び出すと彼に抱き着く。そして信じられない行動に出た。
「縛道の六十一『
あろうことか雛森は自分ごと『六杖光牢』で動きを封じたのだ。これには隊長格二人も驚きを隠せない。
「何をしているんだ!」
「これは…まいったね…彼女、もしかして彼と心中でもするつもりかい…?」
そんな隊長格二人の驚愕を他所に雛森は叫ぶ。愛しい少年の名を。
「シロちゃん!!シロちゃんは虚になんて負けない!シロちゃん言ったじゃない!守りたいものがあるんだって!なら…なら虚なんか倒して…帰って来てよぉ!」
その叫びが届いたのか苦しみだす少年。
「グゥガァァアアアアアアアアア!!!」
その叫びと共に一つまた一つと突き刺さる光は消えていく。それでも彼女は離れない。少年が帰ってくることを最後まで諦めない。
「シロちゃん!虚なんかに負けないで!私はここに居るよ!シロちゃんを絶対に一人にしないから!」
全ての光は消えた。そしてそれは少年を押さえつけるものが無くなったことを意味する。少年は右手を振り上げる。
「いけない!早く離れるんだ!!」
「雛森殿!!!」
京楽も自身の斬魄刀に手を掛ける。
「シロちゃん!!!!」
少年は勢いよくその手を振り下ろす。
「なッ!」
「バカな…」
「これは…予想外の展開だねぇ…」
驚くのも無理はない。少年が振り下ろした手は自身に抱き着く少女ではなく、自分の仮面へと向けられており、仮面には罅が入りその罅に手を突き刺しているのだ。まるで剥ぎ取るかのように。
「ぐうううううう!!!」
少年は苦しそうな声を上げる。それでもその手は仮面を剥ぎ取ろうとしている。それが分かるからこそ少女は少年の名を呼ぶ。頑張って、虚なんかに負けないで。私は此処にいるよとそんな気持ちを込めて少年を呼ぶ。
「シロちゃん!!!!」
少女の声が後押しとなったのか少年は叫び声を上げ勢いよく仮面を剥ぎ取る。
「うおぉおおおおおおおおおお!!!!」
砕け散った仮面が辺りに散らばる。少年に抱き着く少女はゆっくりと少年に問いかける。
「シロちゃん…?」
それでも目の前の少年は返事をしない。
「し…シロちゃん…」
雛森の目に涙が溜まっていく。間に合わなかったのではないか、そんな不安が押し寄せる。
「声が…聞こえたんだ…。雛森の…声が聞こえた。…ありがとな」
そんな不安に押しつぶされそうになっている少女の耳に一番聞きたい声が聞こえてきた。そこに居たのは冷たく重い霊圧を持つ虚の仮面を被った彼ではなく、少女の恋したぶっきらぼうだが優しい少年が笑みを浮かべる彼だった。
「シロちゃん!!よかったよぉおおおおおおおお!!ばかぁあああああああ!!!」
その笑みをみて一気に張り詰めた気持ちが解放された少女は思い切り少年に縋りつき泣き叫ぶ。よかったと、無事で本当に良かったと。そして心配をかけたことが分かるからこそ少年も甘んじて受け入れる。
「冬獅郎…なのか…?」
「ああ、間違いなく俺は日番谷冬獅郎だぜ」
「そうか…そうか…」
「いやぁ、驚いたなぁ。これも愛の成せる奇跡って奴なのかねぇ…」
心底ホッとした様子を見せる浮竹と驚いたと口では言っているがどこか感心した様子の京楽。
「朽木もすまなかったな…」
「いえ!私は!私は…何も…出来ませんでした…」
自分は何もできなかったと自分を責めるルキアを見た彼は驚いたようだったが、真面目な表情で彼女に自分の気持ちを話す。
「いや、ここに居るってことは心配してくれてたんだろ?それだけで十分ありがたいさ。だからそんなに自分を責めるな」
「日番谷七席…はい!」
ルキアに笑顔が戻った事で隊長格二人も微笑みを浮かべる。特に浮竹は顕著で、あと少しで自分の部下を手に掛ける所だったこともあって殊更安心したようだった。
