この氷原に死すとも   作:玫瑰月季

8 / 8
今回もギリギリ日曜日投稿に間に合った…。

それと誤字報告してくださった皆さんありがとうございます。


今回の話を読み終わった皆さんはきっとこう言う事でしょう。

「あ、やっぱりね」と…。


8.黒崎家にて

本来であれば光も射さぬ薄暗い部屋。だが今は幾つもの画面が光源となり、薄暗かった部屋を照らしている。光源は画面だけの部屋の中、画面の前に座る人影が二つ。

 

「なんやえらい楽しそうに見てはりますなあ」

 

画面を見ていた様に見えた二人に声を掛ける男。その身に死覇装を纏い、隊首羽織を着ている事から死神の、それも隊長であることが伺える。

 

「…わかるかい?ギン」

 

その問いかけに答えるのは、画面を見詰めていたこちらも隊首羽織を黒い死覇装の上に着ている眼鏡を掛けた男。

 

「そらまあ…それで、何があったんです?藍染隊長」

 

問われた死神、藍染惣右介はどこか楽しそうな雰囲気そのままに答える。

 

「実はね、僕の『鏡花水月』を破った死神が現れたんだ」

 

「っ!?」

 

その言葉に驚きを隠せないのは当然だろう。彼、市丸ギンは『鏡花水月』の恐ろしさを誰よりも知っているのだから。だからこそ興味が湧いた。その『鏡花水月』を破った死神に。

 

「…誰なんです?その『鏡花水月』を破った死神って」

 

「十番隊隊長…日番谷冬獅郎。あの『氷輪丸』の担い手だよ」

 

日番谷冬獅郎…史上最年少で隊長となった銀髪翡翠眼の天才児。交友関係が意外に広く、自身の隊である十番隊は勿論、かつて所属していた十三番隊や隊長の繋がりで八番隊、さらにはあの厳格な隊士が多い一番隊とすら交友関係があるというのだから驚きだ。何より、あの総隊長に弟子入りして過去を知る多くの死神達を驚かせたのは記憶に新しい。けれどそんな事よりも市丸には気になっていることがあった。

 

「あの…藍染隊長。けど、どないして気付きはったんです?」

 

日番谷冬獅郎が『鏡花水月』を破ったのだとしたら、目の前にいる藍染はいったいどうやってその事実に気付いたのか。

 

「なに、簡単な事だよギン。彼は僕の説明会でただ一人、僕から()()()()()()()()()()()んだよ」

 

「なるほど…それで…」

 

周りの人間が『鏡花水月』によって偽りの景色を見せられている中、一人だけ藍染から顔も目線も外さなかったらそれはもう『鏡花水月』を破った以外に考えられないだろう。だが、そうなると一つ疑問が出てくる。

 

「…殺さんのですか?」

 

何故殺さない。自身の『鏡花水月』を破り、計画の障害に成りかねない存在を何故この男は今まで放っておいているのか。

 

「確かに彼は私の『鏡花水月』を破った。方法はおそらく『氷輪丸』で作り出した薄い氷を通して見ていたんだろう。…この方法がとれるという事は『氷輪丸』の前任者、氷月蒼士朗が卍解時でしか使用できなかった"凍結したものの能力の停止"を始解で使用することが出来るということ。確かに前任者以上の才能だろう。…だが、それだけだ」

 

「……」

 

「彼一人が私の『鏡花水月』から逃れて何になる?彼が何を言おうとも、誰も信じはしない。人と言うものは結局、自分が見たものをこそ信じる生き物だからだ。それにだ、ギン。予定調和も悪くはないが、私は多少のリスクがあった方がいいと考えているんだよ」

 

これは誰に向けた言葉だろうか。市丸の背筋に冷たいものが走る。この話題を続けるのは得策ではないと判断した彼は話題を変える事を選択する。

 

「…やっぱり、藍染隊長は恐ろしい人や。それで、楽しそうな理由は分かりましたけど何を見てはったんです?」

 

その言葉を受けて藍染は自身が見ていた画面へと視線を移す。その視線の先に映るのは先ほど話題に上がった日番谷冬獅郎が虚と戦う姿が映し出されていた。それを見た市丸は思わず舌打ちをしそうになったがなんとか堪える。話題を逸らしたつもりが、逸らした先にも話題の人物が映っているなど予想外にも程がある。

 

