この氷原に死すとも   作:玫瑰月季

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休日出勤しなくて済むよう金曜日に残業したので何とか書き終える事が出来ました。休日出勤は悪い文明。

今回はもう、オリジナル設定、独自解釈が前回の比じゃないです。ご注意ください。

それと題名の縛りを廃止致します。


7.掲げる花は

メタスタシア討伐任務から始まった一連の騒動が終わりを迎えてから数年が経った。あの日、雛森の強力な一撃によって意識を失った俺が目を覚ましたのは翌日の日も高くなった頃。どこで聞いたのか目を覚ましてそうしない内に多くの連中が見舞いに来た。浮竹隊長、海燕、都さん、朽木に雛森、京楽隊長…は副隊長に連行されて行ったが…。予想外だったのは長次郎さんや総隊長(じいさん)まで来たことだ。この一件で自分が想像するよりも多くの人間に心配を掛けていたことを知り、それまで以上に修行に力を入れるようになった。総隊長(じいさん)に弟子入りしたのもその一つ。

 

「遅かったっすね。書類、終わりました」

 

そんな俺は現在、十番隊第三席の地位に居る。

 

「うおおおおおおおお!!!やるじゃねえか冬獅郎!!さすが次期隊長!!」

 

この煩いのが十番隊隊長、志波 一心(しば いっしん)。苗字から分かる通り海燕の身内だ。

 

「ちょっとちょっと!!次期隊長はあたしでしょー階級的に!!」

 

そしてこっちの煩いのが十番隊副隊長、松本 乱菊(まつもと らんぎく)。夢月が見せた映像の中で涙を流していた死神だ。十番隊はこの騒がしい隊長、副隊長が率いている。非常に騒がしい事この上ないが、俺はこの二人も、この隊も気に入っている。

 

「何言ってんだ。オマエみたいなのが隊長になったら隊が崩壊するわ」

 

「そうっスね。卍解も習得しましたし俺で問題ないと思います。むしろ今すぐにでも副隊長交換してもいいと思います」

 

「コラ冬獅郎!!あんたまで何言い出してんのよ!!」

 

総隊長(じいさん)の鬼の修行により、卍解はとりあえずの形では出来るようになった。だが、完成形には程遠くさらなる修練が必要となるだろう。当分の目標は卍解の完成だな。

 

「ん~!やっぱり饅頭は最高だな!!」

 

心底美味そうに饅頭を頬張る隊長には報告しなければならないことがある。

 

「隊長。二か月前の報告、覚えてます?鳴木市(なるきし)という中規模の都市なんですが、二か月前に担当死神が一人事故死しました。」

 

「あーあったな。原因調査中のやつだ」

 

「それです。それの先月分の報告書がさっき上がってきたんですが…原因は不明のまま先月は二名死亡しています」

 

報告を聞いた途端にさっきまでのふざけた態度は一変し、身をひるがえして隊所を出ていく隊長。

 

「あっ!ちょっとどこいくんですか隊長!!」

 

「調査!あと任せたぞー!」

 

「え!?今から!?一人で!?」

 

「オウ!明後日くらいには戻るから明日の仕事ヨロシクな!」

 

困惑している松本をよそに軽い返事を返している。けれど一人で行こうとするという事は、この一件は相当危険だと判断したという事に他ならない。だから確認する。知っている奴に。

 

"夢月。隊長はこの後どうなる?知っているんだろう…?"

 

「何言ってんですか!総隊長に報告とか…」

 

"知っているよ。でも彼をここで引き留めてはいけない。絶対にだ"

 

引き留めてはいけない…か。なら…。

 

「…隊長。俺も同行してもいいですか?」

 

「ちょっと冬獅郎まで何言い出すのよ!」

 

松本は一旦無視する。隊長から目を離さず答えを待つ。

 

「ダメだ。お前達は此処に待機だ。」

 

"夢月。隊長は…死ぬのか…?"