「雛森も…ありがとな。お前の声が聞こえたから、俺はアイツに勝てた」
「うん…シロちゃんがシロちゃんじゃなくなるかもしれないって怖かった。凄く凄く怖かったの…」
「雛森…」
縋りつくかのように強く日番谷に抱き着いている雛森。そんな彼女を見て京楽がニヤリとしながら楽しそうに、そしてどこか揶揄うように口を開く。
「いやぁ~日番谷七席も隅に置けないねぇ。こんなに可愛い彼女さんがいるなんて。そりゃ応援されたら虚にだって勝てちゃうわけだ」
「いや、雛森とは別にそんな関係じゃ…」
「いやいや君の今の状況を見てごらんよ。彼女、離してなるものかと言わんばかりにがっしりと君に抱き着いているじゃない。別に照れなくてもいいでしょうに」
だがそれは自分の現在の状況を理解していなかった雛森に今自分が何をしているのかを理解させるには十分すぎて、だからこそこの結末は避けられなかったのかもしれない。
「…い……」
「雛森…?」
日番谷冬獅郎という少年がいかに優秀と言えども悲しいかな、女心は分からない。自分が懸想する少女が今まさに自身の許容量を超え、爆発寸前な事など少年には分かる筈もなかった。
「いやぁあああああああああああああ!!!!!」
ドゴッと凄まじい音と腹にめり込む少女の拳。凄まじく綺麗な、それこそ見ている隊長格二人が感心するほどのそれは内なる虚との闘いで消耗していた少年の意識を刈り取るには十分な威力を持っていた。
「…な…なんで…?」
こうしてまた少年はベッドの上に逆戻りした。
氷原に木霊するは金属のぶつかり合う甲高い音と、舞い散る血飛沫。だが、その血飛沫は一人のもの。だからこの結果は当然の帰結だったのだろう。
「ガッ!?」
勢いよく氷塊に激突したのは白い死覇装を纏った少年。
「て…テメェ…」
氷塊の中から現れた少年は全身傷を負っていない場所を探すのが難しいほどに血塗れの姿で息も絶え絶え、立っている事さえやっとな状況だ。
「そろそろ、諦めてくれないかな」
それに対して自分を見下ろす青年は全くの無傷。掠り傷一つその身に負っていない。それが少年の神経を逆撫でる。まるで自分がさっき氷塊に閉じ込めた黒い死覇装の少年と同じような状況に苛立ちは募る一方。だからこそ彼は叫ぶ。目の前の自分の同類である青年に対し、恨みを乗せて。
「ふざけんじゃねぇ!!!!俺の身体に居ついている寄生虫の分際で何を偉そうにほざいてやがる!あの野郎は覚えてないようだが俺は違う!!テメェの事が!正体が!バレてねぇとでも思ってんのかッ!!!破面!!!!」
その叫びを聞いた青年は全く動じる事なく答えを返す。目の前の虚の叫びに呼応して少年の身体に影響が出たことを感じ取りながら…。
「…やっぱり同類の君にはバレるか。確かにこの身は君の身体に寄生しなければ保っていられない程の損傷を負っている。それは否定しようのない事実だ。だが、それと君を倒す事は別問題だ。違うかい?その体は死神である冬獅郎君のものだ。虚である君のものじゃない。勿論、僕のものでもない。」
それを聞いた少年は尚も叫ぶ。
「この身体は俺のモノだ!!アイツは俺に負けた!あの氷の中で眠りについてる事だろうよ!!!」
さらに少年の身体に影響が出たのを青年は感じ取る。この調子なら仮面は出たかと予想を立てながら。
「――あの氷とはどの氷だい…?」
だがそれでも青年は動じない。この程度であの優しい少年が負ける筈がない事を知っているから。何故ならあの優しい少年には、あの泣き虫で優しい頑張りやな少女が付いている。
「だからあの氷の…ッ!!!」