「ああ、彼が黒崎真咲とその息子、黒崎一護を救い出したみたいだね。…しかし、限定霊印されていようともあの程度の虚相手に始解をするとは…どうやら期待外れのようだ」

 

その言葉に驚き思わず目を見開いてしまった市丸を責める事など出来ないだろう。目の前のこの男が誰かに期待するなど聞いたこともなければ、考えた事すらなかったのだから。

 

「随分と…驚いているようだね。そんなに私が彼に期待していた事が不思議かい?」

 

「そらまぁ…藍染隊長が誰かに期待してるなんて思いませんでしたから」

 

「そうかな?僕は君にも期待しているよ、ギン。それに彼は…日番谷冬獅郎という少年は実に興味深い存在でね。初対面の僕に対して敵意でも恐れでも尊敬でもなく、純粋な覚悟を宿した瞳で見たんだ。だからこそ、彼ならもしかしたら…と、そう思ったんだよ。まぁ、期待外れだったようだけどね…」

 

彼ならもしかしたら…それはいったい何を期待していたのだろう。この藍染惣右介という男は生まれながらの強者だ。隣に並び立つものがおらず、およそ好敵手と呼べるような相手などいなかっただろう。だからだろうか…?彼が望んでいるのはそういった相手ではないかと考えてしまったのは。だがすぐに市丸は自身の考えを否定する。そんなことはあり得ない、と。

 

「…成程、ここで君が出てくるか浦原喜助。」

 

その声につられて画面を見るとそこには尸魂界(ソウル・ソサエティ)を追放された死神、浦原喜助が日番谷冬獅郎に話しかける姿が映し出されていた。

 

「全ての舞台が整うまであと数年…。君に何が出来るのかお手並み拝見といこう」

 

その藍染の言葉の後、市丸が再度画面に目を向けるもそこには先程居た筈の二人の姿は無かった。…全ての舞台が整うまであと数年。あと数年しか彼らに残された時間は無いのだ。市丸は誰も映さなくなった画面を見詰め続けた。その目に確かな覚悟を宿したまま…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浦原商店。それが浦原喜助に連れてこられた場所だった。表向きは古びた駄菓子屋にしか見えないが聞いた話によると、霊的商品などを売る・虚ごとにランク分けされた換金システムで虚を浄化するごとに賞金を渡すなどの死神への援助を行う闇商人としての一面を持っているようだ。

 

「さて、何からお話ししましょうか」

 

そう言って話を切り出す浦原。しかしどこから話したものかと頭の中では考えを巡らせている事だろう。この目の前の男は軽薄そうに見えるがその実、とんでもない切れ者だ。だからこっちから話題を振ることにする。この目の前の男が驚くような、そんな話題を。

 

「俺は藍染の斬魄刀『鏡花水月』に掛かってないし、あんたらが藍染に濡れ衣を着せられて尸魂界(ソウル・ソサエティ)を追放された事も知ってる」

 

反応は顕著だった。突然警戒心が上がったのだ。何故だ…?

 

"冬獅郎君。その説明は誤解を招くよ。それじゃ藍染側とも取れてしまう"

 

夢月からの補足で自分の発言を振り返ってみる。…確かにどっち側か分からないな。

 

「俺は藍染の仲間じゃない。寧ろ敵だ。俺の言葉が足りなかったのは謝る」

 

それでも警戒は解く気配はない。出だしから完全に失敗したようだ。

 

「アナタが藍染の敵であるのなら、何のために彼と戦うんです?アタシにはアナタが戦わなければいけない理由が思いつきませんが…」

 

俺が藍染と戦う理由は…いや、あれを言うのか…?ここで?コイツ相手にか…?でも言わなければ納得しないだろうし誤魔化しは信用を損なう。…腹を括るか。

 

「…じ…ひな…だ…」

 

口に出すとやはり恥ずかしく、自分でも思った以上に声が小さくなってしまった。

 

「はい…?スミマセンがもう一度言ってもらえます?できればもっと大きな声で」

 

そうだよな、そうなるよな。こうなりゃ自棄だ。よく聞けよ浦原喜助!!