 

「それは足手まといになるからですか…?」

 

"いや、死なないよ。そしてちゃんと帰ってくる"

 

「違ぇよ。さっきも言ったろうが、次期隊長はお前だ冬獅郎。俺の身に何かあった時に後を託せる奴が必要なんだよ。そしてそれがお前だったって事だ」

 

隊長と呼ばれる人間はどうしてこう…そんな事を言われたら断れる筈なんか無いじゃないか…。

 

「わかりました。けど、帰りがあまりにも遅いと戻って来た時に隊長の席は無くなっているかもしれませんよ?」

 

言い返さないのは負けた気になるので軽口で返す。

 

「言うようになったじゃないか冬獅郎!だがまだお前に隊長の席は譲れないからな!帰ってくるさ!」

 

その言葉通り、隊長はひょっこり戻って来た。謎の黒い虚との戦闘があったらしいがこれを討伐し帰還したとの事だ。けどそれから数日もしないうちに隊長はまた現世に行くと言い出した。

 

「何考えてんですか隊長。現世、気に入ったんですか?」

 

松本が呆れたように聞く。

 

「い、いや~あれだよあれ、ちょっと礼を言わなきゃいけないやつがいてな」

 

「礼…?」

 

"冬獅郎君。これが()()()()()()()と会う最後になる"

 

礼を言わなきゃいけない相手、そして夢月から聞かされるもう帰ってこないという話。

 

「おう、礼だ。実はちょっとミスってな。危ないところを助けられたんだよ。」

 

"夢月、どういう事だ。また敵が現れるのか?"

 

"いや、敵は現れない。けど彼は自分を助けた少女を救う事を選ぶ。だからこれが最後なんだ"

 

また敵が出没するのかと問えば帰ってくるのは否定の言葉と自分を助けた少女を今度は隊長が助けるから最後という意味が分からない発言。

 

「え~!隊長そんな事、報告書に書いてありませんでしたよね!?」

 

「いやーあれだよあれ、ちょっとな?」

 

松本の指摘にタジタジになっている隊長を見ながら夢月に問う。

 

"それは死ぬという意味じゃないよな?"

 

"うん。しばらく会えなくなるだけ。そして彼をここで止めてはいけないよ"

 

しばらく会えなくなるだけで止めてはいけない…か。

 

「…はぁ、分かりました。黙っておきますから早く帰って来てください」

 

「ちょっと!冬獅郎!あんたまた勝手に!!」

 

夢月の言う通りならば隊長としてのこの人と会うのはこれが最後。確かに夢月に見せられた映像の中で藍染に斬られた俺は()()()()()()()()()()()()()。ならこれは予定調和で変えてはいけない事なんだろう。

 

「さっすが冬獅郎!話が分かるな!すぐ戻って来るからよ!お土産楽しみにしとけ!!」

 

そう言って走り去っていく隊長。

 

「もう!隊長!」

 

その隊長を見て怒り心頭な松本。

 

「冬獅郎!!あんたもあんたよ!隊長を行かせるなんて!」

 

「あのまま問答を続けてもあの人なら勝手に行くでしょ」

 

「うっ、そう言われると確かにそうかも…。もう!お礼を言うだけならすぐ帰って来るでしょう。冬獅郎!腹いせに隊長の隠してたお饅頭でも食べるわよ!」

 

すぐ帰って来る。結局その言葉が叶う事は無かった。十番隊隊長、志波 一心は現世にて消息不明となり、程なくして俺の元に十番隊隊長を任じる書状が届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背中に十と書かれた隊首羽織を着た俺は、一番隊隊舎に向かい足を進めている。今日は俺の隊長任命式だ。隊長…志波前隊長が消息不明になって直ぐに俺の元に任命状が届いた。それを見た松本が喧しかったが、まぁなんだかんだ言いながら認めてはくれているようだ。

 

「お、冬獅郎じゃないか…ってスマンな。もう隊長になったんだから日番谷隊長か」

 

「天貝?どうしてここに?」

 