だからほら、これは当然のことだと青年は微笑む。大気を震わす霊圧。それは虚の少年にとっては確かに倒した筈の者の霊圧。どんどん上昇していく霊圧はとどまることを知らない。霊圧に耐え切れなかった氷塊は粉々に弾け飛ぶ。
「…なん…だと…!?」
虚の少年は自身が氷に閉じ込めた筈の場所に人影を見つける。そこには黒い死覇装を纏い血塗れながらも立ち上がる少年の姿。ボロボロの筈なのにその瞳は自分が倒した時とは比べ物にならない程に力強く、虚の少年は気圧される。
「――おかえり、冬獅郎君。手助けは必要かい…?」
青年の声に少年、日番谷冬獅郎は答える。力強く、弱さなど微塵も感じさせない声で。
「必要ない。お前はそこで黙って見てろ夢月。…それと、ありがとよ。時間…稼いでくれてたんだろ?」
その答えに少し笑いながら青年、夢月は応える。心底嬉しそうに、眩しいものを見るように。
「さて、何のことかな?思った以上に虚の君が強くてね…時間が掛かってしまったんだよ。流石は虚といえども冬獅郎君だね」
「白々しい。…けどまぁ、いいさ。」
互いに互いを信じているからこその軽口の応酬。それに少しの気恥ずかしさを感じながらも意識を目の前にいるもう一人の
「―――いくぜ」
―――冷たい。氷輪丸で作り出した氷を冷たいなんて思ったのは何時ぶりだろうか。俺は負けたのか…虚の自分に…。でも仕方ないよな…俺が弱かったから負けたんだ…。あぁ、ダメだ。頭が働かない。凄く…凄く眠たい…このまま眠ってしまおうか…。
"…ちゃ…ん!!"
今…誰かの声が…
"シ…ちゃ…ん!!"
また聞こえた。誰だ…?誰を呼んでるんだ…?
"シロちゃん!!シロちゃんは虚になんて負けない!シロちゃん言ったじゃない!守りたいものがあるんだって!なら…なら虚なんか倒して…帰って来てよぉ!"
ひな…もり…?ひなもり…雛森!?そうだ…なにが眠ってしまおうかだ。俺には帰りを待ってくれてる人が居る。まだ雛森に自分の気持ちすらちゃんと告げられてない。まだ、藍染を倒してもいない!まだ、守りたい人たちがいるんだろうがッ!!立てよ日番谷冬獅郎。男なら立ってみせろ!!!俺の気持ちに呼応するかのように上がり始める霊圧。だが足りない。もっと、もっとだ。
―――そして耐え切れなくなった氷塊は砕け散る。
「…なん…だと…!?」
氷塊を粉砕して最初に聞こえて来たのは
「――おかえり、冬獅郎君。手助けは必要かい…?」
なんて軽口を叩いて来る夢月の姿。なんてことないように振る舞ってるつもりだろうがホッとしているのがバレバレだ。
「必要ない。お前はそこで黙って見てろ夢月。…それと、ありがとよ。時間…稼いでくれてたんだろ?」
お前が時間を稼いでくれたなんてことはボロボロの
「さて、何のことかな?思った以上に虚の君が強くてね…時間が掛かってしまったんだよ。流石は虚といえども冬獅郎君だね」
「白々しい。…けどまぁ、いいさ。」
本当に白々しい奴だよお前は。…けど、感謝するぜ夢月。目を閉じ勝たねばならない理由を確かめる。必ず勝つと覚悟を決めて目を開ける。その目に映るは虚の力、その具現たるもう一人の自分。
「―――いくぜ」
その声と共に一気に
「なんだその速度は!?ぐっ!」
「『
更に追撃とばかりに氷で形成された斬撃を放つ。今までとは比べ物にならない程の範囲と威力を持ったそれを奴は上に飛ぶことで避ける。…ああ、今の状況じゃその逃げ方しかないよな。けど忘れているぜ。
「甘ぇ!『
氷の斬撃を上空にいる
「クソがッ!!なんだ!なんだ!なんなんだよ!!テメェは!!!!」
奴は自分の持つ『氷輪丸』の先端を此方に向け、その刃先に霊圧を集め始める。
"シロちゃん!虚なんかに負けないで!私はここに居るよ!シロちゃんを絶対に一人にしないから!"