 

「幼馴染のッ!雛森を…守りたいからだッ!!!!文句あるかッ!!」

 

きっと俺の顔は真っ赤だろう。そして俺はこんな大声で何を言っているんだろう。

 

「ぶッ。いや…ふふ、失礼。ふふっ、アタシも長年死神してますがそんな青臭い理由で戦う人初めて見ましたよ。」

 

「うるせぇ…笑いたきゃ笑えばいいだろ…」

 

「いや~スイマセンね。けど、アナタが藍染の敵って事は信じる事にしました」

 

今のやり取りのどこに信じる要素があったのか聞きたいんだが…?

 

「アナタが彼の側についているならこんな理由は選ばないでしょうから」

 

「それを見越してかも知れないだろ…」

 

俺の発言の何が可笑しいのかニヤニヤしたムカつく顔で目の前の男はこう言い切った。

 

「顔真っ赤にして幼馴染の子…多分女の子っスよね?を守りたいなんて言われたら信じたくなっちゃいますよ。ねぇ夜一さん」

 

「そうじゃな」

 

自分の顔が赤くなっている事は一先ず置いておく。まずは聞こえて来た第三者の声だ。辺りを見渡すが姿は見えず、いるのは黒猫だけ。…黒猫?さっきまで居なかったよな…?

 

「実に青臭い叫びじゃったが、嫌いではないぞ。寧ろワシ好みの回答じゃ」

 

「猫が…喋った…だと…?」

 

"顔が真っ赤な冬獅郎君。彼女は四楓院 夜一(しほういん よるいち)。四大貴族「天賜兵装番」四楓院家の22代目にして、初めての女当主。さらには隠密機動総司令官及び同第一分隊「刑軍」総括軍団長、護廷十三隊二番隊隊長だった死神だよ"

 

夢月から驚きの事実が告げられる。だが、夢月お前後で覚えてろよ。いや、それよりも…。

 

"おい、夢月どういうことだ。猫になるなんてお前に見せられた映像には無かったぞ"

 

そう、夢月に見せられた映像に出て来た四楓院 夜一は女の姿だった。猫になるなんて情報はどこにもなかった。それはつまり俺に見せた映像の他にも夢月が隠している事があるということ。

 

"見せてないからね。他にも見せていないものはあるよ。君に全てを見せると抱え込まなくていい事まで抱え込んでしまいそうだからね。勿論、僕の個人的な思惑で見せてないものもあるけど"

 

個人的な思惑、か…。そりゃそうだろう。俺にだって隠し事はある。なのに夢月にだけ全てを話すように言うのは我儘が過ぎるというものだろう。…それでも少しショックを受けている自分を自覚する。

 

"…わかった。俺はお前を信じると決めた。だから深くは追及しないでおく"

 

"ありがとう、冬獅郎君"

 

だが、何故だろう。コイツが隠したことには俺が絶対に知らなければいけない事もある気がする。そんな気がしてならない。

 

「なんじゃ、猫が話してはいかんのか」

 

そんな事を考えている場合じゃなかった。今は目の前の猫?に集中することにする。

 

「いや、そんな事はないけどよ。出来れば人の姿で話してくれないか?」

 

"待つんだ冬獅郎君!今の彼女にその発言はマズい!"

 

「ほう…見抜いておったのか。てっきり猫と勘違いしておるのかと思ったのじゃがのう。…よかろう。ワシの真の姿、とくと見るがよい」

 

やけに焦った夢月の声が聞こえてくるのと、目の前の猫が人の姿に戻るのは殆ど同時だった。

 

「は…?」

 

"遅かったか…"

 

「どうじゃ、体には自信があるのじゃが…」

 

目の前に現れたのは褐色の肌をした全裸の女性。その均整の取れた裸体を惜しげもなく晒している。

 

「まずは服を着ろ!服を!!おい、浦原!!テメエどういう躾してんだ!」

 

「え?アタシに来るんですか!?アタシ関係ないっスよね!?」

 

そんな騒ぎもあったが、服を着た夜一と元鬼道衆総帥・大鬼道長の握菱 鉄裁(つかびし テッサイ)を交えた四人での話し合いが行われていた。

 

「成程、つまり日番谷隊長は自身の中に眠る内なる虚の力を使いこなす術を探して現世に…」

 

「ああ、出来ればアンタ等が助けた前隊長格達…今は仮面の軍勢(ヴァイザード)と名乗ってるんだったか?に会って直接聞きたかったんだが…」

 

「現世に来た途端に虚に遭遇し、襲われていた親子を助けた…という事っスね」

 

俺が現世に来た目的と現世にきてから巻き込まれた騒動を話す。コイツならばあの連中との連絡手段くらい持っていると踏んでのことだ。

 