呼び止めてきたのは一番隊第三席、天貝 繍助(あまがい しゅうすけ)。虚討伐の遠征部隊を率いていた人物でちょっとした事から知り合い、いつの間にか俺より先に総隊長(じいさん)の弟子になっていた兄弟子にあたる男だ。ちなみに、酒を一杯飲むだけで酔い潰れてしまうほどの下戸だ。

 

「偶然お前さんを見かけたもんでな。こうして話しかけてる訳だ」

 

「……」

 

…嘘だな。こんな隊首会が開かれる場所まで一直線のこの廊下に偶然居合わせるなどいくらなんでも無理がある。そんな俺の視線に気付いたのか、はたまた無理やりすぎる理由付けに恥ずかしくなったのかは分からないが咳払いを一つすると話し始める。

 

「冗談だ、冗談。だからそんな目で見るな」

 

「で、用件はなんだ?」

 

「なに、お前さんが緊張してるんじゃないかと思ってな。兄弟子として弟弟子の門出を祝うついでに緊張をほぐしてやろうという粋な計らいさ」

 

この男らしい理由だった。天貝は飾らない人柄と部下思いの性格をしており、遠征から戻ってきてまだ浅いのにも関わらず堅物揃いの一番隊で早くも慕われているというのだからどれほどのものか分かるだろう。ただ、まぁ…初めて天貝に会ったときは酷かった。タイミングも悪かったんだろうが、総隊長(じいさん)への恨みを呪詛のように口にしていたからな…。まぁ、それも誤解だったことが分かり今は何かの調査をしているらしい。

 

「はぁ…。そいつはありがとよ」

 

「おう、緊張が解れたなら行ってこい新隊長」

 

その言葉で緩んでいた気を引き締める。今日から俺が十番隊の連中を背負う立場になる。その重責に膝を折りそうになるが腹に力を入れ耐える。ようやくここまで来た。いや、やっとスタートラインに立ったんだ。

 

「ああ、行ってくる」

 

扉に向かい足を進める。考えるのはこれからのこと。奴との決戦の時まであと僅かしかないが、その時まで俺は自分に出来る事をするだけだ。そんな事を考えていると目の前に重厚な扉が見える。

 

「開けてくれ」

 

俺は扉のそばに控える看守にそう告げる。そして開いていく扉。開いた扉の向こうには対面に総隊長(じいさん)がいてその脇に隊長達が並んでこちらを見ている。勿論、藍染も…。

 

「今日から十番隊隊長になった日番谷冬獅郎だ。よろしく頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隊長になってから数日が経ったこの日、俺は頭を悩ませていた。隊長としての業務についてじゃない。隊長としての業務は滞りなく出来ている。あの人が隊長だった時から書類は俺が片付けていたからな…。俺が頭を悩ませている原因は手元にある本日開催の"説明会のお知らせ"だ。

 

「何見てるんです?隊長」

 

「松本…これだ。藍染の奴から来た斬魄刀説明会の知らせだ」

 

「あれ?隊長まだ行ったことなかったんですか?あたしてっきりもう行っているものかと」

 

そう、今までにも何度か来ていたが全てタイミングが合わず参加出来ていなかったのだ。だが流石に今回は参加せざるを得ない。隊長が進んで和を乱していては示しがつかない。…席官でも同じだろうというのは置いておく。一応対策も出来てはいる…出来てはいるが参加したいかと聞かれれば参加したくない。

 

「はぁ…仕方ない。腹くくるか…」

 

「そんな大げさすぎますよー隊長」

 

そんなやり取りがあったが結局俺は藍染の斬魄刀説明会に参加していた。場所は五番隊隊舎の訓練所。今年死神になった連中や、虚討伐の遠征部隊で居なかった天貝、そして最近三番隊の三席になった貴船 理(きぶね まこと)の姿も見える。どうやらあちらも気付いたようで天貝が近付いてきた。

 

「よっ日番谷隊長!お前さんも参加してたのか!…でもお前さん参加したことなかったのか?藍染隊長は今までもこの説明会を開いていたんだろう?」

 