ああ、本当に…俺はいつも雛森に励まされてばっかりだ。
「死にぞこないがァアアア!!!さっさと消えろォオオ!!!!!」
奴が放つのは虚が放つ、破壊の閃光『
"シロちゃん!!!!"
その声が聞こえると同時に『氷輪丸』を構え、俺は真正面から『
「うおぉぉぉおおおおおおおお!!!!」
俺の叫びに呼応して徐々に凍り付いていく奴の放った『
"シロちゃん!!!!"
ッ!!ああ!聞こえる!雛森の声が!俺を信じて帰りを待ってくれてる
「うおぉおおおおおお!!!!『
「…クソッ…」
奴の放った『
「ハッ…認めてやるよ…
「そんな事にはならねぇ…絶対にな…」
「―――その威勢がいつまで続くか楽しみだ」
その一言を最後に
「ひとまずおめでとう、と言っておくよ。いや、お疲れ様…かな…?」
夢月。コイツにも今回は苦労を掛けた。
「夢月…もう一度言わせてくれ、ありがとう。助かった」
だからこそ礼を言ったんだが、なぜか夢月は申し訳無さそうな顔をしている。何故だ?
「お礼を言われるのは筋違いだよ冬獅郎君。今回の虚の一件は僕も原因の一つなんだ…」
「どういうことだよ」
夢月が原因の一つ…?いまいち意味が分からねぇ。
「本来ならあのテンタクルスとかいう虚に寄生されても虚の君が現れる事はなかったんだ。…けれど、僕という存在が君の中に居る事で君の虚に対する容量を超えてしまった。だから彼が現れたんだよ…」
なんだ、身構えてた割にはしょうもない内容だったな。そんなもん
「下らねぇ。お前のせいで俺の容量を超えたってのは分った。けどな、お前がいなかったら都さんも海燕も救えなかったし俺も此処まで強くなることは出来なかった。そして、あのお前が見せた映像と同じ道をたどっていた筈だ。お前に感謝することはあっても恨むことなんてねぇよ」
俺の話を聞いた夢月がこれまでにないほど驚いている。目を見開いて口も半開き、かなりアホな顔だ。
「いや、でも…」
「でもじゃねぇ!俺が良いって言ってんだからいいんだよ。それでも納得できねぇなら、これからも俺に力を貸してくれ。それでチャラにしてやるよ」
全く、こういう時は頑固なんだよなコイツ…。
「―――わかった。これからも君の力になることを誓うよ」
「おう!ってやべぇそろそろ戻らねぇと」
あれからどれだけ時間が経った…?早くしないと虚として斬られる…なんて事になるんじゃ…。
「大丈夫だよ。君が内なる虚を倒してからあちらではほとんど時間が経ってない。早く戻って雛森ちゃんを安心させてあげるといい」
「夢月…ああ、そうさせてもらう」
――こうして虚化を巡る内在闘争は一旦終息を迎えた。内なる虚との闘いでまた一つ少年は強くなった。…だが、そんな少年でもこれから自身の身に降りかかる愛しい少女からの鉄拳制裁だけは避けられなかったのだった…。
来週の投稿は厳しいかもしれません。
可能な限り頑張ってみますが、あまり期待せずに(そもそも期待してくださる方達がいるのかもわかりませんが…)お待ちください。