「…ちなみに日番谷隊長。助けた親子のことはご存知っスか?」

 

「知る訳ないだろ」

 

可笑しな事を聞く奴だ。現世の人間と関わりを持つなど余程のことでもない限り、普通に考えて有り得ないだろうに…。

 

「まぁ、そうっスよね。…分かりました。仮面の軍勢(ヴァイザード)の皆さんにはアタシが何とか連絡を付けましょう。二三日時間は頂きますがその間はどうします?部屋なら余ってますし泊まっていきますか?」

 

「…そうだな。すまないがよろしく頼む。だが、その前に行きたいところがあるんだ。クロサキ医院という場所なんだが…」

 

現世にきた目的の一つ。志波隊長に会うこと。その為にはクロサキ医院と言う場所に行かなければならないらしい。

 

「はい。わかりました。…まぁ、宿は必要なくなるかもしれませんがね」

 

「何か言ったか?」

 

「いえいえ何でもありません。日番谷隊長の聞き間違いでしょう!」

 

何か怪しいんだよな…コイツといい夢月といい、何かを隠しているような気がする。俺は疑惑の念を抱きながらも浦原商店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして探すこと数分。俺はクロサキ医院の前に立っていた。義骸に入り、歩いて探さなければならなかったので意外と時間が掛かったが、それでも何とか探し出すことが出来た。

 

「とりあえず入ってみるか…」

 

俺はこの時、もっと考えるべきだったんだ。お礼を言いにいって行方を眩ませた隊長。何かを隠している夢月、そして浦原。死神の姿を見る事ができる母親とその息子。答えに辿り着くピースは沢山あったのに俺は考える事を止めてしまっていたんだ。だからこれから待ち受ける地獄は避けられない事だったのかもしれない…。

 

「あら…あなたはさっき助けてくれた死神さん…?」

 

声は今自分が開けようとしたクロサキ医院の正面玄関ではなく、その隣から聞こえて来た。

 

「あんたはさっきの母親か…?」

 

横を見れば傘を差してこちらを不思議そうに見る先ほど虚に襲われていた母親の姿。だが、どうして此処にいる…?

 

「やっぱり!!死神さんね!よかった~無事だったのね!!心配していたのよ?」

 

さっきまでの落ち着いた雰囲気は何処へやら、そのハイテンションな話し方に言葉を失う。印象が変わりすぎたのだ。例えるならばさっきまでは月のように静かに佇んでいたのに気付いたらこちらを問答無用で照らす太陽に変わっていた。我ながら良い例えだと思う。

 

「そうだ!助けてくれたお礼に晩御飯でもどう?もしかしてもう食べちゃった?」

 

「い、いやまだだが…」

 

「なら丁度良かったわ!晩御飯を食べて行ってちょうだいな!ね?いいでしょう?」

 

なんだこの母親。押しが強すぎるッ!さっきまでのお淑やかな姿はどこへ行ったんだ!?というか手に持っているのは買い物袋か!?アンタさっき虚に襲われてたのに買い物行ったのか!?どんなメンタルしてるんだよ!?ってまてまて!

 

「手を掴むな!引っ張るな!おい!人の話聞いているのか!?」

 

「今日の晩御飯はね~なんと!カレーよ!!」

 

「いや聞いてねぇよ!!人の話を聞けよ!」

 

「子供たちも大好きなのよ~」

 

ダメだ。話が通じない。なんだこの母親。だが、ここまでくるとこの女の旦那の顔が見てみたいと思う。きっと振り回されて苦労している事だろう…。

 

「ただいま~!」

 

「…邪魔する」

 

「「「おかえりなさーい!!!」」」

 

「真っ咲~!!おっかえり~!!!」

 

子供達の元気な声が聞こえてくる。そしてどこかで聞いたことのある声も…。

 

「あっ!さっきの兄ちゃん!」

 

「ああ、さっきの…」

 

虚に襲われていた黄色い合羽を着てた子供。…虚の疑似餌と知らなかったとはいえ、助けようとすることが出来たのはコイツが優しい奴だからだろう。

 

「僕は一護!!」

 

「私は夏梨!」

 

「私は遊子…」

 

「……」

 

元気な連中だな…一人冷や汗をダラダラ流し、必死に目を合わせまいと抵抗している見覚えがあるヒゲがいるが…。

 

"夢月…テメェこうなることが分かっててあえて黙っていやがったな…?"