やはり疑問に思うよな…さて、どう説明したものか…。

 

「日番谷隊長は忙しかったようだからね。なかなか日程が合わなかったみたいなんだ」

 

そう言って現れたのはこの説明会を開催した主催者。

 

「藍染…」

 

「やあ、日番谷隊長。こうして参加してもらえて嬉しいよ。天貝三席も呼びかけに応じてくれてありがとう」

 

「いえ、自分の方こそ声を掛けて頂きありがとうございます」

 

「そう固くならないでくれ。呼んだのは僕の方だからね。どうしても僕の斬魄刀の能力上、同士討ちの危険性がある。だから、同士討ちしないようにする為にも知ってもらう必要があったんだ」

 

「なるほど…」

 

コイツはよくもまあ平然と嘘を吐けるな。テメエのそういうところは素直に凄いと思うぜ藍染。見習いたいかどうかは別として。

 

「…藍染、始めないのか?俺も暇じゃない。松本に任せると仕事がたまる一方なんだ。だから俺としては出来るだけ早く済ませて欲しいんだが…」

 

「ああ…苦労しているんだね。日番谷隊長も…うん、それじゃ始めさせてもらうよ」

 

そう言って前に出ていく藍染。同時に俺も準備を始める。藍染の持つ斬魄刀『鏡花水月(きょうかすいげつ)』は解放の瞬間を一度でも見る事で初めて効力を発揮する能力だ。だから俺は常日頃から『氷輪丸』の能力を使い、目の中に氷の薄い膜を張っている。現世で言うところのコンタクトレンズとかいうものと同じだ。『氷輪丸』で凍り付いたあらゆるものは機能を停止する。つまり、氷自体が停止させる力を持っているという事だ。で、あるならばその氷を通して見れば停止の力を持つ氷に阻まれて俺まで届かないだろうと考えた。一応『氷輪丸』にも確認したが可能との返答をもらったからな…問題はない筈だ。

 

「凄まじいな…これなら同士討ちを警戒してこんな説明会を開かなければいけないわけだ」

 

そんな声が隣から聞こえてくる。どうやら成功したらしい。俺には藍染がただ斬魄刀を掲げているようにしか見えないが隣の天貝を始めとした死神達は違うものが見えているようだ。…結果として今回の説明会も多くの死神達を奴の術中に落として終わりを告げた。俺の胸中に言いようのない無力感だけを残して…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから更に数年。現在、俺は現世に行く準備をしていた。というのもやっとまとまった連休を取ることが出来たのだ。現世に行く目的は現世にいる仮面の軍勢(ヴァイザード)との接触。取得できた休日は二週間。この二週間で仮面の軍勢(ヴァイザード)と接触し虚化の制御方法を聞き出し、虚化を自分のものにしなければならない。正直かなりの強行軍だがやるしかない。卍解を会得してから徐々にではあるが、一度倒した内なる虚が力を取り戻してきている。夢月が抑え付けてくれているから今は何とかなっているが、いつまでも夢月に任せておく訳にもいかない。

 

「松本、後は任せる」

 

「ええ、任せて隊長!そのかわり、お土産期待してますから!」

 

「期待しないで待ってろ」

 

本当に松本に任せて大丈夫だろうか。二週間後に二週間分の仕事が溜まってるとかないよな…?