 

"くくっ、まあね。感動的な再会にはならなかったみたいだけどそこは流石は志波一心とでも言っておこうかな。くふっ"

 

コイツ…!個人的な思惑ってのはこういう事か…!クソっ後で覚えてろ!まずは目の前のこいつ等に挨拶するのは先だ。

 

「一護に夏梨に遊子か覚えたぜ。俺は日番谷冬獅郎。そこに居る挙動不審なおっさんの知り合いだ」

 

「お父さんの?」

 

「なななな何のことかなあーお父さん知らないなあ!!」

 

「ふふふ。一護、夏梨、遊子。晩御飯作るの手伝ってくれる?今日は皆が好きなカレーよ。あなたは積もる話もあるでしょうし、えっと、冬獅郎君とお話しでもしていてくださいな」

 

「まっ真咲!?」

 

「「「やったー!カレーだぁ!」」」

 

思わぬ妻の裏切りにヒゲが絶望した表情を浮かべているが知った事ではない。

 

「そうさせて貰います。さて、積もる話でも…ゆっくりとしましょうか、隊長?」

 

そうして絶望するヒゲと共に別室に移動した俺達は向かい合わせに座っていた。

 

「まずは、お久しぶりです。隊長」

 

「よせ…俺はもうお前等の隊長じゃない。今は、お前が隊長なんだろ?冬獅郎」

 

その言葉に少し驚く。この人の前で俺は死神になってもいなければ霊圧も解放していない筈…。と、すれば残るはあの母親、確か真咲だったか?

 

「真咲から聞いた。虚に襲われた所を十番隊隊長を名乗るお前さんに助けられたってな…」

 

どうやら当たっていたらしい。だが気になるのは何故、それを聞いておきながら彼女を一人で買い物に行かせたのかだが…。

 

「真咲がな、お前さんを探しに行くと聞かなくてな…。今の俺はちょっと訳ありで死神になれねぇんだ。お前さんの事だから負ける事はねぇとは思ったがそれでも今日はやめておけと言っても聞かなくてな。…お前さん探しに飛び出していっちまったんだよ」

 

まったく、心配するこっちの身にもなれってんだよ…とため息交じりに呟く姿を見て、どうやら俺の妻に振り回される旦那という予想は当たっていたようだ。

 

「何があったのか聞いても…?」

 

「…ああ、全部話す。何があったのか…」

 

そうして聞かされたのは驚く事実だった。彼女が滅却師の生き残りであったこと、虚に侵された彼女を救うために迷わず死神であることを捨てたことも、彼女に心惹かれ結ばれ子供達が生まれた事も。…そしてこれらを裏で操っているであろうあの男の事も。

 

「…これが全部だ。俺はお前等に殴られてもしょうがない事をしたと思っている。けれどこの選択が間違いだったとは思わない。たとえ何度同じ目に遭おうとも俺は同じ選択をするだろう」

 

「なら一発だけ殴ります」

 

「え?」

 

そして俺は思いっきり握りしめた右手の拳を振りぬく。ゴッという鈍い音と共に吹っ飛ぶ隊長。そして立ち上がるや否や

 

「冬獅郎!!今の殴る流れじゃなかったよね!?俺にはアンタを殴れませんとか言う流れだったでしょ!?」

 

「はぁ、まったく。今のは松本の分っスよ。ぶん殴っとけって言われてたんで」

 

やれやれと言いたげな雰囲気を出して答える。

 

「隊長…いや、アンタは自分の役目を果たせばいい。父親としての役目を。…藍染は俺が止める。だからアンタは安心して妻の尻に敷かれてろ」

 

「冬獅郎…」

 

これは俺の本心だ。この人が家族を大切にしているのはこの短い時間で十分すぎる程に伝わって来た。だから、この人には…この人達家族には笑っていてほしいんだ。

 

「お父さん!ごはんできたよ!!」

 

そんな言葉共に扉を開けて入って来たのは隊長の息子。名前は一護だったか。

 

「おう!父さんもうお腹ペコペコだぞお!!よし行くぞ冬獅郎!真咲の飯は世界一だ!!」

 

「ああ、わかった」

 

正直に言うと飯は凄く美味かった。確かに野菜の形は歪で大きさもバラバラだったがそれでも笑顔があふれる食事ってのは…ちょっとだけ羨ましかった。

 

「そういや冬獅郎。こっちにいる間、オメーどこに泊まるんだ?」

 

「ああ、浦原の所に泊まるつもりだ。まあ、言っても二三日経ったら別の所に行く予定だけどな…」

 

仮面の軍勢(ヴァイザード)の連中と話を付けて虚化の制御を何としても覚えなくてはならない。藍染と戦うには虚化は必要な力だ。

 

「なら、その間家に泊まっていけばいいわ!ね?」

 

「は?いや…」

 

「よし冬獅郎!真咲もこう言ってる事だし泊っていけ!」

 

何を言い出すんだこのヒゲは…。

 

「お兄ちゃん家に泊まるの!?」

 

「「本当!?」」

 

「「「やったー!!!」」」

 

「え?いや、まだ泊まるとは…」

 

何故か黒崎家の子供たちに懐かれてしまい、このままでは泊まることになってしまうと焦っていると伝令神機に着信。内容は浦原からで"黒崎さんの家に泊まる事になったと聞きましたんで楽しんで来てください。彼らに連絡がついたらまたアタシからご連絡します"おい浦原。どういうことだ。

 

「どうやら決まりのようだな」

 

「…よろしく頼む」

 

こうして黒崎家の滞在が決まった。だが、俺はこの時引き返すべきだったのだ。これが最後のチャンスだったというのに俺はこの最後のチャンスをふいにした。これから恐ろしい地獄が俺を待ち受けるとも知らずに…。

 

「いけ~とうしろー!すすめ―!」

 

「すすめー!!」

 

「負けるなヒゲヒゲ号!スピードアップだ!」

 

今俺は、地獄に居る。いや、地獄すら生温いだろう。今俺は、夏梨と遊子の馬になっている。もう一度言おう、馬になっている。そして隊長も一護の馬になっている。俺達が子供達の馬になってから、かれこれ一時間が経つ。だが子供達は変わらず元気だ…。そして、そんな馬になった俺達の事を真咲さんがニコニコと楽しそうに見ている。…どんな拷問だこれは…!?やってられるか!と、やめようとすると

 

「もうおしまい?」

 

「でも、我儘は言っちゃダメだから遊子我慢する」

 

これだ。寂しそうな顔でこんなこと言われたら…止められる訳がなかった。それからもこの地獄の時間は続いた。解放されたのは子供たちが騒ぎ疲れて寝静まった時計の針が天辺を差した頃だった。

 

「すまねえな冬獅郎。付き合ってもらっちまってよ」

 

「泊めて貰ってる身なのでこれくらいは…ハハ…」

 

「そうか…しっかし冬獅郎!お前俺に尻に敷かれてろとか言っておきながら、遊子と夏梨の尻に敷かれてるじゃないか!ぷぷー!!」

 

真面目な顔から一変し、人を馬鹿にする隊長。

 

「物理的な事を言った訳じゃないだろ!!」

 

「娘たちはやらんぞ!」

 

「いらんわ!!」

 

「俺の娘じゃ不足だと言いたいのかッ!!!」

 

「ああもう!そんなこと言ってないだろ!面倒くさいなこのヒゲ!!」

 

そんなバカ騒ぎをしていたから気付かなかった。この黒崎家で誰が一番強いのか。一番怒らせてはいけないのは誰なのかを…。

 

「二人共…?子供たちが起きちゃうから静かに…ね?」

 

「「はい」」

 

怒った女性の怖さは都さんに怒られる海燕や、雛森で知っていたつもりだったが真咲さんも例に洩れずに恐ろしかった。顔は笑っているのに目は笑っていないのだ。結局、隊長と一緒に怒られた俺はこの後も二人して怒られることになる。そして俺はまだ知る由もなかった。残り二日間であの二人と羞恥に悶える事になるおままごとに巻き込まれることや、羞恥に悶える俺を写真に撮った隊長との喧嘩で、般若のようになった真咲さんが降臨することも…この時の俺はまだ…知る由も無かったんだ…。

 




頭の動きや目線の動き云々は名探偵コナンのイギリスでの話を見て「ああ、鏡花水月を防げてもこうなるな…」と思い何時かは書こうと思ってました。

藍染様って本当は好敵手とか求めてそう。という筆者の考えがこの藍染様には反映されております。やや人間味がましている藍染様を書けていけたらいいなと考えておりますので何卒よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。