 

「隊長…」

 

と、そんな事を考えていると、さっきまでのテンションが嘘のように真面目な声色と真剣な表情でこちらを呼ぶ松本の姿。

 

「…なんだ」

 

「もしあのセクハラオヤジにあったら一発ぶん殴っといて下さい」

 

俺が現世に行く理由のもう一つの理由。それが前隊長の志波一心を行方を捜す事だ。居る場所は分っている。空座町(からくらちょう)のクロサキ医院。夢月が言うにはそこに居るらしい。だから探し出すというよりは会いに行くが正しいか。

 

「わかった」

 

「…隊長は帰ってきますよね?」

 

不安そうな松本の声を聴くのはかなり珍しい。だから驚いたが、考えてみれば当たり前だった。前隊長も現世に行くと言って居なくなったのだ。少なからず連想してしまうのはしょうがない事だろう。

 

「当たり前だ。お前こそ俺が居ない間の仕事をサボるなよ」

 

必ず戻ってくると言外に伝えれば先ほどまでの不安そうな顔はどこへやら。

 

「了解です!」

 

いつも通りの元気のいい返事が返ってきた。

 

「それじゃ行ってくる」

 

そう言ってから俺は穿界門(せんかいもん)を開き、現世へ向かった。だが、着いた現世は生憎の雨。空は暗雲に覆われ、冷たい雨が降り注ぐ。

 

「…最悪だ」

 

思わず悪態を吐いてしまったが仕方がない事だろう。尸魂界(ソウル・ソサエティ)は晴天だったのだ。それが穿界門(せんかいもん)から出た途端に真逆の天気とはついてない。

 

「ん…?あれは…」

 

眼下には黄色い合羽を着た子供が母親と一緒に歩いている姿。だが俺が気になったのはその親子ではなく、その先の土手下にいる合羽を着た子供の姿をしたナニカだ。明らかにおかしいそれはただ立っているだけだ。この雨の中、一人で。

 

「こちら十番隊隊長、日番谷冬獅郎だ。聞こえるか?」

 

俺は伝令神機(でんれいしんき)を使い技術開発局に連絡する。

 

「こちら技術開発局です。どうしました日番谷隊長。休暇中の筈では…?」

 

「すまないが俺の居る地点付近に虚の反応がないか調べてくれ」

 

「了解しました。少々お待ちください」

 

背中の斬魄刀に手を掛ける。俺の予想が正しければあれは少女などではなく…。

 

「解析結果でました!日番谷隊長!そこに居るのは虚・グランドフィッシャーと思われます!五十年以上も死神達を退け続けてきた虚です!十分に警戒を!!」

 

やはりそうか!ってあの子供、近付いていってやがる。まさかアレが見えているのか?…おいおい、子供だけじゃなく母親にも見えているのか!?

 

「これより戦闘行動に移る!」

 

一刻の猶予も無いと判断した俺は、答えを聞く前に全速力で飛び出す。

 

「了解しました!限定解除許可は申請済みです!許可が下りるまでもうしばらくお待ちください!」

 

「了解だ!!」

 

子供の姿が裂け何かが飛び出してくる。狙っているのは黄色い合羽を着た子供!後から追いついてきた母親が子供を抱きしめる。

 

「やらせねぇ!!」

 

親子と虚・グランドフィッシャーの間に入り、伸びて来た触手の様なものを斬り捨てる。斬ったものを見る。これは毛か…?

 

「…死神か」

 

やけに落ち着いた虚だ。伊達に五十年以上も俺達から逃げおおせてないって事か。だが今は目の前の虚より先に後ろの親子だ。

 

「おい、後ろの親子。俺の声が聞こえるか?」

 

「貴方は…死神さん…?」

 

母親の方が答える。どうやら見えるだけでなく話まで出来るようだ。しかも死神を知っている。それだけ霊的濃度の高ければ狙われるのも無理はない。分かるかは微妙だが、名乗っておく。

 

「あぁ、十番隊隊長、日番谷冬獅郎だ。コイツは俺が引き受ける。子供を連れて早く逃げろ」

 

「っ…ありがとう」

 

そう言って走り去っていく足音。どうやら逃がすことには成功したようだが、気になるのは目の前のコイツだ。何故黙って逃がした?

 

「テメエ何故黙って見逃がした…?」

 

「彼奴等も霊的濃度は高かったが、おまえは死神。それも隊長なのだろう…?ならばおまえを喰らってからゆっくりと先の親子を喰らうまでよ」

 

成程…一番効率の良い捕食の順番を考え、行動に移すか。

 

"冬獅郎君。コイツは相手の記憶からその敵が斬ることのできない相手を読み取り、その姿を疑似餌にとらせることが出来る。つまり君の場合、彼女の姿を取る確率が高い。気を付けてくれ"

 

夢月からの情報でコイツが死神を喰えた理由と、今まで逃げられた理由が一気に解決した。コイツは速攻で片付けるべき虚って事が分かった今、限定解除許可が下りるのを待っているべきじゃない。

 

「霜天に坐せ『氷輪丸』!!」

 

迷わず『氷輪丸』を解放する。せっかくだ総隊長(じいさん)との地獄の修行の成果、お前で試させてもらうぜ。

 

「ほう!隊長と言うだけあって霊圧はなかなかのもの!とても…うまそうだ…!!」

 

限定霊印(げんていれいいん)を施された今の俺の霊圧がなかなかのもの…?その言葉に疑問を抱くが今は目の前の事に集中する。

 

「『群鳥氷柱(ぐんちょうつらら)』!!」

 

大量の氷柱をグランドフィッシャー目掛けて放つも奴は飛び上がる事でそれを回避する。

 

「ふふ…血の気の多い奴よの…!?」

 

奴は下を見ているがそこに俺は居ない。俺はお前の上だグランドフィッシャー。そしてこれが総隊長(じいさん)直伝の技。握りしめた左手の拳を真上から振り下ろす。

 

「『一骨(いっこつ)』」

 

強烈な打撃がグランドフィッシャーの胴体に炸裂し、奴は地面に勢いよく激突する。

 

「ぐおっ!」

 

落ちた先でさっき『群鳥氷柱(ぐんちょうつらら)』を放った時に仕掛けたものが発動する。

 

「『六衣氷結陣(ろくいひょうけつじん)』」

 

「なんだこれは!?」

 

地面の六ヶ所に仕掛けた氷の結晶が踏み込んだ相手を氷柱で包み込む。それがこの設置型の技『六衣氷結陣(ろくいひょうけつじん)』だ。元々は自分の足で踏みしめなければダメだった技だが、『群鳥氷柱(ぐんちょうつらら)』から派生出来るように改良した。けれどまだだ。ただ凍らせただけじゃ意味がない。そのことを総隊長(じいさん)との修行で嫌と言う程に学んだ。凍り付かせて脆くしたなら砕いて追撃をいれるべし。

 

「『結晶散華(けっしょうさんげ)』」

 

だから砕く。『結晶散華(けっしょうさんげ)』は凍り付かせたものを砕く追撃の技。『氷輪丸』のどの技からも派生する締めの技だ。

 

「酷いよ…シロちゃん…どうしてこんな酷い事をするの…?」

 

「ッ!」

 

砕いた氷柱から出てきたのは血塗れの雛森。いや、俺の記憶を読み取ったグランドフィッシャーが己の疑似餌にとらせた姿。疑似餌の中に逃げ込んだ上で雛森に変化したか…。けどなグランドフィッシャー、それは俺の逆鱗に触れる行為だ。

 

「シロちゃん…痛いよ…」

 

俺は地面に『氷輪丸』を突き刺す。その様子から俺には攻撃できないと見たのかグランドフィッシャーは雛森の姿で更に話しかけてくる。

 

「何かの間違いだよね…?シロちゃんは…」

 

「黙れグランドフィッシャー」

 

「ふふ…この小娘は斬れまい。おまえの最愛の小娘の姿だからな…おまえ達死神はみなそうだ!愛する者の姿を取ると動揺し斬れぬと言う!そして最後はわしの腹におさまりおる!!死神とはまっこと愚かな存在よのォ!!」

 

誰だって、大切な人がいる。家族、友人、恋人。その大切な人達との繋がりをコイツは嗤って利用した挙句に踏みにじる。虚にこんな事を言うのは筋違いだろう。けれどやっぱりテメエは許さねえ…!

 

「『樹氷細槍(じゅひょうさいそう)』!!」

 

地面の中から奴を貫く枝の様な幾つもの氷の槍。発動条件は『氷輪丸』を地面に突き刺す事。さっき『氷輪丸』を地面に刺したのはこのためだ。

 

「おまえは斬るのか…!?なんの躊躇いもなく、愛しい小娘を貫くのか!?」

 

疑似餌ごと貫かれたグランドフィッシャーが信じられないとでも言うように叫ぶ。

 

「勘違いしているようだから言っておく。外見をどんなに取り繕ってもテメェは偽物だ。本物の雛森はそんな悪意に満ちた顔はしないんだよ!!」

 

あいつは、雛森は優しい奴だ。俺の惚れた女はこんな醜い存在では断じて無い!!!

 

「待て!!いや、待って!シロちゃん!!」

 

コイツはッ!この期に及んでまだ…雛森を騙るのか…!!

 

「何度も…言わせるなッ!!砕け散れ!!『結晶散華(けっしょうさんげ)』!!!!」

 

俺の叫びに呼応して凍り付いた奴の身体は崩壊する。

 

「バカ…な…この…わし…が…」

 

その言葉を最後に虚・グランドフィッシャーは消滅した。さっきはあんな風に言ったがやはり少し堪える…。

 

「日番谷隊長!!限定解除許可が下りました!!!」

 

ああ、忘れてた…。

 

「悪いな…もう終わっちまった。グランドフィッシャーは倒した」

 

「ええ!?りょ了解です。こちらでも確かに霊圧の消失を確認しました。ご苦労様です日番谷隊長!」

 

休日初日からこれとは先が思いやられる。

 

「ああ。報告書は帰ってから提出する」

 

「了解しました。日番谷隊長、良い休日を…って言うにはちょっとアレですね…」

 

「まったくだ…」

 

そのやり取りを最後に通信は切れた。さて、これからどうするかと考えていると

 

「いや~知らない霊圧のぶつかりを感じ取って見に来てみればまさか隊長さんが居るとは思いませんでした」

 

後ろから聞こえて来た軽薄そうな男の声。ゆっくりと振り返るとそこに居たのは下駄と帽子、甚平という格好をした胡散臭い男が番傘を差して立っていた。

 

「あんたは…?」

 

夢月に見せられた映像の中では知っているが会うのはこれが初めてのため問いかける。

 

「アタシはしがない駄菓子屋の店長ですよ」

 

「自分で言ってて無理があるとは思わないか…?」

 

あまりにもふざけた返しが返ってきた為に、思わずツッコミを入れてしまった。この男、言動や格好はふざけたものだが隙が全く見つからない。底が知れないと言うのだろうか…やはり、あの藍染を封じただけはある。油断できるような相手ではないのは確かだ。

 

「いや~そんなに警戒されるとアタシも困っちゃいますよ」

 

どうやらこちらの警戒を見透かされたようでそんな軽口が返ってくる。それでも一切隙を見せないというのは流石としか言いようがない。

 

「まぁ、聞きたいことも沢山あるでしょうがどうです?アタシの店でお茶しながら詳しい話でも…?」

 

なんの手掛かりも無い状態でやっと手に入れた貴重な情報源…。少なくとも相手に戦闘の意思はなく、あくまでこちらとの話し合いを希望している…とりあえず話に乗ってみるか。

 

「…わかった。俺は十番隊隊長、日番谷冬獅郎だ。あんたの名を聞きたい」

 

すると目の前の男はさっきまでの胡散臭さからは想像できない程真面目な表情と声色でこう名乗った。

 

「アタシの名は浦原 喜助(うらはら きすけ)。以後、お見知りおきを」

 

これが現実での最初の出会い。そして夢月に見せられた映像から想像するよりももっと厄介な男との腐れ縁の始まりとはこの時の俺には知る由もなかった。

 

 




千年血戦篇アニメ化してくれないだろうか…。動く破道の九十九 五竜転滅とか超見たいのですが…。
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